運用型エージェンシーに求められるクリエイティブ・マネジメントのカタチー |WireColumn

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先日、電通「日本の広告費2018」が発表されました。運用型広告は、依然として122.5%という非常に高い成長率を維持しております。2014年と2018年の市場規模を比較すると、実に2.26倍の成長を遂げています。

 

運用型広告を含むインターネット広告費全体(制作費含む)は、テレビメディア広告費(1.91兆円、地上波のみでは1.78兆円)に迫る、1.75兆円(うち、運用型広告費は、1.15兆円)となり、いよいよ2019年にもテレビメディア広告費を上回る可能性が高い状況です。(※1)裏を返せば、広告主にとり、インターネット広告の重要性が高まっているということになります。

そうなると、やはりいずれの企業も力の入れ方が変わるでしょう。その意味で、2019年は激動する年になるかもしれないと考えております。

2019年は、エージェンシーの大きな変革期に!?

エージェンシーにとって、非常に大変な変革を求められる可能性があります。その点を説明するために、少し古い記事ですが、2014年の米Forbes.comに掲載されたCMOへのアンケート集計結果の翻訳記事(※1)から引用します。

この記事では、「62%(の広告主)は、特にデジタルとクリエイティブの分野で、インハウス化を進める予定」と紹介されています。そして、その背景には、エージェンシーへの不満から来る関係性の悪化があり、その最大の理由として「代理店が真の顧客インサイトを見つけ出すことができないこと(73%)」が挙げられているのです。さらに、「エージェンシーとの関係をもはやパートナーシップではなくサプライヤーとみなしている(62%)」とも紹介されています。私もかつてWebエージェンシーにいましたので、業界の方にとっては非常に辛辣な表現であると理解できます。

顧客インサイトを理解できない理由としては、メディアの細分化により情報量に圧倒されていることや、デジタルに対する知識不足、人材の教育不足、顧客の環境理解が足りない、などが挙げられており、米国かつ4年前の現状なので少し異なる部分はありますが、現在の日本においても、看過できることではないのではないでしょうか。

そして、昨今のアドテクノロジーの進化を踏まえ、私は2019年以降に、「クリエイティブ・マネジメント」という領域において、このような厳しい状況の一端が表れるかもしれないと考えております。

その背景を少し説明しましょう。運用型広告においては、大きく予算管理(アロケーション)、ターゲティング、クリエイティブの3つのコントローラーがあります。少し説明を端折りますが、その中で、予算管理とターゲティングは、改善の余地、議論の余地はあれ、媒体側のデータをベースに数学的な処理により、自動化・改善が可能と言えます。

しかし、クリエイティブは違います。例えば、業界別に良いクリエイティブというのが統計的に導けたとして、競合他社と同じ訴求を機械が生成して、それを良いクリエイティブと言えるでしょうか?おそらく、そうはなりません。いくら、ユーザーから見て差の分かりづらいハイコンテクストな商品であってもコンセプトが違ったり、生産者が実現したいものが異なったりします。それがクリエイティブに乗ることで、ユーザーに響くクリエイティブができるのではないでしょうか。この説明では抽象的なので、具体的な例を示してみましょう。例えば、「ヘルシー」というワードは、「マクドナルド」がいうそれと、「モスバーガー」がいうそれが、異なるのです(良し悪しではなく)。いくら世の中に「ヘルシー」が求められるからと言って、そのワードを誰もが多用して効果が出るわけではなさそうだ、ということはご理解いただけるのではないでしょうか。

つまり、クリエイティブにおいては、改善に必要な情報・データは、媒体側ではなく広告主企業側が主に保有しているのです。

そのため、「クリエイティブ」だけは広告主と切っても切り離せません。ユーザーの反応を把握し、ゼロイチで訴求を創ることが求められます。これは、もはや商品の創造のプロセスに近いものがあります。そしてこれは、機械学習が苦手とし、人間が得意とする分野でもあります。このようなことから、今後、運用のコントローラーとして、「クリエイティブ」は、さらに重要になってくると考えます。

このように考えると、広告主にとって、エージェンシーに委託する意義・期待する価値が少しずつ変わってくると考えます。そのため、近い将来、いや、もう既に始まっているかもしれませんが、「クリエイティブ」の領域で広告主がエージェンシーに求めるクリエイティブマネジメントの要求レベルが非常に高くなり、そのマネジメントをエージェンシーが実現できないと判断すると、インハウス化、あるいは、それを高度に運用できるエージェンシーへの切り替えを検討する企業が増えると言ったことが、起きるのではないでしょうか。

クリエイティブ・マネジメントの定義の変化に見る、エージェンシーの新しいバリュー

近年、運用型広告の登場により、ターゲティング手法の多様化が進みました。そのターゲティング手法の変化を言葉にすると、「線形ターゲティングから非線形ターゲティング」と表現できるかもしれません。

線形ターゲティングは、例えば、年代×性別などのシンプルなセグメンテーションをイメージしてください。人が理解しやすいことをベースに設計されており、頭でも理解しやすいセグメンテーションです。

一方、非線形ターゲティングは、「20代女性でかつ30日以内にサイト訪問をし、音楽分野に興味をもつ層、で未会員登録ユーザー」といったように複雑なターゲティングです。単純な線では分類できない複雑なセグメンテーションとなります。

「線形ターゲティング」時代は、理論ベースの最適化が通用するため、「良い(と考えられる)クリエイティブを作る」という意味で「ウォーターフォール型」、つまり、計画->実行というプロセスで施策が成立します。一方で、「非線形ターゲティング」では、「想定(かもしれない複数の)クリエイティブ群を作り、少しずつ良いものに変えて行く」という「アジャイル型」、つまり、小さな実行計画を繰り返すことで改善に導いていくことが必要になると思うのです。

存在する2つの「アジャイル型」

「アジャイル型」にも方法が2種類あります。

1つは、媒体機能に任せる方法です。媒体が、機械学習に基づく最適化を行ってくれるため、それに預けてしまうのがこの方法です。これは手間を大きく削減できるメリットがありつつ、ナレッジはほとんどたまりません。

もう1つは、エージェンシーが主体的に行う方法です。非常に手間はかかりますが、応用可能なデータを発見し、最適化をスマートに、独自に行うことが可能になります。(これを、クリエイティブ・サイエンスができている状態と考えます。)これにより、媒体の機能に依存しない、本来あるべきPDCAサイクルを回せるではないでしょうか。

前者の方法は、優秀なサプライヤーを目指す場合の、後者の方法はパートナーシップ、コンサルティングを目指す場合の最適解と言えるでしょう。短期的なパフォーマンスは、もしかしたら前者の方がいいかもしれません。どちらも併用されていくべきものですが、後者を無視することはできないということです。

特に、広告主が「クリエイティブ」の重要性に気づき始め、ユーザーのコミュニケーションを特定の媒体に依存することに恐怖を感じることがあるとすれば、長期的な目線でクリエイティブ・サイエンスのできるエージェンシーを求めていくのではないでしょうか。

成否を分けるのは、「人×テクノロジー」

では、「ウォーターフォール型」から「アジャイル型」に変わった時、エージェンシーはどんな対応が求められるのでしょうか。考えるに、業務フローの組み替えなど大きな変化が求められるということです。そしてそれがまず現れるのが、「制作」でしょう。短サイクルで小さな変化を検証していくため、これまでの制作量の何倍もの量を、何十倍ものスピードで求められます。おそらく、これには既存の手法では対応しきれないでしょう。

そこで必要となるのが、テクノロジーです。運用者の思考の変化により、改善スピードは何倍にもなります。そこにテクノロジーを活用することで、さらにそのスピードは何十倍にもなります。さらに統計的な処理を加えることで、検証効率を何十倍にすることも可能です。つまり、これらの効果は、何百倍、何千倍に相当するのです。

かつて、活版印刷が出てきたときのような、馬から車に移動手段が変わった時のような、インターネットが登場した時のような、そんなスピードの急激な変化が、この「クリエイティブ・マネジメント」の世界に起きる日が近いかもしれません。そんな変化を楽しみにしながら、当社では日々 「クリエイティブ・マネジメント」ツール「アドサイクル」および「アドサイクル・クリエイティブメーカー」の研究・開発を行なっております。

※1  出典:電通「日本の広告費 2018」電通「日本の広告費 2014

※2  出典:「なぜCMOは代理店に不満を感じているのか?海外のアンケート結果の紹介

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ABOUT 村上 和也

村上 和也

株式会社エフォートサイエンス 代表取締役社長
2004年、大阪市立大学卒業後に独立系システムインテグレータに入社し、開発業務に従事。2006年、中小企業診断士を取得。その後、株式会社アイレップへ転職し、広告運用に携わる。小規模から大規模なSEM広告アカウントの運用を担当。また、リスティング広告R&Dチーム、アドインテグレーションチームなどの立ち上げを行い、運用マニュアルの作成など資料の整備や、国内外のツールの開拓、仕入れを含む新しいアドテクノロジーと向き合う業務に従事。その後、自社システムの開発に運用サイドの責任者として担当。 その後、2013年アイレップとカナダのacquisio inc.との合弁子会社アクイジオジャパンに転籍して取締役に就任。2年の任期を経て退任し、2016年1月に株式会社エフォートサイエンスを創業し、代表取締役社長に就任(現任)。 開発と運用双方の経験をしたことを活かし、「アドサイクル」開発に従事し、現在に至る。