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【P1寺廻氏に聞く。プログラマティック・トレンドワードのいま】~第3回アドベリフィケーション~

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昨今注目を集めるプログラマティック領域のキーワード。実際に実務領域ではどのような現状にあるのか。

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)の連結子会社でプログラマティック領域の実務を担う株式会社プラットフォーム・ワン(P1)取締役副社長寺廻友子氏にお話を伺うシリーズ第三回目。昨今業界で注目を集めている「アドベリフィケーション」。その内容や背景、業界内での議論の論点などについて、今回は、株式会社博報堂DYデジタルソリューションプラニング本部メディアプランニングユニットインテグレーテッドプランニンググループ 清水康隆氏とともに解説いただいた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

「アドベリフィケーション」は検証とコントロール

― アドベリフィケーションとはどのようなものでしょうか。また、その言葉の普及の背景についてお聞かせください。

寺廻氏 「ベリフィケーション」とは正しいということの「立証」「承認」「証明」などを表します。ですから、アドベリフィケーションとは広告主の意図に沿った、信頼できる掲載面や広告枠に広告がきちんと掲載されているかを確認し、その結果を受けて、さらに配信を制御できる機能やアドテクノロジー、手法のことを指します。

写真1:博報堂DY

清水氏 この言葉自体はDSPが登場し始めた5年ほど前に一度注目を浴びたと記憶しています。広告主のバナー広告が不適切な掲載面に表示されている可能性があるということがきっかけです。ただ、当時はアドネットワークやDSP等の運用型広告がまさに大きく拡大を続けているタイミングでしたのでそれ以上にこのテーマだけがフォーカスされることはありませんでした。しかし、最近これらのテーマが改めて注目を集め始めたのは、特にグローバルのマーケターがこれらの事象を非常に問題視しており、日本においてもテクノロジー導入の投資を含めて加速度的に対応を進めているからです。

また、アドベリフィケーションと言っても具体的には、弊社の表現の定義として「アドフラウド」「ブランドセーフティ」「ビューアビリティ」の3つの問題があります。アドフラウドは"広告に接触したのは本当に人であったのか"、ブランドセーフティは"広告の掲載面が不適切なコンテンツではなかったのか"、ビューアビリティは"掲載された広告は視認できる状態にあったのか"、ということです。

― 実際にアドベリフィケーションを行うには、バイサイドはどのようなことをする必要があるのでしょうか。どのようなソリューションが今使われているのでしょうか。

寺廻氏 DSPを使う場合には、DSPにアドベリフィケーション機能が備わっているケースがあります。例えば弊社のDSP「MarketOne®」には第三者のアドベリフィケーションベンダーとの連携機能とDAC独自の機能が内包されていて、それを使って配信設定をすると、個別に契約したり対応することなく、DSPの管理画面上で設定、運用を完結することができます。もちろんプログラマティックだけではなく、純広告を含めてレポートを確認し、運用してということは必要だと思っています。

清水氏 プログラマティックバイイング以外の買い付け手法もあるので、必ずしもツールを導入する、あるいはレポーティングをするだけではないと思っています。例えば媒体を指定して購入を行う純広告やPMPのような買い付け方法であっても、指定する掲載媒体で発生しうる棄損リスクを把握した上でプランニングを行う必要がありますし、当然DSPのような配信手法の場合はベリフィケーションツールを導入して自動でかつなるべく写真1:プラットフォーム・ワン高い精度で検知・除外する対応が必要になります。広告会社としてはあらゆる買い付けの手法を駆使して全体のプランニングをさせていただいていますので、マニュアル的な対応を含めて透明性への取り組みを行わせていただいています。

寺廻氏 DACではアドベリフィケーションの機能を「XmediaOne」という製品で提供しておりますが、第三者であるベンダーとも同じレベルで連携するということはとても大事なことだと思っていて、そのうえでユーザーに選択していただいているという形です。

― アドベリフィケーションのサプライ側への影響としてどのようなことがあるのでしょうか。その普及における課題あるいは議論のポイントは現在どのようなことがありますか?

寺廻氏 DSP側が新たに配信ロジックを組んだり、アロケーションの方法が変わったりすることにより、価値のある/評価される広告枠・ドメインが変わってきているように思います。どこへどのように掲載されたかということが、プログラマティックの運用に関しても、観点の一つとして入ってきている実感があります。ただ、その状況をプラットフォーマー、広告会社、広告主がそれぞれのアドベリフィケーションツールの管理画面から見ているだけで、メディアにはその情報があまり伝わっていないような印象を持っています。

メディアといかに一緒に改善していくかということを、もっと議論したほうがよいですし、業界のためにもなるでしょう。ですが現状では、バイサイド(広告会社や広告主)が管理画面を見ながら「このドメインはビューアブル率が低いからほかのドメインに振り替えてしまおう」ということになることが多いです。それではもったいないですから、メディア側でもその広告枠がアドベリフィケーションツールにどう評価されているのかを把握し、商品開発に活かしていくことも大切だと感じます。バイサイドにとっても評価の高い広告在庫が増えていかなければ、今後ターゲティングの幅が狭まる一方です。

写真2:博報堂DY

清水氏 媒体社側への影響では3つの課題の特に「ビューアビリティ」の影響が大きいのではないかと思います。実際広告の計測を行ってみると1st viewの広告であってもコンテンツのレイアウト、表示速度などによって数値が大きく異なることがあることなどもわかっています。これまで、CTR、CPCやCVR、CPAで評価されていた広告がビューアブル基準で評価され、また会社によってその評価基準も様々です。まさに、「ビューアビリティ」の重要性、必要性は各社検討をしている最中なので、媒体社はどういった仕様の広告商品を作っていけばよいのか、どの程度の数値であればマーケットで評価されるのかがわからない状況だと思います。また、寺廻さんがおっしゃるように、バイサイドは数値が良い所に寄せれば済むかもしれませんが、メディア環境が良くならないとマーケットは大きくなりませんので、数値を媒体社にもフィードバックして良い広告を一緒に作っていく動きが必要になると思います。

「ビューアビリティ」は北米が圧倒的

― 欧米と日本とでの温度差や論点の相違、普及度合いの違いは見られますか?

清水氏 3つの課題ごとに少しずつ異なると思います。「ブランドセーフティ」のような掲載面についての話は、日本でも相当前から議論になっていました。ですから、今回、グローバルでホットトピックになったから日本でも議論が始まったというわけではありません。プログラマティックバイイングが出始めた数年前から議論しており、既に対応を行っています。

「アドフラウド」については欧米同様に非常に問題視されています。ただし、欧米と日本においてはメディア環境が当然違うので計測数値も異なります。発生している要因も欧米と日本で異なるケースもあるので個別対応を進めています。

「ビューアビリティ」についてはおそらく欧米の方が対応は進んでいるのではないかと思います。そもそもですが、ビューアビリティの議論ではデジタル広告を「見せる」ことによる効果を期待している場合に非常に重要になります。つまり、デジタル広告でリーチを取ることを目的にしている場合です。これは当たり前のように聞こえますが、日本マーケットではデジタル広告をリーチではなくクリックで評価するケースが非常に多いのが現状です。クリックで評価している場合、広告がビューアブルな状態でなくても最終的にクリック数が獲得でき、その費用対効果で評価を行うのでこれまでほとんど重要視されなかったという背景があります。しかし、欧米ではデジタル広告をリーチで評価するケースが非常に多いと聞いていますので、見られていない広告露出は無駄な露出という判断になるため、日本よりも重要性が高く、対応の実績やノウハウが豊富にあると思われます。

ただし、広告をクリックで評価するのが悪いわけではありません。目的によって使い分けるべきですので、日本でもこれからビューアビリティの必要性を含めて目的の整理・議論が進んでいくと思います。

寺廻氏 DSP側の対応としては、アドフラウド、ブランドセーフティ、ビューアビリティ、の各値は第三者ツール等を使って定常的にウォッチしています。DSP全体のクオリティコントロールが非常にしやすくなりました。

ビューアビリティに関しては、日本のメディアの広告枠数が多すぎることが、日本のビューアブル率を下げている一つの要因ではないかと考えています。特にスマートデバイスのページ下部のビューアブル率がかなり低くなっている印象で、それによってドメイン全体の評価が下がってしまうこともあります。

― 博報堂D Yグループとして、アドベリフィケーションに対する取り組みの概要や、グループ内での役割分担や連携の現状についてお聞かせください。

清水氏 博報堂D Yグループでは、広告の透明性と品質改善に対応する独自サービスとして「Hakuhodo DY MQM_™」を構築しました。このサービスは、先ほどの3つの課題に対して、複雑化したデジタル広告の買い付け手法(純広告、PMP、RTB等)と、広告配信のタイミング(Pre/Post)ごとに行っていくべき適切な対応をマトリクス形式で体系化しています。広告会社としては、あらゆる買い付け手法、メディア、課題に対して全方位で対応しプランニングの質を高めていく必要があるということから、このようなサービス構築に至りました。

その中で、オリジナルの対応方法としてはDACと連携を行いグループで開発した「XmediaOne」を一部活用しています。これはビューアビリティやブランドセーフティを計測するアドベリフィケーションツールです。博報堂DYグループでは第三者機関が提供するアドベリフィケーションツールを活用しながら、グループで開発したテクノロジーも併用することで、効率よく独自性の高いサービスの構築を行っています。

ですので、広告会社である私たちは広告主のプランニングを最適化するようなスキームや戦略を考え、DAC/P1は媒体社との広告商品開発やテクノロジー開発を推進し、バイサイドとセルサイド双方での対応・連携をしております。

フィードバックを得ながらメディアとコミュニケーションを

写真2:プラットフォーム・ワン

寺廻氏 P1とDACとしては、DSP/SSPの広告プラットフォームとDACで開発している「XmediaOne」を連携させることで、さらなるアドベリフィケーション領域の対応強化を図っていきたいと考えています。個人的には透明性という観点から、第三者機関が提供するアドベリフィケーションツールとも積極的に連携させていただかなければと考えています。プラットフォーマーとしてはフラットかつ積極的に、より多くのベンダーと早期に連携を行い、クリーンな広告市場を実現する一助になりたいと考えています。
SSPサイドでは、どのような広告枠を設計すればよいか博報堂DYデジタルからのフィードバックをもらいながら、メディアとコミュニケーションをとることも大切な役目だと思っています。

清水氏 広告の透明性に関するこれらの課題は、デジタル広告が本当に信頼のおけるメディアとして成長できるかに関わる非常に重要なテーマだと考えています。複雑化した広告環境において健全な発展をしていくためには広告主・広告会社・プラットフォーマー・テクノロジーベンダー・媒体社、全てのプレーヤーが同じベクトルで改善に向かっていく必要があると思います。そのために我々のグループでは広告主・媒体社双方と向き合うことで一つ一つ課題を解決していきたいと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。