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ジェネレーティブAIが広告業界に及ぼす影響

2023年2月に、ジェネレーティブAIに関する水面下の競争は終りを告げたのかもしれない。

 

主要プレイヤーたちが、一斉にベールを脱ぎ捨て、それぞれ独自のAIチャットボットを発表し、一番乗りを果たそうと市場にどっとなだれ込んできた。この本格的な覇権争いは、マイクロソフトが、同社の検索エンジン「Bing」に「ChatGPT」を統合すると発表し、リニューアル版をリリースしたときから始まった。

 

中国の検索大手バイドゥ(百度)も、AIチャットボット「文心一言(ERNIE Bot)」を3月に公開すると発表。一方、プライバシー重視の検索サービスを手がける新興企業ニーバは、「NeevaAI」を1月5日に発表済みだ。

 

グーグルも追随し、独自のジェネレーティブAIチャットテクノロジー「Google Bard」を発表した。ただし、先行する技術の多くがそうだったように、Bardも初日につまずき、不正確な情報を引用するというミスを犯した。あまり知られていないが、Bardの失態は一夜にして親会社の株価を1000億ドル(約13兆円)も下落させた。やはり、結局人間が必要だということかもしれない。

 

それでも、この技術には検索市場を再び活性化させる可能性がある。グーグルの失敗は、検索エンジン市場で92.9%という圧倒的なシェアを誇る同社が、少なくともこの10年間で初めて、真の試練に直面しているという指摘を裏付けるものとなった。

 

ところで、この新技術は広告主にとってどんな意味を持つのだろうか。ジェネレーティブAIは、業界にどんな変化をもたらし、どんな分野で最大の影響を及ぼすのだろうか。ExchangeWireは今回、この質問を、業界のリーダーたちとAIチャット自身に投げかけ、回答を得ることができた。

 

「問題は、AIを使って実際にROIを向上させるにはどうすればいいかということ」

ブランドが自問すべきなのは、ビジネス主体として、どうすればAIを用いてROI(投資利益率)を向上できるのか、そして誰がAIをトレーニングすべきなのか、ということです。それにはまず、広告の運用基盤を構成する諸要素を精査し、何がAI化できて、その中で何が最も重要なのかを理解することから始める必要があります。

 

カスタマイズ可能なアルゴリズムを使用すれば、広告入札の100%をAIベースで実行できます。ブランド各社が留意すべきは、ROAS(広告費用対効果)を最大化するために支出を100%最適化しつつも、消費者を尊重して、ターゲティングに個人情報を用いることなくパフォーマンスを発揮できるように、AIをトレーニングすることです。入札AIに必要なのは、目的に応じてカスタマイズでき、動的に機能すること。過去のキャンペーンから学習したことを将来のキャンペーンに反映できること。そして、キャンペーンのスケールを改善するために、新たな自動化アルゴリズムを追求し続けることです。

 

Scibids CMO、ナディア・ゴンザレス(Nadia Gonzalez)氏

 

「見えてきたのは、人間と機械が協力して、仕事の質を高める方法」

ジェネレーティブAIが、注目すべきエキサイティングな分野なのは確かです。そして、間違いなくゲームチェンジャーになるでしょう。ただし、おそらく現在は、ガートナーのハイプ・サイクル(新たに登場した技術がどのような軌跡をたどって普及するか図示したもの)における「過度な期待」のピーク期でしょう。ExchangeWireの以前の記事では、GPT3がすでにクリエイティブオートメーション領域へ進出し始めていることを紹介しましたが、最近では、大手広告主から、ジェネレーティブAIをどうすれば自社のプロセスに組み込めるかという問い合わせが増えています。

 

主要な分野の一つは、新しい広告コンセプトの作成やプロセスの自動化でしょう。これにより広告主は、何が有効で何が有効でないかを迅速に特定し、より効果的なキャンペーンを実施できるようになります。さらに、ジェネレーティブAIは新たなクリエイティブをリアルタイムで生成できるので、キャンペーンのパフォーマンスに基づいて容易にアジャストすることができます。人間の介入はここでも重要な要素です。見えてきたのは、より質の高い広告を生み出し、一貫したブランディングを保ち、オリジナリティを発揮しつつバイアスを防ぐためには、人間と機械が協力する必要があるということです。

 

Adzymic 共同創業者、トラビス・テオ(Travis Teo)氏

 

「人間のインプットに置き換わるという懸念は大げさなもの」

ChatGPTはクリエイティブプロセスを加速させることができるものの、人間に取って換わるという懸念は、やや大げさです。設計上、ChatGPTはすでに存在するものを反復することしかできず、事実と虚構を区別することもできません。重要なのは、ChatGPTの生み出す成果よりも、自然言語を極めて高い精度で解釈する能力の方です。私たちはこれまで、コンピューターが理解できるように構文を調整する方法を学んできましたが、コンピューターが私たちを理解できるようになった今、仮想アシスタントの役割まで果たすことができるようになりました──ただし、真実や真の創造性についての信頼できるアシスタントとまでは言えません。

 

ロタメ EMEAデータソリューション担当バイスプレジデント、アリソン・ハーディング(Alison Harding)氏

 

「広告主はオーディエンスにダイレクトに語りかける広告を、迅速かつ効果的に制作可能に」

ジェネレーティブAIは、クリエイティブのプロセスを自動化し、高速化します。また、新たなアイデアを生み出すのにも役立つため、広告のゲームチェンジャーになる可能性を秘めています。ただし、他の新興テクノロジーと同様、広く導入される前に、対処しなければいけない課題が残っています。

 

しかし、課題が残るにもかかわらず、すでに、パーソナライズされた商品の推奨から広告キャンペーン全体まで、企業がジェネレーティブAIを使用して広告を制作している事例は数多くみられます。AI技術の進化と成熟が進むにつれ、ジェネレーティブAIの革新的な活用がさらに進む可能性が高いでしょう。

 

ChatGPTのチャットボット

 

「より正確な予測と最適化が実現する可能性」

ジェネレーティブAIが広告分野に適用されることには、ポジティブな意義がたくさんあります。とりわけ有意義なのは、ABテストのアプローチを改善する可能性でしょう。コンテンツとオーディエンスのつながりを把握しようとする際、インプレッションに費用をかけずに、より正確な予測と最適化を実現できる可能性があるのです。

 

もちろん、そうした予測をリアルタイムでテストすることは今でも可能ですが、AIを活用することで、ベンチマークを上回る結果をたたき出し、その過程もより効率的になるでしょう。

 

クリンチ 共同創業者兼CEO、オズ・エッツィオーニ(Oz Etzioni)氏

 

「顧客のモチベーションを生み出すのは、やはり人の手によるもの」

ジェネレーティブAIは比較的新しい技術ですが、予測AIは長年にわたり広告エコシステムの一部になっていました。AIはすでに、プログラマティック広告バイイングに関する意思決定に大きく関わっています。

 

どちらのタイプのAIも、主にインパクトを与えるのは、自動化に関する部分です。今やジェネレーティブAIは、デジタル広告制作の複雑さを軽減し、まったく新しい方法でクリエイティブを大規模にテストする機会を生み出しています。

 

それでも私は、ジェネレーティブAIがゲームチェンジャーだと言うつもりはありません。広告とは、現実の人々に現実の商品やサービスにお金を使うよう働きかけるために存在しています。機械は、コピーをより速く制作したり、インプレッションの入札時のフリクションを軽減したりすることはできても、顧客のモチベーションを生み出すことはできません。それができるのは、やはり人の手によるものだけなのです。

 

Odeeo 共同創業者兼CEO、アミット・モンハイト(Amit Monheit)氏

 

「文章作成の作業を改善する」

ジェネレーティブAIはまだハイプ・サイクルの初期段階にあるため、業界がこの技術を取り入れた新標準や働き方に落ち着くまでには、長い時間がかかるでしょう。とはいえ、革新的なチームが価値と効率性を生み出すためにジェネレーティブAIを活用する方法は、すでに数多く存在しています。

 

その一例が、文章作成作業の改善のためにAIを活用するというものです。これは、コピーライティング、オーガニックなソーシャル投稿、営業メール、社内メモなど、ユーザーが何を書くべきか基本的なことは分かっていても、どう書くのがベストか不明なあらゆるケースに適用できます。同様に、コードを書いたり、データを整理したりすることにも、少し機能を拡張するだけで応用することができるでしょう。

 

エッセンス・メディアコム APACデータおよびテクノロジー担当バイスプレジデント、ヴィンセント・ニウ(Vincent Niou)氏

 

「人間の優れた才能を、クリエイティブな閃きのために温存する」

印刷機や織機、自動車が当時の業界のゲームチェンジャーであったのと同様、今日のジェネレーティブAIも確かにゲームチェンジャーだと言えます。共通するのは、必ずしも新しいことが可能になるのではなく、既存の課題をより速く解決できるという点です。AIによって私たちは、より迅速にアイデアを可視化し、生成することができるようになります。その結果、悪いアイデアをいち早く発見し、除外することも可能になります。AIに多くの作業を任せることで、人間の優れた才能を、クリエイティブな閃きと人間味を付加するために温存できるのです。

 

ジェネレーティブAIの登場により、広告業界は大きな進化を遂げつつあります。伝統的なメディアのアナログなプロセスから、インターネットのデジタルワークフローへ移行してきたように、AIは広告の作り方と見られ方を共に変えようとしています。エージェンシーは、AIツールの使い方を理解する必要がありますが、同時に機械学習の専門知識を社内に蓄積するために投資を行うことも必要でしょう。なぜなら、誰もがツールを使用している世界では、独自性のあるカスタマイズAIを構築し、他とは違う新鮮で際立ったクリエイティブを生み出せる才能こそが、優位性の源泉になるからです。

 

R/GAロンドン アソシエイト・クリエイティブ・テクノロジー・ディレクター、テッド・ウォレス=ウィリアムズ(Ted Wallace-Williams)氏

 

「複雑さを取り除く」

ジェネレーティブAIは、間違いなく広告業界を抜本的に変えるでしょう。

 

ジェネレーティブAIは、組織を拡大する際に生じる、人材確保や組織改編などの問題から複雑さを取り除けるという点で、他業界と同様、広告業界にも多大な影響を及ぼすでしょう。また、別の言い方をするなら、ジェネレーティブAIは、低品質の広告制作や反復作業を安価にすることで、人材配置の幅を広げることもできるのです。

 

アデレード CEO、マーク・グルディマン(Marc Guldimann)氏

 

「サードパーティのソースには疑問符がたくさん」

ChatGPTは確かに、広告におけるジェネレーティブAIの可能性に対する期待を大いに高めてきました。そして、一部で予想されていたように、すべてを置き換えるわけではありませんが、少なくともゲームチェンジャーになる可能性があるのは確かです。

 

メディアプランニングとクリエイティブにAIを応用する可能性は間違いなく存在します。例えば、ガートナーが最近示唆したように、サードパーティデータの非推奨を受けて、ジェネレーティブAIが顧客の特徴づけとターゲティングに寄与する可能性があります。ただし、ChatGPTやDALL-Eなどが依拠するサードパーティソースには、まだ疑問符が数多く残されています。したがって、これからの1年は、実験し、学習し、理解する期間となるでしょう。

 

ナノ・インタラクティブ CRO、ナイアル・ムーディ(Niall Moody)氏

 

「オリジナリティとスピードのどちらを重視するか」

広告実務へのAI導入は避けられないと思われるものの、その実用化にあたってはさまざま検討が必要です。文章や画像などをAIに頼ってクリエイティブ制作を行うと、創造性に対する価値観や著作権をめぐって、深刻な問題を惹き起こす可能性があります。また、質の高いオリジナルな広告は、制作に時間を要しますが、人々にパーパスを伝える力があります。

 

ChatGPTのようなAIモデルは、一般的なテキストであれば、速く大量に作成することができます。つまり、私たちがオリジナリティとスピードのどちらを重視するかという問題なのです。いずれにせよ、いかにテクノロジーの進化が加速していくとしても、社会や法体系が置き去りにされるようなことがあってはならないのです。

 

スマートフレーム・テクノロジーズ CEO、ロブ・セウェル(Rob Sewell)氏

 

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。