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インフルエンサーマーケティングとの相乗効果 本格的なライブ配信・ライブコマースへの道 [インタビュー]

インフルエンサーマーケティングの新たな手法として、ライブ配信、更にライブコマースへと繋げる新たな流れが生まれ始めている。

サロンモデルのマッチングサービスからインフルエンサーマーケティングへと事業を展開し、ライブ配信を行う「ライバー」の育成も行っている株式会社Coupe代表取締役 竹村 恵美氏に、インフルエンサーマーケティング×ライブ配信・ライブコマースの現状と展望についてお話を伺った。

聞き手:ExchangeWireJapan 川口幸映

 

厳選されたサロンモデルからインフルエンサーへ

―事業概要を教えてください。

美容師がサロンモデルを探すためのマッチングサービス「Coupe(クープ)」と、サロンモデル・インフルエンサー・ライバーのマネジメント事務所「COUPE MANAGEMENT」を運営しています。Coupeでは応募者の中から書類審査、マナーテスト、カメラテストを行って採用しており、厳選されたモデルが約850人所属しています。その中でも影響力や才能があるモデルを、COUPE MANAGEMENT専属として育成や研修を行っています。

 

所属モデルは男性が多いことが特徴です。モデルやインフルエンサーは業界的に女性の方が多いのですが、Coupeでは所属モデルのうち3割ほど、COUPE MANAGEMENT専属モデルだと半数が男性です。男性が多くなった経緯としては、男性の方がSNSに継続的に投稿したり、長い時間ライブ配信をしたりする傾向にあり、育成を進めていった結果として男性が伸びた、ということになります。女性がライブ配信をすると視聴層は30~50代が多くなるのですが、男性の場合は10代女性の視聴が増えます。SNS上で注目されるという点では同じですが、自身と年代が近い人や年下から支持されることが、継続的な投稿・配信のモチベーションに繋がっているのだと思います。

 

―専属マネジメントを行っているモデルにはどのような特徴がありますか。

SNSで有名になりたいという意欲とポテンシャルがある人です。性格は素直でやる気のある人が多いです。「SNSで人気を得たい」、「フォロワー数を伸ばしたい」といった相談をしてくるモデルが毎年数人いるのですが、投稿についてアドバイスをしていくとフォロワー数が伸びてくるので、そのまま育成していきます。

 

個人で影響力を持ちたいという人は確実に増えています。SNSでバズって一躍有名になったという人が身近なところにいる時代のため、「自分もそのようになりたい」と考える人が多いと思います。

 

インフルエンサーの固定ファンを作るためのライブ配信

―現在、インフルエンサーマーケティングにおいてはYouTuberやInstagrammerの起用が多い状況です。COUPE MANAGEMENTの専属モデルは、ライブ配信を中心に活躍する「ライバー」が多いですが、インフルエンサーマーケティングにおけるライブ配信はどのような立ち位置にありますか?

ライブ配信は「まだまだ」というのが正直な意見です。現状、ライブ配信は様々なSNSに付随するもので、エンゲージメント率を上げるツールだと考えています。ライブ配信だけで有名になる人ももちろんいますが、YouTubeやInstagramを使いながらライブ配信もする、というインフルエンサーが多いです。

 

 

―他のプラットフォームとライブ配信を併用するメリットは何でしょうか。

ライブ配信は、そのインフルエンサーのファンになってもらうための手段として効果があります。他のプラットフォームと比較すると、ライブ配信はユーザーとの接触頻度が高いため生活の一部に溶け込みやすいのが特徴です。ユーザーにとっては、いつも投稿を見ているだけのインフルエンサーが、ライブ配信では自分に対して反応してくれるためファン度がより上がっていきます。「毎日22時に配信する」といった告知をすると、ユーザーはその時間までにやるべきことを終わらせてライブ配信を見る、ということが習慣化していき、コミュニケーションの機会も増えていきます。このような点からライブ配信はリテンションのツールとして使うことができます。現在、ライブ配信はインフルエンサーの育成やインフルエンサーマーケティングの効果を上げるために使われることが多く、ライブ配信そのものでマーケティングをする、ライブコマースで物を売るということはまだ本格的になっていないように思います。

 

一個人であるインフルエンサーから物を買うという人は限定的で、そのインフルエンサーのファンであることが多いです。しかし裏を返せば、インフルエンサーに固定ファンがついていると、ライブ配信やライブコマースで商品をPRすることによって直接的な購買に繋げることもできます。実際に当社でも、ライブ配信のプラットフォームで人気を得て、ライブコマースで実績をあげているインフルエンサーがいます。

 

―ライバーを起用し、ライブコマースを行うメリットはどのようなところにありますか。

ライブコマースは、コメントや「いいね」のやり取りでインフルエンサーとユーザーの双方向コミュニケーションが実現できるという強みがあります。コメントをすぐに拾うことができるので、画面越しでは分からないことも質問を投げて詳細を教えてもらうことができます。特に、実物を見ないと買いにくい洋服や靴等も、不明点についてリアルタイムで回答を得られるのはユーザーにとっても有り難いことだと思います。

 

―ライブコマースで活躍できるライバーはどのような特徴があるのでしょうか。

ライブコマースで商品を購入するユーザーは、扱う商品やブランドのファンと、商品を紹介するインフルエンサーのファンと2通りあると思います。当社で、あるブランドの公式SNSアカウントでライブコマースを行った際には、ブランドファンに訴求するために「固定ファンが多いライバー」よりも「販売が上手いライバー」が求められました。更に別の案件では、当社所属の人気インフルエンサーのサイン入り商品が当たるという設計でライブコマースを行いました。美容室でしか買えないラグジュアリーブランドのヘアケア用品を販売しましたが、商品力の高さと、人気インフルエンサーのサインが当たるというプレミア感が相まって売上が伸びました。

 

ターゲティングによって、プラットフォーム、起用するインフルエンサーや商品の企画を変えていくことが重要になります。今後、InstagramやTikTokのアカウントを所有しオウンドメディアとして運用する企業も多くなってくると考えられるので、そのアカウントで、固定ファンが多いライバーを起用してライブコマースをするのが効果的だと思います。

 

ライブコマースでは「どれだけ売れるか」が指標になるので、そのインフルエンサーにどのくらいのファンがついているかは鍵になります。そのため、「どのような商品をPRしても購入してくれる」という根強い固定ファンを作れると、ライブコマースでの活躍が見込まれます。

 

ユーザーが「応援したくなるインフルエンサー」になる

―ライブ配信、ライブコマースとも、「固定ファンの多さ」が重要ということですが、固定ファンを多く獲得するためには、インフルエンサーはどのようなことをする必要がありますか?

 ユーザーと密な関係性を構築し、それを継続させていくことです。1日2時間のライブ配信を1年間続けると、20人程が根強いファンになってくれるので、日々の継続的なライブ配信は欠かせません。

当社ではライバーとユーザーとの関係性構築のために、「初見の人が来たら自己紹介をする」、「ユーザーにあだ名をつけて覚える」等、経験の浅いライバーにはライブ配信のいろはからアドバイスをしています。また、配信時間についても「何時から」、「1ヶ月に何時間」ということを守るように伝えています。ライブ配信のプラットフォームにはイケメンライバーや可愛いライバーがたくさんいるので、ファンが定着する前に配信を途切れさせてしまうと、ファンはすぐに他のライバーに移ってしまいます。熱心な固定ファンをどのくらい作れるかをKPIとして、日々の配信をしっかりできるようにしています。

 

ライバーとユーザーのコミュニケーションは重要ですが、リアルタイムでコミュニケーションを取っているためにユーザーと揉めてしまうこともあります。それが原因でライブ配信をやめてしまうライバーもいるため、ここのケアは重要視しています。

 

当社では、ユーザーとの距離が近くなりすぎてしまうのを防ぐため、ダイレクトメッセージのやり取りは禁止しています。いい意味でユーザーとの壁を作り、ライバーにはライブ配信メディアに出演している「タレント」という意識を持ってもらっています。そこを踏まえたうえで、ユーザーとしっかりコミュニケーションを取ってファンを増やしていくことが重要です。丁寧なコミュニケーションを続けることで、徐々にファンから応援してもらえるようになります。すると、企業からの案件を受けてもファンから敬遠されるのではなく、タイアップが来たことを「おめでとう」と祝福してもらえるようになり、活動の幅を広げていくことに繋がります。

 

―企業案件をファンが喜ぶというのは、インフルエンサーマーケティングの黎明期から変わってきているところだと思います。ユーザーから応援してもらえるインフルエンサーになるには、何が大切なのでしょうか。

目標を口に出してユーザーに伝えることが重要です。そうすると、そのインフルエンサーが将来何を目指しているかがわかるので、プラットフォーム内のオーディションでギフトを投げてくれたり、目標に近いタイアップ案件が来るとユーザーも喜んでくれたりします。

 

「目標を口に出す」というのはライブ配信だからこそ伝わります。静止画で目標を書いて投稿するよりも、動画で伝える方がユーザーに届きます。それが双方向のコミュニケーションができるライブ配信だとストック型の動画とは熱量が異なり、身近な友達や知り合いの夢を応援する感覚に近いものがあると思います。他のプラットフォームにはない「リアル感」が、インフルエンサーを応援したい気持ちに繋がっているのではないでしょうか。

 

個人が輝けるSNS事業でビジネスを

―貴社におけるインフルエンサーマーケティングで、課題に感じていることはありますか。

当社は個人をサポートし、SNSでどんどん輝いていってほしいという思いから事業を始めました。このビジョンをビジネスに繋げていくことはCOUPE MANAGEMENTの課題だと思っています。

 

今後は、「個人に対してSNSでどのくらいファンがついているか」が指標になると考えていて、そうなると個人だけで、もしくは個人でマネージャーや営業をつけてやっていくことができるため、マネジメント事務所の意義はなくなっていくのではないかと思っています。そのような潮流の中で、COUPE MANAGEMENTの付加価値を見出し、必要としてもらえる組織になっていかなければなりません。

 

長期的なビジョンでは、SNSで活躍し始めたインフルエンサーたちをより一層サポートして、ビジネスに繋げることができる組織でありたいと思っています。個人がSNSで有名になったとしても、SNSの活動からリアル店舗を開いたり、希望があればNGOやNPOに繋げたりと、インフルエンサー個人の力ではできないことはたくさんあります。個人ではリソースが足りず、ビジネスとして成立させられないというときにCoupeが力になれたらと思いますね。

 

―最後に今後の事業の展望と、目標をお願いします。

ライブ配信は、映像を見るという行動自体はYouTube等の動画メディアを見ることと同じですが、経験としては誰かと双方向にコミュニケーションを取る時間に近いです。ライブ配信でインフルエンサーと繋がることで、ファン同士の新たなコミュニティが生まれたりもします。実生活とは別の場所に居場所ができるというのは、人に寄り添って人生を豊かにできるという、SNSのバリューがあると思います。

 

ライブ配信、ライブコマースだけでなく、将来的にはオフラインで実際にインフルエンサーに会うことができるイベントや、イベントでの販売にも繋げていきたいと思っています。「目の前に応援しているインフルエンサーがいる」というのはファンにとっても嬉しいことなので、そのようなエンターテイメントとしてもライブ配信の可能性を追求して、ライブ配信をもっと盛り上げていきたいです。

 

ABOUT 川口 幸映

川口 幸映

ExchangeWire 編集担当
同志社大学文学部英文学科卒業。教育書・実用書の出版社等を経て 2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 IT関連他、インフルエンサーマーケティング領域の調査などを担当する。