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キーパーソンがみた、デジタル広告業界の2021年と2022年[インタビュー]

 

昨年に続き、デジタル広告業界に長年携わり、本メディアでも度々登場している、ネクスジェンデジタル株式会社 代表取締役社長 兼 SMN株式会社 アドテクノロジー事業 執行役員 谷本 秀吉氏に、2021年の業界トピックを振り返ってもらい、2022年の展望を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

 

 

-2021年にデジタル広告市場では、大きくどのようなことが話題になりましたか? 幾つかのトピックスについて、お話をいただけますでしょうか?

 

谷本氏:私が選んだ2021年のデジタル広告業界の主なトピックは以下5つです。

トピック①
新型コロナは収束せず、デジタル広告業界にも引き続き大きく影響

トピック②
21年4月 Apple ATT(App Tracking Transparency) を導入し、IDFA(広告識別子)利用をユーザー承認型(オプトイン)に移行

トピック③
21年6月 GoogleがPrivacy Sandbox の導入延期を発表(2022年1月予定が2023年後半に延期 ※具体的な月は未定)

トピック④
コネクテッドテレビ(CTV)広告市場が注目を集め、テレビデバイスがデジタル広告市場成長牽引への期待高まる

トピック⑤
デジタル広告業界の健全性への動き、その他データ利活用に関すること

 

そしてこれらのトピックによる環境変化について、デジタル広告業界にどのような影響があったか、それぞれ考察を述べたいと思います。

トピック① 
新型コロナは収束せず、デジタル広告業界にも引き続き大きく影響

GAFA(Google/Apple/Facebook/Amazon)の広告事業(またはそれを含む事業)の直近実績を前年同期比で伸び率を見ると、Googleは+43.2%(*1)、Appleは+25.5%(*2)、Facebook(現Meta)は+33.2%(*3)、Amazonは+55.5%(*4)、と各社共に例年以上に大幅に実績を伸ばす結果となりました。※下記にデータ参照元を記載

昨年の記事でも触れたGAFAの広告事業は、2020年の後半には新型コロナによるマイナス影響からは復調しており、2021年は完全にコロナ影響を打破し、むしろ追い風にした年だったと言えます。

 

トピック②
21年4月 Apple ATT(App Tracking Transparency) を導入し、IDFA(広告識別子)利用をユーザー承認型(オプトイン)に移行

Appleは、昨年4月にリリースしたiOS14.5より、ATT(App Tracking Tranceparency)を導入し、ユーザー毎にIDFA(広告識別子)のデータアクセスを求めるオプトイン仕様に変わりましたが、今のところATTオプトイン率は41%で推移しているようです。
因みに世界平均(全体)のオプトイン率は46%(*5)で、日本のオプトイン率が低い傾向にあり、日本人のデータの扱いに慎重な姿勢がうかがえます。

ATTは、アプリパブリッシャーの広告収益に大きな減収要因になったり、他媒体や他のプラットフォームの広告効果の計測値にも大きな影響を与えています。広告効果データが欠損してしまうため、同じ指標で広告評価することは現実的には難しく、またリターゲティング広告などではデータが欠損すると識別できなくなるため、そもそもiOSの広告在庫自体の確保が難しくなり、Android広告在庫と比べ、広告配信量が減少する要因にも繋がりました。

Facebook(現 Meta)の直近IRでは、広告収益(21年7-9月実績)は、対前四半期比(21年4-6月対比)で伸び率が-1.1%(*3)と減収しており、Apple社によるデータ規制の一環(ITPやATT)発表直後から公式アナウンスで異議を唱え、Meta社の収益に多大な影響が出ることを発表している通りに、ITP14.5以降大きな影響が出始めていると見えます。

ただ一方でApple社が独自に展開する広告サービス「Apple Search Ads」は、アプリ集客の広告手法としては高い効果(=獲得数、獲得効率)が得られることが期待でき評価が高いです。そして当然と言えば当然ですが、ATTやITP等のApple規制の影響を受けない広告配信も可能であり、iPhoneユーザー割合が多いとされる日本ではアプリDL向けの施策では必須のメニューとなっています。結果、Apple社の広告事業は堅調に伸びているようです(*4)。

※AppleのIRでは、広告事業は「Services」カテゴリーに含まれており、直近のIRデータによると対前年同期比で+25.5%となっており、筆者はその成長率を参照しています。

 

トピック③
21年6月 GoogleがPrivacy Sandbox の導入延期を発表(2022年1月予定が2023年後半に延期 ※具体的な月は未定)

21年6月 Googleは、Google製のブラウザChrome上の3rd Party Cookie のサポート終了を予定していた2022年1月を、2023年後半へと明確な日程を公表しない大幅な延期を発表しました。

その延期判断には、英国の監督機関が影響していると報道され、グローバル企業といえども、一企業の技術仕様の変更に、国家が絡み結果、延期判断を下すほどの影響を与えたことには正直驚かされました。それはGoogleが3rd Party Cookie のサポート終了と、その代替技術案(FloC等)が、まだ未知数であると示したことだと思います。2023年後半の導入にどのような決着がもたらされるか、今後も注目すべき業界の重要トピックです。

 

トピック④
コネクテッドテレビ(CTV)広告市場が注目を集め、テレビデバイスがデジタル広告市場成長牽引への期待高まる

CTV広告の話題は劇的に増えました。
2020年10月に、当社SMNとデジタルインファクトで共同調査したCTV広告市場における発表は、とても多くの反響を呼びました(*6)。CTV広告は米国では既に大きなマーケットになっており、昨年は日本市場でもCTV広告のニーズの急速な高まりを実感しました。
サイバーエージェント社が、直近のIRでメディア事業(ABEMA)の視聴が増加したデバイスに「テレビデバイス」が登場し、PCを上回る視聴割合(テレビが14%でPCが13%)が示されたことはとても興味深いことです(*7)。「テレビデバイス」は、スマホに続く第2のデバイスとして存在感が再認識できました。

 

トピック⑤
デジタル広告業界の健全性への動き、その他データ利活用に関すること

ここでは、アドフラウドやブランド保護のためのアドベリフィケーション強化、広告業界3団体が設立した第三者認証機構JICDAQ発足、データの利活用に対する議論の決着としての改正個人情報保護法施行などを取り上げたいです。

総務省の発表によると、下記グラフの通り、日本人はプライバシーやデータ保護に関する安心・安全性の意識が他の主要国と比較しても高い傾向があります。

出典:総務省(2020)「データの流通環境等に関する消費者の意識に関する調査研究」

 

そして改正個人情報保護法が今年の4月にいよいよ施行となり、4月以降データの取扱いが日本でも法規制によって、更に管理強化することが求められることになる時勢です。昨年のバズワードとして「データクリーンルーム」が話題となり、データ利活用の在り方が今後徐々に確立されていきそうです。それは様々な制約がクリアとなったデータの管理の方法や活用の仕方が定められることになります。

これまで日本における個人情報やデータに関する法規制は、欧米国と比べると、まだ緩やかな規制であったと言えます。それが今年の4月以降改定法が施行され、現場での利活用に関する議論が急激に進められ一定の決着(改正法に合わせた運用方法)が着くことになります。

以上がそれぞれのトピックに対する私なりの考察です。

最後に、今年2022年の業界の展望については、未だ新型コロナの収束は見えておらず、今年のデジタル広告業界の環境変化も引き続き激しくなることと思います。
業界不信を募らせてしまいかねない様々な報道は、関わる人間としてとても残念でなりません。広告主企業の方々とお話しするたびに、各社から業界の不透明な部分に多くの質問を受け、不透明部分の可視化を求められる傾向は年々高まっています。
そのような要望に対しては、常に解決法を提示していく必要がありますが、場合によっては複数の選択肢から、その会社ごとの対応策を広告主企業と一緒に模索するケースも少なくなく、それぞれの会社が部分最適しているだけでは全体の課題解決とはなりません。
2022年は、デジタル業界全体の健全に向かうため対応が必要であり、会社の垣根を超えた取り組み強化が不可欠だと感じています。

データ参照元:
(*1)https://abc.xyz/investor/static/pdf/2021Q3_alphabet_earnings_release.pdf?cache=f1ba3f6

(*2)https://www.apple.com/newsroom/pdfs/FY21_Q4_Consolidated_Financial_Statements.pdf

(*3) https://s21.q4cdn.com/399680738/files/doc_financials/2021/q3/FB-Earnings-Presentation-Q3-2021.pdf

(*4)https://www.emarketer.com/content/amazon-advertising-2021

(*5)https://www.appsflyer.com/jp/ios-14-att-dashboard/

(*6)https://www.so-netmedia.jp/topics/news-2020-pr_release_20201022/

(*7)https://pdf.cyberagent.co.jp/C4751/l3Fa/Q7C3/xS2I.pdf?_ga=2.36756832.1153754144.1641286014-1704883826.1640330616

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。