コロナ禍で成長/衰退した企業、明暗を分けた要因とは『マーケティング最新動向調査2022』より
MarkeZineでは2022年1月に『マーケティング最新動向調査 2022』を刊行しました。今回はその中から、コロナ禍で市場や消費者がどのように変化をしたのか経済産業省の調査を元に紹介します。
※本記事は、2022年3月25日刊行の定期誌『MarkeZine』75号に掲載したものです。
経済成長率はマイナス、巣ごもり需要が追い風となった業種も
新型コロナウイルス感染拡大から2年が経ち、人々の生活は大きく様変わりした。特に消費行動は感染リスクを抑えることを前提としたものとなり、外出自粛や巣ごもり需要が取り沙汰された。本稿ではその結果を受けて、MarkeZine編集部が刊行した『マーケティング最新動向調査2022』から市場や消費の動向がどのように変化したのかを概観する。
コロナ禍の2020年における日本の経済成長率は、リーマンショックの影響を受けた2009年以降で初めてのマイナス成長、前年比4.8%減となった。経済産業省が公表した家計消費支出額の推移を見ると、2020年の月間支出金額は27万7,926円で、前年比5.27%減である。2000年の31万7,328円と比べるとかなり落ち込んでいる。
ただし、全体としてはマイナス成長であっても業種・企業によっては影響を受けていない、またはプラスの影響を受けているケースも少なくない。早急な対策を実施できた各社では損失を最小限に抑え、速やかに業績回復に至っている。
2019年と2020年の品目別月間平均支出の比較を見ると、10分類のうち6分類が減少となっている。しかし、食料、住居、家具・家事用品、保健医療など、自宅で過ごす時間が増えることが追い風となる品目など4分類で支出が増加した。
最も増加額が大きかったのは食料である(1,182円増)。宅配や内食に関するサービスが躍進し、飲食店では積極的に宅配サービスを取り入れる動きが進んだ。ただし、居酒屋など店内での飲食を前提とする企業では苦戦が続いた。
EC市場はサービス系分野が大幅減
巣ごもり需要の影響を受けたと思われるEC市場、特にBtoCの動向については経済産業省が2021年7月に公表した『電子商取引に関する市場調査』結果に詳しい。
2020年の国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、好調な業種も多く見られたが19兆2,779億円と前年比0.43%減。わずかに前年を下回る結果となり、増加しなかったのは「本市場調査開始以降、初めてのこと」という。
要因としては、旅行サービスを中心にサービス系分野の需要が大きく落ち込んだことが挙げられる。大手旅行代理店が大幅な減収減益に見舞われたことは記憶に新しいが、コロナ禍がBtoC-EC市場の成長に極めて大きな影響を及ぼしたと言える。
内訳としては、物販系分野が12兆2,333億円(前年比21.71%増)と大幅に増加、デジタル系分野も2兆4,614億円(同14.90%増)と好調を維持。一方で、サービス系分野が4兆5,832億円(同36.05%減)と大幅に減少した。
この結果、BtoC-EC市場全体に占める物販系分野の割合の変化は、2019年から2020年にかけて51.9%から63.5%と大幅に増加し、サービス系分野の割合が37.0%から23.8%に減少。また、デジタル系分野の割合は、11.1%から12.8%に微増した。
ともなって、物販系分野のEC化率は、2019年から2020年にかけて6.76%から8.08%に大きく上昇。「書籍、映像・音楽ソフト」の42.97%が最も高く、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」が37.45%、「生活雑貨、家具、インテリア」が26.03%、「衣服・服装雑貨等」が19.44%と続く。これまで店頭での購入が当たり前だった商品も積極的にECで購入されるようになってきている。
サービス系分野においては、先述のように最大カテゴリーの「旅行サービス」が深刻な影響を受け、前年比60.24%減の1兆5,494億円となった。また「飲食サービス」は前年比18.03%減の5,975億円、「チケット販売」は前年比65.58%減の1,922億円と、これらのカテゴリーも対前年で大きく減少した。
緊急事態宣言下で一時的に来店者数が減少したとされる「理美容サービス」は前年比0.27%で6,229億円と微増、「金融サービス」は前年比13.17%増と好調に推移した。需要が急増した「フードデリバリーサービス」は3,487億円だった。デジタル系分野は市場が拡大。全体 の60.8%を占める「オンラインゲーム」が前年比7.50%増で1兆4,957億円に。「電子出版」が前年比36.18%増で4,569億円、「有料動画配信」が前年比33.10%増で3,200億円となった。
広告会社の売上、全体が復調するのは2023年か
広告市場についても概観したい。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」では、広告会社の売上を集計した月別の広告業界の売上値が公表されている。これによると新型コロナウイルス感染拡大が最も影響を及ぼしたのは2020年5月から6月にかけてで、屋外広告・交通広告などを除いた広告売上が底を打ち、その後徐々に回復に向かった。
全国的に外出自粛が推進された時期は各社においてデジタル広告への投資が必須と言われるようになり、同調査の「インターネット広告」は他の広告媒体よりも早く(2020年8月頃)に売上が戻り、伸長し始めたのが見て取れる。
とはいえ、いずれの媒体も2021年4月以降は前年の大幅な減少から反転し、各月とも高い成長率で維持されている。広告市場全体が2019年の水準に本格的に戻るのは、2022年から2023年と考えられる。
BtoB企業は過半数が向かい風
最後に、BtoB企業に絞ったマーケティング活動について見ていこう。ネオマーケティングが2021年2月に実施したアンケート調査では、BtoB事業のマーケティング関与者1,000名の82.6%が何らかの影響を受けたと回答。また、「向かい風」の回答は57.9%だった。
マイナスの影響としては、「既存顧客の取引額減少」が67.3%と最も大きく、「既存顧客の取引数減少」が52.3%、「商談・コミュニケーションの減少」が51.4%、「取引先へ訪問できない」が47.2%と続く。顧客との直接的なコミュニケーションが重要だからこその結果である。そのため、有効な施策として「オンラインセミナー(ウェビナー)」の回答が71.2%と突出しており、オフラインからオンラインへ施策を移行したことが各社で功を奏している。
ここまで紹介してきたように、コロナ禍で正負いずれの影響を受けたかは業種・企業によって明暗が分かれる結果となった。業種としては厳しくても、DX化やデジタル施策などの新しい試みで復調している企業も少なくない。様々な場所で生まれているビジネスチャンスを掴むには、コロナ禍の前後でどのような変化が起きたのかをしっかり理解しておく必要があるだろう。
本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2022』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。