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「使命はゲームデベロッパーの参入障壁を下げること」―ゲームテックのironSourceが示す日本のハイパーカジュアルゲーム市場の今後[インタビュー]

極めて簡素な仕様で気軽に遊ぶことができるハイパーカジュアルゲームが、アプリ広告市場を牽引している。この市場の中枢で位置する広告プラットフォームの一つが、イスラエル生まれのironSource。ハイパーカジュアルゲームにおける日本市場ならではの課題や展望について語ってもらった。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

ゲームテック領域へ注力

 

―自己紹介をお願いします。

 

ironSourceで日本市場のジェネラルマネージャーを務める峯秀一郎と申します。当社はイスラエルに本社があり、2010年に設立されました。現在、グローバル全体では従業員が900名近く、その半数以上が開発者になります。日本においては2016年より展開しておりますが、特にここ数年における広告収益化ニーズを受け、急速に業績を伸ばすことができました。

 

―改めて貴社の事業紹介をお願いします。

 

弊社は、アドネットワークとメディエーションプラットフォームを提供し、モバイルゲームデベロッパーのグロースを支援するゲームテック企業です。弊社の提供するグロースエンジンは、従来は別軸で捉えられてきたユーザー獲得とマネタイズの双方を統合し、事業全体をスケールさせることを強みとしています。

 

従来の課金を中心としたゲームにおいては、ユーザー獲得とマネタイズは、別のものとして運用体制やKPIなど分けられてきました。しかし、広告収益型ゲームのマネタイズにおいては、広告収益およびアプリ内課金最適化で売上を最大化し、ユーザー獲得においては、獲得コストを最適化することにより利益を最大化することになります。マネタイズ側でユーザー一人あたりの売上が上がれば、ユーザー獲得側でのユーザー獲得単価を上げて、質の良いユーザーをより多く獲得することができ、最終的に売上が更に向上します。当社のメディエーションプラットフォームでは、こうしたポジティブな循環を産み出し、増幅していくための様々な機能やデータを提供しているだけでなく、それらのデータから導き出される知見や実行し得る施策の選択肢をも提供しています。

 

ハイパーカジュアルゲームと週刊誌の共通点とは

 

―貴社が得意領域とするハイパーカジュアルゲーム市場の動向についてお聞かせください。

 

米国ではこれまでいわゆるAAA(トリプルA)と格付けされた大手ゲーム企業が人気アプリランキングを独占していました。この点においては日本市場と極めて似た独占的な市場構造が続いたと思います。そこにハイパーカジュアルゲームを開発する欧州の名もなき小さなデベロッパーたちが大きく食い込んできたというのが現状です。

 

日本市場ではハイパーカジュアルゲームを受け入れる土壌がすぐには形成されなかったのですが、ここ数年はミッドコアゲームやソーシャルゲームが停滞してきたことに伴い、相対的に存在感が増しているように思います。

 

これに加えて、ハイパーカジュアルゲームはいわゆるゲーマーではない人々がゲームを始めるきっかけにもなっていると思います。かつて非ゲーム層が「Pokémon GO」に目覚めたのと構図は似ているのではないでしょうか。

 

「必ずしも読書家ではない人が週ごとに新たなコンテンツを買い求める」という意味では週刊誌ともよく似ています。この習慣が既に一般化しつつあるので、ハイパーカジュアルゲーム市場というジャンル自体は既にある程度まで確立されたとの印象です。

 

―日本のハイパーカジュアルゲーム市場に対する課題意識をお聞かせください。

 

ハイパーカジュアルゲームを入り口とする新たなユーザー層を、いかにして課金型のミッドコアやハードコアゲームにつなげることができるかが今後の課題です。現状においては、ハイパーカジュアルゲームの広告枠に出稿される広告はハイパーカジュアルゲームのものが割合として多く、基本的に無料でプレーできるハイパーカジュアルゲーム市場内だけで広告費を循環させている傾向にあります。今はまだ市場が成熟していない中で、「ハイパーカジュアルゲームのユーザーにはきっとこのくらいの価値があるだろう」という今後の期待を含めて広告が出稿されているに過ぎないのです。

 

今後、市場が持続的に拡大していくには、安定的なエコシステムを形成する必要があり、ユーザーによる課金や購入などの経済活動へつなげていくことが重要になってきます。ブランドや課金型ゲームの広告主もハイパーカジュアルゲームユーザーの特性を理解した上で効果的な広告出稿を実施していくことで、ハイパーカジュアル市場だけでなく、ゲーム市場全体がその恩恵を受けることができるのではないでしょうか。

 

サプライ・デマンドの循環がより重要に

 

―貴社では「アプリ版ヘッダー入札」とも言えるアプリ内入札の機能を装備しました。

 

広告配信で従来用いられてきたウォーターフォール方式においては、過去のデータに基づく予測しかできません。そこでリアルタイムで実際のインプレッション一つひとつに対して入札をするという理想を実現するための手段としてアプリ内入札があります。

 

言い換えれば、これまではパブリッシャーが構築したウォーターフォールでどの順序に付けているかによってアドネットワークやSSPを通じて配信される広告のパフォーマンスが変わっていましたが、この順序付けによる差異が薄れていくことを意味します。広告主側は、より効率的に買付ができるようになり、パブリッシャー側は、フロアプライス設定などの煩雑なウォーターフォール最適化運用業務から開放されるだけでなく、ウォーターフォールにおける競争環境を創出して収益性を向上させることが可能になります。

 

少なくともサプライ側の観点としては、市場全体がアプリ内入札へ移行することにより運用リソースやノウハウの違いによる収益性の差異が縮まっていくと考えられます。その分、デマンド側においてユーザー一人ひとりの獲得単価最適化による利益の最大化の重要性がグロースに大きく影響してくることになるでしょう。したがって、メディエーションプラットフォームの評価も単純なeCPMやフィルではなく、ユーザーエンゲージメント最大化やユーザー獲得スケールに必要な機能やデータがより重視され、まさにグロースエンジンとしての真価が問われてくるのではないでしょうか。

 

―日本市場におけるアプリ内入札の導入状況についてお聞かせください。

 

当社はこのアプリ内入札機能の研究開発にかなり早い段階から取り組んできました。日本市場においては、昨年まではややためらい気味に試行錯誤が続けられている状況でしたが、今年に入ってから導入するパブリッシャーの数が急速に増えています。今後は加速度的に普及していくでしょう。

 

ただし、メディエーションプラットフォーム側だけでなく、デマンド側とサプライ側を含めた関係者すべてが対応しなければこの新しいソリューションは機能しません。すべてのアドネットワークがアプリ内入札に対応しているわけではない現状を鑑みて、当社のプラットフォームでは、従来のウォーターフォール方式とアプリ内入札方式を併用するハイブリッド型での運用を可能としています。さらに昨年にはプラットフォーム上でA/Bテストができる機能をリリースしており、アプリ内入札に移行するパブリッシャー様にはまずこの機能を用いてA/Bテストを実施していただくことで、リスクを抑えつつ収益性を向上させることができます。

 

app-ads.txt普及に応じてRTB取引が活性化

 

―アプリ内入札の普及により、アプリ広告のプログラマティック取引が活性化するでしょうか。

 

アプリ内ビディングでは、ウェブで利用されているものとは大きく異なる技術を利用しているため、環境の整備に少し時間がかかりました。しかし、現状は市場における初期の問題はほぼ全て解決できており、今後ビッダーが増えるにつれて、サプライ側で急速に普及していくことになるでしょう。

 

また、昨年よりモバイルアプリの広告枠の販売者を識別するためのapp-ads.txtなどの取り組みが進められてきており、デマンド側でも積極的にRTB取引が活性化していくことになると考えられます。2020年は市場全体で、まさにアプリ内入札の飛躍の年になると考えており、当社においても年末までにはアプリ内入札市場において大きなシェアの獲得を予想しています。

 

―貴社事業に関して今後の展望をお聞かせください。

 

ゲームアプリにおける広告でのマネタイズが、日本市場でもここ1年くらいでようやく活性化してきました。従来は課金モデルを採用していたソーシャルゲームのデベロッパー様も今では積極的に広告モデルを導入しています。この領域でノウハウを蓄積してきた当社がお手伝いできる機会が増えてくると考えています。

 

またハイパーカジュアルゲームについては、日本のデベロッパー様を開発からリリースまでを一貫して支援する体制を整備しました。最近では当社が運営するゲームパブリッシング事業であるSupersonic Gamesと日本のカジュアルゲーム開発企業であるITI様と提携を締結し、ハイパーカジュアルゲームに特化したパブリッシング事業の日本市場での展開を本格化させました。これらの取り組みを通じて、日本のハイパーカジュアルゲーム市場における参入障壁を下げ、市場全体を活性化させることができればと願っております。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。