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電通・CCI・凸版印刷が仕掛けるeスポーツビジネスのプラットフォーム「eSPORTS TRINITY」

2018年の流行語ワードにもなり、世の中の注目が集まるeスポーツ。ビジネスの領域においても、期待値はますます高まり、様々な業界から注目が集まっている。

その一方で、eスポーツをどのように自社ビジネスと結びつけていくのかについては、まだまだ各企業とも模索している。「会社で上から言われeスポーツ担当になったのはいいものの、何から手を付けるべきであろうか」というようなeスポーツ担当者にまつわる話は、しばしば耳にすることがある。

 

このような課題が業界にある中で、電通、CCI、凸版印刷の3社が「eSPORTS TRINITY」という有識者による「eスポーツ・ビジネスセミナー」と参加企業による「eスポーツ企業対抗戦」を組み合わせたビジネスイベントを立ち上げた。背景には「eスポーツをビジネスとしてどのように発展させていくべきか」という各社共通の想いがあったという。

第一回目は、東京飯田橋のトッパン小石川ビル内にある小石川テラスを会場に、有料の招待制イベントとして10月23日の夕方に開催された。eスポーツに対し、広告主の立場でスポンサーシップを検討している企業や、eスポーツに絡めたサービスの提供をしている、あるいは提供をすることを考えている事業会社の担当者など、およそ80名が集まった。

 

イベントは二部構成に分かれており、前半は業界有識者などによる、eスポーツ業界全体を俯瞰したビジネスカンファレンスとして、日本eスポーツ連合(以下、JeSU)事務局長を務める大谷剛久(おおたに たかひさ)氏から「eスポーツとは何か? 世界の潮流・日本の現状」と題し、eスポーツの国内市場動向とJeSUの役割について講演がなされた。

続いて、eスポーツ業界アナリストである但木一真(ただき かずま)氏からは「eスポーツの広告的価値のビジネスチャンス」と題し、マーケティングやプロモーション視点でどのように活用していくべきかが話された。そして後半は実際のeスポーツイベントを体感してもらうために、カプコン協力のもと「ストリートファイターV」を使用した、参加企業の代表者による企業対抗戦(AFTER6 LEAGUE)が行われるというユニークな構成で、盛り上がりをみせ、参加者同士での積極的な交流がなされた。

 

イベントを主催した3社とeスポーツとはどのように関わりがあるのかというと、凸版印刷が現在20名体制の規模に及ぶ社内横断のeスポーツビジネスプロジェクトを立ち上げたのが2018年。イベント事業に限らず、様々な領域でeスポーツ関連事業への参入可能性を探っている。

電通はこれまでJeSU(日本eスポーツ連合)をはじめとする各種eスポーツ関連団体と連携を図り、大手企業スポンサーを巻き込みながら、業界全体の立ち上げや活性化を図ってきた。今回のこのプロジェクトには、事業開発部門のメンバーが参画している。

CCIからは、映像や音声などのデジタルコンテンツを広告商品として開発・販売するコンテンツデザインビジネスチームやマネジメントオフィスのメンバーが参画。デジタルメディアの領域でeスポーツビジネスの可能性を探っている。

 

「eスポーツで何かをやりたいという企業の方々からの相談がとても増えている。eスポーツのビジネスに取り組んでいこうとしている人たちのコミュニティーを立ち上げることで、皆で産業を作っていきたいという想いがあった」と、主催する3社の担当者は「eSPORTS TRINITY」立ち上げの背景を語る。

「このコミュニティーはビジネスコミュニティー。ここに参加する方は、それぞれの企業の看板を背負って、課題を持ち寄って集まってくる。また、企業担当者の中には、まだeスポーツがどのようなものかを知らない方もいる。今回のイベントではeスポーツの企業対抗戦も実施することにした」、「ゲームタイトルを開発する会社ではないので、その意味では中立的な立場のコミュニティーともいえる」「今までに同様のイベントはなかったのではないか」などと、このイベントの特徴を挙げた。参加企業からは、「イベントを通じて他業種との方と交流することができた」といった意見が多く寄せられた。

 

3社は今後イベントに限らず、eスポーツに関する事業を共同で行っていくことも検討しており、例えばイベントに参加した企業から何かやりたいという声がかかれば、この3社で支援をしていくことも想定している。

「2、3年前と比べるとeスポーツに対する世の中の認知はとても高まっている。かつてはeスポーツ自体を説明することから始める必要があったが、今は、eスポーツで何をしていこうかというところから議論がスタートできる。このことも、今回のイベントに対する反響の大きさが物語っている」とのこと。このような環境変化も、イベントの盛り上がりにとって追い風になっているようだ。

 

「eSPORTS TRINITY」は、今後四半期に1度定期的な開催を予定している。次回は来年(2020年)1月の予定。今回会場は満員となったが、担当者によると、今回最終的に多くの方からの参加希望があり、チケットが不足してしまったとのこと。今後は規模を拡大する可能性も視野に入れている。

 

eスポーツが関わる産業は、ゲームや関連機器、イベント業界に限らず地方創生やヘルスケア、インバウンドなど、今後さらに広がりを見せていくことが期待されている。2018年の日本のeスポーツの市場規模は、Gzブレインによると48.3億円。まだ大きくはないが、3社はその奥にある、まだ数値化されていないとても大きなビジネス機会を見据えている。

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。