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「動画広告を誰も理解していない」状況から開拓―OneADが語る台湾の動画広告市場の過去と未来

米国や欧州に追随しつつも独自の発展を遂げてきた日本のアドテク市場。その推進力となる動画広告市場の未来を占う上で、他のアジア諸国の現況が参考になるのではないか。台湾の動画広告市場を先導してきたOneADのCEOがその市場状況についてつまびらかに語ってくれた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

99.8%の台湾ユーザーを網羅

 

―事業紹介をお願いします。

 

OneADの最高経営責任者(CEO)を務めるジョイス・リーと申します。当社は台湾のオンライン動画広告市場を牽引するアドテク企業です。また台湾の動画広告市場を開拓した企業としても知られています。

 

2010年の創業時は、まだ「オンライン動画広告」と聞いてどんなものであるか具体的なイメージを持つことができる人はほぼ皆無という状況でした。そこで当社は関連技術の開発やデジタル媒体に対する普及活動をほぼゼロの状態から始めなければならなかったのです。このような取り組みが功を奏し、今では台湾市場のオープンウェブにおいて最大規模のオンライン動画広告在庫を有しています。

 

また当社は台湾市場におけるデータテクノロジー企業の草分けでもあります。世界的なビジネス誌であるCIO Outlookの「ビッグデータ提供企業ランキング」に2年連続でトップ10入りを果たしているほか、ニールセン社にデータを提供。また自社開発したDMPとなる「OneDATA」は、台湾におけるオンライン・ユーザーの99.8%を網羅しています。

 

―台湾のオンライン広告市場の概況をお聞かせください。

 

台湾では2016年にオンライン広告支出額がテレビ広告支出額を追い抜き、以後も2桁成長を続けています。その中でも動画広告市場の成長は目覚ましく、2019年の伸び率は37%でした。

 

ただ動画広告市場単体としてはおよそ110億ニュー台湾(約400億円)であり、テレビ広告市場の190億ニュー台湾ドルにはまだ及びません。今後は第5世代移動通信システム(5G)導入が進められることなどを鑑みると、動画広告市場の伸び率はさらに大きくなると考えています。

 

アウトストリーム広告枠開発で市場を開拓

 

―台湾の動画広告市場はどのように発展してきたのでしょうか。

 

先ほども簡申し上げた通り、10年ほど前まで、動画広告を活用したマーケティングなど誰も理解していませんでした。まだYouTubeが普及する以前であり、そもそも動画コンテンツ自体が少なかったからです。そこで当社はそれまで台湾の情報サイトには存在していなかったアウトストリーム広告という新たな広告形態を開発しました。その結果、恐らく台湾は今では最もアウトストリーム及びインストリーム広告市場が発展した国の一つなのではないかと思います。

 

現在では、アウトストリームとインストリーム広告の両方を扱うことで、統合的な動画マーケティングを提供しています。非常に大きなシェアを持つYouTubeを除けば、アウトストリームとインストリームのそれぞれの市場規模はほぼ同じ大きさでしょう。

 

―台湾の動画広告市場における競合環境についてお聞かせください。

 

主に3種類のプレーヤーがいると認識しています。まずはGoogleやFacebookといった国際的なプラットフォーム企業。これらの大手プラットフォームによる売上が台湾におけるデジタル広告市場の7割を占めます。もう一つは独自のブランドネームを冠したPMPを販売する広告会社。これらの広告会社は当社のパートナーでもあります。そして最後に当社のようなアドテク企業が多数存在し、厳しい競争を展開しています。当社以外のアドテク企業の多くは動画広告分野への進出が比較的遅く、とりわけ広告クリエイティブのフォーマットの豊富さやデータ活用においては当社に強みがあります。アドテク事業者が新規参入を図るのは非常に難しい状況です。

 

こうした環境下において、ブランド広告主に対してテクノロジーとデータを提供する当社は台湾では希少な存在です。台湾市場全体を網羅した、人ベースかつほぼリアルタイムで更新されるデータを持つことを強みとしているため、グローバル企業が台湾市場に進出した際には、競合ではなく、パートナー企業として協業することが圧倒的に多いです。

 

―中華圏ではTikTokの存在感が大きくなっているのではないでしょうか。

 

TikTokは確かに若者の間での流行を受けて、広告事業を急成長させています。ただ現時点ではまだユーザー層の拡大期にあり、広告事業は本格化させていないのではないでしょうか。またプロダクトプレイスメントないしはインフルエンサーマーケティングにより適した媒体であり、いわゆる動画広告媒体としては当社と直接的に競合することは少ないとの印象を抱いています。

 

―どのような広告主が動画広告を出稿していますか。

 

テレビ広告の出稿企業が目立ちます。当社が台湾の動画広告市場で成功できたのは、テレビ広告予算をアウトストリーム広告へと転換させることができたからです。これらの企業の一部は、5、6年ほど前からインストリーム広告にも出稿するようになってきました。

 

その結果、インストリーム広告は大手ブランド広告主が、アウトストリーム広告は事業規模の大小に関わらず様々な広告主が出稿するという傾向になっているように思います。ただし、近年では「いつどこで広告を視聴するか」という点についてユーザーが選択権を持ち得るようになりました。その結果、受動的な視聴形態となるインストリーム広告だけでなく、消費者に対して能動的な視聴を働きかけるアウトストリーム広告を好むブランド広告主が増えてきているように思います。

 

アウトストリームには「インタラクティブ/プレイアブル」という独自の特徴があるからです。つまりブランドメッセージを伝えるようなストーリーテリングだけでなく、ユーザーのレスポンスを喚起することもできる。またアウトストリームはより多様な媒体に配信できるので、データもより多彩かつ洗練されたものとなり得ます。

 

情報サイト上のインストリーム広告枠で在庫を拡充

 

―日本ではまだOTT市場が黎明期であり、インストリーム広告の在庫が十分ではないと言われています。

 

台湾では過去数年間で、LiTV、KKTV、Taiwan Live TVといった動画配信サービスの拡大を受けて、インストリーム広告在庫が増えています。また最近では、いわゆる情報サイト上のインストリーム広告枠という新しい形態が出始めてきました。例えばテレビ局のニュース番組が情報サイトを立ち上げ、そのサイト上に動画プレーヤーを設置することでインストリーム広告在庫を作り出しています。

 

ただそれでも動画広告の需要の伸びに対して供給が追い付いていません。このような環境下においては、オープンウェブ上の様々なサイトを訪問するユーザーと横断的なコミュニケーションを取ることの重要性が増します。だからこそ当社は動画広告配信だけではなく、データ活用にも注力しているのです。

 

―インストリーム広告在庫が増えると、アウトストリーム広告の需要は減っていくと思いますか。

 

そうは思いません。インストリーム広告とアウトストリーム広告は異なる広告商品だからです。インストリーム広告の多くはスキップ不可なので、能動的そして受動的なユーザーの双方にリーチすることができます。一方のアウトストリーム広告では、興味がない広告であればユーザーはいとも簡単にスキップしてしまう。よってアウトストリーム広告のビューアビリティはユーザーの興味・関心の度合いを如実に反映することになります。言い換えれば、ユーザーの興味・関心に応じた広告配信が可能であると言えるでしょう。

 

また主に動画配信プラットフォームがインストリーム広告を採用する傾向にある一方で、アウトストリーム広告はありとあらゆる情報サイトが活用しています。よってリーチをできる限り広げたいのであれば、アウトストリームがより適しているかもしれません。一方で特定の区分にいるユーザーとのエンゲージメントを深めるのであれば、インストリームの方がより効果的でしょう。このようにそれぞれの特徴があるので、インストリーム広告とアウトストリーム広告のいずれかではなく、現在では双方を活用した統合的なマーケティングを実施することが多いです。

 

―台湾市場の動画広告配信における現在の課題は何ですか。

 

インストリーム広告市場の拡大に大きく寄与すると期待されるコネクティッドTVが台湾市場にはまだ普及していません。この事実は、TV、モバイル、デスクトップ、コネクティッドTVを横断して効果測定を行う技術が確立されていないことを意味します。

 

動画広告業界の成否の鍵を握るのはやはりデータです。だからこそ、私はすべての関係者に対して協力し合うことを呼びかけたい。「OneAD」を英語名とする当社の中国名は「果實夥伴」で、これは「成功のためのパートナーシップ」という意味です。創業以来、オープンインターネットに関わるできる限り多くの人々と手を携える必要性を訴えてきました。この思いは今も変わりません。

 

様々な関係者と協力し合いながら、動画広告とデータ活用を組み合わせることで、台湾の動画広告市場の発展に今後も引き続き貢献していきたいと考えています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。