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うまくいくコツは取得ではなく処理-位置情報マーケティング活用の専門家から見える業界の動向[インタビュー]

大手広告会社によるこの領域への投資が進み、位置情報系広告・マーケティング領域は、2018年に入りますます活況を呈してきている。

業界でも一足早くこの領域に目をつけていた専門家に、現在の業界動向はどのように見えているのだろうか。同社の取り組みと、その背景にある業界動向についての見方について、ジオロジック代表取締役社長 野口 航氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

2018年は離陸の年!?

― 位置情報系広告市場の市場環境についてお聞かせください

位置情報系広告は『来る来る詐欺』と言われてきましたが、2017年にようやく市場環境が整ってきて、2018年は間違いなく離陸するであろうという感触を得ています。環境の変化を挙げるとすると、これまでは位置情報広告のプレイヤーは外資系企業が中心でしたが、2017年後半頃からは急激に国内プレイヤーがシェアを取ってきたのではないかと感じています。単に海外から技術を輸入するのではなく、日本の土地に合わせたプロダクトが受け入れられて広がってきているためでしょう。
また、日本のチラシ市場は広告費全体の6.5%を占めている、かなり大きな市場です。新聞購読率の低下に伴い、折込広告では若年層へのリーチが難しくなってきています。そこへのリーチ手段としての位置情報広告に注目が集まりつつあります。

― 広告主の顔ぶれに変化はありますか?

当社の場合には、不動産系のクライアントが多いのですが、最近は学習塾や英会話などの教育系のクライアントの案件が増えてきました。また、イベントやアミューズメント施設への集客などのエンタメ系でも有効な策として受け入れられています。
今までは、飲料系メーカーなどのブランド広告主が日本の市場での利用は多かったと思うのですが、現在はより地域密着型な広告として広がりを見せています。

再び注目のジオフェンス

― 事業環境に何か変化はありますか?

当社の売上は毎月右肩上がりで増えており、広告主数もかなりの勢いで伸びています。新しいプロダクトも次々と投入しており、「新しいジオフェンス」を間もなく正式リリースします。リアルタイムで特定エリア内にいるユーザーに広告を出すジオフェンスは以前からプロダクトとしてありましたが、今回システムを根本的に作り変えました。これまではRTBの際に緯度経度情報が乗っていた場合にのみジオフェンスが可能だったのですが、緯度経度情報が乗っていなくともジオフェンスが出来るようにしました。提携している外部のアプリからのデータをリアルタイムに広告配信のセグメントに反映させられるようにしたのです。

― それにより何が一番変わってくるのでしょうか?

RTB取引におけるビットリクエストに位置情報が乗っているのはまだまだ限定的です。新しいジオフェンスでは、ビットリクエストに位置情報が載っていなくてもジオフェンシングが出来るようになるので、配信量が従来の何倍にも増えます。今までもこれは出来たのではないかと思うかもしれませんが、違いはリアルタイム性です。集めた位置情報データを広告のセグメントに変換するまでには、通常タイムラグが発生します。たとえば、セグメントに反映されるまでに2時間かかるとすると、2時間後には、もうそこにそのユーザーはいないかもしれません。新しいジオフェンスでは、位置情報データを受信して1分以内にターゲティング配信が出来るようになったので、ビットリクエストに頼らずにジオフェンスが可能となったのです。

― これまでは、「ジオフェンスの実施=テクノロジーはビットリクエスト」という図式だったのですね?なぜそうできるようになったのでしょうか?

はい、そうです。当社で「ロケーションストリーミング技術」と呼ぶ技術を開発したことで可能になりました。データが入ってきた瞬間に広告のシステムに転送する、いわばリアルタイムの位置情報DMP的な機能です。これを実現するためには、様々な技術的ハードルがあり、そう簡単に作ることが出来るものではありません。弊社が調べた限りでは、他にここまでのスピードが実現できた例は知りません。

当社には「足あと」と呼んでいる、過去にユーザーがどこにいたのか蓄積された履歴をもとに配信できるターゲティングがあります。これまでは売上の多くは「足あと」から来ており、「ジオフェンス」はおまけ程度の位置づけでした。これまでのジオフェンスはビットリクエストの位置情報データしか使えなかったので、配信ボリュームが少なかったからです。

― 位置情報の精度には課題があるという話は良く聞きます。どのように理解すべきですか?

幾つかの観点があります。新たに幾つかの準天頂衛星が打ち上げられており、精度は上がっているともいえますが、屋内での計測精度にはまだ課題があります。
当社としては、課金体系をCPCにしており、興味を持ってクリックした人の分のみ課金されるという体系にしています。精度の問題は短期的には解決できませんので、それをカバーできる商品設計としています。

― ジオフェンスは今後市場全体として伸びていくのでしょうか?

はい。ただし過去の履歴をもとにした足あとターゲティングより市場が大きくなるとは考えていません。データ量が数十倍・数百倍違うためです。ただし、ジオフェンスは足あとターゲティングよりも、単価の面でかなり上回っていく可能性はあります。

― 業界動向として何か新しい動きはありますか?

位置情報系ベンダーは現在、DSPビジネスに注力するベンダーと、来店計測ツールビジネスに注力するベンダーに、明確に分かれてきたという印象があります。当社はDSPの方に注力をしています。

また先日、米Drawbridge社のクロスデバイスマッチング技術を導入しました。これまで配信面はアプリ面に限定されていましたが、Web面にも位置情報広告を配信できるようになりました。アプリで取得した位置情報を使って、広大なWeb面で配信できるようになりました。

逆の使い方として、広告主のサイト訪問者のリアル行動履歴も把握できるようになったため、サイト訪問者の商圏分析なども現実のものとなっていくでしょう。

うまくいくコツはデータの取得ではなく、処理にある

― 位置情報系ベンダーの差別化ポイントはどこになるのでしょうか?

元は緯度経度の数字を、いかにしてマーケティング用途に加工出来るか。私はこの点に尽きると思っています。
今で言うAI的なビックデータの分析の世界と、GISという地図を作る世界という異世界があるのですが、当社はその両方のノウハウを持ち合わせています。大量の位置情報データを地図と組み合わせて、人々がどういう行動をしているのか、どういう属性なのかということを推定することが出来るのです。このうちのどちらかのノウハウしか社内に持ち合わせていないと、位置情報広告でうまくビジネスをすることは難しいのです。

位置情報系の広告については、よく「データを取得するのが難しい。だからなかなかうまくいかない。」という話があります。難しいのは、実はデータを取得するところではなく、処理をするところです。ちょっとしたコツがわかると全く違うのです。
グローバルでも、大量の位置情報を扱うノウハウはほとんど公開されていません。
オープンソースのコードをサーバにインストールして、営業力でさっと事業を立ち上げられるようのものとは違うので、参入障壁は非常に高いと思います。

CPV信奉は禁物!?

― 業界や貴社事業環境における課題があればお聞かせください

現状は高精度な位置情報を取得できる端末の割合が低いため、CPV(Cost Per Visit; 訪問単価)はCPAのような指標としては確立しきれていません。ですので、これをKPIとして設定して極度に最適化をかけていくというような世界観は、現時点では賛成できません。
CPVは、あくまでもサンプルとして見るべきかと思います。例えば、幾つかの軸で見たときに、「この地点はCPVが相対的に悪いから配信を止めよう」「この枠はCPVが相対的に悪いから入札額を下げよう」というような指標として使うのははありかなと思います。運用のための判断材料の一つとして使うわけですね。CPVはCPAのような絶対値には現状は成り得ません。

例えば「チラシだと1集客100円だけど、ネット広告のCPVは1000円でした」という結果が出たとします。現状ではこれがいいのか悪いのかが、まだ全く判断ができません。

― CPVを指標とした獲得目標を設定する運用の仕方については、現状は難しいということでしょうか?

はい、そうですね。「位置情報広告を、競合店を訪問しているユーザーと、自分の店舗を訪問しているユーザーの両方に配信し、自社店舗への誘導を図っていたが、予算を絞る必要が出てきた。この時、両者のCPVを比べて、競合店訪問ユーザーのCPVの方が高いので、こちらの配信を止める。」というような、運用の材料の一つとして使うにとどめるべきです。

当社でも来店計測はしていますが、CPVは出さずに、トレンドとして広告に接触したユーザーがどれだけ来店増につながったかというところをお客様にお見せするようにしています。

― 今後のお取り組みをお聞かせください

様々な外部データを取り込んで商品化してまいります。第一弾が、自動車ターゲティングです。車検のデータを使うことで、「あるエリアにはどういう車種が何年前に購入されたのか」ということが分かります。こういうデータを使うことで、車のオーナーをターゲティングすることが出来ます。例えば「5年以上乗られているプリウスが30台以上あるエリア」を抽出し、ターゲティング配信をすることが出来ます。

また、折込広告が届かないユーザーに対して接触したいというようなご要望があった場合には、新聞の購読率が低いエリアを抽出し、ネット広告を配信することが出来るように、新聞購読率データを活用したターゲティング広告メニューも準備をしています。

当社がいま売りにしているのが、お客様のお店の来店者を分析して、どこから来ているのか、どこに行っているのかというような情報を先にご提供して、広告プランをご提案するというサービスです。他社さんですと有料で提供されているようなものを、当社では無料でご提供しています。これは、お客様から大変喜んでいただいています。ご興味のある方は、是非ご連絡ください。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。