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「プライバシー制限は追い風」―Reproが示すCookieレス時代の道標

各種のプライバシー制限によってリターゲティング広告の有効性が低下すると見込まれている中で、ファーストパーティデータの重要性が改めて注目されている。ただし、自社でデータ環境を整備するのは容易ではない。「B to C企業向けのMAツール」として新規市場の開拓を目論むReproの代表取締役を務める平田祐介氏に、Cookieレス時代のマーケティングのあり方について話を聞いた。(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

 

クロスチャネル対応のMAツール

 

―改めて貴社の事業紹介をお願いします。

 

日本初のスマートフォンアプリ向けマーケティングツールとして創業し、以後は製品のバージョンアップに努めてきました。アプリ市場の一定シェアを獲得したことを受けて、クロスチャネル対応を行うべく、2018年10月からはウェブ接客サービスを合わせて展開しています。

 

例えば不動産情報であれば、移動中にアプリを立ち上げて気になる物件をお気に入り登録し、自宅に戻ってからPCで家族と一緒に詳細を確認する、ということが往々にしてあると思います。アプリとウェブそれぞれのデータを統合した上でマーケティングコミュニケーションを設計しなければならないのは明らか。顧客企業の課題解決のためにも、当社のさらなる発展のためにも、現在はあらゆるチャネルに対応したMAツールとなることを目指しています。

 

―アプリ事業とウェブ事業では勝手が異なるのではないですか。

 

アプリやウェブの再訪または課金を促すことを目的として、ユーザーのオンライン行動データに基づきパーソナライズされたメッセージを出すという点において両者の違いはありません。

 

例えば「カートに残っている商品を買わなくていいのですか」といったメッセージは、アプリプッシュ、ウェブプッシュ、メール、ウェブ接客、アプリのポップアップといったありとあらゆる形式で伝えることができます。いずれも一度自社サービスと接点を持ったユーザーの興味や関心を高めた上で顧客化するための施策の一環です。

 

「接点を持ったらリード獲得」が合言葉

 

―「一度接点を持ったユーザーを顧客化する」ためにこれまで活用されてきたリターゲティング広告の効果が、Cookie制限などを受けて今後悪化すると見込まれています。

 

今後は広告以外の手段で消費者とマーケティングコミュニケーションを図る傾向が強まることが想定されます。実際に当社への引き合いが増えてきており、顧客層は今後確実に拡大していく見込みです。Cookie制限やIDFA制限は、当社事業にとっては追い風です。

 

―「広告以外の手段で消費者とマーケティングコミュニケーションを図る」となると、具体的にはどのような施策が考え得るのでしょうか。

 

B to C向けマーケティングがB to B向けのようになっていくかと思います。B to B向けマーケティングでは、何かしらの認知施策を実施後、さらにマーケティング施策を打って興味や関心を持ってもらい、いわゆる名刺やメールアドレスといったリードの獲得に至ります。そのリードにスクリーニングをかけて有効リードを絞り、インサイドセールス部隊がメール配信などを通じてナーチャリング活動を行い、自社主催セミナーに参加してもらった上で営業部隊に引き渡して契約を締結する、というのが一般的な流れです。

 

CookieやIDFAの利用制限が課されることでターゲティングができなくなると、マス広告を打った後のナーチャリング活動の重要性が高まります。言い換えれば、B to C企業においても、直接的に連絡できる関係を構築したリードの獲得という段階を踏まなければならなくなる可能性があります。

 

―B to Cでのリード獲得とは面白い観点ですね。

 

そこで重要になるのが、いわゆるゼロパーティデータの取得です。サードパーティCookieが廃止されると、あるウェブサイトを訪問したユーザーが会員登録をせずに去った場合、二度とそのユーザーを追いかけることができなくなってしまいます。当社では「接点を持ったらリード獲得」を合言葉として、ユーザーがウェブサイトを訪問した時点でゼロパーティデータを取得することを推奨しています。

 

先進的な企業は既にこうした施策を実施しており、Cookieレス時代に向けての準備を着々と進めています。

 

「技術的なハック」依存から頭を使う時代へ

 

―今後はマーケターの業務内容が多様化しそうですね。

 

これまでのデジタルマーケティングでは、技術的なハックが可能でした。GoogleやFacebookといった大手プラットフォームに所属する数千人単位の天才エンジニアが築き上げた高性能のアルゴリズムがきめ細かいチューニングをしてくれるので、マーケターはそれほど深く考えずとも複数の広告クリエイティブさえ用意すれば、あとはお任せ。広告効果は自ずと高まり、売上も上がるという日々を過ごしてきました。

 

ところが、各種のプライバシー制限によって個人を特定した広告が打てなくなれば、自社の製品を購入してくれそうなのはどのような人々で、どのようなメディアを消費し、どうしたら興味や関心を持ってもらえるかということについて頭を働かせざるを得なくなります。ファーストパーティデータの取得や活用にも取り組まなければいけません。つまり技術的な課題解決だけでなく、想像力を使いながら、自分の頭で考える必要が出てくるのです。

 

―マーケターはそのような状況変化にいかに対応すべきだと考えますか。

 

当面は、広告会社が機能を拡大していくことで対応していくことになると想像します。ただし、製品やその顧客についてよく知っているのは、やはり各企業のマーケティング部署の方々です。ある程度までノウハウが確立されれば、各社のマーケターがインハウスで担うようになっていくことになると思います。

 

そうした現状と未来を見据えて、当社もマーケティング業務を代行するプロフェッショナルサービスをご用意すると同時に、各企業のマーケターを支援することを目的に「Repro Marketing Academy」を立ち上げました。当社のツールをご利用のお客様に対して、マーケティングコミュニケーションの設計について学ぶことのできるEラーニング向けコンテンツや議論の場を提供しています。

 

―MAツールだからと言って、データを放り込めばあとの作業は自動化できるというわけではないのですね。

 

もちろん、最終形としては完全自動化を目指しています。そのための機械学習を既に開始しており、恐らく今後5年以内にMA領域に関わる作業の約9割は自動化できると見込んでいます。

 

ただし、例えば高級で検討期間が長い商材では個別接客が引き続き求められるでしょう。自動化できる部分と、人間との対話が必要な部分が今後は住み分けされていくのだと思います。

 

「B to C企業向けのMA」という新ジャンル

 

―アプリ以外の分野に進出したことで、競合企業も増えたのではないでしょうか。

 

MA分野だけに限定しても、ウェブ市場はアプリ市場の数十倍の規模があると思います。それだけ競争も厳しくなりますが、当社の製品力とサービス力があれば勝ち切れるという自信はあります。

 

例えば当社のツールでは、ユーザーをセグメントする際にグラフィックユーザーインターフェース上で設定できるので、プログラミングの知識を必要としません。一方で、SQLなどのデータベース言語を扱わないとセグメントできないMAツールが世には存在しています。ただSQLの知識を持っていて、シナリオ設計もできるマーケターなどそう多くはいません。

 

さらに言えば、使いやすいグラフィックユーザーインターフェースが整備されていたとしても、自分の手を使って操作する時間を確保できるマーケターは少ないというのが現状です。合わせて完全運用代行を担えることが当社の強みとなっています。

 

―MA市場自体は既にある程度まで成熟しているのではないでしょうか。

 

現在では「B to C企業向けのMA」という新しいジャンルが立ち上がりつつあります。従来はMAというと、B to B企業向けにメール配信を自動化する機能を有するツールを意味していました。

 

ただこの従来型のB to B向けMAツールでは、B to C企業のマーケティングに対応できません。まず、メール単体での重要度が相対的に落ちているので、アプリやウェブといった他のコミュニケーションチャネルを持っていなければ効果的なマーケティングを実施できません。

 

さらにB to Bにおいては、顧客データをリアルタイムで処理できずとも大した問題にはなりません。一方でB to Cではユーザーのステータスが目まぐるしく変わるので、リアルタイムに変更し、その変更に応じたコミュニケーションを的確に打ち込む必要があります。その意味では、インターネット広告におけるリアルタイム入札(RTB)とやや似ているかもしれません。

 

これらの機能を網羅したツールはまだ少なく、まだMAツールの必要性を感じていないB to C企業もまだ多く存在します。B to C企業向けのMA市場は、まだまだ成長の余地が大きく残されていると実感しています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。