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動画広告の有効視聴最大化に向けたABEMAの広告ビジネスにおける取り組み[インタビュー]

テレビ&ビデオエンターテインメント「ABEMA」は今年6月、これまで難しいといわれてきたリニア放送での動画広告のパーソナライズド配信を実現した

サイバーエージェント 取締役で、AbemaTVの広告本部本部長を務める山田陸氏に、本取り組みを含めたABEMAの広告ビジネスにおける最新の取り組みについてお話を伺った。

 

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

 

広告をしっかり見てもらうが見せられている感覚を持たせない

―動画広告の需要動向についてお聞かせください

多くの広告主企業において「インターネット広告の動画化」がますます進んでいます。そうした状況のなか、ABEMAはオリジナルの若者向けの恋愛リアリティーショーやドラマの制作などに注力してきた甲斐もあり、20~30代の若年層に対してリーチできる数少ない動画メディアとしての評価を確立するに至りました。実際に化粧品や飲料メーカーなどのナショナルクライアントを中心とした出稿実績が増えています。

 

―広告の販売方法や販売チャネルについてはどのような形態を取っているのでしょうか。

広告の販売方法については、純広告が90%以上を占めます。プログラマティック広告の販売も増やしていきたいという思いはあるものの、プレミアム媒体としての特性を維持するためには、広告クリエイティブや広告案件そのものを厳しく審査する必要があります。そのため今のところは純広告販売が中心になっています。

また主なお取引先は、テレビCMも取り扱う広告会社が中心です。ABEMAでは商品の認知度の向上や商品理解の促進といったブランディング目的の出稿が大多数を占めます。

 

―ABEMAの動画広告商品を開発する上ではどんなことを重視していますか。

一つには、動画に限らずあらゆる広告形態に共通した重要事項として、ユーザーにしっかりと広告を目にしてもらい、そしてその広告を見たユーザーの行動や気持ちに変化を起こすということがあります。まずは、「しっかり広告を見てもらう」ということを重視しています。

例えば動画広告には一定時間経過後にスキップが可能なフォーマットがあります。ユーザーに対して広告視聴の有無を選択する自由を与えるために開発されたものですが、実際には毎回スキップボタンを押してしまうユーザーも多いと思います。そうであるにも関わらず、同じように「広告接触した」として計測することには疑問を感じます。

もう一つは、オンターゲット率です。例えばF1層を想定した広告配信であれば、実際にF1層に対してリーチできていること。この二点を重視しながら商品開発を進めています。

 

―ただし、広告をスキップできないことでユーザーの利便性は減少するのではないでしょうか。

ABEMAのリニア放送ではそもそも強制視聴の形式を取っていません。テレビ視聴と同じようにいつでもチャンネル切り替えつまりザッピングができます。また企業CMばかりだけではなく、視聴者の好みに合った番組の案内を挟みながらCMを配信しています。これにより、「広告を見せられている」という感覚はかなり軽減できていると思います。

 

リニア放送でも、ユーザーごとに動画広告の出し分けが可能に!

―6月に発表された、ABEMAのリニア放送における広告配信の最適化システムの概要をお聞かせください。

一般的なデジタル広告ではユーザー一人ひとりに応じて広告を出し分けすることがもはや当たり前になっていますが、リニア放送のように一つのコンテンツに対してリアルタイムで数百万人単位の人が視聴している状況で一人ひとりに異なる広告を配信するというのは技術的にも費用的にも難しい。この課題の解決を目指し、今回は思い切って開発に踏み切りました。

その背景には、ABEMAにはテレビ放送と同じようにチャンネルを合わせると配信中の番組を視聴できるリニア放送の広告在庫が豊富にあるということが挙げられます。リニア放送においてもCMの細かい出し分けができるようになれば、広告在庫をより効率的に活用することができると考えました。

実際に本配信システムを提供開始後、フリークエンシーのコントロールができるようになったこともあり、リーチ効率が向上しました。

 

動画広告における効果指標の標準策定を目指す

―動画広告ビジネスで感じておられる足元の課題と今後の注力領域についてお聞かせください。

動画広告の適切な効果計測と効果指標の設定については、どの企業も頭を悩ませていらっしゃると思います。現状は動画広告のリーチ数をKPIにしたり、商品認知率や理解度などのブランドリフトを計測するためにアンケートを実施したりすることが多いのですが、いずれにせよ、「数秒までしかCMを見なかった人」と「CMを完全視聴した人」の差異をつけずに「1カウント」としていることが問題です。

また、テレビCMの力は今でも非常に大きいと感じています。瞬間的にあれだけ多くの人々に受動的に動画広告を配信できる広告商品はまだ存在しない。インターネット広告と同様の精緻な効果計測ができないゆえに、本当はテレビCMを通じてブランドリフトを達成しているにも関わらず、その前後に視聴したインターネット上の動画広告がブランドリフトに寄与したと計測されている例が実は多いのではないかと思います。

こうした現状を踏まえた上で、インターネット上の動画広告の効果測定における標準を当社が策定できるほどまでにこの分野の研究を深めていきたいと考えています。

 

―具体的にはどのような効果指標が標準になり得ると思いますか。

当社では「有効視聴」という表現を用いて、例えば「F1層のユーザーに対してCMを配信したとき、そのうち実際にF1層に当たったのは何インプレッションか」と「そのうちCMを視聴完了したのは何インプレッションなのか」を把握することを重視しています。

各媒体では「F1層に向けて広告配信した際のF1層への到達率は100%」ということになっていても、当然のことながら、実際にはその中にはF1層でない人も含まれている可能性が高いです。また一般論として、ログイン機能を通じて詳細なユーザー情報を保有しているプラットフォームとログインなしでも利用できるプラットフォームとを比較すると、想定するF1層と実際のF1層の乖離は前者の方が少なくなります。

当社ではこれら既存の媒体が保有するデータを当社のデータとつなぎ合わせることで、ユーザー情報の精査を常時行うことができる仕組みを構築しました。またABEMAの視聴者に対してアンケートを実施し、想定と実態の乖離をできる限り少なくするための取り組みを続けています。

オンターゲット率と視聴完了率を掛け合わせた「有効視聴」は、現時点ではまだ一指標に過ぎません。いずれは業界標準として普及させていくために、本取り組みを今後は一層強化していきたいと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。