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「事業会社でのマーケターのキャリア構築」とは―第4回「MCA道場」が開催

写真:クレディセゾン クレディセゾン 相河 利尚氏


一般社団法人マーケターキャリア協会 (MCA) は12月3日、都内にて、マーケターのキャリア育成を目的とした「MCA道場」の第4回講座を開催した。

一つの事業会社に28年勤務

「事業会社でのマーケターのキャリア構築」をテーマとした本講座を担当したのは、MCA理事で株式会社クレディセゾン セゾン AMEX部 部長の相河利尚氏。「キャリア構築」が話題に挙がる際には、転職を重ねることで様々な経験や技能を培いながら職域を広げていく例が目立つが、相河氏は一つの事業会社に28年勤務。DMM.com会長兼CEOの亀山敬司氏による「一社に長く勤めるのも能力だ」という言葉を引用した上で、一つの会社とその同僚そして商品に長きにわたって愛情を注いできたことこそが自身の強みであると語った。

マラソンで実業団入りを目指す

小学校4年生のときに父親を病気で亡くした後、母子家庭で育ったという相河氏は、幼くして人間関係のあり方について深く考えるようになり、とりわけ出会った人々を「自分にとって敵なのか、それとも味方なのか」区別して判断する習性が身についたと告白。高校時代に反抗期のピークを迎え、大学時代に入ると今度はマラソンに熱中し出したという。

そのころに、同じ能力を持っていたとしても、良いチームや良い指導者に巡り合った人とそうでない人では成長の度合いが大きく異なるということを実感。自身の能力を高めようとする際に、環境を整備することの重要性を認識した。

箱根駅伝の出場選手とも肩を並べる記録を達成し、マラソンの実業団を持つ企業への就職を目指していたものの、実業団の選考会にはあえなく落選。大学4年生になっても練習に明け暮れていたため、就職活動の開始は相当に出遅れてしまい、その時点で求人を出している企業は限られていたが、縁があってクレディセゾンに入社することになった。

マーケティング業務は出たり入ったり

20代で結婚、さらには子どもが生まれたので、転職を考える余裕は一切なかった。マーケターとしてのキャリアが本格的に始動したのは、子育てがひと段落してからのこと。入社10年目となる32歳にして、社内公募への応募を通じて広告・宣伝部署への配属となり、この部署において、有効期限のない「永久不滅ポイント」の名称及びサービスを開発するなどした。

新天地では順調に実績を積み重ねていたが、やがて社長から直々に「お金を使うばかりでなく、自ら営業に出て稼ぐ」経験も必要との助言を受けて、東海支店、次に東京支店で営業の責任者となる。5年後には戦略企画部のマーケティング責任者としてマーケティング業務に復帰するが、その間にデジタルマーケティング業界は著しい進歩を遂げていたため、当初は「浦島太郎の状態」に陥っていたという。

「良いチーム」とは

続いて相河氏は、自身が影響を受けた人物として、コピーライターの糸井重里氏と仲畑貴志の名を挙げた。クレディセゾンの仕事を手掛けてきた両氏とは、「かなり近い位置」でともに業務に取り組んできたという。とりわけ糸井氏が運営する「ほぼ日刊イトイ新聞」が求人募集をする際に条件として「良い人」を挙げていることに感銘を受けた。

ここまで述べた後で、「マーケターの大切な仕事『チーム作り』」というテーマの下で、次の二つの課題について考えた上で、聴講者同士で議論するよう求めた。

良いチームとは?
「良いチーム」を作るために必要な要素とは?

シート:ワークショップ1 :マーケターの大切な仕事「チーム作り」

この問いに対して、聴講者からは、「ゴールに向かって皆が同じ方向を向いている」のが良いチームであるとの意見が出た。またそのようなチームを作るために必要な要素としては、「目指す目標に対してチーム全体が共感できていること」、「規律や約束をきちんと守ること」、「思いやり」などが挙がった。

また別の聴講者は、「成果を出す」のが良いチームであるとの見解を発表。必要な要素として、「同じ目的を持つための共通意識」「向上心や個性を持つ個人」「チームに属している安心感」などを列挙した。

相河氏は、自身が参考にしているという、ソフトウェア開発会社サイボウズ社の「サイボウズ式」に言及しながら、「理想を達成するために役割分担しながら協働する」のが良いチームではないかと発言。「理想への共感」、「公明正大」、「多様性」、「自立」、「議論」などを必要な要素に挙げた。

東池袋52はどう生まれたか

続いて相河氏は、入社22年目となる44歳にしてマーケティング業務に復帰した後に取り組んだ「東池袋52」という企画の経緯について語った。従来型のマス広告の効果が薄れ、また若年層における認知度が低下していることに対して課題意識を覚えていた相河氏は、人気アイドルグループの欅坂46が歌う「二人セゾン」という曲に着目する。クレディセゾン社の略称を連呼しているようにも聴こえるこの曲とのタイアップを企画するものの、同グループは既に競合社との取引を先行させていたため断念。そこで、仲畑貴志の助言などを受けて、自社及び関係会社の女性社員で独自のアイドルグループを結成するという決断に至る。

しかしながら、プロジェクトが始動してからも、会社の決裁はなかなか下りない。また既存の人事制度との整合性を取るにも苦労するなど、様々な制約を受けながらも、東池袋52のオリジナルソングのリリースまでこぎつけた。その結果、インターネット媒体やテレビ番組などにも大々的に取り上げられ、想定以上の反響を生んだ。相河氏はこの時の経験を振り返りながら、「最初から容易に誰もが集まるようなプロジェクトは意外と上手くいかない。様々な障害を乗り越えてこそ、他社や他人ができないことを実現できる」ということを実感したという。

部下と関係を構築する方法

東京支店時代、相河氏の管轄下に置かれた部下の人数はアルバイトを含めると約1000人。全員の顔と名前を覚えるために丸1カ月間を費やし、また部下の結婚式に出席した回数は3年間で100回近くに上った。相河氏は、それぞれの結婚式でのスピーチが決して同じものにならないように、事前に部下とその結婚相手にヒアリングを実施した上で、内容を練るなどの工夫を凝らしてきた。

ここまで述べた後で、今度は「リーダーシップ『人を育てる』」というテーマの下で、次の課題について議論するよう聴講者たちに求めた。

どんな教育を受けてきたか?~印象に残っている言葉~
人を育てるために必要なことは?~リーダーシップとは?~

この課題に対して、聴講者からは以下のような発表がなされた。

提案を通すために、PowerPoint資料において社長が好きなデザインを用いるようアドバイスされた
「ホームレスになっても再起できる能力が必要」といったスパルタ教育を受けた
アイデアを出した際に良し悪しの判断を下さず、議論を展開することに長けた上司がいた
一つひとつの仕事の質を維持するためにも、仕事を選びなさいと言われた

相河氏によると、クレディセゾンにおいては、感性やひらめきといった能力を開発するために、若いころから「とにかく遊べ」「いろいろなことに夢中になれ」と言われ続けた。またクレディセゾン社の林野宏会長からは、人の上に立つときに必要なものとして「Direction」、「Decision」、「Education」の3つを大切にしなさいと言われたことや、仲畑貴志氏からはどんな仕事をするときでも「他者の想いを想い、想い至る力」が必要という言葉を授かったと紹介し、講演は幕を閉じた。

2020年1月22日に開催予定の第5回道場では、MCA理事の秋山勝氏(株式会社ベーシック 代表取締役)が、「事業創造の視点からイノベーションを起こすマーケターになる」をテーマとした講座を担当する。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。