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広告計測でIAB認定を取得―CCIが打ち明ける「世界初」の舞台裏 [インタビュー]

電通グループのデジタルマーケティング企業である株式会社サイバー・コミュニケションズ(CCI)が、1月末、デジタル広告企業向け測定手法の業界標準への適合において、米国 IAB Tech Labによる世界初の認定を受けたことをリリースした。

グローバルな業界団体が定める「業界標準」の認定制度の内実とはどんなものか。認定取得に至るまでの経緯などについて話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
(ライター:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊)

媒体社と広告主の双方に提供するプラットフォームを構築

― 自己紹介をお願い致します。

廣川氏 CCI取締役テクノロジー・ディビジョン ディビジョン・マネージャーの廣川謙介と申します。IAB Tech Labより認定を取得した当社自社開発の広告マーケティングソリューション「BEYOND X(ビヨンド エックス)」開発部署の責任者を務めています。

松田氏 ストラテジー・ディビジョンの松田幸子です。海外事業者との提携業務を担う部署に所属しています。この度の認証取得に向けて、IAB Tech Labとのやり取りを行う窓口を務めました。

吉田氏 セールス・ディビジョン チーム・マネージャーBEYONDX PMP担当の吉田大樹です。BEYOND X PMPの販売作業に注力しています。

― IABによる認定対象となったBEYOND Xについて概要をお聞かせください。

廣川氏 :CCIでは2005年より「ADJUSTアドネットワークシステム」という自社開発アドネットワークを持っていました。BEYOND Xは、このアドネットワークの機能にプログラマティック取引やターゲティング広告さらには当社が「インベントリー・ポートフォリオ・マネージメント(IPM)」と呼ぶ一種のメディエーションつまりは媒体社の収益最大化を目的とした複数の広告ネットワークの調整機能を追加したものです。このIPMの機能を中心に据えた上で、アドネットワークでの配信機能などを垂直型に統合しています。

BEYOND Xの概念図

BEYOND Xの概念図

RTBを通じて外部へと在庫を提供する部分に関しては他社様のソリューションも組み合わせています。高単価な在庫に関しては上部の階層で高単価で販売し、最適化をかけながら残りの在庫を様々なSSPへと供出しているのです。さらに残った在庫の一部に関しては、提携するプラットフォームなどを介してオープンマーケットに供給しています。

写真1

吉田氏 上図において赤の点線で括られたIPMのサービス領域で媒体社の収益確保を図っています。またこの領域でリクルーティングした在庫を、青の点線で括られた「BEYOND X PMP」という広告会社向けのトレーディングデスクサービスでも提供しています。BEYOND X PMPにおいても、自社配信とDoubleClick Bid ManagerやScaleOutといった他社様の配信プラットフォームとを併用しています。

媒体社向けにIPM、広告主向けにBEYOND X PMPを用意し、両社を垂直型にまとめた統合的なプラットフォームであるという点にBEYOND Xの最大の特徴があります。この度IABより認証をいただいたのは、このBEYOND Xにおける自社配信及び広告在庫の自社調達に関連した部分です。この領域において、インプレッションとクリックが正しく計測されているか、また在庫の健全性などについての監査を受けました。

― 認証プログラムの詳細についてお聞かせください。

写真2

松田氏  IAB Tech Labが新しく制定したプログラムです。我々が認定を受けたのは、米国以外の企業を対象とした「メジャーメント・コンプライアンス・プログラム」というオンライン広告における計測の妥当性を監査するプログラムです。米国以外の国や地域からグローバル展開を行なう企業が今後増加していくことを見込んで、その際に技術仕様において地域ごとのばらつきが出ると事業の妨げになるとの考えから、このプログラムを制定したと聞いています。

当社としては日ごろから「安心・安全」を謳っている以上、この認証取得作業を通じてグローバル基準での「安全・安心」に関する知見を得たいと考えました。インプレッションやクリックの測定基準としては同じく米国のメディア・レーティング・カウンシル(MRC)が定めているものがありますが、IABのガイドライン制定にもこのMRCが関わっています。米国のプラットフォームが次々と日本市場参入を果たしている中で、「あの企業はMRC認定を取っている」といった話を耳にしますが、その認定制度の詳細を当事者として理解している人が日本国内はほぼ皆無です。また新しい認定制度が日本の業界の実情に沿っているのかどうか知りたいという思いもありました。

― 認証を取得するには具体的にどのような手続きを踏むのでしょうか。

松田氏 認証取得に向けての監査作業はいくつかの段階に分かれているのですが、すべて合わせて半年ほど費やしました。まずは事前に先方から提供された質問リストに答える形で監査資料を作成する必要があります。合わせてプラットフォームの仕様やインプレッションやクリックの計測指標を示す関連資料を提供しなければなりません。その後IAB Tech Labの担当者が来日し、当社オフィスに数日間張り付きで監査作業を行ないます。ソースコードの点検などのシステムに加えて、社内の組織体制なども監査対象となります。プラットフォーム運用に関わる担当者への質疑応答も実施されました。

IAB TechLabがCCIに対して発行した認定証

IAB TechLabがCCIに対して発行した認定証

― 認証取得に向けて一番苦労したのはどんな点ですか。

松田氏 認証を取得したのは当社が世界初ということで、どのような監査が行われるかという事前情報が少ない中で準備作業を進めるのは正直難しかったです。また海外から来日した監査員の対応というのも当社としては前例がなかったので、初めての経験ばかりでした。

廣川氏 「大体こんな手当てをしておけば大丈夫」といったような話は漏れ伝わってきましたが、いざ監査作業が始まってみると足りない部分があり、そうした部分を修正してまた監査していただくというのを繰り返すというのは随分と根気を要しました。

松田氏 システムの監査だけでなく、業務に携わる人間つまりは組織体制も厳密に審査されるというのは想定外でした。例えば不正トラフィックへの対処においては「トラフィック・クオリティー・オフィサー」という広告在庫の質を担保する職務を置き、その人を中心とした組織作りが求められます。この指針を受けて、当社では新しい職務を新設しました。

廣川氏 もちろん以前からアドフラウドの排除に関連した業務を担う社員は存在していたのですが、IAB TechLabが求める役割は、より細かくかつ多岐にわたるものでした。彼らの指摘に応じて、改めて業務フローを定め直す必要に迫られましたね。

― 今回取得した認証を貴社のビジネスにはどう活かしていきたいと考えていますか。

吉田氏 認証取得を公表して以降、BEYOND Xに関する引き合いは確実に増えました。また日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の会員社様の中にも、認証取得に向けての準備を始めた企業があるとも聞いています。当社がかねてより掲げてきた「安全・安心」を第三者機関より認定されたというのはやはり大きいです。また今回の監査には「広告会社からの入稿物に含まれるマルウェアを検知・排除する」という項目も含まれていました。つまり広告主側だけではなく、媒体社側にも安全・安心を提供できる仕組みが整備されていると認められたということになります。

写真3

廣川氏 今回はインプレッションとクリックの計測の妥当性に対する認証を得ましたが、これに加えて今後はビューアブリティーの計測においても認証をいただくべく準備を現在進めているところです。広告主、媒体社、そしてユーザーのすべてに安全・安心を提供するため、こうしたプログラムを今後も最大限に活用していきたいと思います。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。