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マーケティングオートメーションの潮流を押さえる-後編:導入支援企業に求められる変化と、ツールベンダーの最新動向

 

前回の記事では、クライアント側の知識が向上しMAを何となく導入する企業は少なくなってきたこと、MA以外のシステム関連ツールの導入が進み、企業のマーケターに高度なスキルと経験が必要になってきたことを説明しました。それらの進化に社員のスキルが追いついておらず、今後の課題になるであろうと考えられ、導入を支援する企業は変化を迫られています。今回は、MA導入企業の変化によって、導入を支援する企業がどのような変化を求められているのか、また各ベンダーの最近の動向についても解説していきたいと思います。

 

 

<導入支援企業の動向>

・顧客の変化に伴い支援企業も同様な変化を求められている

顧客の変化に伴い、我々に対する要望も高度化かつ多様化してきています。前回の記事でも少し取り上げましたが、近年のMA導入において基本機能を設定するだけではクライアント企業は満足してくれません。それよりも、MA担当者からはMAを組織的にどう活用していくべきか?という質問や、自社のマーケティング課題を一緒に議論し、解決に導くためのサポートを期待されるようになってきているのです。

これは我々にとって非常に大きな変化が起きていることを実感させられます。競合他社の活用事例を知っていれば良いようなレベルではなく、クライアント企業のマーケティング課題の洗い出しから効果的な施策立案、実施までも求められてきているのです。しかし、これまでのMA支援企業の多くはITシステム開発など技術的な側面に強みを持つ企業が請け負ってきました。多くの社員はマーケティングや組織課題のコンサルティングというよりはシステム寄りの人間の集まりであり、支援範囲はあくまでシステム領域にあります。つまり、クライアントの求める内容と支援企業が持つスキルにズレが生じてきているわけです。

近年の支援企業には、大手コンサルティング会社や大手広告代理店を除けば、マーケティングの戦略立案からシステム開発まで請け負うことの出来る企業は多くありません。そのため、クライアント企業は課題ごとに支援企業を選別しそれら支援企業をまとめ、成果に繋げるための外部企業マネジメント力も求められています。

 

・MAツールは今後さらに操作が簡単になっていく

また、今後MAツールはどんどん操作が簡単になっていくことが想像されます。最近でも「ノーコード」という言葉が飛び交っていますが、利用者にSQLやHTML/CSS・その他プログラミング言語の習得を要請するようなツールは淘汰されていくものと考えられます。プログラミング言語を習得しなければ操作できないようなツールは、忙しい日本企業のサラリーマンにはあまりにもハードルが高いからです。そうなると、MAの操作レクチャーや設定を代行するような業務の価値はどんどん低くなっていくでしょう。昔、PCを操作出来る人が珍しかったのが、誰でも使えて当たりまえになったように、MAはより使いやすくなり、誰でも簡単に操作出来るようになると考えられます。
また、ツール操作が簡単にならなかったとしても、導入企業のリテラシーが全体的に向上することは間違いありません。デジタルツールを使いこなすための基礎知識を持つ人が多くなることでも、設定を代行する業務の価値が低くなり、これまでのような支援内容では断ち行かなくなる可能性は極めて高いのです。

 

・支援企業の行き先は、「技術路線か」「コンサル路線か」

ここまで、クライアント企業からマーケティング支援や組織課題に関する相談も増えてきていることを述べてきましたが、それは相談の一つの方向性に過ぎません。クライアント企業からは、「Tableau(タブロー)」や「CDP」などもっと高度なツールとどう連携させるべきなのか?という相談も増えてきています。また今後は、それらをどう活用することで利益を出していくのか?という、より高度かつ広範囲な相談が出てくると考えられます。今はまだ少ないですが「AI」をどうMAと連携させるべきか?という相談も増えていくでしょう。

このような技術的な相談も見込まれる中で、支援企業はこれまで通りの設定代行的な業務だけでは断ち行かなくなると考えるのが普通です。クライアント企業からは多角的な分野での支援を要求される中で、支援企業はどう変化すべきなのでしょうか。

これは個人的な見解に過ぎませんが、支援企業には2つの方向性があると考えています。つまり、「広範囲なシステムとの連携を実現する技術的な側面のサポートを得意とする企業」もしくは、「ツールを組み合わせてどう利益を出していくのか?という課題解決を得意とするコンサルティング企業」のどちらかになるのではないか?と考えています。

<ツールベンダーの動向、MA製品の傾向>

・AIスコアリングや分析ツールの高度化:顧客をより深く知るための機能拡張が続く「Salesforce」

次に、各ツールベンダーの動向について述べていきたいと思います。
今、日本で最も導入されているMAはSalesforce社の「Pardot」です(※)。このPardotの今の最大の「売り」はAIです。Einsteinリードスコアリング機能が備わっており、各リードが商談につながる可能性がどれだけあるのか?を商談に至った顧客データを教師データとして0~100のスコアで自動的に提供してくれます。
これまでの、顧客の属性や行動から計測するスコアリングを利用してきた企業は、深い顧客理解があれば適切なスコアを設定することが出来ましたが、ほとんどの企業がスコアリングの限界を感じていました。Einsteinリードスコアリングによる自動スコアリングは、従来のスコアリングが確度の高い見込顧客を選別するためには不十分であったことを考えると非常に魅力的です。
しかし、分かっている人には分かりますが、BtoB企業におけるレコード数は多くても数十万件程度しかありません。そのため、どれだけ質の高いデータを用意することが出来るかがカギになります。次は、そこが大きな課題になっていくでしょう。基本的にデータ量が少ないと顧客が想像しているような優良顧客の抽出は難しいものです。そのため、AIを頼って営業活動をするという近未来的なやり方はまだまだ先になりそうです。

また、Salesforce社は買収によってさまざまなデジタルツールと連携できるようになってきています。最近ではSlack社を買収し米国内では早速連携できるようになってきました。また、少し前には「tableau」を買収し、Pardotで得た情報をtableauで分析できるようになってきています。しかし、tableauなどのツールを使いこなすにはスキルが必要とされ、どんな企業でも活用できるレベルになっていないのが現状です。

Salesforce社は、もともとはSFAの企業ですが、近年ではその周辺の機能拡張への投資に積極的でSFAという枠にとらわれない巨大企業になっています。前述のように近年の企業のマーケティングは、非常に多くのツールを駆使することで実施されるようになってきており、その煩雑さやデータ統合の難しさに課題を感じる人を満足させようとする点においてSalesforce社は今後も注目すべき企業であると考えられます。

 

・Sales機能の追加など幅広い機能を提供し始めた「HubSpot」

日本において、2番目に導入されているツールはHubSpot社の「HubSpot」です(※)。世界的に見ても導入企業数トップクラスを誇るツールです。
これまでHubSpot社は「MA+CMS」を特長に、インバウンドマーケティングという概念と手法で事業を拡大してきました。導入支援企業もWeb制作会社が多くITシステム関連の企業が導入するようなケースは実は少なかったのです。そのためか、導入する企業も比較的小さい規模が多い印象です。

しかし、近年では「MA+CMS+CRM」という形で、マーケティングからセールスまでを統合的に運用できるツールとしての立ち位置を強化してきています。Salesforce社のSales Cloudとはまだ大きな差があるとはいえ、営業のデジタル化が進んでいる中では大きな武器になる可能性があります。HubSpotは操作性が非常にシンプルで素人でも扱いやすいのが特徴でありメリットですので、難しく感じるSales CloudよりもHubSpotのSFA機能の方が扱いやすいと判断する場合もあるでしょう。その場合も中小企業や中堅企業がメインターゲットになってくるだろうと予想されます。Salesforce社はエンタープライズから零細企業まで幅広くカバーしようとする傾向がありますが、HubSpot社は明らかにSalesforce社とは違うセグメントを狙ってきていることを感じさせます。また、営業スタイルもSalesforce社とは全く違うため、色々な意味で違いが出てくると言えるでしょう。

いずれにせよ、ツールベンダーの動きの傾向は、「機能の多角化」であることは間違いないと思われます。その動きの根拠になるのは、前述したように顧客企業が多くの種類のツールを使い始めていることで課題が生じてきていることが挙げられます。ツールベンダーも必要な投資が出来る・出来ないで各社の差になっていくでしょう。

 

・Cookieless|MAもサードパーティクッキーからファーストパーティクッキーへ

最後に、ツールベンダーに関連する変化で外せないのがサードパーティCookieの廃止でしょう。Google社が来年から再来年にかけて段階的に実施するサードパーティCookieによるトラッキングの廃止に関しては、閲覧履歴を取得し、その行動結果に応じて施策を実施できるMAツールにおいても大きな問題の一つです。しかし、そのような中で各ベンダーの動きは一通り完了していると言えます。ほぼすべてのMAツールがすでにファーストパーティCookieを発行できるようになっている(もしくは元々ファーストパーティCookieだった)こともありMA界隈では、この問題に対して大きな話題にはなっていません。ただ、クロスドメインのトラッキングが出来なくなったため、企業各社はどうクロスドメインで閲覧履歴を取得するのかについて知恵を絞る必要があるでしょう。

(※1)Techgence社調べ「国内MAツールTOP5(2021年2月16日)」https://tecgence.com/topics2021.html

 

 

<まとめ>

近年、いろいろなマーケティング施策を実施し、MA関連の知識を蓄積した企業が増えてきました。同時にいろいろなツールを使うようになり、それらのツールとMAをどう組み合わせて活用するのかという新しい分野での知見も必要になってきています。しかし、そのような変化に社内や支援企業のスキルが追い付いていない現状があります。支援企業は、クライアントの要望に応えるために、「技術的支援企業」か「コンサルティング企業」のどちらの方向に進むべきかを迫られていると言えるでしょう。
また、ツールベンダー各社は、バラバラに活用されているツールを自社のツールで統一しようと機能を拡張していることがうかがえます。幅広い分野で活用できるツールや機能を拡充することで囲い込みを狙う企業が増えてきています。また、そのような投資が出来ない企業は今後厳しい経営状態になることが想像されます。

MAの高度化・大規模化に伴って利用する企業側のスキルも高度化し、導入支援企業も含めてより組織的な運用が求められています。デジタルが様々な分野で中心的な存在になってきたからこそ、デジタル人材にはより広範囲かつ高度なスキルが求められていることを実感しています。

そして、このような変化の中で生き残るためには、企業・支援企業・ツールベンダーの3者共に「適切に変化出来るかどうか」が大きな課題になってくることは間違いないでしょう。私たちは今大きな行動の変化を求められています。この変化にどう対応すべきか真剣に考え、行動しなければなりません。

 

ABOUT 赤沼 悠介

赤沼 悠介

株式会社24-7
マーケティングエージェンシーで戦略の立案や制作に従事後、MAの導入支援企業にてPardotやHubspotの導入支援、 BtoBマーケティングの戦略立案、オウンドメディアの運営などに携わる。2020年、24-7へ入社。 MAの導入支援や企業におけるマーケティング戦略の立案を行う。