統合的なユーザー分析のためにプラットフォームを一本化-米カジノ大手の戦略 [インタビュー]

写真:ジェフリー・デ・コルテ氏

Adobe、Oracle、SalesforceといったMA大手が、事業買収などを通じて巨大なマーケティング・プラットフォームへと変貌しつつある。これらの統合型プラットフォームは、実際のところ、どれほど広範的に活用し得るものなのか。マーケティング・ツールの一本化を進めるカジノ大手シーザーズ・エンターテイメントのデジタルマーケティング責任者に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

ホームページとデジタル広告をまたいでパーソナル化

自己紹介をお願いします。

シーザーズ・エンターテイメントにおけるEコマース&デジタルマーケティング部門のバイス・プレシデントを務めるジェフリー・デ・コルテと申します。

シーザーズ・エンターテイメントは、「シーザーズ・パレス」「フラミンゴ・ラスベガス」「プラネット・ハリウッド・リゾート・アンド・カジノ」など、米ラスベガスを中心に55のリゾート施設を運営する企業です。ホテル、カジノ、飲食、エンターテイメント、小売、コンベンション関連など多角的に事業を展開しています。

コルテ氏が管轄する部門では、主にどのようなマーケティング施策を展開しているのでしょうか。

注力ポイントを端的に表現するならば、ホームページとバナー広告のパーソナル化です。デジタル広告に関しては、当社が販売するホテルの部屋の販売対象ユーザーを「スイートルーム向け」、「プレミアムルーム向け」、「一般的な部屋向け」の3種類に分類し、それぞれに対して異なる広告クリエイティブを反映したバナー広告を配信しています。

写真2:ジェフリー・デ・コルテ氏

ホームページについては、訪問ユーザーを「予約済み」「未予約」に分けて、予約済みのユーザーには宿泊予約を促す内容ではなく、その他のエンターテイメント施設の案内などを表示するようにしました。ほかにも、交通手段が「飛行機」か「自動車」であるかによってページ表示内容を変更しています。

いずれの例も二択という極めて単純な分類法なのですが、これに加えてユーザーの在住地、宿泊地、利用施設、部屋のタイプ、利用する飲食施設といったその他の情報を掛け合わせると、かなり複雑にセグメント化されることになります。

「予約済み」か「未予約」かといった分類法は貴社で予め設計した上で、オンライン・ユーザーを分類項目ごとに振り分けるわけですね。

検索、クリック、購買といったオンライン行動を通じて、ユーザーの嗜好や条件を分析します。それらのデータをDMPに放り込み、その後はAI機能を使ってパーソナル化された広告やホームページを表示させるのです。尚、当社が活用している、オンライン行動を示すデータの83%はいわゆる匿名データです。

この匿名データを用いて、ホームページとデジタル広告のパーソナル化を横断的に管理する必要性を以前から感じていました。そこで、今年からウェブサイトのコンテンツ管理システム、アクセス解析ツール、DMP、DSPなどをAdobeに一本化したのです。

「総合点で優れるプラットフォームの方が有効」

多くのマーケッターは、コンテンツ管理システムはA社、DMPはB社、DSPはC社といった具合に、目的ごとに異なる企業のツールを使い分けているのが現状かと思います。貴社が同一プラットフォームの製品群をそろえているのはどんな事情からなのでしょうか。

実は当社も昨年までは、広告配信はGoogle DoubleClick(現Googleマーケティング・プラットフォーム)、ホームページ関連はAdobeの製品群という形で使い分けていましたが、今年から広告配信をAdobeのDSPに切り替えました。広告からホームページ流入に至るまでのユーザーの動きをより良く理解するためにプラットフォームを統一したいとの思いを持っていたからです。

確かにすべてのオンライン行動を一つのプラットフォーム上で追うことができれば、アトリビューション分析はしやすくなりますね。

私が管轄する部門には、ディスプレイ広告担当とSEO担当がいます。最近は、ディスプレイ広告担当が「SEO担当が不当に高い評価を得ている」と不満を漏らすことが多くなりました。

確かに、近年ではユーザーがバナー広告をクリックし、ランディング・ページでそのままコンバージョンするという例は極めて稀。それよりも、バナー広告やSNS投稿で特定の商品やサービスについての情報の概要を得た後で、最終的には自ら検索してホームページにたどり着き、詳細な情報を得た上でコンバージョンするというパターンが増えてきていると思われます。もしそうだとすれば、アトリビューションを得るのはSEOばかりになります。

ところが、統合されたプラットフォームであれば、少なくとも分断された状況よりは、広告閲覧からコンバージョンに至るまでのユーザーの動きをずっとよく理解できます。この「決して完璧ではないが、以前よりはずっと良い」ということが重要なのです。アトリビューションに関する課題を完全に解決できなくてもよい。「昨日よりも良い」という漸次的な変化を毎日積み重ねていくことができれば、それでよいのです。

ただし、多くの統合型マーケティング・プラットフォームの製品群もそれぞれのツールは独立していますよね。

前職に就いていた2015年時点の統合型プラットフォームは、買収して得た技術なりツールの寄せ集めといった感じでした。それから数年が経過し、現職として改めて吟味してみると、インターフェースは統一され、各プロダクト同士の統合も以前よりずっと進んでいました。完璧ではないにせよ、少なくとも統合的なプラットフォームとして使用したいと思うに十分なレベルに達しているとの印象を受けました。

確かに現時点でも、同一ユーザーが例えば統合型プラットフォームの一部であるアクセス解析ツール上とDMP上にそれぞれ別個に存在しています。ただし、当社の専任チームがまとめて分析しやすい状況にはなりました。

ともかく「ユーザー分析を統合的に行う」というのが貴社のこだわりなのですね。

当社ではほぼ毎日のように、各社からマーケティング関連テクノロジーの売り込みを受けています。その中には、少なくとも単一機能としては統合型プラットフォームより高い精度でパーソナル化やコンテンツ管理を行うプロダクトも恐らくあるでしょう。それでも、各機能を掛け合わせた総合点で優れるプラットフォームの方が有効であると考えています。

パーソナライゼーションの限界には程遠い

先ほどバナー広告担当とSEO担当の見解の不一致についての例を挙げていましたが、「ユーザー分析を統合的に行う」には、プラットフォームだけでなく、組織体制も統合させる必要がありますね。

私が管轄する部門には50人の社員が勤務しており、それぞれ新聞広告、看板広告、デジタル広告、Eコマース、ホームページ運営などの職務に分かれています。私の着任時は、これらの職務がそれぞれ独立して機能していました。同じオフィスで働いているにもかかわらず、別担当が何をしているかよく分からないという状況だったのです。

そこで私は、各部署のリーダーを集めての週一回の打ち合わせを定例化しました。また「スコアカード」なるものを配布し、全員に対して同じ指標を共有させたのです。さらにはブレインストーミングとマーケティング・プラットフォームの勉強会を兼ねた社内イベントを定期的に開催することにしました。

また当社にとっては、Expediaのような旅行予約サイトから旧来の予約電話サービスまで様々な販売チャネルがあり、ホームページ運営というのはその一部に過ぎません。あくまでも一部の機能を担うチームにおける50人というのは決して多くはない。一つの目的の下で協調し得る人数です。

ホームページやデジタル広告のパーソナル化にも注力しているとのことですが、「行き過ぎたパーソナル化はかえって逆効果」という議論もあります。

パーソナル化が進行し続ければ、いずれは効果が逓減ないし逆効果を生んでしまう段階というのは確実に存在するでしょう。そして、ホームページの表示情報を、画素の最小単位までパーソナライズするというのは非現実的です。どこで限界に達するかを見極める必要がありますが、少なくとも当社はまだ始めの一歩を踏み出したばかりです。パーソナル化の限界にはまだ程遠いです。

写真3:ジェフリー・デ・コルテ氏

ちなみに、パーソナル化が進行すると、その効果分析も複雑になります。初期には単純なA/Bテストで十分なのですが、当社のホームページには「ホテル」、「ダイニング」など5つのカテゴリーがあります。すると、5つのカテゴリーを一挙にまたいでA/Bテストを行う必要があるわけです。当社システムでは現在このような分析が可能になっています。

活用データの83%は匿名データ、つまりは主にCookie情報であると仰っていました。最近ではCookieを制限する傾向が強まっていますが、貴社ではいかに対応する予定ですか。

Cookieが制限されると、私たちの仕事は確実にしづらくなります。対策の一つは、より多くのユーザーにより早い段階でサインインしてもらえるようなサイト設計にすること。またはウェブからアプリにデジタルマーケティングの軸足を移すということも考えられます。アプリの利用者は、ダウンロードした時点でユーザー情報を提供することに明白な形で同意したことになりますからね。ちなみに、当社のアプリは位置情報サービスを利用しています。つまりユーザーが当社管轄の施設内にいるか、それとも競合企業の施設にいるかを把握した上でそれぞれの状況に応じたメッセージを送信することができるというわけです。

現時点でGDPR(EU一般データ保護規則)やApple社のITPの影響は受けていますか。

影響を受けるほどには、十分にデータを活用できていないというのが正直なところです。またこの課題については、マーケッターというよりも、テクノロジー企業や、もしくは業界が一体となって解決すべき次元のものでしょう。マーケッターの仕事は、有効なテクノロジーを導入し、そのテクノロジーを最大限に活用することです。

施設を訪れている最中の顧客の体験をいかに向上するか

現時点における貴社でのデジタルマーケティングに関する課題は何ですか。

既に申し上げた通り、当社におけるパーソナル化の取り組みはまだ始まったばかり。レコメンド機能一つとっても、一般的なECサイトと当社のようなホテル管理システムとでは仕様が大きく異なります。つまりテクノロジーを導入するだけでは十分ではなく、そのテクノロジーを我々の業務に合うように改善させていく必要があります。

またやはり異なるプラットフォームをまたいでデータを統合することができないという課題は依然として残っています。当社では、ロイヤリティプログラムはSalesforce、顧客データベースはAdobeで管理していますが、当然のことながら両者を統合させることはできません。またご存知の通り、FacebookやGoogleといった広告掲載面もウォールドガーデンです。これらのプラットフォームをまたいでデータを統合することができれば、かなり精度の高いアトリビューションモデルを構築することができるはずです。

もう一つ挙げるならば、旅行前の計画段階ではなく、いわゆる旅中というか、当社の施設内にいる方々の顧客体験を、デジタル技術を使っていかに向上させるかということにも関心があります。カスタマージャーニーの終盤でも、何かできることがあるはずです。

いずれにしても、デジタルマーケティングと言えば、リターゲティング広告一辺倒であった時代は過ぎ、今では見込み顧客にも対応できるようになりました。可能とするテクノロジーが生まれたからです。あらゆるマーケティング施策の中で、地域や市場単位ではなく、ユーザー単位でセグメント化そしてパーソナル化できるのはデジタルマーケティングだけでしょう。デジタルマーケティングを中心とした、「昨日よりもより良い環境づくり」に向けた取り組みを今後も着々と行っていくつもりです。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。