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「DSPでもSSPでもない。ID生成屋だ」―LiveRampが固有IDソリューションの本質論を語る[インタビュー]

サードパーティCookieに依存しないターゲティング技術の一つに、IDソリューションがある。Cookieやモバイル広告IDとは異なる独自のID情報を用いてユーザーを識別する仕組みという点では明確であるものの、具体的にいかに運用されているかについては実はよく知らない人も多いのではないか。IDソリューションの提供を軸に、ファーストパーティデータの活用を支援するLiveRamp社にその実態について話を聞いた。

(Sponsored by LiveRamp)

 

IDソリューションはリエンゲージメント向き

 

―自己紹介をお願いします。

 

LiveRampのヘッドオブパートナーシップスとして、広告主様、媒体社様、テクノロジーベンダー様などとの連携構築を担当する今井則幸と申します。

 

検索連動型広告を提供する会社でキャリアを開始し、以後はアドエクスチェンジ、DSP、媒体社などを渡り歩きながら、約20年にわたりアドテク業界に携わってきました。2019年からLiveRampに参画しています。

 

―貴社の事業紹介をお願いします。

 

「LiveRampはDSP、SSP、DMPのうちどれですか」といったご質問をいただくこともあるのですが、我々はいずれにも相当しません。当社の事業形態を一言で表現するならば、「ID生成屋」になるかと思います。その軸になるのが「RampID」という人ベースのIDソリューションです。

 

2011年創業当時はサードパーティCookieを活用したIDソリューションを提供していたのですが、2016年に欧州でEU一般データ保護規則が、日本では2022年4月から改正個人情報保護法が施行され、Cookieを始めとする個人データの取り扱いに関する制限が高まりつつある中で、これらの規制に抵触しないデータ活用法が切望されています。

 

こうした需要に応えるべく、当社では、メールアドレスなどを不可逆暗号化したユーザーIDを通じて異なる企業が持つデータをつなぎ合わせることで、安全にデータを管理及び運用できる環境を構築しています。

 

―Cookieに依存しないソリューションは他にも存在しますが、それらとはいかに差別化していますか。

 

「Cookieに依存しないソリューション」としては、まずコンテクスチュアルターゲティングや、ターゲティングメディアにおける純広告やタイアップ記事が既に広く活用されています。いずれも媒体社が取り組みやすく、また「こういう記事を読む人は、こういうことに興味を持つはず」という推測に基づき、比較的広い層にマーケティングメッセージを伝える手段であるという点では共通していると思います。

 

一方で当社が扱う人ベースのIDソリューションは、「このサイト上に、このような興味を持つことが既に確認されたユーザーが今まさにここにいます」という確度の高い情報を発信する仕組みです。

 

これらの特徴を踏まえると、コンテクスチュアルターゲティングやターゲティングメディアはファネルの上部において広い層に宣伝や案内をするのに適しており、また人ベースのIDソリューションはファネルの下部で一人ひとりのユーザーのLTVを高めることに向いています。従来のターゲティング広告がリターゲティング偏重の傾向があったのとは対照的に、IDソリューションはリエンゲージメントに長けているという言い方もできるかと思います。

 

固有IDと共通IDの違いとは

 

―IDソリューションとしてはいかに差別化していますか。

 

メールアドレスなどの個人情報に基づくIDソリューションを提供する企業はほかにも存在します。ただそれらの企業の多くが「共通ID」を採用しているのとは対照的に、当社が扱うのは「固有ID」です。

 

資料提供: LiveRamp

 

つまり、一つのメールアドレスから生成された場合でも、LiveRampにID生成を依頼した企業ごとに、異なる固有のIDが生成され、その異なる2つのIDが、同一ユーザーのものであると識別できるのはLiveRampのみであり、万が一、特定のIDが漏洩したとしても、第三者は何のIDか特定できません。

 

―固有IDは安全性が非常に高いものの、汎用性や拡張性には欠けるのではないでしょうか。

 

仰る通り、固有IDはユーザーのプライバシー保護と安全性を最大限に追求したソリューションである一方で、拡張性はやや限定的にはなります。例えばこれまでユーザーの承諾なしで取得できたCookieとは異なり、固有IDを生成する上では事前にユーザーから明確な同意を得ることが大前提となるので、ユーザー母数は小さくなりがちです。

 

ただし、特定データなので情報の精度が高く、またユーザーの明確な同意を得ているので配信情報に対する感度も圧倒的に高いという特徴があります。Cookieターゲティングが「100円の商品を購入するユーザーを10人集める」ことに適しているのに対して、固有IDソリューションは「500円の商品を購入するユーザーを2人集める」ためのソリューションであると言えます。

 

―具体的には個別IDソリューションをどのように活用するのでしょうか。

 

あくまでも一例として、ウェアラブル端末の販売企業様は、CRMシステムを通じて「最新版の利用者グループ」と「旧版の利用者グループ」を把握しています。そして、各グループが自社以外のサイトを訪問した際に、前者には関連付属品を、後者には最新版へのアップグレードを案内するといった具合に異なる広告メッセージを出し分けているのです。その結果として、CookieやIDFAに基づくターゲティングと比較して、ROASが2倍近く、平均注文額は13%も上がりました。

 

尚、ここまで確度や粒度の高い情報を扱うことになるので、CPMは若干上がります。媒体社様の収益は向上し、また広告主様にはROASや平均注文額といった実際の売上につながる成果が出せるとしてご評価いただいています。

 

リテールメディアとの親和性

 

―どのような業種や業態が固有IDソリューションの活用に適しているのですか。

 

実店舗かEコマースかに関わらず、小売業界での活用例が増えてきています。これらの業界は会員カードやアプリを通じて顧客ID付きPOSデータなどを取得しています。これらの個人情報を固有IDへと転化した上で、キャンペーンなどに活用しているのです。いわゆるリテールメディアとしての取り組みの一環として捉えていいのではないでしょうか。

 

リテールメディアの顧客は、当然のことながら、自社のオウンドメディアやアプリ上に常時的にいるわけではありません。そこで、それ以外のサイトから「御社のお得意さんが今こちらにいらっしゃっていますよ」という信号を送ってもらうことで自社に誘導する仕組みを構築するためにIDソリューションが活用されているのです。またIDを通じて異なる企業のデータを結合することで、新たなかつ深い知見を得ることができるという利点もあります。

 

さらには持ち株会社の傘下に複数の異なる事業体を運営しているものの、各社のCRMシステムが分断されていて、会員規約によって利用制限が課されているためにデータの結合ができない場合などにも、IDソリューションがその威力を発揮します。

 

―日本市場にIDソリューションを浸透させる上での課題は何ですか。

 

媒体社様側に関して言えば、サードパーティCookieのサポートを停止したブラウザではCPMが大幅に低下しており、グローバル平均では収益が67%低下しているとの調査結果が出ています。とりわけ日本ではiOSが広く普及しており、したがってCookielessブラウザの代表格であるSafariの利用率も高い傾向にあるので、当社のようなIDソリューションの存在価値は高いと考えています。

 

だからと言って、すべての媒体社がすぐにIDソリューションを導入するかと言えば、そう簡単には行きません。一般的にはウェブサイトのログイン時に入力するメールアドレスに基づき個別IDを生成するのですが、日本市場ではログインや会員登録をせずとも閲覧できるコンテンツが非常に多く、個別IDの生成に必要なデータが揃わないことが往々にしてあるからです。日本市場においてとりわけ顕著な課題と言えるでしょう。

 

そこで当社では、ユーザーの負担を少しでも軽減することを目的として、ソーシャルログインにも対応可能なAuthenticated Traffic Solution (ATS)というソリューションをご用意しております。また個別ID生成に必要な情報を提供したユーザーに対してポイント付与するといった仕組みのアイディアをパートナー企業様と提案・協議中です。

 

―広告主側はどのような課題を抱えているのでしょうか。

 

米国市場などと比べると、各企業様が新規ソリューションに対して慎重になりがちという傾向は確実にあると思います。また当社のソリューションは広告部門とCRM部門などを横断して活用されることも多いので、導入に至るまで検討や予算調整に比較的長い期間を要する場合があります。

 

さらに暗号化するとはいえ個人情報を扱うので、法務部門の理解も必須です。当社では、法律の専門家をご紹介するとともに、提携企業様と共に同意管理プラットフォーム(CMP)を通じて個人情報取得に関わる支援も提供しています。

 

―海外ではIDソリューションは既に広く流通しているのでしょうか。

 

例えばフランスの大手スーパーマーケットチェーンであるカルフール様は、18種類にも分断されていたCRMシステム上のユーザーを、RampIDを軸に統合した上で、GoogleやCriteoといった広告プラットフォームとのデータ連携を行っています。

 

また昨今注目を集めるリテールメディアの象徴的存在であるWalmartConnectを支えているのもRampIDです。日本においてもこうした取り組みがかなり近い将来に具現化していくはずです。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。