6象限の分断を乗り越える方法-GDOとオプトが挑むクロスデバイスのデータ活用

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ウェブとアプリ、そして流入元と購買履歴といった各種の異なるデータを統合するのは困難な上に、具体的な施策に生かすとなるとなおさら難しい。第一線で働くマーケッターは、どのような取り組みを行っているのだろうか。インターネット広告代理店のオプトと、ゴルフ総合サイトのゴルフダイジェスト・オンライン (GDO) の担当者に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野 雅敏)
(写真撮影: 同 柏 海)

複数のウェブ及びアプリを通じた多角的マーケティング

自己紹介をお願いします。

岡部氏(GDO) ゴルフダイジェスト・オンラインの岡部泰子と申します。マーケティング部門に所属し、新しいテクノロジーや広告プラットフォーム、AI、DMPを生かしたユーザーとのコミュニケーション設計、またパートナー企業との新しいマーケティング手法開発を担当しています。最近では主にアプリを通じた新規ユーザーの獲得及び優良顧客の醸成に注力しています。

岩本氏(オプト) 株式会社オプトの岩本智裕と申します。私はもともとエンジニア出身でして、現在は当社のデータテクノロジー部を統括しています。アプリとウェブのデータをDMPに蓄積し、分析及び活用するというのが主な仕事です。またアプリ・プロモーション総合支援プラットフォームであるSpin Appや広告効果測定ツールのADPLANの監修も行っています。

GDOはポータルサイトに加えて、ゴルフ場予約、ゴルフ関連ニュース速報、ゴルフ用品のEC、スコア管理など様々な目的に応じたアプリを運営しています。マーケティング設計の観点からは、それぞれどのような位置づけですか。

岡部氏(GDO) ゴルフのワンストップ・サービスとして「見る、買う、行く、楽しむ」を提供することを目的とした、メディア、EC、ゴルフ場予約、そしてゴルフのレッスンに関わるウェブ・サービスを主要4事業としています。ユーザーのライフスタイルの変化に合わせて、2014年前後からはそれぞれの事業におけるアプリの運営も開始しました。

私がプロモーションを担当していたスコア管理アプリは、いわゆる潜在顧客に相当する人々とつながるチャネルとして運営しています。アプリを通じてリーチした良質なリードを優良顧客として醸成することが主な目的です。

アプリとウェブのデータを統合・管理・活用

GDOのマーケティングにおけるオプト社の役割は何ですか。

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岩本氏(オプト) スコア管理アプリに関する広告運用プロジェクトとデータ分析活用プロジェクトに関わらせていただいています。GDOのデータ基盤は日本でもトップクラスです。これらのデータを有効活用するために、当社が開発した広告効果測定ツールであるADPLANとADPLANが連携しているDrawbridgeというクロスデバイス・ツールを利用して、クロスチャネル分析・活用をご提案しました。

岡部氏(GDO) 当社は確かにマーケティング関連ツールを多く導入しているのでデータ分析基盤は比較的整っていますが、まだまだ改善の余地があります。例えば、インストール獲得、App To Webの送客、アプリ利用者とのコミュニケーション/エンゲージメント構築は順調であるものの、アプリとウェブのユーザー行動データが分断されていて、アプリ・ユーザーのLTVを正しく把握できていないのではないかという問題意識があります。そのため、チャネルやデバイスを横断したユーザー行動の可視化が課題となっていました。

岩本氏(オプト) 他社様でもよく聞かれる課題なのですが、ユーザーIDを一元管理していたとしても、その他の様々なデータと統合させるのは意外と難しいのです。例えば、ウェブ上の行動データは、Googleアナリティクス(GA)を使えば取得できます。ただ会員IDに紐付く売上記録とはデータベースが分離されているので、「どのような行動をした人がどう売上に貢献したか」という分析を行なうには若干の手間がかかるのです。

さらにユーザーが行動を起こす前の段階となる、広告計測ツールの利用が必要であり、データが分断されてしまいます。つまり「流入/行動/会員基盤」という分断に加えて、「アプリ/ウェブ」の分断があり、様々なツールを統合して分析する必要がございます。

【マーケティングツールとデータの蓄積】

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資料提供: オプト

データを一つに統合することで、どのような施策を打つことが可能になりますか。

岩本氏(オプト) 拡張配信のアプローチが増えます。購買ファネルの下部は粒ぞろいの優良ユーザーがそろっている一方で、母数は少なく、CPCは高くなりがちです。ファネルの上部に行けば行くほど、母数は多いものの、本当に購買につながるユーザーなのかどうかが分かりにくくなっていくというのが従来の拡張配信の課題でした。そこで様々なアプローチを通じてより効率的なファネル設計を行う必要があります。現在はAppsFlyerを通じて取得したアプリの生データを活用しての拡張配信に加えて、クロスデバイス・ツールであるDrawbridgeのデータを連携させることで、ウェブの行動データを基としたリストに基づいたアプリ上の拡張配信を行なうことができるようになりました。

拡張配信以外にも活用法はありますか。

岡部氏(GDO) 広告費の最適なアロケーションに活用できる可能性があります。ゴルフ場を予約したい人を集めるためのリスティング広告費用が現状はかなり大きいです。ただその人たちがゴルフ場予約アプリを持っていると、検索ではなく、アプリからゴルフ場を探すのではないか、という仮説を検証中です。アプリを持っている人に対してはリスティング広告を打つ必要はないということが証明できれば、リスティングからアプリ・プロモーションへの広告予算のシフト、獲得単価の見直し、予算配分の最適化などを行うことができると考えています。

岩本氏(オプト) 実際にアプリを持っている人の中でリスティングからコンバージョンした割合は、全体平均より少なくなっています。ゴルフ場に行こうと思ったときにアプリから検索するので、Safariのリスティングが当たりにくくなったということが考えられます。

データはあればあるほど良いというわけではない

リスティング広告よりも、アプリ・マーケティングの方が費用対効果は高いということですか。

岡部氏(GDO) そこは社内でもまだ意見が分かれています。ウェブのサービスが母体であるということもあり、コンバージョン数はウェブの方が圧倒的に多いからです。ユーザーのアプリへのシフトがどれだけ急速に進むのかも未知数ですし。現時点での費用対効果としては、アプリ・マーケティングに一気に予算を寄せるほど大きな差は出ていないとの印象です。

岩本氏(オプト) ただウェブとアプリの使い分けに対する考え方も近年では随分と変化しています。昔はアプリ単体で利益が成り立つことが多かったので、アプリ単体の訴求をよく行っていましたが、最近では店舗やウェブサイトでビジネスを十分に展開しているサービスが、新しいチャネルとしてアプリを活用するシーンが増えてきました。

そのような中で、アプリはロイヤル・ユーザーが滞在しやすいチャネルと位置付けられますが、アプリにユーザーをいかに誘導するかは大きく2つのパターンがあります。一つはウェブ及び店舗で体験を生み、アプリでエンゲージメントを高めるという方法。もう一つが、ツイッターやフェイスブックといったアプリ広告から新規ユーザーを獲得していくという方法です。前者に関しては誘導導線の構築の仕方がキーになってきます。後者に関しては、ウェブ広告に比べるとまだ費用対効果が小さい傾向にありますが、SNSなどID情報を使ってターゲティングできるメディアでどのようにデータを活用するかが肝になります。

クロスデバイスでデータ活用をするには、データ基盤の整備も複雑になると思います。マーケッターはどのような準備をすべきなのでしょうか。

岩本氏(オプト) 実のところ、「細かいデータがあればあるほど良い」というものでもないのです。それよりも、KPIと密接に関連したデータ取得ポイントに、適切な形でウェブならタグを、アプリならSDKを埋めていることが重要です。会員登録、セッション、ログイン、起動といった基本的なデータに加えて、エンゲージメントを計測できるデータがあると有用です。ECであれば、閲覧、カート投入、購入などのデータも欲しい。購入に関しては、金額やどんな商品を買ったかという情報が入っていると尚良いです。

また企業側がデータをきちんと確認できる体制を持っているということも重要です。代理店はこれまでどの企業に対しても同じツールを提供することが多かったのですが、企業の課題やニーズに合わせて、異なるデータ元から異なるデータを抽出してお渡しすることが徐々に増えてきました。そうなると、代理店が絶対的な回答をご用意するというよりも、検証作業を進めながら共に正解を見つけていく、というアプローチになります。最終的なデータが正しいかどうかを企業側で確認できる機能があると、より確実な運用ができます。

広告IDを中心としたコミュニケーション資産管理が鍵に

クロスデバイス・マーケティングの今後の展開をお聞かせください。

岩本氏(オプト) 今後はユーザーへのコミュニケーション資産としてのデータ基盤の重要性が増してくると思います。今まではメール・アドレスが主流な資産でしたが、加えてスマートフォンの広告ID(IDFAやAAID)が重要な資産になります。広告IDを活用できれば、自社アプリを持たずとも、ウェブを閲覧したユーザーに対し、クロスデバイス・ツールを通じてモバイル上のアプリ・メディアからのチャネルをも確保することができます。

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岡部(GDO) クロスデバイスでユーザー行動を追う環境が整ったことで、これまで気付いていなかったユーザー・インサイトを把握することもできると思っています。潜在顧客へのリーチと誘導にそのデータを活用したいですね。チームとしては「App to Web」の更なる強化とアプリ・ユーザーのウェブ訪問時の顧客体験を向上させることで、顧客LTVの最大化を目指していくというのが中長期的な目標です。

私自身は今回の取り組みをさらに発展させるため、クロスデバイスのデータに位置情報データも取り入れ、「ウェブとアプリ」から「ウェブとアプリとリアル」を横断するユーザーのカスタマージャーニー分析の基盤作り、そして今まで以上にユーザー(人)にフォーカスしたコミュニケーション設計、新しいデータベースマーケティング手法の開発に取り組んでいきたいと考えています。

クロスデバイス・トラッキング技術の発展を危惧する声もあります。

岩本氏(オプト) EU一般データ保護規則(GDPR)やAppleのITP2.0が施行されたことにより、インターネット広告のターゲティングを制限する動きは確かに強まってきています。この動きは、「より良い広告を出そう」という動きへと発展していくと私は思います。生活者にとって利益になるものであればターゲティング広告に対する理解も得られますが、生活者が嫌悪感を抱くような広告は、クロスデバイスであろうが単一デバイスであろうと嫌でしょう。実際にFacebookでは「関連度スコア」などを通じて、広告の優劣を評価する仕組みを用意しています。技術だけでなく、生活者の立場をきちんと理解して、本当にほしい情報を広告として提供することが我々の仕事なのではないかと感じています。

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ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。