韓国ソウル開催・コマースメディアの最前線に迫るMoloco主催「MOLOCON25」イベントレポート-急成長中の韓国最大級ビューティストア・オリーブヤング、成功の秘訣とは-
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on 2025年7月14日 in
USに本社を置き、独自のAIエンジンを活用しアプリ広告の自動最適化を提供するMolocoが、2025年6月12日、韓国・ソウルで大型カンファレンス「MOLOCON25」を開催した。700名に上る来場者の熱気に包まれた会場では、「AIコマース」をテーマに業界の最新動向の紹介や、Coupang Eats、オリーブヤング、MUSINSA、W CONCEPTなど韓国国内のコマース企業トップランナーによるセッションが行われた。急速に拡大する韓国のコマースメディア市場では、どのような施策が成功の鍵となっているのだろうか。
本レポートでは、現地でのイベントの様子に加え、韓国最大級のヘルス&ビューティストア「オリーブヤング」を展開するCJ Olive Youngのセッションに着目し、オンライン・オフラインを融合するリテールメディア戦略にせまる。
(Sponsored by Moloco Japan)
AIでカスタマージャーニーのあらゆる瞬間をつなぐ
冒頭はMoloco最高経営責任者(CEO)であるアン・イクジン氏によるスピーチで幕を開けた。Molocoは2013年より機械学習の開発に5年を費やし、2019年に広告市場に参入してからはAI広告技術の強化を目指してきた。GoogleやAmazon、Twitterといったビッグ・テック企業の出身者たちによって開発された独自のAI技術は高い水準を誇る。
近年では主にモバイルアプリとコマースプラットフォームに特化し、コマースメディアのソリューションに関しては、韓国のトップ20のコマースプラットフォームのうち60%以上に導入され、18万以上の広告主(ブランド)に展開されている。アン・イクジン氏は、AIはツールとしてのみならず、「広告が実際にどれだけビジネスにインパクトを与えたか」を可視化できる武器であると強調した。
最初のカスタマーセッションは「AIでカスタマージャーニーのあらゆる瞬間をつなぐ」を掲げ、韓国大手EC企業が提供するフードデリバリーサービス「Coupang Eats」がトップバッターとなり、独自のデータドリブンなマーケティング戦略を紹介した。
「Coupang Eats」では、ユーザーの目に触れるすべてのクリエイティブは、背景色からボタンの形まで一つ一つがA/Bテストにかけられ選定される。さらにアプリを一度離れたユーザーに対しては、CRMデータをもとに適切なタイミングで再誘導を促す。客観的なデータの集約をマーケティング施策へとつなげる、徹底したデータ戦略といえる。

「タングン」「NOL Universe」(旧Yanolja)によるセッション
続く中古品取引アプリ「タングン」と若年層向けトラベルプラットフォームの「NOL Universe」(旧Yanolja)のセッションでは、Molocoのストリーミング広告を活用し、ユーザーのニーズにきめ細やかに応えつつ、アプリプラットフォームのブランド認知度とパフォーマンスマーケティングを推進した事例を紹介した。「タングン」ではローカルに特化し、中古品を出品する側・買う側からの信頼を集めることに注力している。「NOL Universe」では、「子どもが遊べる場所はあるか」「ペットは同伴できるか」などユーザーの細かなニーズをとらえテーラリングする施策を目指す。両アプリとも、詳細なターゲット設定と多様化するニーズに対応する姿勢が印象的である。
さらに「タングン」は、MolocoのAIを活用したパーソナライズ広告ソリューション(個別最適化された広告を配信するためのAIベースの広告機能)を導入し、効果を計測したところ、ユーザーのコンバージョン率増加に加え、ブランディングとパフォーマンスの相関性を把握できたことも報告した。
拡大するコマースメディア市場
Moloco Commerce Media (MCM) APAC成長戦略チーム担当のイ・ヒョンチェ氏によると、2027年にはアメリカのオンライン広告市場全体のうち、21.8%をコマースメディアが占めると予測されているとのこと。「店に目当ての商品を買いに行ったら、隣にあった新商品の広告が目に入り、思わず購入した」というような「偶発的な発見と即決購入」が消費者行動の起点となることは昔も今も変わらないとしたうえで、購入場所がデジタルに置き換わり、偶発的な発見を促すのがコマースメディアであると説明した。ECプラットフォーム内で「発見→比較→購入」まで完結することが大きな特徴である。
コマースメディアで高パフォーマンスを達成するには「良質なユーザーデータ」「自然な広告UI/UX」「高精度なターゲティング技術」の3つが揃うことがキーとなる。後半では、ビューティストア「オリーブヤング」、ECファッションモール「MUSINSA」、「W CONCEPT」の担当者が登壇し、各ブランドならではの戦略を紹介した。
本レポートでは、日本でも流通を拡大するビューティストア「オリーブヤング」に着目し、広告運用において昨年から2倍の成長を遂げたという成長戦略にせまる。
オンラインとオフラインの融合を体現するオリーブヤング

(右)Molocoグロース戦略チームシニアマネージャー キム・テヨン氏 (左)CJ Olive Youngリテールメディア事業チーム長 キム・ジンソク氏
ビューティストア「オリーブヤング」は20・30代の女性を中心に、ストアマーケットシェア9割以上を誇る、韓国最大級のビューティとヘルスに特化したブランド・モールである。「オリーブヤング」はオンラインとオフラインの両方で強みを持っており、韓国国内での店舗数は1,700を超え、ECモール・アプリで収集したファーストパーティデータを活用し、プラットフォームの内外でブランドが自由に広告を展開できる仕組みを構築している。
Molocoグロース戦略チームシニアマネージャーであるキム・テヨン氏とCJ Olive Youngリテールメディア事業チーム長であるキム・ジンソク氏による対談では、「オリーブヤング」の強み、店舗からオンラインへつなげるマーケティング施策、コマースメディア戦略における全体像について議論がなされた。
「オリーブヤング」における主要指数となるMAU(月間アクティブユーザー数)および注文数はいずれも成長を示し、成果報酬型広告の受注は140%以上増加しているという。コマースメディアでの成功の秘訣について、キム・ジンソク氏は「ユーザーがどの商品を見て、どのページを保存して、検索して、カートに入れたかなど、行動データをもとに最適な商品を表示しています。クリックから購入まで全てのデータが確認可能である点が、最大の強みです」と述べる。
「オリーブヤング」では内部と外部、オンラインとオフラインの4つにメディアゾーンが分けられており以下のように分類されている。
①オンライン内部→パーソナライズド広告、トップバナー
②オンライン外部→Meta、TikTok、Googleなどの広告
③オフライン内部→リアル店舗内ディスプレイ広告(DOOH)
④オフライン外部→親会社CJグループ内と連携した屋外広告
4つの各メディアで蓄積されたデータを集約することで、統一された広告の提供を実現する。これらの好循環により、ブランド側も露出を増やすことができ、結果的にすべてのステークホルダー(ブランド、ユーザー、広告代理店など)とのWin-Winな関係を築いている。この循環により他プラットフォームと差別化が可能となると強調した。
また、広告出稿するブランド側の視点でのコマースメディアを活用するメリットについては、「マーケティング成果を直接測定できること」だと述べる。ECモール・アプリで1,600万人のユーザーを持つオリーブヤングでは、広告出稿しているブランドとしていないブランドでは、露出数・クリック数・購入すべてにおいて10倍以上の差があるとのこと。従来はオフラインでのデジタルサイネージが「リテールメディア」とされていたが、今ではよりデジタルでパーソナライズされた広告へと進化している、とキム・ジンソク氏は語る。

オリーブヤングアプリ パーソナライズされた広告表示
今後については、「オンライン・オフラインはそれぞれ違うチャネルへのアプローチであるが、両方のパフォーマンス計測を可能にし、より正確な計測結果の把握を目指したい。オンラインとオフライン、そして両社をまとめて管理できる統合広告プラットフォームを計画している。また、オンライン(オンサイトのみ)で広告を見た後のオフラインでの購買をオンライン広告の効果として計算する、オフラインアトリビューションも準備している」とし、すべてのチャネルでの最適化につなげていく熱意を示した。
韓国・日本のリテールメディア市場の違い
本セッションのインタビュアーを務めたMolocoキム・テヨン氏は、現在日本市場のコマースメディア事業を担当している。Molocoは2019年に日本市場に進出し、2022年に日本法人を発足している。
日本と韓国のリテールメディア市場についてキム・テヨン氏は、韓国はECモールが発達する「モバイルファースト」であるが、日本ではECよりも店舗が強いと感じることが多いという。プラットフォームの競争力が上がることで店舗に好影響をもたらす、という流れがある韓国に対し、日本ではECで利益がなくとも、店舗の力が強いためEC事業の規模が小さいままに留まることがあるのでは、と語る。とはいえども、「オリーブヤング」は店舗から出発し、オンラインで急成長したプラットフォームであり、20・30代の女性に加え10代や男性までユーザーを拡大している。Molocoのプラットフォームでは、広告クリックやEC購入といったオンラインのみならず、実店舗の成果もアトリビューションの分析対象とするよう計画中である。日本ではオフライン店舗がまだ強い一方、近年デジタル遷移が激しく進んでいるため、これからの成長が期待される。「デジタル化の過程でMolocoが貢献できると考えている。オンラインとオフラインが相互に好影響を作る仕組みを浸透させていきたい」とキム・テヨン氏は意欲を見せた。
AI広告技術で切り拓く未来
イベントではコマースメディアにおけるAI技術の活用がテーマとなったが、Molocoのプレゼンテーションでは今後の展開として、ウェブベース広告とCTVコンテンツでの広告配信が発表された。ストリーミングメディア市場に続きCTV参入について、Moloco最高マーケティング責任者(CMO)であるPaul D’Arcy氏は次のように語る。
「AI技術を磨き続けることで、Molocoはアプリ広告・コマースに加えストリーミング市場でも成果を出してきました。広告主にとっては『広告を見た→行動に移した』という流れの実現がキーとなります。CTV広告配信では、視聴者がウェブコンバージョンやアプリダウンロードまで至ったかを追跡できることを目指しています」
リテールメディア事業への注目が高まっている現状についてPaul D’Arcy氏は「サードパーティCookie規制により小売データの重要性は高まっています。どこの国であっても、小売り企業はAmazonやウォルマートに対応するために広告事業を持たねば、というプレッシャーの中にいる。そういった企業にビッグ・テック並みのAI・機械学習技術を提供できる企業は多くはないと思います。我々が誇るAI技術を活用し、 様々なビジネス規模の成長を支援していきたいです」と述べた。
愛されるブランドが語る戦略
イベント「MOLOCON」は昨年から続いて2回目の開催となる。1回目ではグローバル企業による発表や事例紹介を主に取り扱ったが、「今年はMolocoの顧客に話してもらう形式にしたかった。韓国で愛されるブランドによる、韓国語での講演にこだわった」とPaul D’Arcy氏は語る。
セッション後のネットワーキングパーティでは、登壇したそれぞれのブランドが工夫をこらしたフードブースを出展し、来場者を楽しませた。
消費者から圧倒的な支持を集めるブランドが、AI技術とともにどのような進化を遂げているか。会場を埋め尽くす来場者の熱気が、いかに人々の注目を集めているかを物語っている。 盛り上がるコマース市場でのビジネス展開に加え、CTV広告への参入と、デジタル広告の最先端を走るMoloco Japanは、独自のAI技術を武器にどのように発展していくのだろうか。今後の発展がより楽しみになるイベントであった。
ABOUT 角田 知香

ExchangeWireJAPAN 編集担当。イギリス・キングストン大学院にて音楽学の分野で修士号を取得。学校・自治体文化講座等にてアート講座講師として活動後、2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。