「ぜんぶ議論しよう!」アプリマーケティング業界の課題と展望(後編) [インタビュー]

スマホの普及とともに成長を続けるアプリ業界、産業規模は一兆円を優に超えており、ここで生み出されるマーケティング需要も数千億円規模に達している。Webプロモーション領域とはやや異なる独自の業界エコシステムも見られるこの領域だが、どのような業界課題や可能性があるのか?

長い間業界に深く関わっているかかわるベテランによるバイサイドの話から始まった居酒屋での議論の後半は、セルサイドとの関係性へと波及。交わされる議論は、時間とともに更に深みを増してきた。

前編はこちら

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

■広告主:覆面アプリマーケッター
■バイサイド・DSP:天野 耕太氏(Liftoff Country Manager, Japan and Korea)
■セルサイド・SSP:池田 寛氏(Supership株式会社 サプライ事業部 事業部長(Ad Generation責任者))

※取材協力:十兵衛(東京 恵比寿 )

どう接している?クライアントのアドフラウドへの向き合い方

― 媒体のパフォーマンスを見て、アドフラウドを疑うことはありますか?

覆面氏 ある媒体が、他の媒体と比べて数字が良すぎるなと思ったときには、アドフラウドなのではないかと疑うこともあります。
代理店に気付いてもらうことが多いのですが、気づいていない場合には配信停止も視野に入れて、調査してもらいます。

池田氏 アドフラウドについて、マーケッターの立場で肌感覚でどのくらいの割合だと思いますか?
ある会社のリリースで、アドフラウドの被害総額がたった3ヶ月間で49億ドルと出ていました。これだけの金額が不正に取られているというのは、衝撃的でした。

覆面氏 全体としてはっきりとしたことはわからないですが、1割ということはないでしょう。本当に感覚ですが、2-3割くらいはあるかもしれないですね。
ただ一例として、フラウドの検知ツールを使ってとある媒体について調べてみたら、5割がフラウドと判定されたことがありました。そしてその媒体からは、私が使ったツールを導入するのであれば、案件を受けることは出来ませんと言われてしまった。そんなこともあったので、少なくはないでしょう。

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天野氏 アプリ計測ツールに、フラウド対策向け検知ツールが搭載されつつあることは、素晴らしいことです。ですがアドフラウドの問題は深刻で、ツールではまだまだ検知できないこともあります。あるアプリマーケッターがとあるDSPを使って日本のユーザーに出稿し、獲得出来たユーザーの端末のほとんどが中華系端末だったということがあったそうです。日本でAndroid端末に対してキャンペーンを展開した結果が、このような状況であったそうです。マーケッターの方曰く、日本における中華系端末のシェアを考えると、疑わしいこととのことですが、このような「状況証拠」の様な出来事では、現状のフラウドの検知ツールだけではフラウドとして捕捉できない事もあるのが現状だと思います。

池田氏 逆に、パブリッシャーサイドで行くと、きちんとルールを守って広告実装していても「不正なトラフィックです」と通知が来るケースもあったりするようです。実態は深く調査しないとわかりませんが、検知する仕組みのブラッシュアップは両面で必要ですね。

対象のWEBサイト、アプリ事業者からすると、「プラットフォーマーの言われた通りに実装をしているのに、なぜこのような扱いを受けるのだろうか」となりますし。

天野氏 計測ツールは、結果的に媒体の予算配分にも影響を及ぼしています。ある媒体で不正が検知されると、これまで効果がいいと思われていた媒体が、実はそうではないということが判明するわけです。そうすると、そのタイミングで媒体への予算配分が大きく入れ替わることもあります。

何故開示しない?配信面に関する不思議

池田氏 当社のAd Generation(アドジェネ)は、国内アプリのディスプレイ広告在庫のバリエーションは恐らくNo.1であろうと妄想しております。そのこともありモバイルアプリに広告配信したい広告事業者から接続のリクエストも増えています。

そんな中「既にかなりの売上をアプリ向けの配信であげてますよ」と実績をアピールいただいた広告事業者さんとワクワクしながらアドジェネを接続してみたところ、配信量の少なさに「あれれ??」ってなることもありますね(笑)。

もちろん、予算の大きい広告フォーマットが違っていたり、そもそも効果があわなかったとかの理由が主だとは思いますが、個人的にはもう少し配信量があってもいいのに…涙、と枕を濡らしてますし、いったいどこのアプリにその広告が配信されているのかな?と思ったりしておりまして。

無論最終的にクライアントが納得していれば問題はないのでしょうが、配信されているアプリとかの情報がクライアント側に届いているのかどうかというのは気になるところです。

天野氏 先ほど、覆面さんのお仕事について細かく聞きましたが、やはりなかなかクライアントが気づくことというのは難しいのだなと思います。一方で代理店も、クライアントから求められている獲得件数を集めるのに必死で、各媒体を回ってようやくボリュームを確保できたら、それで安心しますよね。また、DSP側も、配信面を開示しないというポリシーのところもあるので、そこをあえてそれ以上突き詰めることは出来ないわけです。

覆面氏 「開示できない」という会社全てに当てはまるわけではないですが、この業界で、なにか後ろめたいことをやっていそうな会社の営業マンは、大体「スーツ」ですよね。これは、この業界あるあるですね。

池田氏 都市伝説的な業界あるあるですね(笑)。いい感じです。どんどんいきましょう。

天野氏 私はスーツも好きですが、ここ数カ月間はあまり着る機会がないですね。外資系の場合には実際に本社から情報が開示されないとか、そういうことはあります。クライアントから開示してほしいと言われて、開示してあげたいと思っても、会社のポリシーとして出せない人もいるわけです。
あと、DSP側の立場でいうと、配信面を開示すると、クライアント側から「この配信面は削ってください」というリクエストが恐らく来るのですが、そうするとそのDSPが持つ自動最適化の妨げてしまう恐れがあるのを避けたいという気持ちもあります。

池田氏 天野さん、スーツが良く似合いますね(爆)。開示しても、面指定はできませんとするのはダメなのでしょうかね?もう一杯飲むしかないですね。(天野氏、ここでイッキに飲む)

覆面氏 それについては、クライアント側が結束して、媒体側に開示を求めていくようにしなければ、変わらないことでしょうね。そうじゃない媒体には出稿しないよ、という感じで。

池田氏 SSP側は、DSPとの接続ルールであるオープンRTBに準拠して情報を提供しています。なので、(各社の裁量はあるものの)基本的にはDSPへのビッドリクエスト自体にアプリを特定できるバンドルID等も含まれています。
あるアプリをオープンオークションで買い付けたら、すごく効果が良かった。であれば、PMPなりプログラマティックダイレクトで有利に買い付けをしようというのが、自然な流れです。
そもそもクライアントはもちろん、代理店にも開示されてなければアプリでそういうプログラマティックな潮流は作りにくい。天野さんの会社、Liftoffは配信面を開示しているのですか?

天野氏 Liftoffの場合はニーズに沿った項目でレポートを提供しているので、もちろん要望があった場合には配信面も開示しています。クライアント、代理店に提供している管理画面は包括的な数値になるので、詳細の項目はメールで任意の頻度で定期的にご提供しています。DSP側の立場からすると、例えばアダルトサイトなどのような、出したら行けない場所に広告を配信する事と、パフォーマンス観点での配信面の議論を切り分けたいというのがあります。パフォーマンス広告である以上、健全なサイト・アプリへの配信であれば後は結果でお返しするものかと思いますが、例えば代理店さんのイメージでパフォーマンス観点で「出面(配信面)」に拘って配信を制御したいという要望というケースも聞きます。

池田氏 それは、代理店の担当者が、クライアントから聞かれているのではないでしょうかね。そしてクライアントの担当者は、出稿決定権のある上司を説得するためには、どこに広告が出ているということを説明する必要があるのかもしれないですし。

覆面氏 私も広告がどこに出るかについては当然知るべきだと思っています。100%すべての媒体をチェックするのは現実的に難しいとしても、全く開示できないというのはおかしいですよね。

天野氏 今アプリ特化のDSPの立場で見たときに、デマンド側のアプリ配信面についての会話はWebに比べて発展途上だなと思う事があります。ゲームなど広告主自身がアプリに特化したビジネスであれば別ですが、それ以外だとどうしても会話の中心がWebだったり、少なくともWebの世界からシフトして来ているので。例えば、Webだと広告枠の名前やメディア名だけでなくドメイン(URL)での会話や制御が主流でしたが、アプリのキャンペーンの話でもアプリ配信面の話にならなかったり。分かりづらいのかもしれませんが、開示した情報を活用出来ないと仮にアドフラウドなどの問題があっても後手に回るケースもあるかもしれません。

アドフラウドは、バイサイドも巻き込んだ意識変化が必要

池田氏 アドフラウドというと、その被害額の多さのイメージが先行し、WEBサイトやアプリには悪いことをしているところが多いという風に見られてしまっている気がします。
実際には、パブリッシャーの多くは本当にまじめに広告ビジネスに取り組んでいます。どういう場所に広告を出したらいいのか、ユーザビリティを損ねないようにするにはどうすれば良いのか等、日々向き合っている方が、アドフラウドという言葉が独り歩きしていることについて、悔しい想いをしています。
例えば、ビューアブルインプレッションの問題などは、計測面で言えば、パブリッシャー自身で対応できない部分もあり、我々のようなプラットフォーマーがしっかりと対応すべき課題です。

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覆面氏 おっしゃる通りだと思います。

池田氏 アドフラウドがなければ、広告主はそこにとられてしまう予算を、本来はもっといいコンテンツを作ろうとしているアプリのために使うことが出来たわけですよね。

私、もう一杯いただきます。

覆面氏 そうですね、そしてこの問題は私たちマーケッターにも責任の一端はあると思っています。日々複雑化していくフラウドの手法に対して十分な対策を取らなかったり、知識や経験がなくて気づけないということは発生してしまっています。それは、マーケッターの責任です。また、あくまで可能である、という話としてですが、もしリテラシーのある担当者に悪意があれば、自分の運用成績が良いと上司をだませてしまいます。ネット広告は多層化・複雑化しているので誰もが、誰かのせいにすることが出来てしまうのです。そういう精神的な部分がこの問題の根源にあるかなと思います。

天野氏 この問題は根が深く、一事業者が解決出来得るものではないですが、今は少なくとも、自分が向き合っているクライアントに対しては、全力で尽くして対策をしていこうと思っています。事業者の一人一人が向き合っていけば、業界は少しずつ進歩していくのでしょう。自分たちのような事業者同士の連携もそうですが、マーケッター同士の情報交換なども抑制効果があるかなと思います。

池田氏 このような問題は必ず解決されるべきですし、解決されると信じています。本質的に正しいと思うことを諦めずにやっていくしかないですね。

天野氏 Webで出来ていること、改善されていることについては、アプリでも出来るようにしていきたいですね。

池田氏 それは同意です。広告の配信技術の進展も含め、Web先行で進んでいるんですよね。

天野氏 アプリの領域では、とかく「アプリってこういうものなんですよね。」で許されてしまったりもして、Webの領域でデジタルのマーケティングをしていた方からすると、ともすれば取っつきにくい領域ともとらえられてしまいがちです。

アプリはユーザーにとっては重要なものであるということはとっくにわかっていることです。ですが、マーケティングの手段として、分かりやすいWebをすでにツールとして使っている広告主にとって、取っつきにくかったり、ブラックボックスがあったりという状況です。Webでできていることがアプリでも当たり前にできるような世界にしていかないと、マーケットの広がりが見えてこないですね。

アプリマーケティングへのそれぞれの向き合い方

― アプリマーケッターとして業界に対して疑問に思っていること、分からないことってどのようなことでしょうか?今後取り組んでいきたいことについてもお聞かせください。

覆面氏 もっと業界全体として、と言う観点で考えるのにはどうしたらいいんだろうかと思いますね。今年、ネット広告に関わる一連の問題に対する一般のユーザーさんの反応を見ていると、業界と社会との距離がすごく開いている印象を持ちました。これは好ましくない状況だと思うので、業界全体としてという視座で考えるべき問題だと思っています。それこそ、フラウドの問題も業界として、という観点で考える問題だと思います。

そして、今後自分自身はユーザーさんの事やプロダクトの事をもっと理解して、突き詰めていくという当たり前のことを深めたいです。これまでの自分を振り返るとどうしてもそういった本質的な部分が薄かったなぁと、反省することばかりですので。。
また、プロダクト開発にもマーケッターの視点からかかわるという事ももっとやっていきたいですね。

池田氏 広告はKPIなどの数字も重要ですが、本質は商品やサービス、ひいてはクライアントの価値や魅力を、わかりやすく消費者に伝えてモティベートすることだと思います。これは自戒を込めてですが、数値を気にしてしまうあまり、本当にやるべきことをやれなくなっているというところに流されてしまっています。みんなが「いいね!、オモシロイ!、サイコー!」と言ってくれるような広告を、もっと自由なフォーマットで増やしたいです。そこを目指して、プラットフォーマーとしてできることに、ブレずに取り組んでいきたいと思います。

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天野氏 これまでの私のキャリアにおいてはWebも含めてパフォーマンス領域の広告プラットフォームビジネスが長いのですが、既存の「アプリ業界」という様な枠ではなく、これまでもお付き合いがあった、例えばWebしか取り組んでこなかったお客様がアプリの業界で展開するビジネスの成功のために、お手伝いさせていただきたいなと思っています。これからアプリの業界に参入しよう、あるいは一度作ったけど放置してきたアプリを作り変えようというフェーズにあるお客さんも多いので、これからじっくりとお付き合いさせていただきたいと思っています。

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野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長

外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。