広告品質とユーザー体験への投資 ──集英社が描くブランドセーフティの未来[インタビュー]
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on 2025年6月10日 in![広告品質とユーザー体験への投資 ──集英社が描くブランドセーフティの未来[インタビュー]](https://cdn.exchangewire.com/wp-content/uploads/2025/05/flux01-525x350.jpg)
紙とデジタルを横断して多様なメディアを展開する集英社。その広告運用の裏側には、“ユーザーが安心してコンテンツを楽しめる環境づくり”という強い信念があります。本記事では、集英社・佐藤克彦氏とFLUX・内田雄輔氏の対談を通じて、ブランドセーフティや広告品質の課題と対策、そしてGeoEdge導入による変化を深掘り。ユーザー体験と収益性の両立を目指す最前線の試行錯誤と、これからの広告価値のあり方を探ります(2025/4 インタビュー実施)。
(Sponsored by FLUX)
profile
株式会社集英社
メディアビジネス部 デジタルプロデュース課 グローバルセールスリーダー
佐藤 克彦
株式会社FourM、AnyMind Japanにて主に出版社・新聞社のネットワーク広告でのマネタイズ支援を経験した後、2021年から集英社に入社。集英社内のウェブサイト・アプリのネットワーク広告マネタイズ、社内CDPの構築/運用に従事。
株式会社FLUX
メディア・マーケティングソリューション本部 メディア・ソリューション部 アカウントエグゼクティブグループ
内田 雄輔
グリーにてWebディレクター・純広告営業、Gunosyでデマンドサイドのアカウントマネージャーとして従事。その後、delyにてメディアマネタイズ、マーケティングを経験した後、FLUXへ入社。デマンドサプライ両面の経験からメディア様をサポート。
ユーザー体験を守るために──広告品質とメディア運営の現場
― 集英社さんは紙媒体だけでなく、複数のWEBメディアを運営されています。佐藤さんの立場からコンテンツホルダーとして大切にしていることや課題に感じていることがあれば教えてください。
佐藤:私は編集部でもなく、かつ広告側としても直接タイアップのようなコンテンツを扱う立場でもないのですが、ネットワーク広告マネタイズなどを担う立場から回答させていただきます。弊社は複数メディアを持っておりそれぞれ特色は異なりますが、どのメディアでも「ユーザーが自分事化しやすい」コンテンツを出すことを重視しています。なぜかというと、「自分事化しやすい」ということはつまりユーザーにコンテンツが届いていると言えますし、そのようなコンテンツだからからこそクライアント様とタイアップなどで一緒に仕事ができ、クライアント様の訴求もユーザーの自分事化に繋がり、結果として届けたい相手にしっかり届けられるという好循環が生まれます。
私が担当するネットワーク広告のマネタイズにおいても、その循環を崩さないように意識しています。広告がユーザーの関心をそらしたり、コンテンツのムードを損なったりしないよう、「広告と気づきつつも興味関心に近い」と思ってもらえるようなフォーマットや内容になるよう調整を続けております。
一方で課題としては、弊社のみならず業界全体に言えると思いますが、ネットワーク広告における悪質広告、低品質広告への対応でしょうか。日々多種多様な悪質広告が出てきますが、数十社のSSP、そして複数のアドネットワークが連なっている中ですべての広告を精査しきることは難しく、また収益とのバランスを取ることも課題に感じます。
― 広告品質とユーザー体験の両立という点で、広告マネタイズにおいて意識されている工夫や判断軸があれば教えてください。
佐藤:メインではPMPを増やしたいと考えています。紙媒体も含めて純広告を売りたい一方で、市況もあり全てを純広告で埋めることは難しく、ネットワーク広告なども並行して活用している状況です。そうなると悪質広告のリスクは一定出てきてしまうため、ユーザー体験を損なわない広告フォーマットを意識し、広告単価の維持・向上を目指せるよう各ベンダーと調整しています。
内田:広告品質を守ることで、媒体の信頼性やブランド価値が向上し、結果的にPMPの相談にもつながっていく。集英社さんはまさに理想的な循環を築かれていますよね。オープンウェブへのディスプレイ広告予算が絞られていく中で、目指すべき形の1つだと思います。
― 悪質広告について、率直にどう考えていますか。また、それに関するWEBメディアの動きについてどう見ていますか?
佐藤:メディアの立場からすると、正直に言えば各プラットフォーム側でもより精査してもらいたいと思います。しかしユーザーの立場からすれば、広告を目にする場所であるメディアの我々が、いかに対応していくかが求められるのだとも感じています。そのため、できる限りメディアとして対応できることはやっていきたいですね。
各メディアさんも悪質広告への対応を進めているとは思いますが、悪質広告を防ぐためのプロダクト導入などは選択肢としてあるもののやはり費用がかかってしまう点で、バランスをとるのが難しいところでしょうか。
内田:多くの媒体社様とやり取りさせていただいている弊社から見ても、特に近年は悪質広告の配信量が増えている印象を受けます。最近は広告クリエイティブが一色で塗りつぶされていたり、著名人を不正利用した詐欺広告が次々に形を変えて出てきたりと、弊社の中でも話題になりました。
なりすまし広告や技術サポート詐欺がマスメディアでも取り上げられることが増え、社会問題にもなりつつあります。
佐藤さんが仰る通り、ユーザーから見ればメディアの責任と捉えられ、SNSなどで炎上してしまうのが現状です。メディア側でできる対策は限られているため、業界全体での取り組みが必要だと考えています。
ブランドを守る広告運用──GeoEdgeによる変化と効果
― 集英社さんは悪質広告への対応のため2021年からGeoEdgeを導入いただいていますが、きっかけはなんだったのでしょうか。
佐藤:クライアント様から「自社のブランドに似た広告が出ている」という指摘があったことが導入のきっかけです。導入以前から詐欺ブランドやフェイクブランドという悪質広告が出てしまわないように手動でブロックするなどの対応は取っていたのですが、それだけではどうしても防ぎきれずに限界を感じてプロダクトの導入に至りました。
― FLUXでは多数のメディアさんに対してGeoEdgeの導入に携わっていらっしゃいますが、どういった理由で導入されるケースが多いのでしょうか。
内田:近年、悪質広告に関してSNSで話題にあがることもしばしばあり、社内外で問題視する声が増えたということでご相談をいただくケースが多いです。また悪質広告だけでなく、肌の露出が多かったり、誇大広告などの低品質なクリエイティブの配信を防ぎたいといったご要望をいただくこともあります。
佐藤さんも仰っていたように、みなさん手動でブロックするなどの対応を行っていますが、例えば詐欺ブランドやフェイクブランドのような悪質広告は、ドメインなどを頻繁に変えてくることが特徴です。一度のドメインブロックで対応が終わるわけではなく、イタチごっこのように何度も対応を迫られるケースが少なくありません。
また、悪質広告の配信元となっている一つのSSPを特定できても、他のSSPから同じ悪質広告が出る可能性を考えると、SSPの数だけ管理画面にログインしてブロックをして…という作業が発生してしまうため、非常に工数がかかります。そのような工数面でのお悩みをお持ちのメディアさんも多いですが、GeoEdgeであれば一つの管理画面上で作業を完結できるため、リソース削減の面でもメディアさんに魅力を感じていただけています。
― GeoEdgeを導入し、どういった効果が見られましたか?
佐藤: クライアント様にとって好ましくない悪質な広告の露出がほぼ無くなり、社内外からの指摘がかなり減りました。特に広告品質を重視している女性系・ファッション誌系メディアにおいては、悪質広告だけではなく、いわゆるユーザーを不快にさせてしまうような低品質なクリエイティブ広告も激減し、メディアにおける広告クリエイティブの改善に確実に寄与していると感じています。また内田さんも仰るように、悪質広告を探してブロックするという工数もかなり削減できました。
― GeoEdgeを実際に運用されてみて、使い勝手や印象はいかがでしたか?
佐藤:まず導入時ですが、Prebid wrapperにタグを入れるだけで完結できたことが非常に助かりました。弊社は十数メディアを持っていますが、何か実装対応が発生すると、メディア毎にそれぞれ異なる開発会社に依頼する必要があり、社内担当とのやり取りも含めて全メディア分の依頼、実装、確認、修正の手間がそれなりにかかってしまいます。その点、GeoEdgeは既に実装済みのPrebid wrapper内の調整で済むため、導入工数というハードルはかなり低かったです。
また導入後ですが、GeoEdgeでは媒体ごとの複数ドメインの一元管理ができるため、ブロック対応の管理・工数の削減という面で非常に利便性を感じています。今では週1回~隔週に1回程度のログインで十分管理できており、リソース効率も向上しました。
これからの広告価値とは──集英社とFLUXの展望
― 集英社さんは大手コンテンツメディアとして、今後どのような広告メニューや価値を提供しようとお考えでしょうか。
佐藤:初めの話に戻りますが、私たちはユーザーが自分事化しやすいコンテンツを主軸とし、それを広告商品として展開しています。単純な量を追求するのではなく、ユーザーにとって意味のあるコンテンツを提供することが私たちの強みであるとも言えます。そのコンテンツ力を活かしながら、自社の0・1 party dataでコンテンツを補完できるような商品を設計し、その掛け合わせをもって、量以外の面でも価値をクライアント様に提供していきたいですね。
例えば、ログインユーザーのデータや決済情報、アプリ経由のデータなどを組み合わせて、認知形成や興味関心の喚起を中心とした広告メニューを強化していくことも目指しています。単純なクリック数だけでなく、ユーザーの長期的な興味や行動変容を促すような広告手法を開発していければと考えています。
3rd party cookieの制限などにより、データ収集が難しくなっている点は課題としてありますが、自社独自のデータ収集戦略と、他社のデータプラットフォームとの協力で、こうしたデータ活用の可能性を探っているところです。単純な広告効果測定だけでなく、購買後の継続性や顧客のライフタイムバリューまで見られるような仕組みづくりを目指していければと考えています。
― 最後に、内田さんはFLUXのメディア向き合い担当として、今後コンテンツメディアの広告に対しどのようなサービスや価値を提供したいとお考えでしょうか。
内田:私たちは収益性の向上に向けて日々ご提案をさせていただくことが多いですが、一方で本日のお話にあったように、ユーザーが高品質なコンテンツを安心して閲覧できることを蔑ろにしてしまっては長期的には広告メディアとしての価値が低下してしまいます。
また、その他AIの発展や社会情勢の変化により、オープンインターネットのエコシステムはここ数年で大きな変革を迎えつつあり、このような難しい課題に直面している状況ではありますが、メディアさんにとっての最良のパートナーであるため、より良い意思決定の支援を続けていきたいと考えています。
佐藤さん、今日は貴重なお話をありがとうございました。
ABOUT 加納 奈穂

ExchangeWireJAPAN 編集担当
武蔵野美術大学卒業後、出版社に入社。WEBサイトや広告の運営に従事。その後コスメ情報サイトのコンテンツマネージャーを経て出版社での通販事業において販売促進業務を担当する。通販会社にてSNS運用に携わったのち、2022年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。現職に至る。