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ネット広告データ利用制限と、DMPトッププレイヤーのかじ取り[インタビュー]

ネットユーザーのプライバシー保護に対する法整備や大手プラットフォームによる規制が進んでおり、ネット広告配信のデータサプライヤーは、今後の事業のかじ取りの見直しが求められているが、トッププレイヤーは現状をどのように見て、今後どのような方向に向かおうとしているのか?

パブリックDMP最大手といわれており、昨年10月に上場を果たしたインティメート・マージャー 代表取締役社長 簗島亮次氏に、お話を伺った。

 

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

 

 

サード・パーティー・クッキー脱却は数年前から

―読者の方にとっては改めてではありますが、貴社の事業領域についてお聞かせください

当社は、DMPの中でもサード・パーティー・データを取り扱うパブリックDMPを提供しています。

もともとは、サード・パーティー・クッキーを使って潜在顧客や見込み顧客を提示し、ディスプレイ広告を中心にターゲティング配信をするための元データと、それを扱った効率化サービスを提供していたというのが、私たちのもともとのビジネスです。

直近でいろいろと取り組む領域が変わってきており、私達も、サード・パーティー・クッキーへの依存を減らしていく取り組みというのは、2-3年前から行ってきました。

当社に対するイメージは、サード・パーティー・クッキーやサード・パーティー・データを広告代理店に提供するビジネスをしているというものが強いかもしれません。しかし、もともとこのビジネスはそれほど長くは続かないと思っていました。それなので、ブラウザ側でリアルタイム処理を行う、つまりブラウザから機械学習APIを呼び出すことでユーザーを見つけてくるという仕組みを構築しています。

 

私たちが発行するタグ(通称「IMタグ」)からは、IPアドレスやユーザーエージェント、それ以外に今だと当社が持っているサード・パーティー・クッキーに紐づく属性情報などを、ユーザーがウェブサイトにアクセスをした瞬間に取得することができます。これを私たちがリアルタイムに機械学習で処理をすることで、そのユーザーが良いユーザーであるのか、そうでないのかという情報をサイト側に戻し、ターゲティングをすべきかどうか、拡張ターゲティングのために使うべきかなどを計算して、広告効率を高めるというようなことを行っています。このサービスは、2019年1月にリリースした『Performance DMP』という、GoogleやFacebook、Twitterなどの広告アカウントを介してディスプレイ広告の運用をアフィリエイトのような成果報酬型で提供するサービスです。

それ以外にも、『Select DMP』といわれる、企業IPをベースにしたビジネスも展開しています。これは、企業IPを使って営業効率を高めるようなサービスです。このようなクッキー以外のタグから取得できる情報を使ったサービスの売り上げの割合は、既に当社売上の20-30%程度にまでなりつつあります。

このように、現在は一般的なDMPと呼ばれているような事業とは若干異なることにも、ここ2-3年取り組んでいます。

 

―貴社の元々のDMPに対するイメージとはずいぶんと変わった取り組みですね。

はい、私たちは、精度の高いデータをリアルタイムで提供することを目指していましたが、ブラウザ側で自動学習をして処理をしたほうがより良い結果が得られるというのが行き着いた結果でした。リターゲティングのタグが発火する瞬間に情報をなるべく媒体に渡したほうが良いということです。そういう方向に突き詰めた結果、今の取り組みに至りました。

 

 

データではなく、データを使う仕組みを売る

―そうすると今後は従来のパブリックDMP以外の領域でビジネスを大きくしていかれるということなのでしょうか?

基本的にサード・パーティー・データであるか、ファースト・パーティー・データであるかという垣根は無くなりつつあります。取得できる情報の中から最適なものを集めて、マーケティングの効果効率を高めていけるような仕組みを提供するというような方向にシフトさせています。

 

―今後、サード・パーティー・データを活用したパブリックDMPビジネスは減少していくということでしょうか?

DMPビジネスにおいて、サード・パーティー・クッキーとは異なるサード・パーティー・データを活用するという方法もあると思いますし、別にサード・パーティー・データにこだわる必要がないとも思っています。当社はこれらを使いながらも、よりデータをリアルタイムで効率的に使うことができるような仕組みを提供していくという方向にシフトしていく予定です。私たちの中では、データ売りではなく、仕組み売りに代わってきているという感覚です。

 

 

サード・パーティー・クッキー規制に向けた二つの対応

―これからサード・パーティー・クッキーが使えなくなりますが、今業界はこれに対応してどのような方向に向かっていると思われますか?

大きく二つあると思っています。

一つ目は、進化版コンテキストターゲティングです。当社では、アカウントの自動化を進めていて、アクセスした瞬間にリアルタイムの情報を使ってターゲティングをしていく、いわゆるコンテキストターゲティングの進化版のようなものに取り組んでいます。

コンテキスト解析というのは、ページが表示された瞬間にその枠がどこに出ているかとか、その枠を見た人がどのような人なのかという情報を使ってターゲティングをするというものです。私たちの場合は、APIで取得した情報をもとに、そのユーザーがサイトを訪れた瞬間に判断しています。コンテンツターゲティングに近いものと言えます。

二つ目は、最近注目され始めているゼロパーティーデータです。今年の3月に総合PR会社のベクトルと「Priv Tech株式会社」という合弁会社を設立し、ユーザーから許諾を得たデータを使ったターゲティングという事業に今後取り組んでいこうと考えています。このように、リアルタイムでデータを処理するという方向か、あるいはゼロパーティーデータとして許諾をしっかりと得て、これを提供するのかの2パターンであると考えています。

欧米の動向を見ていても同じような方向に進んでいるので、日本も同様の方向に向かうであろうと思っています。

 

 

広告で育んだ仕組やデータを他領域へ、そしてまた広告へ

―貴社では現在データの活用を広告以外の領域に広げていかれています。広告領域のみでのデータビジネスを拡大していくのは難しいという認識なのでしょうか?

 もともと私たちはDMPというものを、データを使った最適化、効率化を実現するための仕組みとして位置付けています。

これを広告の領域に使えば現状のような提供形態となりますし、データを使った最適化の基盤を、例えば営業活動を効率化するというような、セールステックの領域に使っていくというようなこともできます。最近ではこの仕組みを使ってフィンテックの領域で与信審査の効率を高めていくところにも取り組み始めています。データを使って目標を達成するということを、最速かつ最適に行っていくためのプラットフォームとしてインティメート・マージャーの仕組みを元々考えてきました。この考え方に沿って、今までの仕組みを横展開し、他領域のビジネスも進めている段階です。

 

―今後従来の広告向けDMPビジネスは大きく変わっていくという認識でよいのでしょうか?

そうですね。当社においてもサード・パーティー・データに限らず、垣根を越えてGoogleなどのアカウントの最適化設定をして提供していったり、許諾管理の仕組みを提供していったり、あるいはアドテクノロジー以外の領域に事業を広げていっています。

 

―今後当面の貴社の成長ドライバーはどの領域になるのでしょうか?

当面伸ばしていくのは、広告以外の領域になります。広告以外の領域は、まだまだデータの最適化や効率化が全然できていないことが多いのです。

アドテクノロジーの領域は、GoogleもFacebookなどデータ解析や分析にものすごい強みを持つ人たちがいて、改善幅が限られています。ですが他の領域ではそもそもデータ活用がされていません。データを見ずに、勘と経験と度胸でやっているような業界がまだまだあります。そのような領域ではデータを使った効率化についての余剰が残っているため、まだまだ私たちもデータビジネスを大きく伸ばせる見込みがあると考えています。

 

―そうすると物理的には、貴社のビジネスの中で、今後広告領域のビジネスの割合は減っていくのでしょうか?

割合としては減っていくことになるかもしれませんが、売上を減らしていくというつもりはありません。むしろ他領域で得たデータを広告領域と融合させることで、新しいデータアセットを広告配信に取り込むことができると考えています。

例えば、今後フィンテックの領域で当社のデータを使って最適化を行い、ユーザーの判別がなされた時、これを広告の領域で活かすことができるかもしれません。データでさまざまな業種の改善をしたのちに、最終的には広告にも使いたいというケースは結構多くなると思います。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。