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Supership広告プロダクト責任者が提案する、キャリア系広告プラットフォームのクッキーレス対応[インタビュー]

KDDIグループのSupershipホールディングスは、2021年6月にIDソリューションの開発・提供を行う英国のテクノロジー企業Novatiqと資本業務提携を実施、2022年2月よりKDDIが保有するオーディエンスデータと同社の技術を活用した、Cookieレスかつ高精度なターゲティング配信を同社グループのSupershipが運営する「ScaleOut」を通じて「Hyper ID」として提供開始した。

業界全体で対応が進められているクッキーレスに対する、新たな解ともいえるこの取組みについて、同社のアドテクプロダクトを統括している大野祐輔氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

サードパーティクッキーの代わりはない

-サードパーティクッキーの廃止による影響はどのようなところに及ぶと認識されていますか?

GoogleのChromeにおけるサードパーティクッキーの廃止については、当初アナウンスされていた時期から2年ほど遅れて、2023年7月に完全に実施されるといわれています。
最近ではアプリ領域でAndroidもプライバシーサンドボックスに対応をして、徐々にAdvertisingIDの利用をやめていくという発表もされました。
Webだけに限らずアプリの領域でも個人のIDをトラッキングして、それをサードパーティーのベンダーがシェアをすることが出来るというこれまでの仕組みを、Googleは廃止をしていく流れにあります。

 

 

-クッキーレス対策のソリューションが様々名乗りを上げていますが、業界の中で対応策の柱とされているものにはどのようなものがありますか?

多くのアドテクベンダーでは、オラクル社等が提供しているコンテクスチュアルターゲティングが、有望視されています。ユーザーIDを使うことなく、またある程度のボリュームを担保したうえでのターゲティング配信が可能です。

もう一つは、Unified ID等の特定の電話番号やメールアドレスなどの個人情報をハッシュ化して識別子にするソリューションです。それを広告主側とパブリッシャー側とでお互いにその暗号化し、広告配信に活用する仕組みを使っています。いわゆる「ポスト・クッキー」として、2年ほど前からプロモーションされて、メディアでも取り上げられていますが、本格的な普及にはまだ時間が必要だとみています。

このように、いくつかの代替手段がある中で、どれも一長一短があるというのが現状です。
サードパーティクッキーをすべて完全に代替する手段というものは現状ないと考えており、いくつかの手段を組み合わせたり、使い分けたりすることで代替手法を探っていくことが必要とされています。

 

ユーザーIDを渡さず、セキュアなターゲティング配信を実現

-そのような中で、今回提供を開始した貴社のソリューションについてお聞かせください。

今お話していた通り、もともとこのプロダクトの準備を始めたきっかけは、Chromeでサードパーティクッキーが廃止されることが明らかになったからです。

Safariに続き、Chromeのサードパーティクッキーが使えなくなると、DSPやDMPの価値がゼロになってしまいます。なにか対策はないかと国内外のソリューションをいろいろと調べていたところ、Novatiq社のソリューションが我々の課題に応えられるのではないかという考えに至りました。また、他のクッキー代替技術との比較をしても、キャリアのグループ会社であるSupershipだからこそチャレンジできる、ユニークなソリューションであるところに魅力を感じ、導入を進めました。

 

 

-Novatiqのソリューションのユニークなポイントをお聞かせください。

NovatiqのFusion platformというプロダクトですが、スマートフォンでユーザーがキャリア回線を通じてネットにアクセスするときのIPアドレスを使ってユーザーを確定し、キャリアが保有するCRM情報を参照し、、ターティングデータを生成してこれをアドテクベンダーに渡します。アドテクベンダーに渡すのはターゲティングのための属性情報等のみでユーザーIDを渡すことがないという仕組みです。すなわち、ユーザーの識別子をキャリアの外に出さないのです。

日本の個人情報保護法や、欧州のGDPRにも対応可能なソリューションであるため、我々キャリア系列のアドテク事業者にマッチしているということから、導入を決めました。そしてKDDIとともに準備を進めて、2022年2月にサービスの提供を開始しました。

このソリューションは、クッキーを使ってターゲティングの情報をマッチさせることをしなくても、ターゲティングが出来てしまうというところが、今までの手法と大きく異なります。これは非常にユニークな点です。

 

 

-そのような手法を実現することが出来るテクノロジーは、Novatiqしかないのでしょうか?

我々が調べた限りでは、Novatiq社しかないという認識でしたし、グローバルで特許を取得していたのも同社でした。
キャリアの通信を知っている人からすると、それほど難しいテクノロジーというわけではないのですが、このテクノロジーを使った広告配信をするという特許を押さえているのが同社でした。
我々としても、独自で一から技術開発をするよりも、すでに特許を押さえていてプロダクトもしっかりとしているという点も評価し、Novatiq社の技術を導入することになりました。

 

-キャリアのデータが他のファーストパーティデータと異なるのはどのような点にあるのでしょうか?

ボリュームの観点で非常に魅力的です。日本の3大キャリアの1社であるKDDIが保有する、日本のスマホユーザー全体でみても相当な割合のユーザーデータを活用することが出来るということは大きなアドバンテージです。
また、データの正確性においても、キャリアのデータは優れています。

 

 

SSP AdGenerationを基軸に、国内外DSPと連携へ

-現状はどのような方法で提供されているのでしょうか

このFusion Platformを利用した広告配信についてはHyperIDターゲティングというサービスで提供しているのですが、このHyperIDを使った広告配信は、当社のSSPであるAdGenerationの、HyperID配信に対応しているSDKを組み込んだメディアの広告在庫のみです。現状この広告在庫を買い付けすることが出来るのは、当社のDSP ScaleOutのみです。
ですが、今後は他社のDSPにもご活用いただきたいと考えており、国内外の主要なDSPとはお話を進めております。

全ての通信キャリアとソリューション連携が実現可能!?
-他のキャリア系列の広告事業者が、同様のサービスを提供する場合には、自社でNovatiqと同じようなシステムを一から構築するしかないということになるのでしょうか?
もし同じやり方をしようとすると、当然特許の問題がでてきます。Novatiqと同じようなシステムを仮に一から内製したとすると、特許を侵害しない開発をすることが必要になってきます。

我々のように、キャリアのデータを使って、サードパーティーの媒体に広告配信を行う場合、キャリアが把握できていないメディアで、キャリア側からターゲティングのデータを渡すためにクッキーやIDFA以外の選択肢は非常に限られてきます。Novatiq社の技術以外で実現させるのは、難しいのではないかと、我々は思っております。

通信キャリアにとっても、データを活用して自社以外の媒体で広告を通してマネタイズをする手法としては、このソリューションを活用することがベストではないでしょうか。

当社は、Novatiq社との独占契約により同ソリューションの代理店でもありますので、他の通信キャリアに対してのご提案をすることも可能です。
もしご興味のある方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問合せください

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。