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クッキーレス、IDレス時代に挑むOguryのペルソナ・ターゲティング広告[インタビュー]

 

エコシステムが大きく変わりつつあるモバイル広告市場、日本にまた新たなモバイルアドテク企業が参入した。

欧州発Oguryは4月にOgury Japan株式会社を設立し、日本市場に参入した。そして同社のカントリーマネージャーには、前GumGumセールス責任者の松本 亮氏が就任した。

同社日本参入の背景や、同社が提案するペルソナ・ターゲティング広告について、松本氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

 

 

 

―自己紹介(ご経歴)をお願いします。

Ogury Japan株式会社 カントリーマネージャーの松本 亮と申します。15年ほど L’Oréal、 BMW、Criteoなどのブランド企業やテクノロジー企業で、事業開発やマーケティングに従事しておりました。

直近ではコンテクスチュアルターゲティング広告を提供しているGumGumにてセールスの責任者を務め、2022年4月より現職に就いています。

 

―今回参画されたOguryについての紹介と、松本さんが同社に参画した背景についてお聞かせください

Oguryは世界12ヶ国にエンジニア100名を含む、合計450人の従業員を擁するモバイルに特化したテクノロジー企業です。設立以来8年の歳月をかけて ”Personified advertising : (和名 ペルソナ・ターゲティング広告)” を開発しました。

ペルソナ・ターゲティング広告はユーザーの個人情報に依存することなく、Ogury独自のペルソナ情報を基に、提携先媒体社のネットワーク上で、アウトストリーム動画やリッチフォーマットを配信する仕組みです。

私がOguryに参画した大きな理由はプロダクトの良さだけでなく、ローカライゼーションにおける最も重要な要素と考える、本社サイドの強力な支援体制がありました。

Oguryは財務部門の直下に”New Market"という新規市場の開発支援に特化したチームがあります。このチームが持つミッションは、現地法人の中長期的な戦略の立案と、投資を伴う実行のサポートです。一部の例外を除き、グローバル展開をしている現地法人のスタート段階では、会社全体の売上に対して数%も満たない状態にあります。

そうするとローカルのニーズが反映されにくく、本社サイドのやり方を踏襲した成長戦略が構築され、現地でも同一の運用方法を求められることが多くなります。

たとえそれが日本市場にフィットしないやり方であっても、ローカルサイドは無理に推し進めていく状況に置かれ、プロダクトは良くても実行の部分で問題が生じてしまい、最悪の場合ステークホルダーの信頼を失う可能性すらあります。

その点Oguryでは、New Marketチームが積極的に現地法人側でどんなニーズがあるかを吸い上げ、それにどう対応するべきかを一緒に考えてくれる体制があります。

そういった聞く耳を持ってくれる本社の支援があるからこそ、ローカルオフィスが恩恵を受けるだけでなく、最終的には国内の広告主、広告代理店、媒体社の各パートナーの皆様、さらにはエンドユーザーにとって最適な状態を作り上げることができると考えています。

 

―ペルソナ・ターゲティングとは、どのような仕組みのものでしょうか。従来の手法とは何が異なるのでしょうか?

まず、Oguryは”ユーザープライバシーを最も尊重したデジタル広告企業になること”というビジョンを掲げて2014年に創設されました。そのビジョンの元開発された、Personified Advertising (和名:ペルソナ・ターゲティング広告)を提供しています。

大きく分けると3つの組み合わせで構成されていて、1) 提携先配信ネットワークが持つ包括的な情報をベースに、2)ユーザーのペルソナ象をインプレッションの1表示ごとに生成。そして3)ターゲティング対象に対して広告配信が行われます。

1) 提携メディアのサイト名や記事情報
2) 統計に基づくモバイルジャーニーデータ
3) 動画・リッチクリエイティブを配信

 

特に2)のモバイルジャーニーデータにOguryの強みがあります。

クッキーやIDで識別される従来型のユーザーデータとは異なり、Oguryは自社独自の統計データを活用します。

このデータのソースとなっているのが、2014年からOguryが取得している、オプトインされたユーザーのアプリやブラウザー上でのモバイルジャーニーを集めたデータです。グローバル全体で7年間ほど蓄積されたこのデータは、統計上、分析やペルソナの傾向値を体系化するに十分なボリュームを構築しています。Oguryでは媒体調査をユーザーに行うことも可能で、そのデータを元に機械学習を常に働かせることでペルソナデータを最新の状態に保っています。

このモバイルジャーニーデータを媒体面のページの1表示に紐付けて解析することで、記事面が持つ情報に加えてモバイルジャーニーの統計学的な情報を紐付けて配信をすることが可能となります。

例えば、”旅行サイトのハワイのページを見ているユーザーは、Oguryのペルソナデータと照らし合わせると、20代女性、都市型の生活嗜好を持ち美容にも高い関心を示すペルソナに該当する”という形で、ユーザーがリアルタイムで持つセマンティックな興味、そしてペルソナ情報を掛け合わせて広告が配信されます。

従来型のコンテクスチュアル やセマンティック配信では、単体でオーディエンスの情報を拾うことはその性質上難しく、また、IDペースのパーソナライズターゲティングはユーザー情報を持ってはいますが、掲載面との親和性が低くなってしまうリスクがあります。

その点でOguryのペルソナ・ターゲティング広告は、媒体面の情報と、擬人化されたペルソナ情報とを掛け合わせた配信を行うことが出来るという点で、従来型ソリューションの利点を最大化出来る次世代型ソリューションと言えます。

 

―Oguryはなぜこのタイミングで日本への参入を決めたのでしょうか?

グローバル展開はOguryの事業計画において注力領域です。2022年の計画では、新しく10箇所のマーケットへの進出を予定しています。APACは既にシンガポールやオーストラリアにオフィスがあり、アジア諸国で成功を収めたことを受けて、満を辞して主要マーケットとなる日本へ進出しました。

eMarketerによると、世界で4番目のインターネット広告全体における2021年の日本の市場規模は約2.3兆円となり、(※1)その規模は今後も成長し続けることが想定されます。そのうち72%を占めるモバイル広告市場は2025年までに74%(※2)に成長することが予測されることも、Oguryが日本市場へ進出することに決定する重要な要素となりました。

出典元
(※1) eMarketer, Worldwide Digital Ad Spending Year-End Update
(※2) eMarketer, Japan Total Media Ad Spending

 

―世界的なプライバシー保護対応の流れを受けた市場の現状において、どのような業界課題がありますか?

識別子に基づいたパーソナライズド広告は業界で長く使われてきた手法です。CookieとデバイスIDをユーザーキーとして、履歴情報やプロファイル情報を構築する仕組みにより消費者行動に対して深い理解が進みましたが、ユーザープライバシーの観点からそのやり方に限界が見えてきました。

広告業界では周知の通り、クッキーIDや広告IDの取り扱いについてはプライバシーを重視するユーザーの存在や、欧米を始めとする規制当局からの圧力を受けて変化が求められている状況です。更に、AppleやGoogleのような大手企業が新しいプライバシールールを実行することにより、ユーザーが自分のデータの価値を身近なこととして意識することになった、という事も背景となっています。

特に欧米諸国においてはGDPRやCCPAが施行されており、個人データやユーザープライバシーの保護に関して、その扱いが厳格に規程されています。そのため、広告主が個人データにアクセスする前に明示的な同意を行うことを必ず求められます。ユーザーがデータの使われ方の権利を選ぶことができるようになった今、同意するユーザーの割合が急落していることが、現在従来型のターゲティングに替わる手段を探す動きに繋がっています。

 

―またそれを前提に、マーケターは今どのようなことに取り組めば、逆に商機につながるとお考えでしょうか?

クッキーレスの代替ソリューションとして、多くのアドテク企業がコンテクスチュアル やセマンティックターゲティングへ対応範囲を広げようとしています。これらのソリューションは個人データを持たないという特性上、広告効果が可視化しづらいことや広告出稿した後に生かせるアウトプットが少ない、という声を広告主様から伺うことがあります。

一方、パーソナライズド広告は引き続きオーディエンスデータの活用をすることは可能ですが、プラットフォーマー内で情報が閉じられてしまい、知見やインサイトがブラックボックス化される可能性があります。

その点でOguryのペルソナ・ターゲティング広告は、両者の強みを組み合わせた広告配信を行うことが可能です。業界課題のユーザープライバシー問題をクリアし、ブランディング広告のパフォーマンス、そして充実したインサイトを提供することが出来るOguryのソリューションが、ユーザープライバシーを尊重する時代に新たな代替手法として活用が進むことを期待しています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。