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「コロナ禍でアプリの広告活動はむしろ活性化」-Adjustが考える「洗練されたアプリマーケティング」とは

外出自粛が続く中で、アプリの利用時間が増えている。ただし、どのアプリ事業者にとっても、状況は同じ。他のアプリに勝つためには、何が必要なのか。2019年に2件の国内企業を含む4件の企業・事業買収を行ったAdjust社に、最近の事業動向とアプリマーケティングにまつわる課題などについて聞いた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

日本市場での事業規模を急速に拡大

 

―改めて自己紹介をお願いします。

 

Adjustの日本ゼネラルマネージャーを務める佐々直紀です。当社はドイツのベルリンを拠点としながら、世界中の3万5000以上のアプリで導入されているSDK開発事業社です。アプリのインストールや流入元の計測及びその継続率やLTVの分析、不正防止、マーケティングオートメーションなどを実現するこのSDKを通じて、世界中の広告主に対し、マーケティング活動をシンプルそしてスマートにかつ安全に実行できる環境を提供しています。

 

―いわゆるアプリのアトリビューション計測企業としてどのように差別化していますか。

 

計測の正確さ、スピード、シンプルさで差別化しています。インストールだけでなくアンインストール、再インストール、アプリ内のイベントなどをリアルタイムで計測。扱うデータの粒度や種類が細かいことが特徴で、約170種類のローデータを扱うことができます。もちろん各種の個人保護基準を完全に満たす形で実現しています。

 

また近年では、アプリだけでなくウェブを含めたユーザージャーニー全体を把握したいという企業様に向けて、Adjustから両プラットフォームにおけるデータを転送し、お客様の環境でウェブとアプリのLTVや売上の比較分析なども行えるようになっています。さらにOTTの浸透により、Apple TVやAndroid TVなどからのユーザーの計測も可能にしています。

 

―2019年の日本市場では貴社による事業買収が相次ぎました。

 

アドウェイズ社が運営していたPartyTrackそしてCyberZのF.O.Xといういずれもスマートフォン効果計測ツールを譲り受けたことで、当社の事業規模はかなり拡大しました。現在は日本国内で600社以上のお客様に利用されており、日本で最も活用されている計測SDKとなっています。

 

リターゲティング、アドフラウド、プラットフォームの多様化

 

―アプリマーケティングにおける近年の目立った動きは何ですか。

 

リターゲティングに予算がだいぶシフトしました。とりわけEC、旅行、クラシファイド、不動産といった分野では、ダイナミックリターゲティングの活用がかなり進んだと実感しています。リアトリビューションが占めるアトリビューションの割合はショッピングアプリで73%、マーケットプレイスおよびクラシファイド広告では24%となります。アプリにおけるリターゲティング広告の出稿に扱うデータフィードはウェブ上のキャンペーンと同じなので、これまでウェブに注力してきた企業様も始めやすかったのではないかと想像します。

 

一方で、ターゲティングの精度やタイミング及びオファー内容においてはより洗練されたものが求められているというのも事実です。これらがユーザーの関心に合致しないと、すぐにアンインストールやアプリを入れても起動しないということになってしまいます。

 

ちなみにAdjustではアンインストールに関する情報を正確に計測できるので、再インストールを促すリターゲティングキャンペーンを効果的に実施することができます。

 

―各社の取り組みが進んだことで、アドフラウドが減ってきたとの声も聞きますが。

 

英国の調査会社であるジュニパーリサーチ社は、世界全体での2019年のアドフラウド被害額は420億ドル(約5兆円)、2023年には1000億ドル(約11兆円)と試算しています。ちなみに当社は昨年に約2億件の不正インストールを検出しており、この数値は年々増加傾向にあります。

 

「アドフラウドが減少した」と実感する広告主様がいらっしゃるとすれば、不正防止ツールを入れたことで、その直後は大量にフィルタリングに引っかかるが、その後は不正業者が標的を変更したことで、そのフィルタリングにかかる件数が減ってきたということなのでしょう。ただアドフラウド自体は依然として増加し続けています。

 

―アドフラウドが増加すると、大手グローバルプラットフォームの配信割合が増えるといった傾向はあるのでしょうか。

 

むしろ去年1年間で、広告主様そして広告代理店様がご利用になる広告プラットフォームの種類は19%増えました。つまりマーケターの皆様は、色々な広告プラットフォームを適宜試しているのです。多い場合だと、複数の広告会社を併用しながら、一度に30種類に及ぶネットワークや媒体を使います。

 

GoogleやFacebook以外で日本で伸びているネットワークは、Apple Search Ads、Twitter、TikTok、LINE広告、それにゲームパブリッシャー様によく使用されているのはironSourceやApplovinとなります。

 

このような状況においては、「広告がどこにどのように表示されているか」ということをしっかりと説明できるアドネットワークないしDSPでないと、広告主様の信頼を得ることは難しいでしょう。当社が創設し、現在では約30ネットワークに加入していただいているアドフラウド防止連合(CAAF)では、アドフラウドに関する情報交換を行いながら、引き続き課題解決に努めています。

 

またアドフラウドではないですが、当社独自の不正に対する取り組みの一つとして、2019年1月に買収したUnbotifyというツールを当社のSDKに統合しました。いわゆる不正botを検出する機能であり、これによりbotによるゲーム不正やEコマースでの買い占めと転売を防止することができます。既にいくつかのお客様にテストしていただいている段階です。

 

―OS別で異なる傾向は見られますか。

 

現状日本ではだいたいiOSが65%、Androidが35%の割合となっています。一方で、私がお客様とお話している中では、日本ではAndroidの方がアプリの継続率が高いということをしばしばうかがっております。恐らくAndroid端末は種類が豊富なので、自身の好みをはっきりと持ったユーザーが多くいることや、仕組み上プッシュ通知の許諾率が高いことと関係があるのではないかと思います。

 

マーケティング業務の簡素化にも注力

 

―アプリマーケティングに対するコロナ禍の影響についてお聞かせください。

 

世界的にインストール数やセッション数が増えています。顕著なのはテレワークにより需要が高まったビジネスアプリで、インストール数が136%、セッション数が278%伸びました。またゲームはインストール数が81%、セッション数が160%の伸び。レシピ、デリバリー、ライブストリーミング、音楽、コミックなども好調です。ただこの分野のアプリすべてが成長しているというわけではなく、もともと人気のあったものにさらに多くの人が集まっているという状況にあります。

 

また全般的には好調なゲームアプリであっても、キャンペーンやユーザー向けのイベントを実施していないものは落ち込んでいるものもあります。やはりユーザーの行動をきちんと考慮しなければ、この現況においても競合アプリに簡単にユーザーを奪われてしまいます。コロナ禍の影響で自然と利用者が増える分野であっても継続的な施策が求められています。

資料: Adjust社提供

 

―広告出稿に対する影響はありますか。

 

広告収益モデルを採用するニュースやクラシファイドにおいて広告費を抑える動きが出ている一方で、コロナ禍終息後を見据えて今から広告を増やそうという動きも同時に見られるので、全体的な広告予算はむしろ増えたと言っていいと思います。

 

ただし、全体的にアプリのセッション数が増えた結果、どのアプリ内広告枠もフルに稼働しており、広告単価自体は下がってきています。新規ユーザー獲得やリエンゲージメントには良い機会と言えるでしょう。

 

またアドフラウドは1月~2月で14%、2月~3月で16%増加しました。1月からの上昇トレンドというのは近年にはない傾向です。しかしコロナ禍でマーケティング予算が増えたことに伴い、不正も増えてしまいました。

 

―利用する広告プラットフォームの種類が増加し、オファー内容をより吟味しなければならず、アドフラウドが増えたとなると、マーケターの負担は増す一方ですね。

 

当社調べでは、マーケターは時間の8割をデータ集約、レポート作成、予算調整に追われています。そこでAdjustでは、当社プラットフォームの管理画面上で各種の広告プラットフォームにおける入札や予算調整ができる「コントロールセンター」という新機能をリリースしました。将来的には、広告の効果が一定以上高ければ予算や入札額を上げる、そうでなければ配信を止めるといった自動入札ないし自動制御ができるようになります。

 

また日本市場では広告会社に運用を委託することが多いことを鑑みて、広告会社の使い勝手を意識したカスタマイズを加えていく予定です。

 

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。