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規制がさらに強化されても、90%の精度での計測可―AdjustのCEOが語るプライバシー時代のアプリ広告効果計測[インタビュー]

市場に大きな変化と混乱をもたらしたSKAdNetworkがようやく定着してきたかと思いきや、今度はプライバシーサンドボックスのリリースを来年に控えて、さらなる変革が起こることが確実視されているアプリ広告市場。この市場の将来像を尋ねる相手として、これ以上に相応しい者はそう多くないだろう。今夏に来日した、大手モバイル計測パートナー事業者であるAdjust社のCEOに話を聞いた。(Sponsored by Adjust)

 

日本市場独自の課題にも対応

 

―自己紹介及び事業紹介をお願いします。

 

モバイルマーケティング分析プラットフォームであるAdjustの最高経営責任者(CEO)を務めるサイモン・デュサールと申します。9年ほど前に私が技術者の一人として入社した当時は社員数が20名ほどのスタートアップ企業でしたが、今では16カ国・地域に事務所を構えるようになり、社員数は600名以上にまで拡大しました。

 

2012年の創業時とは市場環境も大きく変わったと実感しています。かつての計測対象データはアプリ広告のクリック数及びインストール数にほぼ限定されていましたが、現在ではコネクテッドテレビ、PC、家庭用ゲーム機と計測対象端末が増えたことに加えて、アドフラウドの防止機能を追加し、広告投資費用対効果(ROAS)や投資利益率(ROI)を算出するために必要なあらゆるデータの整備及び分析機能を提供するようになりました。

 

―いわゆるモバイル計測パートナー(MMP)としてはいかに差別化していますか。

 

日本市場固有の課題に合わせたプロダクトやサービスの開発を行っている点が特徴的だと思います。真の意味でのローカライズとは、単に日本語への通訳や翻訳作業だけに留まりません。結局のところ、日本企業が当社に求めているのは、各社が抱える課題の解決です。

 

そこで当社では、日本市場の関係者の皆様から受け取ったフィードバックをベルリン本社の開発チームに確実に届けるとともに、適切なソリューションの開発を可能とする柔軟なアジャイル開発体制を確立しています。

 

―貴社のようなグローバル企業が日本市場固有の課題に対応するためにどのような工夫をしていますか。

 

アトリビューション計測やROAS分析に関して言えば、世界中で起きている課題の8~9割ほどは、それらの課題が顕在化する時期に若干の違いがあるだけで、内容自体は普遍的です。よって、残り1~2割ほどの課題に対して、いかに各市場固有の事情に合わせた取り組みを行うことができるかが肝となります。

 

先ほども申し上げた通り、当社では日本市場関係者との対話を重視し、フィードバックいただいた内容を的確に理解するよう努めています。今回の日本出張の目的も、日本企業の皆様が抱える課題を詳細に把握するためです。顧客から示された意見や要望は、当社のイノベーションの源泉となっています。

 

―日本市場固有の課題の代表例を教えてください。

 

全体論としては、広告代理店の存在感が非常に大きいという点が挙げられます。その他多くの市場では、各広告主のデベロッパーと直接的なやり取りをすることが多いのとは対照的です。よって広告主の課題意識だけでなく、広告代理店が運用代行業務や広告主への報告業務を行う際に発生し得る課題もつぶさに把握する必要があります。

 

SKAdNetworkの進化を評価

 

―近年における市場環境の変化をいかに受け止めていますか。

 

やはり、データの流通方法が非常に多様化したと実感しております。アプリ広告のアトリビューション計測については、MMP経由のほかにSKAdNetworkが加わり、さらに来年からはプライバシーサンドボックスの運用開始が予定されています。

 

さらに欧州ではアプリストアなどの自社プラットフォームに依拠した独占的な行為を規制することを主な目的としたデジタル市場法の施行を受けて、データの流通元はさらに多様化していく見込みです。

 

つまりマーケティングチャンネルが一気に増加したことに伴い、マーケターの負担が増え続けています。新規チャンネルを可能な限り活用したいとの思いを持つ一方で、不安や新たな課題を抱えるマーケターが多くいるはずです。当社としては、マーケティングに関する分析や最適化に関わる作業をできる限り統合化そして効率化することで、不安や課題を抱えるマーケターを支援したいと考えています。

 

―SKAdNetworkのリリースに伴う混乱は既に収束したと思いますか。

 

少なくとも、SKAdNetworkは新バージョンがリリースされる度に新たな機能を追加しており、市場の要望に応じて機能を改善していくサイクルが確立されつつあると評価しています。今後はアプリ広告の効果計測及び最適化ツールとしての利用価値がさらに高まると信じています。

 

例えば、SKAdNetwork 4.0では、粒度を分けてconversion valueを設定することで、コンバージョンが低いキャンペーンでもより多くの情報を受け取ることができるようになりました。また「lockWindow」という機能を活用すれば、コンバージョン関連情報を取得するまでの期間を短縮することができます。

 

ただし、SKAdNetworkにおけるconversion valueの仕組みと、それを最大限に活かした戦略を構築する方法は複雑で、かつ制約が伴います。そこで当社では、当社独自の機械学習モデルを搭載したConversion Hubという機能を提供することで、各アプリにとって適切なconversion value設定をマーケターが自在に設定できる仕組みを整備しました。

 

―来年に控えたプライバシーサンドボックスの運用開始に関わる課題は何ですか。

 

プライバシーサンドボックスは、SKAdNetworkと比較して、より柔軟な運用が可能であるがゆえに、マーケターの作業はより複雑になり得ます。つまり、分析プラットフォームとして当社が貢献できる余地はさらに大きいと考えています。

 

Google社の開発チームとは1年半ほど前から本格的な協議を開始し、MMP経由とプライバシーサンドボックス経由で入手できる情報を比較した上で、後者の運用開始後も混乱が起きないように準備を進めているところです。

 

 

またマーケターは、全くの別物であるSKAdNetworkとプライバシーサンドボックスを経由して取得したデータを統合的に管理する必要があることは言うまでもありません。そこで様々な分野のマーケターから、どのようなデータを一覧表示すれば統合的な管理を行うことができるかといったヒアリングを行っている最中にあります。こうしたヒアリングを踏まえた上で、マーケターにとって使い勝手の良いユーザーインターフェースを構築する予定です。

 

―コロナ禍で急成長したアプリ広告市場の今後の見通しについてお聞かせください。

 

市場やアプリのジャンルなどによって状況は大きく異なります。昨年末よりアプリ広告支出が大きく落ち込んだ市場があった一方で、広告投資規模を急拡大させた広告主もいます。第一四半期にはとりわけユーティリティ系のアプリが広告投資を増やしました。また中東、北アフリカ、中南米、中国、インド、東南アジアは依然として急速な成長期にあるので、世界のアプリ広告市場は引き続き拡大を続けていくでしょう。

 

また再度申し上げますが、広告投資のチャネルやプラットフォームの多様化が起きていることに注目すべきです。この動きに伴う混乱の回避や関連作業の効率化の実現こそが、当社に課せられた使命であると考えています。

 

PCやゲーム専用機も計測対象に追加

 

―「広告投資のチャネルやプラットフォームの多様化」に対し、貴社ではどのような対応を行っていく予定ですか。

 

業界初の包括的コネクテッドテレビ広告計測ソリューションの提供を2022年に開始したことに加えて、日本では2022年から地上波テレビ広告計測も提供しています。また、今後はゲーム事業者に対するPC及び家庭用ゲーム機を対象とした計測機能の普及にも努めていきます。PCゲームの配信スタンドではSteam、家庭用ゲーム端末ではPlayStationやXboxなどに既に対応済みであり、とりわけ日本、中国、韓国を始めとするAPAC市場ではその需要が拡大中です。

 

これまでゲーム企業はYouTubeで広告を配信後、ゲームアプリ上での効果計測はMMPなどを通じた従来の手法で実施できたものの、PCや家庭用ゲーム上での効果計測は各社が独自の手法やツールを開発するか、もしくはあきらめざるを得ませんでした。

 

当然のことながら、ゲーム企業は提供先の端末すべてを通じてユーザーを確保し、さらにそれぞれのLTVなどを把握したいと考えています。当社の新規ソリューションを用いれば、ゲームアプリ、PC、家庭用ゲーム機を併用するユーザーの動きを把握できるようになるので、広告投資の最適化だけでなく、ユーザージャーニーの理解にも役立つはずです。

 

―今後の事業展開についてお聞かせください。

 

SKAdNetworkの構想発表時にはアプリ広告業界の様々な関係者が「アプリ広告の効果計測はこれからできなくなる」といったような否定的な見解を示しましたが、いざふたを開けてみれば、今でも世界中のマーケターたちが様々なデータを駆使して広告の効果計測を継続しています。広告主が広告予算を持ち、その投資対効果を判断するという必要性がある限り、広告効果計測の需要と手段がなくなることはありません。仮にデータの量や質が変化したとしても、広告主はその時点で活用し得るデータを最大限に活用することで効果計測を行うはずです。

 

この点を踏まえて、当社では機械学習を活用することで、マーケティングキャンペーンの影響とオーガニックトラフィックの程度を示すインクリメンタリティ計測やLTV予測を可能とする次世代計測ツールの提供を開始しました。これらの指標については90%の精度を実現しています。プライバシー関連規制が今後さらに強化されたとしても、広告キャンペーンの効果計測や広告予算の最適化は引き続き行うことができるので、どうかご安心ください。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。