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英紙「ザ・サン」が掲げる成長戦略:顧客、インサイト、レジストレーション

2021年のATSロンドンを前に、ニューズUKでタブロイド紙「ザ・サン(The Sun)」の事業計画ディレクターを務めるポール・フード氏は、ザ・サンの成長戦略のポイントを3つ挙げた。それは、ユーザー登録時のインセンティブ、プラットフォームとの連携、エンゲージメントやデータ収集の継続的な実験の3つだ。

パブリッシャーにとって、2021年最も注目しているトピックは、サードパーティCookieが終焉を迎えることだろう。大きな問題は、何がサードパーティCookieに置き換わるかだ。

登録時のインセンティブ、プラットフォームとの連携、継続的な実験が、ザ・サンが成長のために活用している3つのツールだ。

 

ザ・サンの記事は常に私たちの出発点になる。私たちにとっては、エディトリアルコンテンツが常にビジネスの中心である。それが私たちのエコシステム全体を動かしているエンジンルームなのだ。これがなければ、私たちは顧客を一人も獲得できない。これがあるおかげで、私たちは1日あたり約940万人の読者にリーチできている。言い換えれば、英国の成人の72%が毎月ザ・サンのコンテンツを読んでいるのだ。

 

私たちは2年以上前から、サードパーティCookieがこれらのオーディエンスの識別子(ID)ではなくなることを知っていた。言うまでもなく、私たちはこの2年間を有意義に使ってきた。私たちがこれまで行ってきた実験の結果は、すでに確立されているメディアブランドにとっては、この課題はむしろ大きなチャンスだという確信を与えてくれた。

 

ザ・サンでは、次の3つの基本的な柱から成る戦略を策定している。

 

  1. ボリュームを維持しながら、登録ユーザーの価値を高める
  2. 読者の参加を促す
  3. データの収集、使用方法を継続的に改善する

 

私たちはいくつもの取り組みを進めているが、そのうち3つをここで紹介しよう。

 

ニューズUKの事業計画ディレクター、ポール・フード氏

登録時のインセンティブ

これは何年も前から行っていることだ。読者にエンゲージするための非常に効果的な手段であり、デジタルではさらに容易になる。

 

その好例が、ザ・サンのよく知られている「ホリデーズ(Holidays)」プロモーションだ。英国の家族が国内と欧州の300を超えるホリデーパークから好きなものを選び、1人当たり9.5ポンド(約1460円)で休暇の予約ができるというものだ。毎年最大30万の読者がこのプロモーションに参加し、紙面に掲載されるポイントを集めている。

 

これによって私たちは、(読者の)氏名、住所、連絡先だけでなく、休暇旅行の好み、家族の人数、そして今後の家族向けオファーへの積極的なオプトインを手に入れることができる。その結果、レゴランド(Legoland)やアルトン・タワーズ(Alton Towers)の割引チケット、毎月開催している宝くじ「ザ・サン・ラッフル(The Sun Raffle)」の無料エントリー、「ザ・サン・ビンゴ(The Sun Bingo)」ゲームが無料になるボーナスなど、よりターゲットを絞ったオファーを提供できるようになっている。

 

私たちは今後もプロモーションやオファーを通じて、最も熱心な読者のデータを収集していくつもりだが、2020年11月には、さらに一歩、歩を進めた。エンゲージメントが特に高い読者をより良く知るための次なる段階として、ザ・サンのモバイルアプリでのレジストレーションを追加したのだ。

 

半年にわたるテスト運用によって、モバイルアプリでコンテンツを消費するエンゲージメントの高いオーディエンスから、豊富な顧客データとインサイトを得ることができた。

 

特に、5月にリリースした新アプリの「常時オン」コンペティション&オファー(Competitions & Offers)セクションは大好評だった。これは、アプリ内の領域にあって、登録ユーザー限定の割引オファーや人気の賞品が当たるチャンスなどを用意している。トライアルの期間を通して、一貫して非常に高いレベルのエンゲージメントと登録意向が見られた。今では、読者に、アプリの全エリアにアクセスするためには一度登録してもらうよう促すことで、エンゲージメントは高いもののほぼ匿名だったオーディエンスを、身元の分かる“つながった”オーディエンスに変換することができると確信している。

 

プラットフォームとの連携

プラットフォームが、しばしばトラディショナルなパブリッシャーのフレネミー(friendとenemyを組み合わせた造語で、「友でもあり敵でもある存在」の意味)と呼ばれるように、パブリッシャーとプラットフォームが真に調和するための「決め手」はないようだ。それでもザ・サンでは、コンテンツへのカスタマージャーニーを向上させるため、可能な限りプラットフォームと連携するという考え方が強くなっている。

 

登録行程のシームレスな連動によって、匿名の読者をズムーズに身元の分かるログインユーザーに変換することができるからだ。プラットフォームが開発しているツールやAPIを導入すれば、読者はグーグル、フェイスブック、アップル等のアカウント情報を使って、ユーザーアカウントを作成でき、安全にログインすることができる。

 

実験やパートナーシップのレベルは、プラットフォームごとに異なってはいるが、いずれにしてもプラットフォームと連携することで、読者と私たちのビジネスに利益がもたらされることがわかりつつある。

 

継続的な実験

老舗メディアブランドのもう一つの利点は、何十年もかけて読者とのあいだに育まれてきた親しみと信頼の絆だ。この絆があるからこそ、私たちは新たな顧客への提案を企画し、テストし、新たな方法でつながり、エンゲージメントを深めることができる。9月に実施したミニクルーズ「シーケーション(SeaCation)」は、全く新しいザ・サンの体験として読者に大人気を博した好例だ。

 

イマジン・クルージング(Imagine Cruising)と提携し、豪華客船「リーガル・プリンセス」号での5日間のユニークな旅行体験を企画した。サウサンプトンを出港した後、ABC、ニック・カーショウ、トーヤ、トゥパウといった80年代のスーパースターによる船上でのライブエンターテインメントショーが行われ、クルーズ初体験の読者たちは手ごろな価格でクルーズライフを味わうことができたようだ。

 

1000人限定の予約はすぐに埋まり、参加者の誰に聞いても、素晴らしい旅だったという。数週間たった今でも、私たちのもとには肯定的な評価が届いている。現在、追跡調査で得られたインサイトを精査しているところだが、言うまでもなく、現実世界でのデータやフィードバックはとても価値がある。

 

インサイトにせよ、事業計画に役立つデータにせよ、これほどのレベルのものはCookieからは決して得られないものだ。メディアビジネスはさまざまな課題に直面しているが、私たちがザ・サンで実証しているように、Cookieの終焉は、必ずしもオーディエンスターゲティングの終焉ではないのだ。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。