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「グレーゾーンを抜け出してマーケターの本領を発揮」-LiveRampとPriv Techが語る改正電気通信事業法とCookieレス[インタビュー]

個人情報保護法そして改正電気通信事業法の施行を受けて、オンラインマーケティングは今後どのように変化していくのか。多くの広告主が、事情をよく把握しないままに法に抵触する行為に加担しているという実態はいかに是正できるのか。IDソリューションの導入支援に関する業務提携を締結したLiveRampとPriv Techの2社に、Cookieレス時代のマーケティング論を聞いた。

(Sponsored by LiveRamp)

 

日本のCookie規制はガラパゴス化

 

―自己紹介をお願いします。

 

後藤氏:LiveRamp Japan株式会社のEnterprise Sales Managerとして、デマンドサイドの営業を担当する後藤和城と申します。当社は2011年に米国で創業し、現在は日本を含めた世界15カ所に事務所を構えるグローバル企業です。主にIDソリューションの提供とファーストパーティデータの活用支援などを行っています。

 

中道氏:Priv Tech株式会社の代表取締役を務める中道大輔です。ウェブサイトを訪問したユーザーに対して個人情報の取得や利用の許諾を得るための同意管理プラットフォーム(CMP)の提供に加えて、プライバシーポリシーの整備に関するコンサルティングやプライバシーに配慮したマーケティング施策の提案を行っています。

 

私自身はかつてソフトバンク株式会社やヤフー株式会社に在職し、データ活用業務に従事した経験を持っています。その頃にApple社がITP(Intelligent Tracking Prevention)をリリースし、今後はオンラインユーザーのプライバシー保護が重要課題になると考え、専門的なサービスを提供する会社を立ち上げました。

 

―両社が提携する事業の内容をお聞かせください。

 

後藤氏:LiveRampでは、Cookieレス環境下においても広告のターゲティング配信を可能とするIDソリューションを提供しています。併せて同ソリューションに関連した技術的支援やエコシステムの構築などを行っておりますが、ID生成に必要なファーストパーティデータ利用に伴う法的な課題に対する専門的なサポートは行っていません。

 

そこで、本領域において具体的支援を提供するPriv Tech社と提携することで、包括的な支援を提供することを目指しています。

 

―CMPツールの概要についてご説明いただけますか。

 

中道氏:端的に申し上げると、ウェブサイト訪問時にバナーが表示され、Cookieを含む個人情報の利用についてユーザーの意思を確認する仕組みです。欧州にてEU一般データ保護規則(GDPR)が2018年に施行され、Cookieなどのオンライン識別子を個人データと見なし、利用についての同意を求める要件が厳格化したことをきっかけとして広まりました。

 

今年6月に施行された改正電気通信事業法は事実上のCookie規制であると位置づけられているため、日本市場においても、今後はユーザーの同意取得に伴う課題が顕在化していくと見込んでいます。

 

ただし、欧州のGDPRと日本の改正電気通信事業法とでは、同じCookie規制でもいくつかの点で内容が大きく異なります。最大の違いは、前者がCookie取得を規制しているのに対して、後者はCookieなどに保存している情報を外部に送信することが規制されているという点です。

 

日本のCookie規制はガラパゴス化していると言ってもいいでしょう。つまり、GDPRに対応した海外産のCMPでは、日本の改正電気通信事業法に対応できません。当社は、日本独自の法制や規制に適応した数少ないソリューションを提供しています。

 

カスタマーマッチの多くは法律違反に相当

 

―まだ施行されたばかりである改正電気通信事業法の遵守状況はいかがですか。

 

中道氏:大手広告プラットフォームの多くが、メールアドレスなどに基づきユーザーリストを作成することで、広告のターゲティング配信を可能とする「カスタマーマッチ」と呼ばれる仕組みを提供しており、このカスタマーマッチを活用する広告主が増えてきています。

 

ただし、カスタマーマッチが個人データの第三者提供に相当すると認識した上で、適切なプライバシーポリシーを整備している企業は非常に少ないというのが現状です。つまり、ユーザーの同意を得ないままに、広告主が保有する個人データを大手広告プラットフォームと連携している事例が多数見られます。

 

―ユーザーの同意を得ずにカスタマーマッチを利用するという行為は、法的にはいわゆるグレーゾーンに相当するということですか。

 

中道氏:いいえ、グレーではなく、完全な黒だと考えております。個人情報保護委員会が、カスタマーマッチは、ユーザー本人の同意取得等が必要な個人データの第三者提供に該当するという見解を示しています。

 

現時点ではまだ違反を指摘された事例は出ていませんが、摘発されれば、罰則金が課されるだけでなく、企業の信用力や株価などにも影響を与えかねません。

 

―ユーザーの個人情報をカスタマーマッチに利用する旨を明記した一文を各社がプライバシーポリシーの中に挿入すべきということですか。

 

中道氏:いいえ、各企業様によって個人情報の取得方法や運用形態などが大きく異なるので、定型文を挿入すれば良いという話ではありません。

 

また一般的には、プライバシーポリシーを頻繁に変更することはあまり望ましくありません。よって、広告主様は今後数年間を視野に入れたマーケティング戦略を立てた上で、プライバシーポリシーを丁寧に練り上げていく必要があります。

 

正攻法のマーケティングに切り替えるべき

 

―プライバシーポリシー整備の負担が大きいのであれば、IDソリューションまたはファーストパーティデータ活用に消極的になる広告主もいるのではないでしょうか。

 

後藤氏:これまでユーザーの同意を得ずに取得していたサードパーティCookieは、ユーザーのプライバシー保護を目的に来年にはもう完全に取得できなくなります。適切な方法で取得したファーストパーティデータであれば、ユーザーの理解を得られるだけでなく、自社の商品やサービスに興味を持っていることが明らかなユーザーに対する広告配信が可能です。

 

中道氏:本来はターゲティング広告への利用を目的として開発されたわけではないサードパーティCookie活用にまつわる問題が象徴するように、法的にはグレーゾーンまたは黒と見なされるような施策を堂々と展開する悪しき商慣習がオンライン広告業界では長らく横行してきたと思います。このような慣習を続けても、インターネット広告業界は衰退していくだけです。

 

そもそも精度の低いサードパーティCookieを使った広告配信では全く関連性のない広告が表示される例も多く、マーケティング施策の効率が悪くなることで事業が悪化し、商品やサービスの価格を値上げせざるを得なくなれば、結局はユーザーが不利益を被ります。グレーゾーンにある技術や施策に依存することなく、今こそサードパーティCookie以外の正攻法のマーケティングに切り替えるべきだと思います。

 

―サードパーティCookieと比較した際のIDソリューションの有効性はいかがですか。

 

後藤氏:サードパーティCookieと比較すると、IDソリューションではどうしても配信ボリュームは少なくなります。よって「できる限りリーチを広げて新規ユーザーを刈り取る」という施策は、サードパーティCookie廃止後はオンライン広告では実施しづらくなるでしょう。

 

IDソリューションは、そのような環境下において、自社ユーザーとのコミュニケーションを密にすることでLTVを向上させる上で大きな役割を発揮します。過去にご利用いただいた広告主様の中には、CookieやIDFAに基づくターゲティングと比較して、IDソリューションを活用したことでROASが2倍となり、平均注文額が13%増加したとの事例も出ています。一つひとつの広告表示の価値が上がるので、サードパーティCookieに基づく広告配信と比較して広告単価は高くなりますが、精度が高いのでいわゆる無駄打ちが少なく、購買につながりやすいです。

 

またIDソリューションをご利用になる企業数が増えれば、配信ボリュームも担保できるようになるはずです。IDベースでデータを突合することでデータクリーンルームのような用途が広がれば、データの連携先も増えていきます。こうした来るべき未来を見据えて、当社では、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)、マイクロアドといった広告会社様とも提携し、IDソリューションの普及に向けた土壌づくりを行っています。

 

―今後の見通しについてお聞かせください。

 

中道氏:Google ChromeのサードパーティCookieサポート廃止を控えて、今年に入ってから急に問い合わせが増えてきたと実感しています。

 

現時点ではまだサードパーティCookieを丸ごと代替するソリューションは登場していません。このような不透明な状況下においては、まず手持ちのファーストパーティデータの活用方法の検討から着手するのが得策です。その上でIDソリューションは現時点において最も有効な打ち手になるはずです。その中でも、大手プラットフォーム以外のDSPなどとも広く連携しているLiveRampのIDソリューションには大きな強みがあると思います。

 

後藤氏:サードパーティCookieを活用したターゲティング配信を大々的に実施できたこれまでの時間は、言うなれば、ボーナスタイムでした。ユーザーの同意を得ないままに取得していた個人情報がなくなることで、今後は消費者と真正面から向き合うことが求められます。マーケターの本領を発揮できる時代になっていくのだと思います。

 

中道氏:当社宛てに「広告配信にメールアドレスを活用する上での支援をしてほしい」とのお問い合わせをいただいた事業会社様に、「提携する広告代理店はどのような方針を示していますか」と尋ねると、「関連した提案をもらったことがない」という回答がよく戻ってきます。恐らく、いくつかの広告代理店は、状況の変化に全くついていくことができていないのでしょう。

 

広告代理店そしてマーケターには、マーケティングの知識や広告クリエイティブに関連した能力に加えて、システム面やプライバシー対応に関する知見や技術が今後求められるようになっていくはずです。

 

後藤氏:Cookieレス時代への移行はまさに現在進行形で進んでいます。この変化をきちんと乗り越えることができれば、広告業界はより健全になり、各企業はユーザーとの信頼関係をさらに深化させることができるようになるはずです。その未来を築くために、IDソリューションを活用いただけたらと思います。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。