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日本のモバイルアプリプロモーション市場にLiftoffが持ち込む新しい価値[インタビュー]

米国のアプリプロモーションプラットフォームLiftoffが、2017年7月に、Criteoの元シニアディレクター天野耕太氏をカントリーマネージャーとしてアサインし、日本に本格参入をした。
Liftoffとは、どのような会社で、今後日本でどのような展開をしていこうとしているのか。
来日中の同社CEO Mark Ellis氏と、天野氏にお話を伺った。

Liftoffが大切にする6つのコアバリュー

― 天野さんが今回Liftoffにジョインされた背景をお聞かせください

天野氏 移り変わりの激しい業界の中で、アーリーステージに身を置きたかったということもありますし、以前よりもスピード感のある仕事をしてみたかったということもあります。スタートアップの一つの良さとして、セールスサイドとプロダクトの人たちが近いということがあります。セールスサイドからフィードバックをしてプロダクトを良くしていくことが出来る点は、スタートアップの醍醐味でもあります。また、Liftoffに入社する前にディスカッションをさせてもらう機会を得て、その時に感じたのですが、何よりも企業のカルチャーに惹かれました。

― Liftoffはどのような会社ですか?ビジネスの内容や会社のカルチャーについてお聞かせください。

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Mark氏 Liftoffは、モバイルアプリマーケターを支援するモバイルマーケティングプラットフォームです。新規ユーザーの獲得はもとより、ユーザーとのリエンゲージメントを促進することもできます。私たちは、これを三つの特徴により実現を可能にしています。

1つ目は私たちのモバイルユーザーに対する深い知見です。私たちは、20億以上のモバイルユーザープロファイルを保有しています。そして二つ目は、機械学習により良質なユーザーを予測することが出来る点です。三つ目は、ユーザーごとにクリエイティブを動的に出し分ける広告配信が可能であるという点です。ターゲットユーザーごとに、パーソナライズドされたメッセージを送り届けることが出来ます。

私たちの会社のカルチャーは、6つのコアバリューから成り立っています。幾つか紹介させて頂くと、一つ目は透明性(トランスペアレンシー)です。私たちは透明性が担保されたプロダクトのみを提供しています。我々はクライアント様に対して広告プラットフォームを通じて効果のみをお返しするのですが、私たちはビジネスがどのように動いており、どうすれば成功し、一方でどこに課題があるのかを理解することが求められています。そして透明性は社内でも保たれています。ビジネスがどのような状況にあるか、どんな課題があるかが社員に共有されています。

二つ目は人間性を大事にしていることです。私たちはグローバル市場でリーダーの一員というポジションにいますが、一方で市場は常に急速に変化を続けている事を知っています。常に謙虚な姿勢で顧客にフォーカスをして、それぞれの市場や顧客から学ばなければなりません。そして日本で日本の顧客からも学び、より良いサービスを提供していきたいと考えています。

三つ目は、現状に満足せずに変化を奨励する事で、プロダクトもプロセスも変化を続ける必要があります。今回のケースで言えば、特に日本市場に向けて私たちも変化をしないといけないですし、5年の社歴で常にそういった変化を奨励して来ました。他にもありますが、コアバリューは社員が常にベストなサービスを提供するために、どうやったらもっとより良いサービスにして行けるかを考え続ける為に、そしてそれを社員が楽しめるかにおいてとても重要です。

天野氏 実際に入社してみて感じたのは、今Markが申し上げた通り、会社のカルチャーをすごく大切にしていること、そしてクライアント様に対してはもとより、社内も非常にピュアでクリーンであるということです。Glassdoorという米国で有名な求人検索サイトのユーザーレビューでも、最高水準の高い評価を受けています。

Mark氏 私たちは、米国西海岸エリアでNo.1の出版社から、テクノロジースタートアップにおいてトップカルチャーの会社として選出されました。

― 日本に参入された背景をお聞かせください

Mark氏 日本に参入するまでに、なぜこんなに長い期間を要してしまったのかという感じです。(笑)
市場データを見ますと、日本のマーケットはとても競争が激しく、ユーザー一人あたりのモバイルへの支出が高いです。私たちはよりマーケットに寄り添うことが必要です。グローバル市場においてAPACは非常に重要な地域であり、その中でも日本は特に重視しています。米国に続いて日本に参入するというのは極めて当たり前のことです。

一方で私たちは、ロンドン、シンガポール、そしてニューヨークにもオフィスを開設しています。日本においては、天野をカントリーマネージャーとしてアサインすることが出来、現在急速な事業拡大を進めているところです。日本のチームを作り、市場のニーズを聞き、市場に適応していきます。日本は市場全体として大きなビジネスチャンスがありますし、私たちのプロダクトに対するニーズは間違いなくあります。グローバル市場のリーダーとなるために、私たちの戦略において日本はとても重要な市場です。

ユーザーエンゲージメントをCPAで自動最適化

― アプリプロモーションを支援するプラットフォームは日本に数多くあります。他社との一番の違いはどこにありますか?

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Mark氏 例えば検索市場を制したGoogleは、初めての検索エンジンではありませんでした。彼らはユーザーの検索クエリーに対してどれだけ正確に結果を返すことが出来るかで、市場を制しました。当社が設立された5年前には多くの会社がモバイルマーケティングニーズに対するソリューションを提供していました。基本的にモバイルマーケターは、広告支出に対するリスクを小さくし、ただ単にアプリインストールではなく、サービスとユーザーとのエンゲージメントを獲得するということを望んでいます。それを実現させるのが私たちの信念です。

モバイルアプリプロモーションのプラットフォームを提供している会社は、多くあります。その中で私たちのポジショニングは、ユーザーのアプリインストールを促進するのではなく、エンゲージメントを促進するというユニークなものです。

天野氏 欧米の市場は、日本以上に事業者の寡占化が進んでると考えています。その中で当社はグローバルで展開をしている大手ブランド企業様から信頼を得て大きなご予算を預けていただいています。日本においては加えて多くの国内事業者が市場に存在しています。

私もモバイル業界でのキャリアも長く、この市場に後発で参入をするという状況も理解しています。先ほどMarkが申した通り、インストール後のエンゲージメントをする、すなわちインストール後の任意のコンバージョンポイントに対して課金をするというところが、Liftoffの一番コアなポイントです。この点は日本の市場においても差別化要素になると思っています。勿論、CPAで最適化をかけるというプロダクトは他にもありますが、我々がリスクテイクをして、課金をするプロダクトであるということを公言しているというのは、ユニークなポイントです。

7月に日本オフィスを立ち上げて以降、アプリマーケターや代理店の方々と色々なお話をさせていただいている中で、このモデルは日本にフィットするのではないかというフィードバックをいただいております。ただ、クライアント様と末永くお付き合いをさせていただくために、予めデータを戴いたり、一定の学習期間が必要であったりというような準備が必要です。短期的なお取引で短期的に結果をお返しするというようなプロダクトとは一線を画しています。この点を十分にご理解いただいた上で私たちに運用をお任せいただくというようなモデルです。

非ゲームアプリマーケターをターゲットに

― アプリプロモーションというと、アプリゲームが想起されますが、貴社のメインターゲットについてお聞かせください。米国と日本とでは違いがあると想定していますか?

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Mark氏 日本の市場を理解して、そこに戦略を合わせていく必要も感じておりますが、グローバルの市場においては、基本的にソーシャル、コマース、トラベル、ファイナンスなどの業種と親和性が高いので、日本でも同様の展開を想定しております。

天野氏 アプリプロモーション需要はゲーム業界がとても大きいです。勿論ゲーム業界の大きなクライアント様ともお取引をさせていただいています。ただ、当社設立時のコンセプトとしては、非ゲームのアプリが本来のマーケティング目的に沿ったKPIでプロモーションが出来るというものでありました。その意味では非ゲームアプリのマーケティング支援をするのに会社としては力を入れています。日本でも同様の業種のクライアント様とお付き合いをさせていただけるようにしたいと考えております。

― 貴社のサービスを導入するには、広告主は何を準備する必要がありますか?

Mark氏 キャンペーンを開始するまでには、それほどの時間を要しません。しかし、ユーザーのインストール後のアプリ内におけるイベントに対して、CPAで最適化をかけていくためには、一定の期間を要します。

天野氏 キャンペーンの開始までにアプリマーケターの方に対応いただくことは大きくは主に二つです。
新規インストールのキャンペーンを、その先の任意のコンバージョンポイントにおいてCPAで課金するというのがプロダクトのコアな部分なのですが、最適化していくために重要な、インストール後のイベントの情報をポストバックしていただく必要があります。これが一つ目です。
我々は世界の主要なアプリ広告効果計測ツールとの連携をしておりますので、計測ツールを導入されているアプリマーケターの方は、簡単に導入いただくことが可能です。

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二つ目は、ダイナミッククリエイティブ配信のために、動画も含めてクリエイティブの要素を準備していただくことです。

ここまでに要する時間は長くはありません。キャンペーン開始後は、一定の学習期間の間にデータをたくさん集めさせていただき、その後各社が提供しているようなCPIの最適化をします。そしてその後最終的なゴールである目標CPAに対して最適化を行います。

日本のアプリ市場エコシステムにおけるプレゼンスを早期に確立

― 非ゲームアプリ市場のポテンシャルは、米国と日本とでは似ていると思われますか?

Mark氏 それに関しては二つの答えがあると思っています。ビジネスのやり方や、消費者の嗜好など、文化的には全く異なっています。ですがもう一方で、似ているとも言えます。例えば、Amazonと楽天という二つの異なる会社は、似たような戦略で、似たような展開をしています。我々は文化の違いを理解し、共通点を踏まえて我々の提供できる価値を最大化させていきたいと思っています。

天野氏 日本ではフィーチャーフォン時代からWebの環境がとても整っていました。したがって、非ゲームのモバイル事業者はWebに力を入れてきました。だからといって、アプリマーケティングをおろそかにしているということではありません。日本のモバイルマーケターの人たちは、アプリをどうにかしなければいけないと思っており、アプリをどうでもいいと思っていることは全くなく、そこが我々のビジネス機会につながると見ています。つまり、今までアプリマーケティングにおいて名前が挙がらなかった企業様が、今後アプリに注力するお手伝いも出来ればと思っています。

― 日本では具体的に、どのようにビジネスを広げていかれるのでしょうか。戦略をお聞かせください。

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Mark氏 グローバル市場において私たちのようなサービスに対するニーズが高まっていることが、統計データからも明らかです。日本市場には私たちにとって大きなビジネス機会があります。私たちは各国や地域に密着した取り組みをしてまいりました。必ずや日本市場においても存在感を高めて、数年後には米国と同等の水準にまで持っていきます。

天野氏 色々なマーケターの方から聞いたニーズや課題に応えられるポイントを模索して、とにかく事例を作っていきたいと思います。
アプリプロモーションの領域でもアドフラウドの問題を始め様々な課題があり、アプリマーケターの方々も少し及び腰になっているところもありますが、我々はこのような業界全体の課題解決に向けて積極的に取り組んでいきたいと思っています。

クライアント様のみではなく、広告代理店様、広告効果計測ツールベンダー様、SSP事業者様など様々な方と向き合って関係を構築していくことで、日本におけるプレゼンスを高めてまいりたいと思っています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。