「意識は高まるもノウハウはまだ圧倒的に不足」-アドフラウド対策に取り組むSupershipとMomentumはいかに連携していくか

KDDIグループのSyn.ホールディングス株式会社は7月25日、アドフラウド対策ソリューションを提供するMomentum社の株式を取得し、連結子会社としたと発表した。今後は、同じくグループ傘下のSupershipが運営するDSPやSSP、DMPとの連携を進めていくという。両社の今後の取り組みと、アドフラウドに関する最新動向などについて、Supership執行役員広告事業本部事業本部長の宮本裕樹氏と、Momentum社の代表取締役社長を務める高頭博志氏に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

KDDIグループ入りの背景とは

― Momentum社のSyn.グループ参画に至るまでの経緯についてお聞かせください。

宮本氏: Supershipが持つアドプラットフォーム向けのソリューションとしてMomentum社のアドフラウド対策技術を活用しませんか、という提案を高頭さんからいただいたというのが最初のきっかけです。そこから一般的なサービス提供者と利用者という関係に留まるのではなく、お互いにもっと深く関わり合える方法はないだろうかという相談に発展していきました。

高頭氏: 私がMomentum社を設立した当初はまだそれほど認知されていなかったアドフラウドという問題が、ここ1、2年で一気に顕在化しました。すると、アドフラウドにまつわる様々な課題を解決するために、事業のスピードをもっと速めたいという思いが日増しに強くなっていったのです。そこでより大きな規模の会社と一緒に事業を行う必要があるのではないかという認識を持つようになりました。

宮本氏: SupershipではDSPやSSPなどの広告プラットフォーム、さらにDMPを開発・運営しています。DSPにおいてはニーズが高まっているスマートフォン領域に強いScaleOutというプロダクトが順調に伸びているのですが、これからナショナルクライアントをはじめとするブランドの広告主がスマホ上でも本格的に出稿を増やしていくとなると、広告の配信先をきちんと管理していかなければならない。だからアドベリフィケーション技術については以前から注目していました。またDMPのデータの中にもbotがいる可能性が指摘されており、そのbotのフィルタリングをきちんと行いたいという課題も抱えていました。

― 両社はこれまでにも共同の取り組みを行っていますね。

高頭氏

高頭氏: 過去にScaleOutをご利用されている広告主とアドベリフィケーションやブランドセーフティに関する実証実験を共同で行ったりしています。詳細は省きますが、最終的な考察結果として見えてきたことは、まずはブランドセーフティを確保するための人手による作業の限界。良質なメディアのホワイトリストを作成して広告を運用することはできても、一つひとつのコンテンツまで目視で確認するのは不可能に近いです。

また配信先を拡張するために今度はブラックリスト方式に切り替えようとなると、やはり人手で作業を行なうのは難しいのでソリューションの活用が鍵となる。またアドフラウド関連では、広告主が保有するファーストパーティーデータの拡張配信において、拡張するところにノイズが入り、そこにアドフラウドが混ざるのでその部分をクレンジングすることで正確な広告配信が可能になる、といったような結論を導き出しました。

今後はファーストパーティーデータを活用してアドフラウド解析の精度向上を

― 同じ企業グループに入ったことにより、両社の事業は今後どう変わっていくと見込んでいますか。

高頭氏: Momentum社としては、新たにできるようになることがすごく増えます。一例を挙げると、これまで我々が保有するデータは、基本的にはクライアントさんからもらう広告リクエスト情報のみでした。Syn.グループは、アドプラットフォームのデータに加えて、信頼できるファーストパーティーデータも豊富に持っています。これらのデータは、アドフラウドのロジック解析には大変有用です。なぜかと言うと、アドフラウド対策の基本は、bot検知だからです。逆に言えば、「これは人間が閲覧した/クリックしたことを示すデータだよ」ということが予め分かっていれば、そのデータの特徴と照らし合わせることで、人間以外つまりbotであるかどうかの判断もより正確に行えるようになります。

また重要なのは、DSPとDMPはともにデマンド側が扱うデータであるということ。そうしたクライアント側が保有する信頼性のあるデータは我々が持つソリューションの開発において大いに活用できると思います。

宮本氏: Supershipのプラットフォームには約4.6億ユニークユーザー分のデータがあるので、そこが解析対象になると思います。以前からSupership単体としても不正ユーザーの対応はしていましたが、結局はいたちごっこ。内部の対応だけでは不十分で、専門企業の力が必要だなと感じていました。

ブランドセーフティとアドフラウド対策をDSPの標準機能に

― 具体的にはどのように連携していくのでしょうか。

宮本氏: 大まかに言うと、ブランドセーフティの確保とbotを使ったアドフラウド検知の2点において協業していきます。既にブランドセーフティ領域での連携は開始していて、本格的に各プロダクトを融合したり、Supershipのデータを使ってMomentumのプロダクトを強化したりというのは、今後数カ月から半年ほどの期間をかけて進めていく予定です。

高頭氏: まだあくまで構想段階なのですが、セキュリティ対策ツールとしての開発にも手を伸ばすことができたらと思っています。例えば広告経由でブラウザに当たることでマルウェアの情報を手に入れるなど、アドフラウド対策の技術は、セキュリティの分野にも応用できるからです。だからもしかすると、KDDIグループのセキュリティ事業との連携の可能性はあるのかもしれないとぼんやりと考えています。

― 両社のソリューションの接続が完了した際には、これまで単独で各ソリューションを利用していたユーザー向けの問い合わせ窓口や利用料金は変わるのでしょうか。

宮本氏:まだ検討を始めたばかりの段階で具体的には申し上げられないのですが、できる限り窓口は一本化したいと考えています。また料金については、「異なる技術を連携させたので、技術使用料もその分だけ上乗せ」という形にはしたくないです。様々な調整が必要にはなりますが、少なくともある程度は費用を弊社で吸収し、ユーザー側の追加負担は少なくしたいと思っています。

― 両社の連携事業における数値目標などありましたらお聞かせください。

宮本氏: Supershipとしては、本連携単体での売上目標は設定していません。ただし、DMP事業とアドプラットフォーム事業にとってはMomentum社のソリューションは絶対に必要な機能であると位置付けているので、連携を経てこれらの事業を着実に成長させていきたいと思います。

高頭氏: 私としては、今まで単体の小規模のベンチャーとして生き残るために営業利益を追求せざるを得ないという事情がありました。体力のある企業さんと一緒になることができて、今後は目先の営業利益だけにとらわれることなく、より長期的な視点を持ちながら事業を運営できるというところがとてもうれしく思っています。

アドフラウド対策にはまだいくつかのハードルがある

― アドフラウドに対する社会的な意識の高まりは感じますか。

高頭氏: つい先日も、ネスレの担当者の方がオンライン広告において今後は85%以上のビューアビリティーが確保できるものにしか投資しないという趣旨の発言をされたり、P&Gの担当者の方はアドフラウドを含むインプレッションにはもう一切投資しないと明言されたりしています。だから広告代理店も対応を迫られているのです。一方で、アドフラウドを解決するためのソリューションの数は圧倒的に不足していて、またそれぞれのソリューションをどう組み合わせれば良いのかというノウハウも蓄積されていない。その意味では、まだいくつかのハードルはあるという印象ですね。

― 広告主にとっては「アドフラウド対策にわざわざ別途予算を割くことができない」「アドフラウド対策をするとインプレッションが減ってしまう」といった懸念もハードルになっているとは思いませんか。

高頭氏: まず前者に関して言うと、アドフラウド対策ソリューションの費用はアドフラウドに掠め取られている広告予算の削減部分で賄うことができると考えています。弊社のソリューション費用が広告費用に占める割合は数%に過ぎません。一方で、例えば国内の不正クリックは20%ぐらいの割合で検知されることもあります。また広告配信最適化プラットフォームのLogicad(ロジカド)さんと弊社で共同調査を行った際には、アドフラウド対策によってCPAのレートが10%弱改善したという結果が出ました。

また後者については、そもそも無価値なインプレッションを買っても全く意味がありません。無価値なインプレッションを買いたいと考えるマーケッターがいるとしたら、そのマインドこそ変えていきたいと思います。

宮本氏

宮本氏: マーケッターの方々の中には、アドフラウド対策を行えば、会社への報告事項が増えて面倒になると考えていらっしゃる方もいるのかもしれませんね。ただ本当は実際に広告予算を捻出するマーケッターこそアドフラウド対策に高い関心を持たなければいけないはずなのです。また適切な広告インベントリというのはたくさんあるので、インプレッション数を確保するためという理由でアドフラウドに対して目をつぶる必要はありません。

アドフラウドに関する立証が比較的難しいというのも、マーケッターの理解を得られにくい理由の一つになっているかもしれません。そこはプラットフォーム側も広告代理店側も皆が一緒になって、デジタル広告業界がしっかりと信頼される存在になるために努力を続けていく必要があると思います。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。