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EC化率底上げの起爆剤となるか、日本上陸したTikTok Shopとは[インタビュー]

2025年6月、アメリカや中国などで先立って展開されているTikTok Shopが日本国内向けにローンチされた。TikTok内に買い物機能が追加され、広告主やEC事業者にとっては新たな販売チャネルとなり注目を集めている。Septeni Japanは、TikTok広告が日本でリリースされた2018年当初から、社内におけるTikTok広告専門のクリエイティブ研究チーム「TikTok LAB」を組成し、TikTokを活用した多様なマーケティング施策を展開しながらノウハウを蓄積してきた。TikTokを活用した企業のプロモーション支援に携わってきた、Septeni Japan株式会社の本間氏、仙波氏の2名に、TikTok Shopの機能、グローバル・日本での展開についてお話を伺った。

 
 

-自己紹介をお願いします。
 

本間氏:Septeni Japan AXメディアソリューション領域の統括、縦型ショート動画領域も兼任している本間です。今回のTikTok Shop事業立ち上げにおける事業責任者となります。

仙波氏:Septeni Japan AXメディアソリューション領域 メディア戦略推進部・縦型ショート動画領域を兼任している仙波です。TikTokを活用した広告やドラマを中心に、メディアプランの策定や施策推進を通じて、クライアント企業のサポートを行っています。また、クリエイティブの研究や商品開発においても、実行リードを担っています。現在、本間とともにTikTok Shop事業の立ち上げにおけるマネージャーを務めております。
どうぞよろしくお願いいたします。

 

-今回ローンチされたTikTok Shopの機能について教えてください。
 

仙波氏:TikTok内での商品購入が可能となる新機能です。TikTokにECモールが統合されるようなイメージをしていただくと分かりやすいと思います。

主に4つのタッチポイント(①カート付きショート動画②ライブコマース③ブランド専用ショーケース④ショップタブ)から商品の閲覧・購入ができるようになります。決済機能がTikTokアプリ内にあるため、一度クレジットカードなどの決済情報を登録すれば、その後は情報入力の手間が省け、ユーザーは簡単に購入可能となります。

 

 

-InstagramやYouTubeでも買い物機能がありますが、TikTok Shopが他ソーシャルコマースと違う点はありますか。
 

本間氏:TikTok Shop は、外部サイトに遷移することなくTikTok内で決済まで完了できるのが大きな特徴です。購入までのステップが少ないため、購入者は情報入力の煩わしさを感じることなくスムーズに決済できます。

もう一つの特徴はTikTok Shopが「ディスカバリー型メディア」である点です。他ソーシャルコマースだと、情報の拡散性がクリエイターやチャンネルのフォロワー数に左右される傾向がありますが、TikTokでは動画コンテンツが話題になればどんどん拡散されていきます。ユーザーがコンテンツを「ディスカバリー(発見)」し、購入まで繋がっていく新たなEC体験が強みとなります。

 

-他SNSと比べてTikTokにはどういった特徴がありますか。
 

本間氏:TikTokは新しいユーザーへのアプローチに強みがあると思います。広告主の方もあらゆるSNSを併用しています。Instagramは、フォロワー限定のライブ配信や商品販売のような、フォロワー増加・エンゲージメント向上を狙いとしたファン層を「濃く」していく施策に向いています。一方、TikTokは、それまでとは違った新しいユーザーに向けて、広くアプローチしていく施策で力を発揮できる媒体だと考えています。

 

-世界ですでにローンチされているTikTok Shopですが、グローバルでの状況はいかがですか。
 

仙波氏:TikTok Shopは、2021年イギリスでのローンチを皮切りに、アメリカやヨーロッパ、東南アジアで展開されています。グローバル全体での総売上は上昇しており、各国でそれぞれ購入経路が違うことが興味深いです。例えば、ライブ文化が醸成されている中国では、TikTok Shopでのライブコマースでの購入割合がかなり高いという特徴があります。一方で、アメリカやイギリスなどではショート動画経由での購入が一般的です。

 

-日本ではTikTok Shopはどのように浸透していくと予想されますか。
 

本間氏:個人的な予想ですが、日本では、マイクロインフルエンサーと呼ばれるクリエイターがまずショート動画から始めて、のちにライブコマースに挑戦していく流れになるのではないかと思っています。ただTikTok Shopの強みはライブコマースなので、これから「日本型のライブコマース」が立ち上がってくるのではと考えています。ローンチ後の動きについては、さまざまな仮説を立てながら、守備範囲を広く持って研究しています。これまでセプテーニが積み上げてきた広告データの運用知識も活かせると考えています。

 

 

-TikTokのユーザーの現状を教えてください。さらにTikTok Shopはどのようなユーザーをターゲットとしていますか。
 

仙波氏:TikTokユーザーは若年層が多く、我々のクライアントからも「踊ったりする10代向けのアプリでしょう」と言われることもありますが、実はプラットフォーマー側はユーザー年齢の引き上げを戦略立てて進めています。直近では30・40代以上のユーザーが増加しており、平均年齢は36歳あたりではないかと言われています。ただ、TikTok Shopは、デジタルネイティブであるZ世代やミレニアル世代といった新しいものを受け入れやすい層から浸透していくと考えています。

本間氏:グローバルでは、TikTok Shopと相性のよい商品価格は大体3,000円から1万円あたりまでで、「衝動買いしやすい価格」の商品が好まれる傾向にあります。若年層の購買がベースになりつつも、購買力のある世代まで広がっていくか、というところは市場を拡大していくうえで重要な観点だと思っています。

 

-TikTok Shopを本格活用するには、どれほどの予算やどういった体制を広告主側で用意する必要があると思いますか。
 

仙波氏:TikTok Shopの出店自体は無料でできますが、本格的に活用するには、ブランドの世界観の構築やデジタル広告における動画制作の知見、アサインすべきクリエイターの把握・選定などが必要となります。具体的な予算規模はこれらの要素によって大きく変動しますが、自社内または専門的な知識やノウハウを持つ外部パートナーとの連携により、TikTokのアルゴリズムやトレンドを理解したうえでブランドイメージと合致したコンテンツを制作できる体制を作ることが重要です。

セプテーニでは、これまで蓄積してきたTikTokでのプロモーションノウハウや各種クリエイターネットワークを活かし、企業アカウントの育成から商品選定、適切なクリエイターの選定ならびにディレクション、コンテンツ制作などに至るまで一気通貫でサポートできる体制を整えています。固定費でのご支援だけでなく、売れ行きによってレベニューシェアという形で伴走させていただくなど、広告主のみなさんのご意向やご予算感によって柔軟に伴走内容を変えることも可能です。

 

-TikTok Shopでの集客において押さえておくべきポイントはありますか。
 

仙波氏:先日ヘアケア商材の商談でも話題に上がったのですが、ヘアケアのような変化や効果を視覚的にアピールできるものは、動画メディアととても相性が良いです。視覚的な訴求がしやすい商品は、集客に効果があるのではないでしょうか。

本間氏:美容トレンドを作る商材、コスメ・美容・ファッションはTikTokに向いています。その他ですと、ガジェットやホビー系も相性が良いです。やはり視覚的にアピールしやすく、動画にしたときに効果が発揮できる商材が集客につながると思います。さらにマイクロインフルエンサーなどのクリエイターと商品がマッチしていることも重要です。

仙波氏:加えて、動画コンテンツ制作の手前にあるTikTokのレコメンドシステムを理解していることも大事です。動画投稿から数日で、インプレッションは収束する傾向にあります。アカウントの稼働状況や投稿の頻度を理解して、「やってはいけないこと」を潰していくことも必要です。ユーザーに商品を「ディスカバリー」してもらうために、まず、おすすめに表示される構造を理解しておくことが重要です。

 

-リテールメディアビジネスが話題に上がることが増えましたが、ウォールドガーデンでの広告運用への影響は感じますか。
 

本間氏:リテールメディアビジネスは話題になっていますが、ウォールドガーデンにおける広告費や販促費に影響があるとは感じていないです。実際に今回のTikTokのように、ウォールドガーデン型のメディアはリテールメディア市場にも参入していますので、収集できるデータの濃度を考えると、短期的にはオープンインターネットよりウォールドガーデンが有利な状況が続くのでは、と考えています。

また日本は世界各国と比べるとEC化率が低い傾向にあります。リテールメディアの盛り上がりや、TikTok Shopのような新しいコンテンツが、日本のEC化率を引き上げてくれる起爆剤になってくれれば、と考えています。
 
 

ABOUT 角田 知香

角田 知香

ExchangeWireJAPAN 編集担当。イギリス・キングストン大学院にて音楽学の分野で修士号を取得。学校・自治体文化講座等にてアート講座講師として活動後、2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。