メディア側にもある、ブランド毀損解決のために- 「AJA SSP」の新機能「AJA GREEN」の開発思想 [インタビュー]
サイバーエージェントの子会社で、「Ameba」をはじめとするグループメディア発のアドテク事業を行うAJAが、提供する「AJA SSP」の新たな機能として、メディアの広告クリエイティブを全件審査する「AJA GREEN(アジャ グリーン)」という機能の提供を開始した。
提供開始の背景やサービス内容について、同社取締役の野屋敷 健太(のやしき けんた)氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
メディア側でも起こるブランド毀損
― 貴社の事業と提供しているプロダクト構成についてお聞かせください。
当社は現在、「AJA Recommend Engine」、「AJA SSP」、 「AJA PMP」の三つのプロダクトを提供しています。
今回提供を開始した「AJA GREEN」は、「AJA SSP」に搭載した機能で、AJAのパートナーメディアの広告配信におけるブランドセーフティを目的として、掲載される広告クリエイティブを全件事後審査するソリューションです。これまでサイバーエージェントがメディア運営において培った広告審査ノウハウを、パートナーメディアにおいても展開していきたいと考えています。
― 今回のサービスをリリースした背景についてお聞かせ下さい。
「Ameba」でも時折あったのですが、外部のアドネットワークやSSPを導入して広告配信をしていた時、「これは明らかに掲載NGではないか」というような不適切なクリエイティブが予想以上に多く出たことがあります。これを人的に対処しようとした時、1日に数千本もの広告クリエイティブを事前に見なければならず、作業負荷が非常に大きいと感じました。
こうした課題が他のメディアでもあるのではないかという仮説を立てて調べてみたところ、審査をする人がおらず、ユーザーからクレームがあった時に掲載を止めるという対処療法に追われているメディアが多いのが現状でした。それを解決していきたいと考えたのが、「AJA GREEN」を開始した背景です。
― 貴社が今回のリリースで提唱されているメディアのブランド毀損とはどのようなものでしょうか。
不適切な広告クリエイティブを出すとメディアを利用するユーザーが気分を害してしまいます。そうしたユーザビリティの観点に加え、薬事法や景表法に抵触するクリエイティブがコンテンツのメインに出てしまうケースも多く、メディアのブランドイメージもよくありません。またそうしたメディアには広告主も広告出稿をしたくないはずです。
「Ameba」においてもそうですが、日々コンテンツの質を上げようと頑張っているメディアのサービスチームは、もちろんそういうことを非常に気にしています。広告の表記について、ユーザーからクレームが来ることもあります。
最近市場でよく聞くメディア側の問題に関しては、本来SSP側が制御できることであると思っています。特にダイレクトレスポンスの広告主がCPAを追求することに専念する一方で、メディアはCPMを上げるためにCPCとCTRを上げたいと考えます。そこは深層では折り合わないところがあるので、間に入っているプレイヤーがテクノロジーを使い調整できるようにすべきだと思います。
他メディアの広告をAmebaクリエイティブチームが事後審査
― 今回の審査体制は事後審査とありますが、事前審査ではないのでしょうか?
審査基準はメディアによって異なるので、現段階で一律のポリシーのもとで事前審査をサービスとして提供することは難しいということが、理由の一つにありました。
メディアによって、「ここまではOK」「ここまではNG」というラインができるので、ノウハウが貯まった時点で事前審査体制を作れるとは思います。まずは事後審査で始めようということであり、現状の仕組みはあくまで通過点だと思っています。
― 審査における仕組みやプロセスを教えてください。どのようなフローで行われていますか?
当社の「AJA SSP」経由で配信されるクリエイティブを、一覧で審査できる画面をご用意しています。これを見ながら、各ネットワークやSSP経由で掲載されているクリエイティブが一覧で表示されるイメージです。それをシステムと目視で審査します。
審査担当には、現在「Ameba」のクリエイティブ審査チームの人材をアサインし、そのノウハウを、他のメディアにも提供します。彼らは「Ameba」に出稿するクリエイティブを審査していますが、今後は「Ameba」に加えてパートナーメディアの案件も審査するようになるというイメージです。
正直者が損をしなくなるメディアビジネスの支援を
― サービスを利用するにあたっての条件や導入にあたって必要なことをお聞かせ下さい。どのようなメディアに利用してほしいですか?
今回のサービスは、当社の「AJA SSP」で配信している広告クリエイティブが対象となります。「AJA SSP」を導入していただければ、パートナーメディアに掲載されるクリエイティブは当社が全て審査させていただきます。
倫理観を持って、法律に抵触しないようなものを出さないというポリシーのあるメディアとご一緒させていただきたいです。「Ameba」は、フィーチャーフォンの時代から非常に厳しく審査をしてきました。業界的には「ちょっと(法にすれすれの部分で)攻めている」クリエイティブの方が高い効果を上げるなど「正直者が損をする」傾向が高まっており、攻めている業者の方がメディアから支持されやすいところがあります。当社では、こうした業界の健全性における課題を是正していきたいと思っています。
市場の課題に目を向けたプロダクト開発を
― 業界内では貴社の動向が注目されています。今後の事業戦略やプロダクト開発の方向性についてお聞かせ下さい。
いくつかやりたいと考えているものはあります。その中でも、メディアに対して価値を出せるツールや技術の提供に注力していきたいと考えています。「AJA GREEN」をはじめ、提供を開始しているサービスにも磨きをかけていきたいです。
現状は大きな目標売上数値を立ててそれを追い求めるのではなく、市場の課題に目を向け、メディアが真に求めているプロダクト開発を進めています。
サイバーエージェントグループでは、3年ほど前からアドテクノロジーの内製化を進めてきました。その過程で、パートナーメディアに還元できるナレッジが蓄積されていますので、それらを積極的に展開し協力し合っていくことで、優良なメディアの成長と収益向上に貢献していきたいと考えています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。