アプリデベロッパーを包括的に支援し、アプリマーケティング最大のプラットフォームへ-独立系アプリ広告プラットフォームAppLovin独自の戦略とは [インタビュー]

アプリ広告市場を牽引するゲーム・アプリを集約させた広告プラットフォーム、AppLovin。大手競合プラットフォームの存在感が日増しに高まる中で、独自のエコシステム構築を通じて差別化を図る同社の戦略は、様々な示唆を含んでいる。6月末に初来日した同社CEOに話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

「インディー・ゲーム」支援に強み

― 自己紹介をお願いします。

AppLovinのCEOを務めるアダム・フォローギと申します。かつては金融業界のデリバティブ・トレーダーでしたが、やがてアドテクノロジー業界に身を置くようになりました。Facebookのデスクトップ広告プラットフォーム、さらにはMySpaceやFriendsterといった当時注目されていたSNS向け広告プラットフォーム開発を経て、2011年に米シリコンバレー北端パロアルトでスマホ事業を開始。いくつかのアプリを開発したものの、それらのアプリを世に広める手段が多くないことに気付き、アプリのマーケティング・プラットフォームへ転換し、AppLovin を設立しました。

― 改めてAppLovinの紹介をいただけますか。

我々自身が小規模のアプリ開発業者として活動していたころに、マーケティングに苦労した経験を元に始めた事業です。創業から7年が過ぎた現在でも、その信念は変わりません。アプリ市場が拡大し、とりわけゲーム・アプリ市場が一つの大きな経済圏を築くようになった今でも、小規模業者向けのマーケティング手段は非常に限定的です。社員数が例えば5名前後の名の知れないチームに過ぎないにもかかわらず、ユーザーに愛されるアプリをつくる、そんな企業がとりわけゲーム業界にはたくさんあります。EコマースやSNSと比べて、比較的安価で開発できるので、ゲーム業界には「インディーデベロッパー」と呼ばれる開発者がたくさんいるのです。こうしたインディーデベロッパー向けに様々な支援を合わせて提供していることが、我々とその他のアプリ向け広告プラットフォームとの最大の違いでしょう。

― 具体的にはどのような支援を提供するのでしょうか。

広告費用となる資金の融資から具体的なマーケティング支援まで行います。大規模なゲーム企業であれば、マーケティング部門があり、クリエイティブ制作担当者をそろえた上で、一定の広告予算を確保できるでしょう。ところが、インディーデベロッパーにはそもそもマーケティング予算がない。そこで我々が資金を工面するのです。

また彼らは広告クリエイティブを制作する人材にも不足しています。とりわけ動画広告となるとさらにハードルは上がります。そこで動画広告を主力プロダクトとする我々が、15~30秒の魅力的な動画制作を担います。また彼らの多くはアプリ開発を専門としており、各種のマーケティング施策に必ずしも通じているわけではありません。そこで具体的な広告施策に関するノウハウも提供しています。

― それら一連の支援を受けるための条件は何ですか。

融資を希望するゲーム企業は、当社ウェブサイト上の申し込みフォームを通じて申請し、まずは当社の広告プラットフォームを利用していただきます。その上で一定の基準数値を満たせば、各デベロッパーさんのニーズに合わせたご提案をさせていただきます。リテンションなどの各数値も良ければ積極的な拡大戦略の一つとして融資をご提案させていただくこともあります。

需要過多気味のアプリ市場は配信面の確保が課題に

― これらの支援を通じて、アプリ配信面を確保するという狙いもあるのでしょうか。

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アドネットワークである我々は、アプリ広告主とアプリ配信面の双方と取引があります。配信面は既に多数確保していますが、それでも広告配信は本来的に需要を起点とするため、しばしば供給が不足するという状況に陥ることがあり得ます。良質なアプリ配信面を確保することは非常に重要です。

各種のゲーム・アプリには、ゲーム運営者及び広告配信面としての両側面において大きく成長してほしいのです。我々が提供する支援の仕組みが上手く機能すれば、アプリ広告市場の需要と供給を同時に拡大させることができると考えています。

― 需要に対して供給が追いついていないということは、全体的に広告単価は割高なのでしょうか。

広告主は通常、CPIだけではなくROASも注視しています。収入を減らすために広告を出稿するということはあり得ませんから、当然のことです。例えば100ドルを広告費として使い、1~6カ月かけてその100ドルを回収し、その後は利益となるといったような計画を立てます。

この文脈においては、CPIが高い/低いといった議論はそれほど大きな意味を持ちません。CPIが仮に割高であるとしても、それが高い利益を生み出すインストールであればそれだけの価値があるということですし、CPIが低くても、インストール後に何も利益が発生しなければ全く意味がありません。

インストール後のユーザー行動情報も合わせて分析する当社の技術を使えば、ROASを最適化する広告配信が可能です。利益を生み出し続ける限り、広告予算は無限にあるとも言える。まただからこそ、広告サイクルの循環に対応できるだけの規模を持つ良質な配信ネットワークを整備することが必要だと考えています。

― 動画広告を主力プロダクトに据えた理由は何ですか。

テレビCMが普及してから既に何十年もの時間が経過していますが、動画は今でも消費者に対して変わらず大きな訴求力を持っています。とりわけモバイル端末においては、画面全体にわたり動画が流れるので、ユーザーのエンゲージメントも高い。その枠を使い、広告主は15~30秒にわたり、消費者にメッセージを伝えることができる。これ以上良い広告形態は少なくとも現時点では思いつきません。

― ゲーム・アプリにおいてはとりわけ動画リワード広告の人気があります。一般的な動画広告とはどのように使い分けていますか。

我々が扱う通常の動画広告と動画リワード広告の割合はほぼ半々です。広告主は両形態ともに利用することが多いのですが、配信面側はリワードを提供する仕組みを有しているか否かで分かれます。一般的には、ゲーム・アプリにおける通常の動画広告はある特定のレベルをクリアした時点で流れる一方、動画リワード広告は特定のレベルをクリアできない場合にその手助けを目的としたヒントやライフなどをリワードとして提供します。

ゲーム市場は拡大期の真っ只中

― アプリ広告市場において、ゲーム業界の成長曲線は既にピークに達したとの見方についてはどう思われますか。

モバイル端末の性能は近年格段に向上し、「コアゲーム」と総称される高度なゲームが世界的に普及しています。「フォートナイト」や「PUBG」に代表される高品質のゲームのモバイルアプリ版をつくることなど、わずか数年前のモバイル端末では不可能でした。

当然のことながら、モバイル端末の性能が向上すれば、コンテンツの質も上がり、モバイル・ゲームはコンソール型ゲームに匹敵する存在となります。ゲーム市場はまだまだ拡大期の真っ只中にあるのではないでしょうか。

― ゲーム以外のアプリはマネタイズに苦労しているとの声をよく耳にします。

マネタイズの成功例としてまず思いつくのが、モバイルアプリのみのUber。Eコマースの領域で注目されるメルカリもアプリのみ。SNSではやはりアプリ企業として認知されるFacebookがマネタイズに成功しています。

つまり、マネタイズに成功していない非ゲーム企業の多くは、デスクトップやモバイルブラウザ用のウェブサイトとアプリを併用しており、どちらのユーザーがどれだけ自社の利益に貢献しているか把握できていない、という課題を抱えているのではないでしょうか。

だからモバイルユーザー一人ひとりの価値が分からず、適切な広告費を算出できない。もしくはデスクトップまたはモバイルウェブで既に事足りていて、アプリが利用されなくてもそれほど大きな問題にならない。だから「アプリ・オンリー」の企業には成功例が多くある一方、併用型はマネタイズに苦労するのです。ただアトリビューション測定の技術が向上すればいくつかの課題は解決し、併用型アプリも成長していくのではないかと思います。

日米のゲーム・アプリ市場の違い

― 日本のアプリ広告市場についての印象をお聞かせください。

当社にとって日本は米国に次いで2番目に大きい市場で、中国や英国市場を上回ります。2013年ごろまでは売上の大部分を米国市場が占めていましたが、カントリー・マネージャーの林の参画後、日本市場が一気に拡大しました。既に申し上げた通り、我々はゲーム業界に強く、また高度な技術を有しています。巨大なゲーム市場があり、高度な技術に対して理解を示す日本市場とは相性が良いとの印象です。

― 日米の市場はどのように異なりますか。

日米ではゲーム文化そのものが大きく異なります。米国でゲームといえば、いわゆるカジュアル・ゲームまたはハイパーカジュアル・ゲームを指します。トランプや花札などのカード・ゲーム、「マッチ3ゲーム」のようなパズル・ゲームで構成されるニッチ市場が市場全体の大部分を占めるという非常に面白い構図です。一方で日本や中国でゲームと言えば、通常は高度に設計されたコアゲームを意味します。ユーザーは一つのゲームにより多くのお金を使い、より長い時間を費やすのです。

― そのようなゲーム文化の違いは、アプリ広告戦略にどう影響するのでしょうか。

ゲーム業界に関して言えば、日本の広告主にはコアゲームを開発する大手のゲーム企業が圧倒的に多いです。そして日本のゲームの開発費用はずっと高額で、広告予算も莫大で、ユーザー一人当たりの課金額も高い。だから日本ではCPIが比較的高く、広告費用の回収期間もずっと長く、ユーザーのエンゲージメント率も高い。

一方の米国でアプリ売上ランキングの上位を占めるのは、例えば独創的なエンジニアがたった一人で開発したようなハイパーカジュアル・ゲームです。より広い層に支持されるのでインストール件数がずっと多いのですが、飽きられるのも早く、エンゲージメント率は低い。

この違いは配信ネットワークの構成にも反映されます。日本の大手ゲーム企業は自社アプリ内にあまり広告を掲載せず、配信面は広告を通じたマネタイズに積極的なインディーデベロッパーが多くなります。一方で米国では広告主と配信面のアプリの顔ぶれがほぼ同じです。

アプリ市場の方がより洗練されている

― アプリ広告に関する全体的な市場感についてお聞かせください。

いわゆる獲得型のキャンペーンに対するアトリビューション計測がより精緻であるアプリ広告市場は、ウェブ広告市場よりも洗練していると思います。またアプリ広告市場においては、広告主の大部分がアプリ開発業者なので、技術的な課題に対する理解が早いという利点もあります。ただアプリ広告市場においてもやがてブランディング案件が増加し、業界は獲得特化型とブランディング特化型で二分されることになるのではないのでしょうか。

我々は今後も獲得型キャンペーンに注力していきます。アプリ広告における獲得型キャンペーンの効果の高さは、CPMの高さが物語っています。デスクトップにおける動画広告のCPMは8ドル(約800円)以下ですが、アプリ上の動画広告では20ドル(約2000円)以上です。「確実に収益をもたらすユーザーに対してのみ広告費を投下する」ことを可能とするアプリ広告市場は、事実上の先物取引市場でもあると思います。

― これまでデスクトップ向け広告技術を扱ってきた事業者も、近年ではモバイルを含むオムニチャネル化を図っています。貴社にとっては脅威となりますか。

デスクトップ向けの広告技術を扱うテクノロジー企業は、もう何年も前からモバイル広告市場への進出を図ってきました。ただそうした企業が「モバイル」というとき、多くの場合はアプリではなく、モバイルウェブを対象としています。

モバイルアプリの広告技術は、ウェブとは大きく異なるからです。ウェブはcookieに依存していますが、アプリはユーザー一人ひとりに紐づいた広告IDを活用します。そして、プライバシー上の懸念からcookieの使用が世界的に制限されていく傾向にある昨今の状況下において、ウェブ広告市場はcookieを使わない広告施策を生み出す必要に迫られています。

我々はモバイルアプリ市場において、独立系としては業界最大級の配信ネットワークを既に構築済みです。デスクトップ企業がこれからアプリ広告にも適用できるcookie以外の新規広告技術の開発に成功したとしても、時すでに遅し。そのころには、彼らは我々のようなアプリ配信プラットフォームに対するデマンド・パートナーのような位置づけになっていることでしょう。

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ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。