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2017年はヘッダービディング飛躍の年-Rubicon Project CTOに聞く国内外ヘッダービディングの現状と今後- [インタビュー]

 

米国発グローバル大手のSSPとして日本に参入、現在市場での事業拡大を活発化させているRubicon Project。先日、CTOのTom Kershaw氏が来日した。そこで、現在同社が注力しているヘッダービッディングの普及状況や日本での展望などについて、お話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下智之)

ヘッダービディング普及に不可欠なのは、オープン化

― ヘッダービディングの業界のこれまでの流れとRubicon Projectのお取り組みについて、また「FastLane」ついてお聞かせください。

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「FastLane」は、弊社のヘッダービディングにおける製品(サービス)名です。基本的にはヘッダービディングは弊社の哲学であり、概念そのものと考えていただいてかまいません。

従来は、パブリッシャー(メディア)がいて、インベントリ(広告在庫)があって、ウェブサイトやページやビューアーが存在していました。そこからそれぞれが切り出されて細分化し、直接売ったものや取引されて投入されたもの、あるいはRubicon Projectに流れてきたものなどがあったわけです。しかし、それぞれがどうなっているのかは、見えない状態にありました。けれども、デマンドやインベントリには透明性があったほうがいいと考えています。

ヘッダービディングによって、デジタル広告の次のフェーズへの第一歩が踏み出されたととらえています。デマンドとサプライが一貫していることが見えるとインプレッション数が上がり、なおかつコストの底上げにも寄与します。バイヤー側に立ってみた時も効率がよいのです。今まではインベントリをつなげてオーディエンスに届かせることを目標としていましたが、透明性が確保されたあとは、届きやすさが有効になってきます。

ヘッダービディングはデジタル広告の革命の一歩に過ぎません。二歩目ではマルチパブリッシャー、すなわち全パブリッシャーが、全インベントリを把握できるようになります。また、三歩めとして、マルチパブリッシャーがオーディエンスデータに合わせて、ユーザーとサプライをつなげることが可能になってきます。

例えば広告主が全てのものを見たうえで、その中から何が自分の目指すオーディエンスなのかを、全てのプールの中から取捨選択できるようになるということ。これこそがデジタル経済の「2.0」の到来であるともいえます。まだまだ始まった初期の段階で、とてもわくわくしています。

FastLaneなら、デスクトップはもちろんのこと、動画やモバイルへと展開が可能です。

パブリッシャーがどのソリューションを選択するかによって、大きく将来を決定づけるといっていいでしょう。大きく分けて「ヘッダービディングをクライアント側に設ける場合:ページにJavaスクリプトを組み込む方法」「サーバー側、ネットワーク側に設ける方法」の二つがあります。おそらく、将来的にはサーバー側に設けるようになるでしょう。クライアント側に設けてしまうと、レイテンシー(遅延)が発生してしまうためです。

将来的にサーバー側に移行していくことは分かっていても、日本のパブリッシャーには制約事項があります。いちばん大きな制約は「標準がない」ことです。共通の基準がなく、それぞれが独自的なものをソリューションとして展開しているからこそ、ひとつのなかにも独自性の中で閉じこもってしまうという問題があります。オープン性もありません。

けれども、実はこの問題は日本だけではなく、グローバルにおける課題なのです。だからこそアドエクスチェンジに特有のものでなく、Rubicon Projectはオープンソースを非常に強く提唱しています。グローバルでの標準化が求められていますし、ソフトウェアモデルに対し、透明性が欠如している部分は積極的に覆していきたいと思っています。

IBAなどではスタンダード化に向けての作業が始まっていると思います。ただし、IBAは手段に過ぎず、業界を取り巻くオープンコンソーシアムをつくるといったような発想が根付いていかなければなりません。そこにはパブリッシャーもアドエクスチェンジもバイヤーもかかわっていきます。ただ単にひとつのソフトウェアモデルにすべてを閉じ込めてしまうのではなく、ひとつのスタンダードを提唱しオープンソースを推奨しそこからコミュニティとして知見を共有し合える環境を作っていきたいと考えています。

― Rubicon Projectのラッパーソリューションについて、お聞かせください。

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ラッパーソリューションは、クライアント側のページにJavaスクリプトが組み込まれていて、そのJavaスクリプトがアドエクスチェンジにコールしてインプレッションをオークションにかけるだけの簡単なソリューション、Javaスクリプトが6行程、ページに組み込まれているだけの単純なものです。

そのJavaスクリプトがコールする先にあるものが、アドエクスチェンジだったり、アドエクスチェンジの先にあるデマンドだったり、ブランドだったり、代理店だったりします。

ラッパーソリューションはあくまでもリンクを提供しているのみで、デマンドのソースに到達するための橋渡しにしか過ぎないです。魔法の仕掛けではありません。むしろ複雑性がすべて包含されているのはアドエクスチェンジ側です。

クライアント側のページそのものはJavaスクリプトを実行してアドエクスチェンジ側とつなぐだけ、そして僅か150ミリ秒という非常に短い時間の中で、180ほどのデマンドソースに瞬時にオークションを行い、そしてふさわしい広告主のクリエイティブを150ミリ秒以内に表示します。

だからこそRubicon Projectはあえてラッパーソリューションはオープンであるもの、オープンであるとしてきました。反対に言えば独自的なものであれば公平性が欠如してしまうとむしろ考えました。だからこそRubicon Projectのラッパーソリューションに関してはコードも見える化していますし、だれでもアクセスできるという環境をあえて整えました。

― ヘッダービディングがもたらすパブリッシャー側のメリットをお聞かせください。

透明性こそが、公平なオークションをもたらすものだと思っていますし、この公平性が業界の未来を握っており、公平でなければこの業界の未来が阻害されると思っています。

私たちが前面に出したいのは、「信用」「透明性」「品質」につきるでしょう。広告業界は独自の世界観を守ってきた業界ですが、これからの時代はやはり信用に基づいて公平でなければなりません。ですから、Rubicon Projectはプロセスをすべて公開しています。どのようにしてオークションが行われているのか、ちゃんと見える化されたほうが業界のためになると確信しています。それによって独立性を保っていると言えるでしょう。

ヘッダービディングの普及はグローバルも日本もこれから。いずれ消え去るキーワード

― 日本ではヘッダービディングがまだ普及していません。これは特殊要因であると考えますか?

ヘッダービディングに関して、日本が世界から遅れを取っているわけではありません。むしろ、ヨーロッパ諸国でも、ヘッダービディングはまだ導入段階ですから、日本の動向は、世界の歩調と合っています。日本の市場の特徴として、みんながある程度まとまって同じ方向に動くという性質があるようです。だからこそグローバルだったりスタンダードだったり、オープン性や透明性を追求するというところで、日本は強く声を上げられるようになると思います。

将来的には、ヘッダービディングは、名前さえも消え去ると思います。それが通常のオークション営業のあり方になる時代が来るためです。どのようにすればデマンドソースからインプレッションを最大化していくことができるのかを考え、パブリッシャーが最大化したインプレッションから還元された分を、ユーザー向けのサービスやコンテンツの改善にどんどん回していくような循環が出来上がると思います。その際には、統一化されたアプローチで最大限の利益を出していくという姿になっていくと思います。私はヘッダービディングという言葉の消滅は、具体的には2018年だと予想しています。

― ヘッダービディングに関して、グローバルで現状認識される課題(技術的な課題、ビジネス面での課題)があれば、お聞かせください。

いまはまだオークションの在り方についての議論が行われていますが、出来上がったあと、問題になるのはオーディエンス、データ、それからフォーマットです。フォーマットであれば、ビデオやインタラクティブモバイル、インタラクションそのものをどうやってユーザーに届けるかということです。

本来私たちが考えるべきはどうやってユーザーとコミュニケーションしてマーケティングしていくかというところです。土台が出来上がってしまえば、なにをつくっていくのかという、本来の議論に戻せるのではないでしょうか。

2017年はヘッダービディング飛躍の年

― ヘッダービディングの今後の方向性

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今は、デジタル業界を根本から塗り替える真っただ中にいると思っています。バイヤーにとってもセラーにとっても同様のことが言えますが、アドエクスチェンジにおけるRubicon Projectは、かつて全インベントリに入れて、そこから1割だけのマネタイズをしていました。

けれども、いまは90%のインベントリからマネタイズが10%で、最終的にはパブリッシャーのインベントリが公開されて、なおかつパブリッシャーの利益の源泉をさらに拡充し最大化することもできます。また、バイヤーにとっても適切な人にリーチができるということが保証されてくるでしょう。

― 貴社の今後の日本におけるお取り組みについてお聞かせください。

日本において、Rubicon Projectは、現在は「第二章(Chapter2)」のような形で組織を変更しています。

今年、ラッパーソリューションの取り扱いを始め、様々な媒体に導入されています。さらに、今年はヘッダービディングが飛躍的に伸びる年だと考えています。昨年1年は試行するための1年でしたが、環境も整ってきました。市場が成熟し、プラットフォームが整い、サーバー間でも連携が取れるようになってきたので、パブリッシャーの多くがヘッダービディングを使ったほうが、自分たちの利益を最大化できると理解されるようになりました。ヘッダービディングの飛躍の年になると思います。

ヘッダービディングは収益を最大化するツールと認識されていると思いますが、本当に見なくてはならないのは、最大化したインプレッションをバイヤーが介した状態でつくることができること、バイヤーが求めているオーディエンスの提供ができることです。こうしたことを広めていければと思います。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。