目指すは事業を通じた「Drawbridge IDアライアンス」の形成-Drawbridgeと三井物産が振り返る日本上陸後の1年 [インタビュー]

日本上陸から早一年。三井物産との提携直後から国内主要アドテク企業との連携を次々と決めたことで、Drawbridgeによる「クロスデバイス・マッチング」の手法は瞬く間に日本市場に普及した。11月末に来日したアジア太平洋地区責任者と三井物産の担当者にこの一年を振り返り、また今後の展望を語ってもらった。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

日本市場で「正のスパイラル」を実現

自己紹介をお願いします。

ミューレン氏 PC、スマートフォン、タブレットなど複数の端末ユーザーをその所有者ごとにひも付けした「クロスデバイス・マッチング」データを様々な企業様に提供するDrawbridgeのビジネス開発ダイレクターであり、アジア太平洋地区の責任者を兼務するケビン・ミューレンと申します。

芹澤氏 三井物産のICT事業本部デジタルマーケティング事業部の芹澤新と申します。クロスデバイス・マッチング技術や位置情報を活用したデジタルマーケティング関連サービスやCRMサービス等を扱う同事業部の中でDrawbridge事業のリーダーを務めています。

南原氏 芹澤と同じチームに所属する南原一輝です。Drawbridgeの日本市場における事業開発に携わっています。

Drawbridgeが日本市場に参入してからの一年を振り返っていただけますか。

ミューレン氏 三井物産チームの尽力のお陰で、当初設定していたすべての目標値において、想定以上の業績を達成することができました。既に国内企業20社以上、日本市場のデータを扱うグローバル企業を含めると数十社に及ぶ企業様に導入いただいている状況です。

ほぼ同じタイミングで大手競合企業も日本市場に参入しました。どのように差別化を図ろうとしていたのでしょうか。

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芹澤氏 クロスデバイス・マッチングの性能を計測するには「精度」と「網羅率」の2点が重要な指標になるのですが、Drawbridgeのプロダクトはこの両面で優れています。そしてその性能は、過去1年の間にさらに劇的に向上しました。

なぜかというと、Drawbridgeの日本国内での導入企業が増える中で、性能面のローカライズによりデータの精度が向上し、市場から評価されてさらに導入が進むという好循環が生まれたからです。市場参入直後からこうした正のスパイラルが生まれたというのが大きいです。

また三井物産のセールスエンジニアによる導入サポートや、契約書含む各種ドキュメントを日本語で用意するといったことも行いました。こうした技術的及び法的な支援を提供する体制を整備していたことも評価いただいたのではないかと思います。

顧客層を広告主にまで拡大

日本での主な顧客層を教えてください。

南原氏 当初はDSPやDMP事業者を主な顧客層としていましたが、最近では広告主様がご利用される事例が増えてきています。最近ではJTB様にご導入いただきました。リターゲティングやリマーケティング施策において、既にコンバージョンをした人やウェブを何度も来訪しているけれどもコンバージョンする可能性が低いユーザーを端末をまたいで特定することで、マーケティング費用の削減に役立てていただくことが目的の一つです。

またオフラインデータ・プロバイダーとの連携を通じて、ユーザー理解をオンラインのみならずオフライン行動まで広げることで、JTB様のユーザーにタビナカ(旅行中)でも適切なコンテンツを勧めることで、旅の満足度を向上させるUXデザインを行うことを目指しております。

ただDSPやDMP事業者と比較すると、クロスデバイス・マッチングに関する具体的なノウハウを持つ広告主は少ないのではないでしょうか。

芹澤氏 現時点ではそうした手法に対する感度の高い広告主様に導入を開始いただいている状況なのでそれほど心配はしておりませんが、確かに一般論としては広告主様の方がハードルは高いでしょう。高度な専門的な知識を持たない方々にもメリットを感じてもらった上でご活用いただくためには、我々がコンサルティングを含めたサービス提供をする必要があると考えています。

もしくは関連事業者と連携することで、個別の目的に沿ったより具体的なソリューションにまで落とし込んでサービスを提供するという方法もあります。例えばオプト社の「ADPLAN」では広告主向けの広告効果測定ツールの一部として、またサイバー・コミュニケーションズ(CCI)社のDataCurrent事業では媒体社向けサービスの一部としてDrawbridgeの技術が採用されています。

ミューレン氏 データ事業の魅力は、アドテクノロジー分野以外を含む様々な業界や業種の企業様とお取引ができるということです。DMPのセグメント拡張、広告主が持つユーザーのプロファイル情報の精緻化、アドテク企業が提供する効果測定ツール、ウェブサイトのパーソナライゼーション、リターゲティングEメール、botやアドフラウドの検知や分析。端末をまたいだユーザー識別技術は広範な領域で適用できるはずです。

クロスデバイス・マッチングに関して、改めて日本市場の特徴をお聞かせください。

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ミューレン氏 テレビの存在感が米国以上に強い印象で、テレビ視聴関連データの有効活用がホットトピックスとなっていることは特徴の一つだと考えます。当社は、米国での知見を活かし、テレビとスマートフォン、PCなど複数端末とのクロスデバイス・マッチングを進め、新たな価値を生もうと議論しているところです。

グローバル市場においては、独立系のアドテク事業者が一体となり、ID情報などのいわゆる特定型データを使ったクロスデバイス・マッチングの仕組みを整備する計画を進めています。これらの動きは、推定型データを主軸とする貴社にとっては脅威となりますか。

ミューレン氏 過去にも同様の試みが行われる経過を何度か見てきましたが、そのような仕組みは実現に至らないか、もしくは仮に実現したとしても当社の脅威とはならないとの印象を抱いています。なぜなら、そうした事業者はシステムを構築することはできたとしても、集めたデータの活用法についての知見を持っていないからです。確かに優良なシステムを用意すれば、良質なデータを収集することができるかもしれない。ただそこから次の一歩を踏み出すことができないのです。

ちなみに特定型データを使ったクロスデバイス・マッチングの仕組みを整備しようとしているアドテク事業者の大多数はDrawbridgeの事業パートナーです。これらの事業者がクロスデバイス・マッチング関連サービスを本格化させる未来がやがて到来するとすれば、そのときに推定型データを使って縁の下で支えているのは、Drawbridgeなのではないかと想定しています。

一方でGoogleやFacebookといったいわゆるIDベースのユーザー特定を強みとする巨大プラットフォームが事業規模を今後ますます拡大していくことが予想されています。これら一部のプラットフォームだけで完結する環境が整えば、貴社の事業機会は減少することになりませんか。

ミューレン氏 まず、一部の大手プラットフォームによる寡占がこれ以上進めば、広告業界は反発を示すと思います。第三ないし第四のプレーヤーの存在は常に求められるでしょう。

また寡占の度合いに関わらず、そうした大手プラットフォームは根本的な課題を抱えています。それは、彼らが保有するデータを外部へと持ち出すことができないということです。自社サイトのパーソナライゼーションやアトリビューション計測においては、これら広告プラットフォーム上のデータを活用することができません。

芹澤氏 あまりにも巨大な存在であるがゆえに横断的なプラットフォームであるかのように感じられますが、GoogleもFacebookも見方によってはあくまでも一つのメディアです。そして、これらの巨大プラットフォームを含むあらゆるメディアを横串で刺すことができる存在になり得るのがDrawbridgeだと考えております。推定型技術への需要は日本においても確実にあると実感しています。

またDrawbridgeは、GoogleやFacebookと競合しようとしているわけでもありません。多種多様なプラットフォームと共存し、補足的な役割を担うことができたらと考えています。Drawbridgeは国内で約7000万人分のユーザー情報を持っていますが、端末をまたいで同一ユーザー識別を行っているに過ぎません。Drawbridgeの技術というのはそれ単体というよりは、各種データプロバイダー、顧客企業が保有するその他のデータと紐付けることでより有用なデータをつくる土台の役割を果たすものなのです。大袈裟な表現かもしれませんが「Drawbridge IDアライアンス」のような形で、様々な事業者と協力し合いながら利用者の利便性を高めていくというのが当社の役割です。

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南原氏 とりわけ広告主が自社データを精緻化する際には、Drawbridgeのようなサードパーティーの事業者が必要になります。Drawbridge IDを鍵として、様々な事業者がデータの交換を通じ、各社に点在している希少性の高いデータを含む多様なデータを集めていくというのが理想的。Drawbridgeが、そうしたデータのハブになればいいですね。

プライバシーへの懸念が高まる中で、現状では問題なくとも、いずれ推定型データも法制や規制の対象となる可能性があるのではないでしょうか。

ミューレン氏 まず申し上げたいことは、Drawbridgeは各国の規則に準じた上で事業を運営しているということです。またユーザー情報の取得については、世界的には2つの要求事項が標準仕様となっています。一つは「ユーザー情報を取得する」ということをユーザーに対してきちんと通知及び説明すること。もう一つは、ユーザー情報をどのように扱うか選択する権利をユーザーに対して与えることです。

Drawbridgeでは、この2点の要求項目の履行を当社のパートナーや顧客に義務付け、その履行を徹底しております。Drawbridgeはあくまでもデータとデータとを紐付けるハブ機能を提供しているだけであり、ユーザーとの直接的な接点は持たないからです。ただし、ユーザーに対して適切に通知と選択肢を用意した上で取得されたデータのみにアクセスするということは徹底しています。

今後一年の見込みなどをお聞かせください。

ミューレン氏 この場を借りて、改めて三井物産チームに感謝を申し上げます。もちろん期待はしていましたが、日本市場でここまでの成功を収めるとは思いませんでした。日本は世界で最も重要な市場の一つです。日本に事業基盤を築けたことは、Drawbridgeの今後一年の事業戦略において非常に大きな意味を持ちます。

芹澤氏 クロスデバイス・マッチングという言葉がこの1年でアドテク市場中心にだいぶ浸透してきたと実感しています。その間、様々な広告プラットフォームに主にサービスを差別化するためにご活用いただいていました。今後1年はクロスデバイス・マッチングにより、デバイス単位ではなく、ユーザー単位でマーケティングを行うことが“当たり前”になるような環境作りができたら良いと考えております。またアドテク以外の領域での活用例が日本でも出始めているので、そうした事例を増やしていきたいです。

南原氏 先に芹澤が申し上げたように、日本で「Drawbridge IDアライアンス」のような事業ネットワークを構築していきたいです。例えばMAツールや位置情報などと組み合わせることで、日本市場に特化したユニークなデータが整備できるはずです。日本のあらゆるアドテク事業者や広告主が構成するエコシステムをより活性化するための一助を担うことができればと願っています。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。