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ショート動画の普及でYouTube市場はどう変わる? BitStar CEOが語る最新のトレンドとインフルエンサーマーケティング

TikTokやリール(Instagram)、そしてYouTubeショートの普及で、コンテンツの変化やインフルエンサーの収益構造は大きく変化したと語るBitStar代表取締役社長 CEO渡邉 拓氏。同氏には2020年にもYouTube市場やインフルエンサーマーケティングの現状を語っていただいたが、2024年現在はどのような状況になっているのか? 直近の市場環境の変化や同社の取り組みについて、お話を伺った。

 

 

 

ショート動画の登場で企業に求められるインフルエンサー像が変わった?

 

―前回お話を伺ったのはコロナ禍で、YouTubeの市場については右肩上がりで伸びるというトレンドだった。その後、YouTuberに対する収益還元率の変更や、ショート動画の登場など、様々な変化がありました。現在のYouTube市場の状況と、広告本数、最近のトレンドを教えてください。

 

我々も毎月のようにデータを取っているが、YouTube全体の再生数は右肩上がりでずっと伸びています。ただし、内訳は大きく変わっており、長尺の動画再生数はほぼ横ばいの状態であり、ショート動画が再生数の増加に大きく貢献している、というのがここ数年のトレンドです。

広告に関しては減少傾向で推移しており、そういった理由も加味すると、ショート動画が今後の伸びしろとしては、一番大きいと考えています。

 

当社はYouTubeだけにフォーカスしているわけではありませんので、YouTubeショートのほか、TikTok、Instagramのリールを使ったビジネスを行っています。その結果、売り上げのポートフォリオを見ても、現在はTikTokなどのショート動画の方がYouTubeの長尺動画よりも、売り上げの割合は多くなっています。

 

 

―広告収入を除いたタイアップ動画について、YouTubeではショート動画よりも長尺動画の方が売り上げはまだ大きいのでしょうか?

 

市場感で言えば、長尺動画の方がショート動画よりも売り上げは大きいと感じています。ただ、当社の場合は、ショート動画の方が売り上げは大きくなっています。

YouTubeタイアップ動画のトレンドとして、タイアップ動画の本数は伸びています。ただ、1本あたりのタイアップ動画の再生数は縮小気味です。これは、視聴者の細分化はもちろんのこと、クライアントのニーズも細分化され、ニッチな領域にもタイアップを求めるクライアントが増えたことも要因と考えています。

細分化が進んだ結果、1動画あたりのタイアップ動画の平均再生数は落ちていますが、タイアップ動画の本数そのものは右肩上がりに伸びています。

 

 

―タイアップ動画の再生数が落ちていても、クライアントはタイアップを求め続けるのでしょうか?

 

求め続けると思います。

数年前までタイアップ動画は、バズるための特別な施策のうちの1つ、というのが、企業や代理店の認識だったと思います。しかし今や、マーケティング施策の中でもタイアップ動画は施策の定番として、様々な設計や実装が行われています。

 

設計や実装の例で言うと、数年前は、認知が取れる有力なインフルエンサーをまずは使うというのが主流でしたが、最近は、認知⇒興味⇒購買というファネルの中でしっかりとした設計を求めるクライアント様も増えています。有力なインフルエンサーよりも、購買までつながるインフルエンサーを求めており、その結果、フォロワー数は少なくても、しっかりと購買までつなげられるインフルエンサーを複数人活用するというクライアント様も増えています。

 

 

―コロナ禍の時、市場はYouTubeをメインに、その他がチラホラあるという感じでしたが、今はどのような状況でしょうか?

 

今はマルチプラットフォームになってきていますが特にTikTokの存在感は年々拡大しています。

ショート動画に関しては言えば、視聴者数はTikTokがダントツで、その次にYouTube、Instagramになっていると思います。

 

 

―YouTubeに限ると、全体の中では縦・ショート動画と長尺動画では、どちらの方が1本あたりの広告収益は多いのでしょうか?

 

YouTubeなら、まだまだ圧倒的に長尺動画の方が広告収益は多いです。
ただ、再生数だけで言えば、ショート動画の方が今は上回っていると思います。

 

広告収益は右肩上がりに伸びていますが、長尺の成長率は横ばいで、ショート動画が成長を支えています。しかし、YouTubeのショート動画の場合、案件単価は長尺と比べても非常に安く、再生数の広告収益も小さいです。

ショート動画の広告収益で考えるなら、YouTubeよりもTikTokの方が圧倒的です。

 

 

―YouTubeでショート動画をやられているインフルエンサーは、元々TikTokをやっていた方が多いのでしょうか?

 

そういうわけではないと思います。

YouTubeで長尺動画を投稿していたが、ショート動画を始めた結果、ショート動画で人気を獲得した人もたくさんいます。

 

 

 

YouTube市場の最新動向

 

 

―YouTuberの今の状況について教えてください。数年前はアドセンス(広告収益)が多かったと思いますが、今その構造は変わっているのでしょうか? 

 

クリエイターが増えている一方で、人の可処分時間はあまり変わりません。そうなれば、相対的に1クリエイターあたりの再生数やインプレッションっていうのは減っていきます。

私の考えでは、日本は今後、1億総クリエイター時代になると思います。その場合、1人あたりのインプレッションは、緩やかにではありますが、中長期的には下がっていきます。

 

そのため、多くのYouTuberはアドセンスが減っていきます。なので、対策としてタイアップ案件の比率を上げる、ファンベースを活かしたグッズ販売等に舵を切るYouTuberは多いでしょう。

 

また、YouTubeで稼ぐ、SNSで稼ぐのではなく、これらを、自身のマーケティングチャネルの1つとして活用し、ファンベースがあるうちに起業家のような思想でビジネスに活かしていく方も増えているように感じます。

 

D2C(Direct to Consumer)が最近の流行ですが、YouTuberたちもリアル含めたビジネス展開をしていくのが今後のトレンドになっていくと思います。

 

 

―YouTube側から、マーケットを活性化させるための動向や施策、そのほかYouTuberの活動に大きな影響を与えるような変化はありますでしょうか?

 

YouTubeショッピングはマーケットを活性化させる施策の1つではないでしょうか。

 

ShopifyやBASEとも連携できるようになりましたが、今後は、テレビショッピングのような、ライブコマースへ本格的につながっていくと感じています。これらはTikTokなど他のプラットフォームも力を入れてきた部分ですので、YouTubeもそこに対応した取り組みだと思います。

 

また最近は、AIを活用したサムネイルの最適化がはやりましたが、AIをさらに活用する取り組みとして、日本の動画が翻訳されて、海外の視聴者を獲得できる仕組みなどが整備されれば、動画がグローバルに広がっていく未来も考えています。

 

 

―テレビの芸能人がYouTubeに出るのは当たり前になり、いわゆる稼げるYouTuberの層も変わってきているのでしょうか?

 

間違いなく変わってきていると思います。

芸能人だけでなく、VTuberの存在も、稼げるYouTuberの層の変化に影響を与えていると思います。

特定ジャンルに特化して数万、数十万の登録者数を持つロングテール、ミドル規模のYouTuberも過去と比較するとたくさん生まれてきているので、多様性に富んだプラットフォームになってきたと感じています。

 

 

―事業者サイドとしては、業界の変化はどのように感じているのでしょうか?

 

クリエイターたちも、収益が下がると危機感を持つようになります。そこに対して、プロダクションとしてはどのような価値が提供できて、クリエイターの人たちの収入をどれだけ上乗せできるのかは、クリエイターがプロダクションを選ぶカギになってくるでしょう。

 

ここがうまくマッチせず、クリエイターたちが「プロダクションに収益が取られているだけではないのか?」と考えるケースが続くと、独立を選択するクリエイターが増えることはあるでしょう。重要なことは個人だけではできない価値をプロダクション側が提供できているかどうかだと思います。会社がサポートすることで膨大なクライアントソースやナレッジ、リスクマネジメント、組織力にアクセスすることも可能ですが、全ての人がマネジメントを受けるべきではないし、全ての人がフリーだったら良いかといえば、そういうわけではないと考えています。

 

我々のような企業は、クリエイターをサポートするだけでなく、新しいビジネスモデルを生み出していく必要があるでしょう。中長期的には、1億総クリエイター時代にマッチしたビジネスを展開できるように、企業として行動していかないといけません。

 

 

―エコシステムの課題として感じられることはなんでしょうか?

 

クライアントサイドでは「認知が高い人を起用すればいい」という考えからは脱却しつつあり、最近は、ブランドに最適で、なおかつ、細分化されたニーズに対応できるインフルエンサーを起用する傾向が増えています。この流れは、これからも増えていくでしょう。

 

事業者サイドとしては、クライアントで起きている変化に対応するため、AIをはじめとした新しいテクノロジーを導入する企業も増えています。
当社の場合、特許も取得したのですが、データベースとAIを掛け合わせる形で企業のターゲットにあったクリエイターとの最適なマッチングをAI活用で実現しています。

 

ひとつ例を挙げると、とあるアルコール飲料の案件が来た時当社は、一般的な知名度は低いのですが、アルコール飲料界隈では人気のYouTuberをキャスティングしました。ニッチなキャスティングではあったのですが、POSは大きく動き、クライアント様にもご満足をいただき、再発注にもつながりました。

今後、事業者サイドは細分化されたニーズや増加する膨大なクリエイターに対応するために、テクノロジーを駆使したキャスティングをしていく必要があるでしょう。テックを活用しない事業者には、厳しい状況がくると感じています。

 

YouTuberサイドに関しては、クリエイターがどんどん増えている以上、1人当たりのインプレッションは下がっていくことを受け入れる必要があるでしょう。そして、稼働が増えることは覚悟のうえで、他のプラットフォームにも活躍の余地を見出す、あるいはマネタイズにおいて、多面的な収益の道筋を描いていくのが重要になっていくと考えています。

 

 

―広告主に対してはどのようなサービスを提供していますか?

 

プランニングから入るパターン、プロダクトのパッケージだけを販売するパターンの、両面に対応できる形でビジネスを進めています。大手企業になればなるほど、課題に対するオーダーメイド機能は必要になってきますのでクライアント様の要望を叶えられるように、当社のデータベースやプロダクトを活用しながら業務を行っています。

 

一方で、プロダクトドリブンで価値を提供できるクライアント様も非常に増えているため二極化しています。

 

 

広告主たちのマーケティング施策の変化

 

 

―事務所の運営はどのような状況でしょうか?

 

去年、Garouという会社のM&Aを行ったため、現在は「BitStar」とGarouから名称を変えたOOO Entertainment(スリーオー)」という2つのプロダクションを運営しています。

 

ただ、プロダクションとして、専属マネジメントだけに絞ってビジネス展開を進めるだけではなく、今は「レーベル」という言い方をしています。セルフマネージメントはしてもらったうえで、セールスエージェンシーとして関わらせていただくこともあります。

 

また、アカデミー生と呼ばれる育成枠を設け、クリエイターの裾野を広げていく事業も展開しています。

 

 

―売り上げを比較した場合、YouTubeとその他のプラットフォームの比率を教えてください。

 

当社の場合、比率で言えば、様々なビジネストータルで考えるとYouTubeとTikTokではYouTubeの方が少しだけ大きいですがTikTokにInstagramの売り上げを合わせると、YouTubeの売上は超えてきます。
今、TikTokが非常に伸びており、相対的にYouTubeの比率は下がってきています。

 

ただ、具体的なタイミングはわかりませんが、データを見ていくとTikTokもどこか近いタイミングで上がり幅が落ち着き、YouTubeの下がり幅も落ち着くと見ています。

 

Instagramは大きな動きもなく、安定した成長を見せています。
Xに関しては、当社では話題になるような動きはありません。

 

 

―御社の競合はエージェンシーなのでしょうか?

 

競合でもあり協業相手でもあると思います。BitStarの場合は様々な事業を展開しているためある事業では競合でもありますが別の事業の側面からすると協業相手でもある。私たちはより広い視野を持ってこの市場を大きくしていきたいと考えています。

 

 

―広告主は、ショート動画と長尺動画をどのように使い分けているのでしょうか?

 

尺が長い動画のほうが、当然ユーザーとの接触時間も長く、興味関心などの中間ファネルも獲得しやすいです。そのため、「理解」のようなミドルファネルや「購買」を目的とするのであれば、長尺動画を選択する広告主は多いです。

広告主が「認知」を目的とするのであれば、目につきやすいショートを選択しています。

 

 

―インフルエンサーマーケティングが拡大している中、大手広告主は現在、どのような予算の取り方をしているのでしょうか?

 

ある大手広告主の場合、テレビのバジェットを大きく減らして、その分をデジタルやインフルエンサーにアロケーションしています。

最近は「予算の中の○○%はインフルエンサーマーケティングに」という形でアロケーションしている企業が多いことも、インフルエンサーマーケティングが定着した証でしょう。

 

 

―貴社はYouTube広告の「TrueView」など、広告出稿も受けていますが、YouTube広告において、縦型ショートの広告需要は増えているのでしょうか?

 

縦型ショートの需要は増えていますし、今後も増えていくのではないでしょうか。

 

インフルエンサーの方たちとは、広告に関するすり合わせを行い、広告運用をすることもあります。例えば、広く知られている人だったら認知文脈で広告を回させていただくこともあります。顧客獲得を狙いにいくため、アフィリエイトに近いモデルで広告提案することもあります。

 

 

―貴社が考えるYouTube市場の将来展望を教えてください。

 

長尺動画はポジションとしても、テレビに近いものになっていくのではないでしょうか。

特にチャンネルのファンに向けた動画は、既にどんどん長尺になってきているので、コアなファンを抱えている人たちほど、それこそ1動画60分など長尺化していって、表現の幅も広げたうえで、収益も伸ばしていくと考えています。

 

YouTubeショートとの連動として、本来はショート動画からファンになり、長尺動画を見てもらえる、リテンションをするイメージが理想的だが、現状そこまでうまくいっているYouTuberたちはなかなかいません。

その結果、ショート動画と長尺動画の視聴者層の差が明確になっていくでしょう。ショート動画を中心に活動されてきたクリエイターにとっては、マネタイズが大きな課題です。

YouTubeならば、やはり長尺動画やコンテンツで、いかにファンを付けていくかが収益の上でも非常に大切なので、そのあたりにまだまだビジネスチャンスがあると感じています。

 

また、YouTubeで今後のトレンドの1つになるのは、グローバルに受け入れられるコンテンツでしょう。現状もいわゆるノンバーバル(非言語)コンテンツとして、食事で魅せる「Bayashi TV」さんなどは、グローバルでコンテンツが流通していますが、今後はバーバル(言語)コンテンツもYouTube側のAI翻訳機能によって、世界中の方に見ていただけるコンテンツが誕生していくはずです。

 

良いコンテンツが世界により流通しやすくなるということは、逆に言えば、海外のコンテンツに、日本の視聴者が取られてしまうということでもあるので、日本のYouTuberたちは世界で戦えるコンテンツを磨いていく必要があるでしょう。

 

 

―貴社の最近の取り組みを教えてください。

 

インフルエンサーマーケティングは、今やどの企業にとっても当たり前の施策です。
例えば、大手食品メーカー様の場合、「新商品発表会」があったとき、今までは記者向けと一般向けの2部門だったのですが、インフルエンサー部門を当社から提案させていただいた結果、3部門体制となりました。

インフルエンサー部門は、初回は80人ほどであったが、現在は300人近いインフルエンサーに参加していただき、それがある種のイベントになりSNSでも大きな反響を呼びました。この結果を評価していただき、今は記者向けと一般向けも弊社の方でお手伝いさせていただいております。インフルエンサー向けの「新商品発表会」には、社長様にもお越しいただき、またその取り組みがIRにも出るなど、インフルエンサーマーケティングに期待していただいていると感じています。

 

なので、弊社としては、今後はよりインフルエンサーとの関係性を重視し、商品を宣伝するアンバサダーのような枠組みをより発展させていきたいと考えています。

商品を宣伝して終わりではなく、熱量の高いインフルエンサーと企業のリレーションをより深める設計にし、タイアップだけでは終わらない、マーケティングの様々な施策やファネルの中に、インフルエンサーマーケティングを組み込んでいく取り組みを進めていきます。

 

その取り組みの一部として当社は、インフルエンサーマーケティングプラットフォーム「BitStar Match」というプラットフォームをリリースいたしました。

このシステムには生成AIによるインフルエンサー提案機能を追加しており、商品URLまたは商品情報を入力すると、過去の実績とデータベースをもとに、AIがおすすめのインフルエンサーを選定してくれます。

 

BitStar Match」で選定される、インフルエンサーは、当社がデータとして登録してある60万件のインフルエンサーの中から最適な人物をピックアップしてくれます。

当社に所属していないインフルエンサーが表示された場合も、当社から該当するインフルエンサーにお声がけし、実際にキャスティング交渉までさせていただきますので、広告主様には安心していただきたいです。

 

また、このシステムを運用することにより、当社としても、インフルエンサーマーケティングを効率化できるような体制を築きやすいと考えております。

AIが取得する情報は非常に豊富で、なおかつ、当社が代理店として入るより安価なプランもありますので、ぜひインフルエンサーマーケティングを希望している広告主様には、積極的に「BitStar Match」を活用していただきたいです。

 

ABOUT 町田 貢輝

町田貢輝

ExchangeWireJAPAN 編集担当 日本大学法学部法律学科卒業。編集プロダクション、出版社でエンタメ、健康、IT関連の雑誌と書籍の編集・進行管理に従事。2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。DX領域のメディア運営全般ならびに、調査研究を担当する。