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「Cookieの代替技術ではない。凌駕する技術だ」―IDソリューションのID5がglobaliveとの提携で日本展開を本格化[インタビュー]

Cookieの代替技術として注目されるIDソリューション。ただその実態を把握している者は日本国内ではまだ少ない。業界構造を一変させる可能性を秘めたこの先進的技術について、欧州や米国を中心に先行事例を積み重ねてきたID5の共同創業者に市場課題から今後の展望までを幅広く語ってもらった。(Sponsored by globalive)

 

ユーザー識別はデジタル広告市場の根幹

 

―自己紹介をお願いします。

 

ID5共同創業者のマシュー・ロッシュです。複数のアドテク企業で計10年以上の経験を積んだ後、2017年にID5を創業。現在は7万サイトとの提携を通じて、月に35億ユーザーへとリーチするIDソリューションを提供しています。CookieやIDFAに依拠することなく、あらゆる端末またはブラウザで利用可能なIDであり、ユーザー識別に関する技術的課題と法的課題を一挙に解決するソリューションです。

 

―IDソリューション全般が注目を集めていますね。

 

IDソリューションがこれほどまでに注目を集めるようになったきっかけは主に二つあります。まずはEU一般データ保護規則(GDPR)やカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)といった、個人情報の取得に際してユーザーの承諾を得て、かつその用途を明確に示すことを求める法規制が世界中で次々と施行されたことです。欧州では3~5%のユーザーが同意を示さず、その結果、識別ができなくなったユーザーの価値がCPM換算で50~80%ほど低下しています。

 

もう一つは、GoogleやAppleといった大手プラットフォームが課したCookieやモバイル広告IDの利用制限です。サードパーティCookieの利用が制限されたことで識別できなくなったSarafiユーザーの価値は、Chromeユーザーの2分の1または3分の1にまで低下しました。GoogleがサードパーティCookie廃止を2023年まで延期したことで、業界全体がほっと胸をなでおろしたことでしょう。業界は全くと言っていいほどに準備できていないからです。

 

さらにiOSではIDFAの取得に際してオプトインを義務付けした結果、ユーザーの半数がオプトインをしないという選択をしました。言い換えれば、約半数のユーザーとは1対1のコミュニケーションを持つことができなくなったのです。こうした現状を受けて、ユーザーの識別方法の根本的な見直しが迫られています。

 

―ユーザーを識別できなくなることで、具体的には誰が最も困るのでしょうか。

 

一部の大手プラットフォームを除いて、インターネット広告に関わるありとあらゆる事業者が影響を受けます。ユーザーの識別技術は長らくデジタル広告市場の根幹を支えてきました。Aさんが所有するPCとBさんが所有するPCを区別することで、それぞれの趣味嗜好やオンライン行動に即したマーケティングメッセージを届けるだけでなく、広告効果の計測や、広告表示回数の調整などを可能にしたからです。

 

ところが、CookieやIDFAの利用が制限されれば、ログイン情報を有する一部の大手プラットフォーム以外の事業者はこれら一連の施策を行うことが不可能になります。

 

Cookieは万能ではない

 

―CookieやIDFA制限に対する対応としては、ファーストパーティデータの活用やコンテクスチュアルターゲティングなども期待を集めています。

 

まずファーストパーティデータ活用について言うと、広告主が自ら精緻なデータ環境を構築していることは極めて稀であり、広告配信におけるデータ活用となれば媒体が持つオーディエンスデータに依拠することになります。ただ媒体のデータに依存してしまうと、自らの商品やサービスのユーザー像を追い求めることは難しくなるでしょう。

 

またコンテクスチュアルターゲティングは、あくまでもサイト訪問者という限定的な母数の中から最適なユーザーを選び出すという作業に過ぎません。つまりユーザーの規模を確保できないのです。

 

さらに言えば、いずれも広告効果計測やフリークエンシーキャップを行うには適していません。言い換えれば、ファーストパーティデータ活用もコンテクスチュアルターゲティングもCookieの代替手段とはなり得ないのです。

 

―Cookieは非常に優れたユーザー識別技術だったのですね。

 

ただし、Cookieは世の中で思われているほど万能ではありません。Safari、Firefox、Edgeといったブラウザではもはや機能しない。つまり全世界で発生しているトラフィックの4割に対してCookieは使えないのです。

 

またCookieはあくまでもドメイン単位でしか発行できません。加えて、Cookie連携という手続きを必要とします。つまり広告主側と媒体社側で別々に発行したCookieを連携させることで媒体を横断してのユーザーのトラッキングを実現しますが、このCookie連携を行う度に10~20%のユーザーを失います。Cookie連携を数度繰り返すと、最終的に残ったユーザーは当初の30~40%程度になってしまうのです。

 

さらに本質的に重要な課題がもう一つ。ユーザーがサイトにCookieを落としさえすれば広告主は活用できるという仕組みになっているので、サイト側にはユーザー情報の管理権限がありません。「このユーザーは〇〇に興味を持っている」という貴重な情報が外部に漏洩し、媒体社は収益機会を逃しているというのが現状です。

 

―ただ一般的には、Cookieこそが拡張性に優れていると言われています。

 

少なくとも当社のIDソリューションはCookieよりも拡張性があります。既にドイツでは当社IDを活用したOS Data Solutions社がCookieと比較して28%も多くのユーザーにリーチしたとの事例が出ています。

 

当社が提供するIDソリューションはSafari、Firefox、Edgeでも利用でき、Cookie連携を必要としないのでより多くのユーザーにリーチできるからです。さらには媒体社の権益とユーザーのプライバシーを保護します。

 

Cookieはそもそもユーザーを識別するために開発されたわけではありません。ユーザー識別を目的として開発されたID5のIDソリューションは、Cookieの単なる代替技術ではなく、Cookieを凌駕する技術なのです。

 

 

独自の技術とビジネスモデル

 

―Cookieを使わずに、どのようにしてユーザーを識別するのですか。

 

各サイトやアプリから様々なシグナルを送信してもらいます。ログインしたユーザーであれば、ハッシュ化されたEメールアドレス、電話番号、会員IDなどです。尚、これらの情報は当社以外のIDソリューションでも扱っています。ただし、Eメールアドレスが登録されたウェブサイトは全体の5%程度に過ぎません。つまりデジタルマーケティングを実施する上では、これだけでは十分なユーザー規模を確保できないのです。

 

そこで当社では、IPアドレス、OS、ブラウザ、ページ滞在時間といった推定型情報も取得します。このように特定型情報と推定型情報を組み合わせることで、世界中のオンラインユーザーの60~70%を識別することを可能にしました。

 

媒体社はAmazon Publisher Services、PrebidラッパーのIDモジュール(例えばPubMatic社のIdentity HubやFLUX社のDataHarbor)を利用することでID5を実装できます。そして新たに生成されたユーザーIDをDSP、DMP、広告主と共有し、広告配信に活用いただくという仕組みです。

 

―IPアドレスを始めとする情報に基づきユーザーを推定する技法はいわゆるフィンガープリントに相当しますか。

 

情報対象はフィンガープリントと同様ですが、情報の取得方法が根本的に異なります。フィンガープリントが問題視されるのは、媒体社やユーザーの許諾を得ずに勝手にこれらの情報を盗み取るからです。一方の当社技術は、提携する媒体社、ひいてはユーザーの許諾を得た上で、媒体社の利益のために用いられます。

 

―他のIDソリューションとはどのように差別化を図っていますか。

 

その他のIDソリューションを提供する企業は、本来はデータ事業者、広告配信プラットフォームや媒体社として活動しています。つまりデータ販売や広告枠の売買といった既存事業の円滑化を目的としてID事業を運営しているのです。これでは競合するデータ事業者や媒体社と利害が衝突するため、連携先が限定され、リーチできるユーザーも限られてしまいます。

 

ID5は広告及びデータ売買に一切関与していません。Amobee、MediaMath、PubMaticといった大手事業者とも提携し、展開規模では他社を大きく引き離しています。

 

広告主と媒体社のためのソリューション

 

―Apple社はプライバシー保護を目的にユーザーのIPアドレスを秘匿する新サービスを打ち出しています。貴社の強みである推定型データ活用もいずれ制限されるのではないでしょうか。

 

IPアドレスに関してAppleが制限するのは、広告主やサードパーティによる履歴の追跡に限ってです。インターネットが機能する大前提としてウェブサイトがIPアドレスを取得することを禁止することなどあり得ません。

 

よって媒体社とファーストパーティ的な提携関係にある当社への影響は皆無です。むしろフィンガープリントによるユーザー情報の取得を制限するので、悪しき習慣を排するという意味でも、当社の事業拡大という意味でも前向きな動きと捉えています。

 

―今後の事業展開についてお聞かせください。

 

150%の成長率を維持し、来夏までには広告取引全体の50%がID5 IDを利用する環境作りを目指します。

 

ちなみに欧州市場では既に40%を超えています。米国では10~20%、日本でも10%を突破。Cookie制限に伴う課題についての認識が広がったおかげで、当社技術に対する理解を得やすい環境が整いました。

 

―日本市場特有の課題はありますか。

 

米国と欧州の市場構造やユーザー傾向はかなり似通っているのですが、日本は中国やロシアと並んでやや異質な市場です。しかもこれだけ大きな市場規模を誇る国であるにもかかわらず、プレイヤーもユーザーの特徴もグローバル動向とは大きく異なります。米国や欧州を起点としたグローバル展開の一環としては進出することが難しい市場と言えるでしょう。

 

よって当社では日本企業向けに広告テクノロジーに関するコンサルティング支援を行うglobaliveと提携し、日本市場へのローカライズに注力することに決めました。

 

日本市場においては現在、ID5 IDを持つ広告リクエスト数は1日につき4500万リクエストに達しており、既に神戸新聞社様や株式会社イトクロ様のメディア等にて導入いただいております。日本でも他国と同様、来年中には広告取引全体の50%へのID付与を達成する見込みです。

 

日本だけでなく世界全体が、プラットフォームではなく、広告主と媒体社のためになるソリューションを必要としています。これからglobalive社と一体となって、ID5のソリューションを日本の市場環境に合った形で提供していけたらと思います。

 

ID5についての問い合わせや詳細はこちらまで

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。