フルスタック・プラットフォームを自社開発する理由-CCIと業務提携のAdformによる世界有数のアドフラウド検知システム [インタビュー]

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電通グループの株式会社サイバー・コミュニケーションズ(CCI)が、デンマークのアドテク企業Adformとの業務提携を発表した。
大手プラットフォームによるベンチャー企業買収が相次ぐ中、同社は自前でフルスタック・ソリューションを構築。その競争優位性、日本市場特有の課題、EU一般データ保護規則(GDPR)やアドフラウドの最新動向などについて、同社CTOに話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

「自社プロダクトを自社開発する」ことの意味

自己紹介をお願いします。

Adformの共同創立者であり、最高技術責任者(CTO)を務めるバク・ジェーコブです。2002年に設立した当社は、広告主向け及び代理店向けの第三者配信アドサーバーとして事業を開始。その後、DSP、DMP、SSP、HTML5クリエイティブスタジオといった機能を追加し、現在はフルスタックの広告プラットフォームとして世界22カ国に展開、850名の社員を擁するまでに成長しました。

今や多くのいわゆるアドテク企業が「フルスタック」のプラットフォームを持っています。貴社の独自性はどのような点にあると思いますか。

当社は、私を含む創業者3人及び社員の半数がエンジニアという正真正銘のエンジニアリング企業です。我々が保有するプロダクトはすべて自社開発し、一つのプラットフォーム上で統合されています。世の中には当社と似たようなプロダクトを持つ企業もありますが、それら企業の多くは買収を重ねてプロダクトを増やしています。

それでは、なぜ自社開発することが競争優位性となるのか。自社開発すると、各プロダクトの連携をスムーズに行うことができるのです。当社のシステムでは、あらゆるデータをアドサーバーから取得することができます。ユーザー行動、動画広告の視聴履歴、ビューアビリティ計測、コンバージョン測定などに関するあらゆるデータがアドサーバーに詰まっています。こうしたデータを活用することで、例えば、DSPから広告枠を買い付ける際に、「動画広告を10秒以上にわたり視聴している人だけに広告を表示する」という設定ができるのです。またDMPを用いることで、Aパターンの広告は女性のみ、Bパターンの広告は男性のみに表示するといったことができます。

DSPのみからこうした配信を行うのは不可能です。先に述べたような広告配信を行なおうとすると、各種の異なるプロダクトを組み合せることになるので、通常は高額な費用が発生します。その結果、高度な広告配信の利用者は大手Eコマース企業に代表されるごく一部の上場企業のみに限定されてしまっているというのが現状です。ところが当社ではこれらのプロダクトが一つのプラットフォーム上に統合されているので、より広い層にご利用いただくための環境が整っています。また単一システムなので、ワークフローも非常にシンプルです。

さらにエンジニアリング企業としての高度な技術を有するので、例えばアドテクを最大限活用したいと考える通信企業のシステムと統合するといったことも得意です。当社が持つどんな小さな機能にもAPIがあるので、顧客ごとのシステムへのカスタマイゼーションを行うことができます。そしてこのカスタム・インテグレーションこそ、米国の大手プラットフォームが不得意とするものであると認識しています。

高度なクリエイティブ普及の可能性を持つ日本市場

貴社から見た日本市場の印象をお聞かせください。

デンマークにある本社の社員を始めとする欧州の広告関係者に日本のオンライン広告を見せると、誰もが驚きます。広告クリエイティブがあまりにも簡素だからです。欧州や米国のとりわけブランド広告主の間では今やHTML5形式のカルーセル広告や動画広告が主流となっていますが、日本ではいまだgifファイルを用いた画像フォーマットをよく目にします。この状況は、HTML5クリエイティブスタジオを保有する当社にとっては大きなチャンスであるとも言えると思います。

恐らく技術的にはリッチメディア広告の制作が可能であるにもかかわらず、なぜ日本のインターネット広告におけるクリエイティブは簡素なのでしょうか。

日本の広告業界の特徴は、広告の発注からクリエイティブの納品締め切りまでの時間が極端に短いことです。これでは、凝ったデザイン制作に充てる時間などありません。自ずと、新しい試みに挑戦しようとする機会も減ります。

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我々が運営するHTML5スタジオ機能を利用すれば、プログラミング作業は一切必要なく、Microsoft PowerPointとほぼ同じような感覚で広告クリエイティブを制作できます。制作作業が簡易ということは、新しいデザインをとりあえず試しに作ってみる、というリスクが極端に少なくなるということを意味します。

日本ではブランディング目的でインターネット広告を出稿する企業が少ないともよく指摘されていますが、そうした状況も広告クリエイティブが簡素である理由となっているかもしれませんね。

日本の広告主と話をすると、確かに「ブランド広告はやはりテレビCM」といったような発言をよく耳にします。日本のテレビCMの影響力が大きいのは確かなのでしょうが、この状況は未来永劫続くものではないでしょう。消費者がオンライン上で消費する機会が増えていくにつれて、広告もオンライン上へと移行していくというのが自然な流れです。日本人はテレビばかり観ているというのであれば話は別ですが、むしろ日本人のインターネット利用率は世界的に見ても非常に高いです。

状況を改善するには媒体社側の努力も必要だと思います。つまり、媒体社はユーザーがより良いブランド体験ができるようなウェブサイトを設計する必要があります。

貴社では「フルスタック」を自認している一方で、メディアは保有していません。なぜでしょうか。

GoogleやFacebookほどの規模のメディアを持つことができるのであればもちろん話は異なりますが、一般論として、メディアを持たないことで支障が生じることはまずないと思います。とりわけ当社の顧客は、一部の大手企業に独占されている現在のメディア状況に対して不満を示しています。広告主は選択肢を持つことを望んでいるのです。

もちろんデータを取得するという目的においては、メディアを持っていると便利です。しかし、メディア運営にかかる費用が上乗せされることになります。

しかも我々の主要事業はアドサーバー運営です。アドサーバーの本来的な役割は、あらゆるメディアにおける広告運用についての客観的なレポートを提供すること。アドサーバーとは、あらゆるメディアから独立した存在でいなければならないというのが私の考えです。

最大級のアドフラウドをなぜ検知できたか

貴社の本社が置かれている欧州においては、一般データ保護規則(GDPR)の施行が話題となりました。

当初はGDPR施行を受けてユーザーのプライバシー保護が強化されることで、リターゲティング広告の需要が減退することが予想されていましたが、いざ蓋を開けてみると、大きな影響は見られませんでした。どの企業も適切な措置を取った上で、リターゲティング広告を継続しています。少なくとも欧州においては、GDPR施行をきっかけとしてリターゲティング広告を停止したという企業はほぼ皆無です。ところが、欧州から遠く離れた米国や日本を含むアジア地域では、リターゲティング広告費の落ち込みが見られました。遠くからではGDPRに関する動向がよく分からないので、とりあえずリターゲティング広告を停止した企業が多かったということなのでしょう。

改めて申し上げますが、GDPR対応のためにリターゲティング広告を停止する必要はありません。広告主のウェブサイトに、ユーザーの承諾を得る設問を用意するだけで、リターゲティングを行う環境は整います。何か極端と言えるほどの例外的なキャンペーンでなければ、リターゲティング広告が問題視されることはありません。一般的な広告主であれば、GDPRが定める「正当な関心事」の範囲内でリターゲティング施策を展開することができるのです。

欧州のプログラマティック広告市場は今どれほど成熟しているのでしょうか。

少なくとも欧州や米国においては、「オンライン広告の売買をプログラマティック取引にすべきか否か」という議論は既にひと段落し、ほぼすべての媒体社がプログラマティック広告に切り替えた状況です。ところが、今度はテレビやOOH広告の分野で同じ議論が起きています。テレビ広告及びOOH広告関係者は、プログラマティック取引へと移行することで、広告価格の値崩れが起きることを懸念しているのです。タイムマシンに乗って過去に舞い戻ってきたような錯覚を覚えるような状況となっています。

改めて整理すると、プログラマティック広告の最大の利点は、広告販売に関わる経費を削減できるということです。加えて様々な工夫を凝らすことで、広告を高単価に維持することもできます。プレミアム在庫をプログラマティック取引に開放した結果、売上はむしろ伸びたという会社もたくさん存在しています。

最近の例では、トルコ航空がプレミアムフォーマットを用いたプロモーションを世界42カ国で展開しました。媒体社が広告在庫をプログラマティックに開放していなければ、そもそもこの広告を獲得することができません。きちんとした仕組みを整備すれば、世界中から広告を獲得することができるようになり、また精緻なデータを用意し、リアルタイム性が高まれば、プログラマティック広告を利用する広告主がもっと増えます。メディア側が適切な対応さえ取れば、適切な広告収益を得ることができるというのが私の見方です。

この度CCIとの業務提携を発表しましたが、どのような領域で連携していく見込みですか。

当社は昨年末に、HyphBotという一日に50万ドル(約5000万円)もの被害を出していた過去最大級のアドフラウドを検知しました。なぜ我々が検知できたかというと、フルスタック・プラットフォームであるからです。DSPから取得できるビッドリクエストとアドサーバーに蓄積されている実際の広告配信データを合わせることで、高い精度でフラウド検知ができます。

日本でもアドフラウドに対する警戒が高まってきたと理解しています。アドフラウド検知に関して高度なノウハウを持つと自負する当社としては、この問題に対して同じく高い危機意識を持つCCIと一緒に、日本市場のために何ができるか、より安全で安心な環境をどのように整備できるかを考えていきたいと思います。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。