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「2020年はアプリ広告業界にとって変革の年になる」-アプリ内入札機能「アドバンストビディング」を装備したMoPubの展望[インタビュー]

「アプリ版ヘッダービディング」とも言えるアプリ内入札が日本市場でも導入され始めた。黎明期とも言える今だからこそ、その理想と現実が鮮明に映し出されている状況にある。Twitterの会社であり、アプリ内入札を始めとするアプリ媒体向けのマネタイズソリューションを提供するMoPubに現況についての見解を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

 

Twitterに集うデマンドを獲得できる唯一のチャネル

 

―自己紹介をお願いします。

 

MoPub Head of Japanの鈴木哲郎です。過去15年余りにわたり、プログラマティック広告関連の業務に従事してきました。2019年11月より、MoPubにおける日本市場の責任者として事業拡大に努めています。

 

―改めて事業紹介をお願いします。

 

2013年にTwitterと一緒になったMoPubは、モバイルアプリに特化した広告配信及びマネタイズのプラットフォームです。主にアドサーバー、プログラマティック取引のアドエクスチェンジ、アプリ収益化のためのメディエーションという3つの機能を持っています。国内外の主要なDSPとはほぼすべてつながっており、グローバル規模では最大級のマネタイズプラットフォームと自負しています。5月13日にはゲーミング分野で著名なDSPのCrossInstallの買収も発表しました。

 

―グローバル展開するその他の広告配信及びマネタイズのプラットフォームとはどのように差別化していますか。

 

主に2点あります。まずはオープン性と透明性を確保していること。広告の効果検証を行うIntegral Ad Science、MOAT、Media Trustといった第三者機関と連携することで、広告主様に対してはビューアビリティや広告在庫の質を担保し、パブリッシャー様にはトラフィックの質の安定やメディアのブランドセーフティを保つことに注力しています。またDSPとパブリッシャーの双方にBIツールのダッシュボード機能を提供し、細かい粒度でのレポーティングが可能となっています。これによりデータの透明性を確保しています。

 

2点目は、とりわけ日本国内では圧倒的に強力なTwitter広告の独自デマンドを持っていることです。Twitterの外部広告配信ネットワークとなるTwitterオーディエンスプラットフォーム (TAP)は、MoPub経由のみでの独占配信となっています。つまりTwitterに集まった強力なデマンドを外部にも流すことで、パブリッシャー様の収益最大化を図っているのです。

 

ハイブリッド型ゲームやコミックアプリが好調

 

―貴社における直近の事業動向をお聞かせください。

 

2018年から2019年にかけて、日本市場でお取引をするパブリッシャー様の数が2倍に増加しました。また、特にリワード動画の広告フォーマットの売上が好調で、年率4倍以上の成長を2年連続で続けています。

 

特に成長が著しいのは、ゲームとコミックのパブリッシャー様です。ゲームでは、課金と広告の両方で収益化を行うハイブリッド型のミッドコアゲームが増えています。業界内でもこれまで課金のみであった、LINE社のツムツムやmixi社のモンスターストライクがハイブリッド型に移行したのが象徴的でした。

 

また海外ではメジャーではないコミック系アプリが、日本市場では効果的にリワード広告を展開することで目覚ましい成長を遂げています。欧米市場と比較して、日本市場ではコミックアプリなどの非ゲームアプリも大きく伸びていることが特徴的です。当社が非ゲームアプリで必須となるネイティブ広告などの広告フォーマットを含めた全方位的な対応を行っていることが一因であると評価しています。

 

ちなみに例えば、カジュアルゲームのマネタイズにおいては収益性を追求するがゆえに、ひたすらCPMが高い広告が求められる傾向がありますが、非ゲームとなるとメディアのブランドセーフティを考慮するパブリッシャー社様も少なくありません。TAPというTwitter独自のデマンドを通じて、消費財や自動車メーカーなどのいわゆるブランド広告在庫を豊富に持つことが非ゲームアプリの拡大に寄与していると思います。

 

 

―その他日本市場全体の動向についてはいかがですか。

 

収益性の観点で言うと、コロナ禍以前はTAPが特に好調だったこともあり多くのパブリッシャー様で収益化は順調に進んでいたと感じています。コロナ禍以後の日本市場では、CPMはやはり下がり傾向で、例えば300×250のレクタングルバナーではeCPMが13%落ち込みました。一方で可処分時間の増加に応じてアプリ利用率が高まり、トラフィックは66%も増加しています。当社でお取引のあるパブリッシャー社様では全体的な収益はそこまで落ちていない、もしくはメディア様によっては上がっているところもあります。ただ皆さん総じて今後の状況に不安を抱かれており、フォーマットの追加の検討やアドバンストビディング(後述)など収益を上げるための新たな機能のニーズも高まっています。

 

―日本市場ならではの課題として感じられることはありますか。

 

海外市場と比較しても、日本市場ではアプリ広告を通じた収益化の手段がより複雑化している印象があり、オペレーション担当の方の負荷になっているのではという気がします。

海外だと当社のようなメディエーションで統合管理を行い、その配下で複数の広告ネットワークと連携することで各ネットワークの管理や追加を行っていくケースが多いのですが、日本ではSSPやネットワークなどプレイヤーも多いですし、アドサーバーやメディエーションを内製で作るというニーズも多いと感じます。当社でも統合プラットフォームとして運用負荷の削減や煩雑性を解消するための機能改善を進めております。

 

最近の成功事例としては、コミックアプリを運営するAmazia様が、自社で構築した広告呼び出しの仕組みの中でいくつものSSPやアドネットワークを呼び出していたものの、管理が煩雑だったのと柔軟にネットワーク追加ができないという課題解決のために当社のメディエーションに切り替えていただきました。その結果、運用工数と広告掲載の機会損失が減り、デイリー・アクティブ・ユーザー(DAU)当たりの収益が向上しました。リワード動画の在庫切れによるユーザーからのクレームも大きく減ったと聞いています。

 

ウォーターフォールは不完全なモデル

 

―貴社ではいわゆるアプリ内入札機能である「アドバンストビディング」を最近リリースしました。

 

かつてのウェブ広告と同様に、従来のアプリ広告の配信設定においてはウォーターフォールという垂直落下式で過去のCPMに基づき各アドネットワークを順に呼び出していくというモデルが一般的でした。ただこの方式では収益の最大化のためにネットワークを増やすとレイテンシーが発生しやすく、またあくまで過去CPMに基づいた順位付けのためリアルタイムで一番高い値付けをしたネットワークの呼び出しができません。つまりウォーターフォールは不完全なモデルです。

 

これを改善するための方法として「アプリ内ビディング」という方法が提唱されてきました。ウェブの世界ではヘッダー入札への取り組みが比較的早期から行われてきましたが、アプリでは技術的なハードルが高く、本格的な機能開発が進んだのはごく最近のことです。

 

基本的にはヘッダービディングと同様にすべてのアドネットワークに対して一斉にオークションのリクエストを投げ、リアルタイムで一番高い値付けをしたビッダーが落札するというシンプルな仕組みです。レイテンシーや、ウォーターフォール設計の複雑化による運用コストの増大といった問題を解決するソリューションとして注目されています。

 

つまりリアルタイムで最高額の入札を受けることができるだけではなく、現在はウォーターフォールによるレイテンシーを理由にマネタイズされずに消えていくインプレッションをも取り込むことができるようになります。アプリ内入札方式が浸透していくことで、全体のトラフィックも上がるはずです。

 

―アプリ内入札が普及すると、貴社事業にはどのような影響をもたらしますか。

 

当社ではこれまでエクスチェンジで接続しているDSPはすべてRTBで買い付けができたものの、連携するアドネットワークに関しては既存のウォーターフォールの仕組みに頼らざるを得ませんでした。今後はこれらのアドネットワークに関してもアプリ内ビディングの入札方式を通じて真の意味での統合的オークションを実施することができるようになります。

 

また当社ではネイティブを含めて従来のすべての広告フォーマットがアプリ内ビディングに対応しています。これから課題解決のためにアプリ内ビディングに移行したいというパブリッシャー様にとって、今使っている広告フォーマットをそのままご利用いただける意義は大きいはずです。

 

日本市場のアプリ内入札移行はまだこれから

 

―今後はアプリ内入札が主流になるのでしょうか。

 

実際に移行が大きく進むのは今年から来年にかけてといったタイミングになると見込んでいます。グローバルではゲームパブリッシャーをメインにアプリ内入札への移行は既に進んでおり、当社でも移行済みパブリッシャー数は2019年から2020年にかけて7倍に増え、アドバンストビディング経由の収益は54倍に増えました。日本はこの動きにこれから追随していくことになります。

 

そのためには、入札に参加するアドネットワーク側の取り組みの強化も必要です。今はすべてのアドネットワークが対応できているわけではなく、ここが増えないとアプリ内入札の普及は進まないでしょう。

 

―アプリ広告市場全体における今後の展望をお聞かせください。

 

今後はミッドコアやハードコアゲームのビッグタイトルも、課金と広告を合わせたハイブリッド型のマネタイズに移行していく潮流を感じており、個人的にも今後の業界の動きがすごく楽しみです。この動きに応じて、パブリッシャー側の変化だけではなく、これまでアドネットワークへの出稿を敬遠されていたブランド広告主様の広告も取り入れられるようになると、広告業界全体の流れが変わるでしょう。2020年はアプリ広告業界にとって変革の年になると期待しています。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。