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新たな盛り上がりを見せるインフルエンサーマーケティングの今 [インタビュー]

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様々なソーシャルプラットフォームが普及する中で、インフルエンサーマーケティングが新たな盛り上がりを見せている。2000年代のブログ全盛期よりインフルエンサーマーケティングの業界を見続けてきた株式会社サイバー・バズ 代表取締役社長 高村彰典氏に、市場の動向や今後について、同社の取り組みとともに伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

情報発信者が変わり、市場が変わる

― インフルエンサーマーケティングについて、市場の環境や流れを教えてください。

インターネット上でのインフルエンサーマーケティングは、2004年頃からブログが流行り始め、アルファブロガーと呼ばれている影響力の強い人たちが現れた頃に端を発しています。当時「インフルエンサー」という言葉はあまり使われていませんでしたが、スマートフォンの普及によりソーシャルメディアが爆発的に伸び、Facebook、Twitter、Instagramなどのユーザーが発信できるプラットフォームが増えてきたことが、インフルエンサーという言葉とともに新しいタイプの市場が生まれました。

最近ではYouTubeの存在も大きいですね。情報も、文章を発信するものから、見せるものに変わってきた。インフラの整備やスマホの画質アップで、スマホで動画が見やすく、撮ったものも気軽にアップできる環境になってきたことで、ユーザーの利便性も非常に向上しました。

インフルエンサーマーケティングの市場は、この1年半くらいで急速に広がりを見せました。Instagramの存在が大きいかなという印象がありますね。Twitterが先にありましたが、やはりInstagramは画像が先にあがってくるという点が強かったと思います。

― 情報発信者側のモチベーションは、ブログからInstagramやTwitterなどとプラットフォームごとで、異なるものでしょうか?

Twitterは自分の意見や情報のシェアなど意見をいえるメディアで、Facebookは友人に向けての近況報告だと思うのですが、インスタはもっと気楽なものです。「インスタ映え」という言葉が生まれたように、写真をどう見せるか、自分の世界観でどう伝えるかという点と、検索がしやすいハッシュタグでいろんなものを見つけやすいところに、Instagramの独自感があるでしょうね。

― インフルエンサーマーケティングビジネスの環境はどう変わってきていますか。

私たちはもともとブログでやっていましたが、今はインフルエンサーを自社で会員として抱えています。自社だけでプランニングできればベストですが、会員以外にもインフルエンサーは沢山います。どのインフルエンサーを使えば企業がいちばん効果を出せるのかを考えることが必要なフェーズになりつつあります。企業の公式アカウントのコンサルや運用も行っているのですが、最近はそこと広告が連動しつつある。現在はその強化を進めつつあります。

また、インフルエンサーを使ったコマース事業も考えています。インフルエンサーが自分の持っているものや愛用品を紹介すると、ユーザーがそれを探したり購入したりできるサイトを運営しています。

進むマイクロインフルエンサー化

― 業界のトレンド感はどうでしょうか。

一番新しいのは、YouTuberですね。今後、YouTuberがAIで出来るようになるということも、多少はあるのではないでしょうか。また、インフルエンサーの傾向がマイクロ化してきました。「コスメ」「グルメ」だけでなく「キャンプ用品」など、細やかなカテゴリーに特化したインフルエンサーが増えてきています。

企業側の需要の傾向も変わってきていると思います。この1年くらいは、フォロワーが多いマスなインフルエンサーを活用して、なるべく多くのひとに商品を認知させ理解をしてもらうことが多かったのですが、最近は、カテゴリーに特化したマイクロインフルエンサーを起用してコアターゲットにしっかり伝えたい、という方向への使い分けも増えてきました。ターゲット広告のイメージに似ているでしょうね。

― 広告主である企業の業種はどういったところでしょうか。

当社ですと、化粧品会社や食品、飲料メーカーさんが非常に多いです。あとは製薬系。ただ、Instagramにショッピンググリンクが貼れるようになったので、ここ1年ほどはeコマース系の企業さまからのお問い合わせが増えてきています。今後需要も増えてくると思われるので、ビジネスチャンスだと感じています。

伸びるインスタ、広がるライブコマース

― プラットフォームは、Instagramの利用が一番多いのでしょうか。

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ブログもまだまだありますが、今は Instagramがいちばん伸びていますね。
やっぱり強いのはライブコマースです。ライブコマースに向いているインフルエンサーの人たちというのは、トークがうまい人達です。そして、ユーザーと画面を通してコミュニケーションをとれるという人達。ショッピングチャンネルでタレントさんが宣伝しているような感覚だとすると、これからは彼らの育成の点で、そのスキルを身に着けさせることが必要になってくるのではないでしょうか。

― インフルエンサーマーケティングの市場規模はどのくらいあると思われますか?

あくまで私のイメージですが、ブログやYouTubeなど含めた全部のプラットフォームで、400億円~600億円くらいの間ではないでしょうか。内訳としては、Instagramが少し大きいと感じています。

広告主にとり、インフルエンサーのプロモーションは20代30代のテレビをあまり見ない若い層へリーチする手段です。テレビも当然必要なのですが視聴率を考えると、その広告を補完する意味でもインフルエンサープロモーションは外せないのだと思います。

― 業界としての課題はありますか。

私たちはJIAAのガイドラインに則ってサービスを展開していますが、ステマ的にならないよう、そういうものをしっかりと排除して健全な市場を維持していくために、インフルエンサーに対してしっかりと教育することが大切であると考えています。

ステマだったと後から判明したとき、広告主である企業側のリスクも大きいのです。叩かれるかもしれないし、そのインフルエンサーも他のガイドラインをちゃんと守っている企業側から取引を敬遠されてしまうでしょう。そうすると、せっかく伸びている市場に対してアゲインストになってしまいます。これはもったいないことです。

大切なことはインフルエンサーとの距離感

― 貴社はこの市場でどのようなポジショニングを取られていくつもりですか?

インフルエンサーマーケティングのみならず、ソーシャルメディア全体をマーケティング的にお手伝いしたいと考えています。ソーシャルメディア全般の中にインフルエンサーが存在していて市場をけん引していますが、それと企業の公式アカウントの運用は、多分セットになってくると思うのです。それを一気通貫で行う立ち位置に行ければ。「アカウントを作りたい」「フォロワー増やしたい」とともに、インフルエンサーで新しい商品の認知や商品理解をあわせて行えれば、インフルエンサーが休んでいる広告の閑散期にはアカウントで情報発信し、プロモーション段階ではリンクさせる。そうできれば理想ですよね。

― インフルエンサーをネットワークする上でのリクルーティングやノウハウはどのように行っていますか。

ブログをやっているひとで、InstagramやTwitterもやっているひとがいたら、そちらの登録もうながしてはいます。実際は、InstagramはInstagramで強い人、TwitterはTwitterで強い人というのがいるので、個別にリクルーティングしています。

フォロワーが伸びている人が分かるツールがあるので、直接連絡をしてリクルーティングをすることもあります。一方でインフルエンサーからの応募も結構多くあります。

大切にしているのは、インフルエンサーとの距離感。情報を提供し、勉強会やインフルエンサー会の開催も定期的に行っています。重要なのは、なるべくたくさん仕事をインフルエンサーに依頼できることです。きちんと仕事をとってきて、広告に対してのミスがないようにしっかりサポートをする。地道ですけど、そこをきっちりやっていくことですよね。

― インフルエンサーマーケティングでの普段のサポートやコミュニケーションをどうしているかは、外からではなかなか知る機会がないです。

インフルエンサーたちとはかなりの頻度で、直接顔を合わせています。仕事やお願いの仕方でやりづらいことがないか、企業の要望、企画に一緒に参加してもらえるかなどを聞いたり相談をしたりしています。インフルエンサーは全国におり、担当者は全国各地に出張をすることも多いです。オンライン上よりやはり顔がみえたほうがお互いにやりやすいので、実際に会って、仕事に対しての理解を深めてもらいます。意外と地道にやっています。

今、ハッシュタグをAIが自動生成するツールを開発しています。企業向けに作っております。それをインフルエンサーに今後開放しようと考えています。それを使っていただくことで、フォロワー数やいいね!数が増えるハッシュタグ候補が出てきます。このツールにより、インフルエンサーたちがフォロワー数を増やす支援にもなります。

また、これからはクリエイティブが大事になってきますから、企業にあったトンマナを持っているインフルエンサーかどうかを、こちらがクリエイティブチェックして提案をしています。当社の社内にもインフルエンサーが多く在籍しており、どういうふうに投稿しているか、何を意識して投稿しているかとともに、企業の投稿するクリエイティブをインフルエンサーが一緒に考えるようなこともやっています。

でもやっぱり、いちばん大切なのは、良い広告主でしっかり成果を出してあげることですね。そうすれば、もっとインフルエンサーを使ってマーケティングしたいと広告主に思っていただくことにもつながりますから。

SNSネイティブ世代が将来の市場成長の原動に

― インフルエンサーからすれば心強いですね。彼らの年齢層はどのような構造でしょうか。

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20代30代が大半ですが、上の世代では50代もいます。50代はブロガーが多いのですが、自分で作った家庭料理や風景写真などをアップしています。また40代50代で、その年齢ならではの美容法について発信しているインフルエンサーもいますね。

5年後や10年後を見据えると、今はまだ自分で投稿をアップするのが難しい年齢の10代以下の、しかしソーシャルネイティブな世代がごそっと中心の年代になります。日本の人口は減少していますが、市場としてはまだまだ拡大するという印象があります。その世代からまた新しいインフルエンサーも生まれてきます。

芸能人の参入も今後は増えて来るでしょう。実際に芸能人はインフルエンサー。フォロワー数が抜群に多くエッジも効いていますから、プロモーションで活用したいという広告主は、多く、特にInstagramのプロモーションで提案することも増えていますね。

― 今後注力されていく取り組みについてお聞かせください

“インフルエンサーコマース”にも注力しており、現在「to buy」というメディアを立ち上げ運営しています。編集部が審査し厳選したオフィシャルインフルエンサーが、専用の「コレクションページ」を公開して、自身の愛用品についての商品情報や選ぶ際のポイントなどを紹介しているメディアになります。一般ユーザーは、ページ内にあるリンクから簡単に商品を購入することができるようになっています。

自分と好きな世界観が近く、また親近感のある人が使っている商品に対しては、「この人が使っているから自分も試してみたい」という気になってくるものです。そんなインフルエンサーマーケティングの強みを活かしたサービスです。オープンから約半年ですが100万MAU突破も見込まれており、オフィシャルインフルエンサーへの応募も多数いただいています。また、現在はまだ検討中なのですが、広告主からのタイアップ依頼なども増えてきています。今後は、オフィシャルインフルエンサーの売りたいものをサイト上で売れるようにしたり、動画で商品紹介ができるようになったりと、「to buy」ならではのサービス展開をたくさん考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。