広告主とパブリッシャーの距離を縮める具体策とは? −パネルディスカッションレポート−

オープンインターネットの価値を改めて見直し、広告主とパブリッシャーが共に成長するために何ができるのか。先日開催されたイベント「Open Internet Revival〜広告主・パブリッシャーが共に創る広告の未来〜」でのパネルディスカッション「広告主とパブリッシャーの距離を縮める具体策とは?」では、広告主とパブリッシャーが同じテーブルにつき、率直な意見交換を行いました。
パーソルテンプスタッフ CMOの友澤大輔氏、TimeTreeの新保周氏、イードの山本ちひろ氏という、広告主・メディア双方の立場を代表する登壇者が集結。モデレーターの香川晴代氏の進行のもと、信頼できる広告のあり方、成功する連携の秘訣、そしてプラットフォーム一辺倒にならない健全なエコシステムをどう築くかについて議論しました。
本記事では、実際に語られた具体的な事例や、明日から使えるヒントを交えながら、セッションの模様を振り返ります。
登壇者プロフィール
- 友澤 大輔氏:パーソルテンプスタッフ株式会社
執行役員CMO

様々なメディア企業等を経て2021年4月に東京海上ホールディングスデジタル戦略部のシニアデジタルエキスパート兼イーデザイン損保CMOに就任。
一貫してデータを活用したマーケティング施策、また各種マーケティング施策のデジタル化の推進を通じて、顧客体験の変革を実践。またそうしたマーケティング施策を通じて組織変革や企業変革を実践する。
2024年4月からパーソルテンプスタッフ 執行役員CMOに就任。
- 新保 周氏:株式会社TimeTree
執行役員/マーケティングソリューション本部長

2009年に新卒でヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)に入社。エンジニアとして、SNSサービスの運営や新規事業の立ち上げに多数関わる。
2015年に株式会社TimeTreeに入社し、2017年の広告事業の立ち上げ以降、TimeTreeでの10年のうち8年を広告事業の運営に従事する。2021年より企画職に転換し、2024年9月より現職。昨年双子が誕生し、休日は専ら家族時間。
- 山本 ちひろ氏:株式会社イード
メディア事業本部オートモーティブ事業部 部長

2016年に新卒で株式会社イードへ入社。自社メディアの広告をはじめとした企画営業に従事し、代理店・大手クライアントの案件を多数担当。2021年より現職。
自社の自動車系メディアにおいて、ビジネスモデル構築やサブスクリプション事業の成長に注力している。メガハイボールが元気の源
- 香川 晴代氏(モデレーター):Index Exchange Inc.
日本担当マネジングディレクター

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(現Hakuhodo DY ONE)国際事業部、オーバーチュア(現Yahoo!検索広告)、アマゾンジャパンにて広告事業立ち上げに携わり、広告営業、事業開発部門の管理職を歴任。フェイスブックジャパン(現META)執行役員、動画アドテクノロジーのUnrulyにてカントリーマネジャーを経て、2019年より現職。
2016年 Campaign Asia Women to Watch選出
2022年 第10回Webグランプリ「Web人賞」受賞
デジタル業界の女性活躍支援がパーソナルミッション。Women In Digital&Programmatic Networkファウンダー&代表
オープニング
香川氏:本日はお集まりいただきありがとうございます。「広告主とパブリッシャーの距離を縮める具体策とは?」というテーマでパネルディスカッションを行います。まずは自己紹介から始めたいと思います。友澤さん、新保さん、山本さんの順番でお願いします。
友澤氏:パーソルテンプスタッフの友澤と申します。本日はよろしくお願いします。私はこれまでヤフーやリクルートなど、さまざまな企業に在籍してきました。現在も、媒体社の皆さんと直接お話しする機会が多くありますし、今回のテーマにもあるように、プラットフォーマーとも、媒体社とも、両方とお付き合いしています。
そうした立場から、日々感じることや、皆さんに期待したいことがたくさんあります。本日はそのあたりについて率直にお話できればと思っています。よろしくお願いします。
新保氏:TimeTreeの新保と申します。本日はよろしくお願いします。新卒でヤフーに入社し、約6年間ヤフーで勤務した後、現在のTimeTreeに入社しました。TimeTreeでは10年ほど勤務しており、そのうち約8年間は広告事業に携わっています。ウォールドガーデンが支配的な環境の中で、TimeTreeという媒体にどうやって広告主に出稿してもらうかを、ひたすら考え続けてきました。
本日は、私自身の経験やそこから得られた知見を少しでも共有できればと思っています。
山本氏:イードの山本です。2016年に新卒でイードに入社し、まずは同社メディアの企画営業としてキャリアをスタートしました。特にDACさん、博報堂さんを担当させていただき、毎日恵比寿や赤坂に足を運び、オフラインでの打ち合わせが当たり前の時代だったので、ロビーに“常駐”するような日々を送っていました。2021年からは現職となり、イードの自動車系メディアの事業責任者を務めています。
仕事終わりのハイボールが元気の源です。本日はよろしくお願いします。
香川氏:香川晴代です。先ほど簡単に自己紹介しましたので割愛しますが、私はパーソナルミッションとして、業界で活躍する女性を支援する活動にも取り組んでいます。それでは、セッションのほうに移りますが、本セッションには3つの狙いがあります。
まず1つ目は、広告主企業にオープンインターネットに投資する価値や意義を再認識していただくこと。2つ目は、パブリッシャー企業の皆さまに、広告主との関係構築のヒントを持ち帰っていただくこと。そして3つ目は、広告主・パブリッシャー双方に共通する課題として、持続可能な市場づくりへの意識を喚起することです。
この3つをゴールとして、今回はパネルディスカッションを進行します。まずは、今回登壇いただいているTimeTreeさんとイードさんがどのような広告ソリューションを提供しているのかについて、お話を伺っていきます。
TimeTreeとイード社では、どんな広告ソリューションを販売していますか?

新保氏:TimeTreeでは“カレンダーにしかできない広告ソリューション”を突き詰めて提供しています。現在、特に好評をいただいているのは大きく2つのメニューです。1つ目は『日付認知広告』です。
TimeTreeは国内で累計登録UUが2,900万になり、そのユーザーに向けて“日付を強烈に印象づける”広告配信が可能です。例えば『3月10日から大規模セール開始』といったキャンペーンでは、クリエイティブに日付をしっかり表示したうえで配信することで、ユーザーの予定に自然に入り込み、確実に認知を高めることができます。カレンダーというメディアの特性を活かし、重要な日付訴求に最適なプロモーションを実現します。
2つ目は『未来行動ターゲティング』です。予定データからユーザーの“これから起きる行動”を把握し、それに合わせた広告配信を行うソリューションです。たとえば、ユーザーが1か月後に旅行や車の試乗を予定している場合、確実に検討段階にあると判断でき、最適なタイミングで広告を配信できます。また、結婚・出産・入学といったライフイベントのタイミングを捉えたコミュニケーションも可能になります。
これら2つのソリューションによって、TimeTreeは単なる広告枠の提供にとどまらず、ユーザーの生活の文脈に沿った“カレンダーならでは”の価値を広告主に届けています。
香川氏:続いて山本さんお願いします。

山本氏:イードでは現在、21ジャンル・82のメディアを運営しています。ほとんどがWebメディアですが、一部紙媒体の雑誌もあり、取り扱うジャンルは自動車、ゲーム、アニメ、映画、教育、お酒など幅広く、すべてがバーティカルメディアとして特化しています。私はその中で7つのメディアを担当しており、特に自動車関連メディア『レスポンス』が最大規模です。最近ではロボット情報メディア『ロボスタ』も担当しています。自動車とロボットは技術的な親和性が高く、メディア横断での提案も行っています。
提供している広告ソリューションとしては、ユーザーリターゲティングやコンテクスチュアルターゲティングを含むバナー広告、会員データを活用したメール配信広告、さらに動画制作やイベント活用を含むリッチなタイアップ広告など、目的に合わせた多様なメニューを用意しています。こうしたメディア特性と広告メニューを組み合わせることで、広告主にとって価値あるコミュニケーションの場を提供しています。
オープンインターネットのメディアに出稿して「プラットフォーム広告とは違う」と感じたポイントは?
友澤氏:私たちはオープンインターネットのメディアと取り組む際、
1)広告枠を購入して配信するケースと、
2)記事やコンテンツを制作してもらい、その中でユーザーに深く理解してもらうケース、
この2つの方法を組み合わせています。
一方で、プラットフォーマーとの取り組みは、どうしても“データドリブンで枠を買う”という側面が強く、私たちが重視するのは量の最大化です。「どれだけ契約数が取れるのか」「アクション数はどれだけ出るのか」「CPAはどれくらいか」という指標を中心に会話が進みます。
しかし、オープンインターネットのメディアでは同じやり方をしても、枠の大きさではプラットフォーマーには勝てません。ですから、量で戦うのではなく、ユーザー理解を深めるための体験設計に重きを置いています。現場でもCPCやコストの話はしますが、それ以上に「どうやってブランドやサービスへの理解を深めてもらうか」を議論することが多いです。
具体的な事例として、私が前職で保険領域を担当していたとき、メディアジーンさんと連携し、Gizmodoやライフハッカーといったメディアにテック系保険商品を取り上げてもらいました。記事化していただいたコンテンツは、掲載時の反応が良かっただけでなく、後から自社のマーケティング資産としても活用でき、結果的に契約獲得にもつながりました。このように、深いエンゲージメントやブランド理解を醸成する取り組みができるのが、オープンインターネットメディアならではの価値だと思います。
香川氏:ありがとうございます。友澤さんのコメントについて、新保さんは何かありますでしょうか?
新保氏:プラットフォーマーの広告と違うと感じてもらうポイントとして、私たちは“TimeTreeでしかできないこと”を徹底的に突き詰めてきました。カレンダーはユーザーが日程を強く意識する瞬間にアクセスされるメディアです。たとえばEC事業者がブラックフライデーのプロモーションを告知する際、その重要な日付をカレンダー上で伝えることで、プロモーション効果を最大化できると考えています。ターゲットは狭くなりますが、“ピタッとハマるお客さま”を見つけ、深い接点を作ることで広告出稿につなげています。
一方で、CPAの話になるとどうしてもボトムファネル中心の議論になりがちです。私たちも当初はボトムファネル向けの商品を中心に提供していましたが、プラットフォーマーと真正面から競合する構図ではなかなか勝ちきれません。そこで現在は、ミドル〜アッパーファネル向けの高単価商品に注力し、リソースを投下しています。ブランド認知や検討段階にいるユーザーに対して、TimeTreeならではの文脈で価値を届けることで、プラットフォーム広告とは違う成果を生み出しているのです。
香川氏:友澤さん、さきほどオープンインターネットに"量”は期待しないとおっしゃっていましたが、やはりCPAの比較はされるのですか?
友澤氏:今のCMOという立場では、メディア投資を常にポートフォリオで見ています。マスで取れるならマスで出稿しますし、YouTubeで効果が出るならYouTubeを使います。要は最適な手法で結果を取りにいく、という発想です。その中で、オープンインターネットのメディアから“枠”だけの提案を受けると、どうしても『こんな小さな枠でいくらリーチを稼いでも厳しいよね』という印象を持ちがちです。だからこそ私は、狭いなら深く刺してほしい、つまりコンテンツとしてしっかりユーザーに届ける方向に寄せることが多いです。
最近では、伸びている手法の一つとしてTikTokのショートドラマを例に挙げたいと思います。提案してくるのはプラットフォーマーではなく、SNS制作会社やキャスティング会社です。彼らは大きく2つのタイプに分かれます。
・量を重視するタイプ(多くのマイクロインフルエンサーをキャスティング)
・制作・脚本の質を重視するタイプ
私たち広告主の思考や興味は、明らかに後者、制作や脚本などの“コンテンツの質”にシフトしてきています。量はプラットフォーマーで十分確保できるからです。
オープンインターネットのメディアにも、同じように枠に頼らない提案を期待しています。例えば、ユーザーがページを深く読み進めたときに連動して広告が変わる仕掛けや、複数のランディングページを用意してユーザー行動に合わせてクリエイティブを切り替えるような提案です。実際、こうした提案はあまり届かないため、私たちから『これできませんか?』と聞いて一緒に取り組むケースが多いのが現状です。オープンインターネットのメディアであれば、こうした柔軟で深いコミュニケーション設計が可能になるはずですし、ぜひ積極的に提案してほしいと思っています。
プラットフォーマーに同じことを言うと『本国に確認しないとできません』となり、実現が難しいのが現実です。
「出稿したくなる提案」と「響かなかった提案」の違いはどこにあると思いますか?
友澤氏:出稿したくなる提案と、響かなかった提案の違いは非常にシンプルです。
まず一番響かないのは、“我々のことを理解していない提案”です。最近では、AIが自動生成したのでは?と思うような提案資料が届くこともありますが、どんなに中身が良くても基本的に却下します。結局、広告出稿は人と人との関係で決まる部分が大きい。特にオープンインターネットの場合、その傾向は強いと思います。
熱量が伝わるかどうかも重要です。対面でもリモートでも、相手が本気で考えてくれているかどうかは伝わるものです。少し厳しい質問をしたときや要望を出したときに、事例がなければ「ない」と正直に答えてくれる、無理なことは無理と言ってくれる、そういう誠実さが信頼につながります。
逆に出稿したくなる提案は、我々のビジネスや課題をしっかり理解し、勉強してくれていると感じられるものです。提案の中身が正しいか間違っているかはそこまで気にしていません。むしろ、ちゃんと準備してきているか、我々の話に真摯に応えてくれるかの方が大事です。
一方で、ただプレゼン資料を読み上げるだけの提案は論外です。そういう提案を避けることが、最低限 “出稿したくなる提案”のベースラインになると感じています。
香川氏:山本さん、どうですか?
山本氏:友澤さんがおっしゃった“事前の理解”は、提案の大前提だと思います。私も、企業さんと接点を持つときは、事業内容や状況をあらかじめインプットし、さらに“きっとこんな課題があるのでは?”という仮説を立てて臨むようにしています。その仮説が正しいかどうかは必ずしも重要ではなく、それをきっかけにコミュニケーションを始め、深めていくこと自体が大事だと思っています。
提案は一方通行ではなく、会話の中で磨かれていくものです。仮説を持ち込むことで、相手から「実はこういう課題がある」と具体的な話を引き出せることも多く、それが結果的によりよい提案や施策につながります。
友澤氏:加えて言うと、広告主側にも課題はあって、私たちも忙しいから『とりあえず提案して』とお願いするのに、十分な情報をお渡しできていないケースが多いんです。本来であれば、事前に情報を共有し、それに基づいて適切な提案をいただくのが理想です。ただ、そうした前提が整っていない中で、いきなり“決着をつけにくる提案”をされることがあります。“今日この場で発注してください、割引しますから”というスタイルです。でも、そんなに簡単に決まるはずがない。
私たちとしては、1回の提案で発注が決まらないことを前提に、もう少し会話を重ねながら進めてほしいと考えています。提案のやり取りを通じて、互いの理解を深め、より良いプランにブラッシュアップしていける関係が理想です。
山本氏:広告主から『これできますか?』と聞かれたとき、単純にイエス/ノーで答えるのではなく、“こういう形であれば実現できます”と選択肢を提示する姿勢を大事にしています。既存の広告メニューにないものであっても、ミニマムな形で一度トライしてみて、結果を見ながらチューニングし、コミュニケーションを続けていく。そうした実験と改善のプロセスが重要だと考えています。
広告主との接点をどうやって作っていますか?初めて接点を持つ際に気をつけていること、心がけている姿勢はありますか?
山本氏:イードは取材メディアという特性上、広告主との接点づくりにおいてもオフラインの場を非常に大切にしています。取材、展示会、発表会、その他イベントなど、現場に足を運んで直接お会いできる機会を積極的に活用しています。
近年はテクノロジーの進化で、パブリッシャーと広告主の距離が広がってしまったと感じることもあります。だからこそ、リアルの場に行き、そこにいる方と出会えることの価値は高まっています。現場ではマーケティング担当者でなくても、まずは広報担当者に挨拶をして、担当者を紹介してもらうといった形で関係を広げていきます。
また、初めて接点を持つ際には、事業内容を事前にインプットし、仮説を立てて会話を始めることを意識しています。仮説が正しいかどうかは重要ではなく、そこから会話を深めることで、より具体的な課題や要望を引き出すことができます。さらに、自社でイベントを主催し、広告主を招いて直接話せる場をつくることもあります。対面でのコミュニケーションを積極的に設計することが、長期的な関係構築に欠かせないと考えています。
新保氏:TimeTreeでは、いまだにホームページからのお問い合わせが非常に多いのですが、それ以外にもオフラインイベントに参加し、現場でつながりを作る機会を大事にしています。ただし、そうした場でいきなり広告ソリューションの話をするのは難しいと感じています。まずはお互いのアセットや課題を共有し、“どう解決できるかを一緒に考えるスタンス”で会話を始めるようにしています。そこからディスカッションを重ねて、メニュー化や具体的なソリューション開発につなげていく流れが多いです。
具体的な事例として、ある語学学習アプリを運営する企業のマーケターとイベントで出会った際に、当初は「習慣化広告」というメニューを提案しました。カレンダーを使って毎日の学習習慣を促進できるのではと考えたのです。
最初の打ち合わせでは「そのメニューではニーズを満たせないかもしれない」という反応でしたが、そこからディスカッションを重ねました。その結果、TimeTreeで好評だったカレンダー上にスタンプを貼る機能を応用し、企業キャラクターを使ったスタンプパックを初めて企業向けに提供するというアイデアが生まれました。
ユーザーが毎日スタンプを押すことで学習の習慣化をサポートでき、広告主にとっても理想的なエンゲージメント施策となりました。このように、最初の提案がそのまま採用されなくても、会話を続けることでより良い形に進化させることができるのは、オープンインターネットのメディアならではの強みだと感じています。
香川氏:すごくオリジナリティ溢れるカレンダーにしかできない広告ですよね。かなりカスタムというか、都度開発を入れて対応されているんですか?
新保氏:正直に言うと、以前はカスタム対応はコストも時間もかかるため、少しためらいがありました。しかし、最近は我々のフェーズとして“お客さまのニーズに合わせて作り込む”ことが必要なタイミングに来ていると強く認識しています。広告主から『こういうことをやりたい』という要望があれば、できる限りそれを形にし、実装して提供する姿勢にシフトしています。こうしたチャレンジを繰り返し、提供価値を高めていく動きを今まさに加速させている段階です。
香川氏:さっき友澤さんが、オープンインターネットのメディアを活用する場面分けの話をされていましたが、これは"記事やコンテンツを制作してもらい、その中でユーザーに深く理解してもらうケース”になるんですかね?
友澤氏:んー、その間くらいですかね。例えば、データはとても貴重な“素材”ですが、それだけでは十分ではありません。料理に例えると、素材そのものは良くても、下ごしらえや味付け、盛り付けがなければ美味しい料理にはならない。データも同じで、どう加工し、どう見せるかでクリエイティビティが決まります。
一方で、データドリブンの商材になればなるほど、広告主側はどうしても効率性やパフォーマンスを求める方向に寄っていきます。「CPAは?」「どれだけ成果が出る?」と聞きたくなるのは当然です。しかし、その結果、提案に“余白”がなくなる。
だからこそ、私は企画やクリエイティブで大きく振れる提案を期待しています。失敗するリスクもあるけれど、成功すれば大きな成果を生む可能性がある。その“ボラティリティ”に賭けられるマーケットや広告主は必ず存在するはずです。まずはそうした広告主と会話を重ね、ユースケースを作り、実績として示していくことで、他の広告主も「ここまでやれるんだ」と思えるはずです。
また、広告主との初回接点では、単に価格を聞くだけのやり取りではなく、どんなアイデアがあるか、どこまで実現できるかを投げかけてもらえると、着地点が見えてきます。逆に、値引き交渉だけに終始するような場面では、こちらも早めに撤退した方が良いと感じます。結局、ダンピングに巻き込まれるだけだからです。営業の現場では、“最初のファーストペンギン”をどう見つけるかが重要です。その見極めは、広告主がどんな質問をしてくるか、どれだけ興味を持ってくれるかで分かります。
我々の人材派遣業界でもそうですが、今はどの業界でも営業力のアップデートが課題になっています。どう営業スタイルを進化させるか、これは広告業界全体に共通するテーマだと考えています。
オープンインターネット領域のメディアに対して、課題と感じている点は?より魅力的になるためには、どんな変化が必要だと思いますか?
友澤氏:多くの人は『広告予算はプラットフォーマーに寄せている=広告主もそれを望んでいる』と思っているかもしれませんが、実際はあまりハッピーではありません。むしろ困っています。たとえば指名検索のCPCが高騰しており、フラウドの問題なども重なって、プラットフォーマー依存が必ずしも良いとは思えない状況になっています。昔は依存する理由が明確にあったけれど、今はむしろ"カウンターとなる選択肢”を探しているのが本音です。
しかし、オープンインターネットのメディアと話す際も、どうしても議論が量や効率に偏りがちです。量はテレビやマス広告に任せればよい。ではオープンインターネットでは何を期待するのか? その答えがまだ見つかり切っていないと感じます。
私自身、メディアプラン全体のなかでチャレンジ予算をあえて確保し、失敗してももみ消す(笑)とチームに伝えています。だからこそ、“もみ消すに値する挑戦”を提案してくれるかが重要です。単に効率を追う提案ではなく、もう一歩踏み込んだ施策を一緒に作っていきたいのです。
また、私は『このままAIに任せればいい』とも考えていません。データが乱用されたり、クリエイティビティが失われる未来を望んでいないのです。だからこそ、メディアと一緒に“効率以外の指標”をどう設計するかを考えたい。ブランドリフト調査ひとつとっても、『何を検証するための施策なのか』という目的が明確であれば意味があるし、単に“無料だからやりましょう”ではなく、仮説に基づいた検証にしてほしいと思います。結局、広告主が本当に求めているのは、効率の指標では測れない価値をどう作るか、どう示すかを一緒に考えられるパートナーなのだと思います。
今日の対話を通じて、新たに気づいたこと・持ち帰りたい視点はありましたか?広告主、パブリッシャーそれぞれの立場で、「明日からできるアクション」があれば教えてください。
山本氏:パブリッシャーの立場として、改めて大事だと感じたのは“コミュニケーションを面倒くさがらない”ということです。他のセッションでも『思い出してもらえるメディアであることが重要』という話がありましたが、そのためには事前のコミュニケーション量をしっかり確保しなければなりません。出稿したいと思ってもらうためには、広告主と同じ目線に立ち、同じイメージを共有できる状態を作ることが欠かせません。
営業の観点でも、頻度高く、丁寧なコミュニケーションを重ねることで精度の高い提案ができると改めて感じました。明日からも、広告主と同じ景色を見られるような対話を続けていきたいと思います。
新保氏:事前の打ち合わせで広告主さんも『もっとパブリッシャーと一緒に新しい取り組みを作っていきたい』と思っているというお話がありました。我々は、まさにそこが重要だと感じていて、“広告主と共に新しいソリューションを形にする動き”を、これからさらに積極的に広げていきたいと思っています。
今日のセッションでも、いくつか事例をお話しましたが、より広告主のニーズに即した形に進化させることができたのは、とても良い手応えでした。こうした取り組みを一つでも多く増やし、声をかけていただける存在になりたいと思っています。
友澤氏:今日これだけ多くの方が集まったこと自体がすごいことだと思います。最近はイベントに登録しても実際には来ない方も多いので、こうして参加いただけるだけで熱量の高さを感じますし、非常に価値ある機会になったと感じます。
私の場合、自社で採用するケースもありますが、そうでないときは横のネットワークで情報を共有することがよくあります。『こういう話を聞いたけど、うちには合わない。あなたのところならどう?』と横の仲間に話す。実はそういう横のつながりがかなり多いんです。だからこそ、1回のセッションでコンバージョンを決めようとするのではなく、時間をかけてコミュニケーションを重ねる前提で取り組んだ方が、結果的に実りある関係になるのではないかと思います。
香川氏:本日のセッションでは、広告主とパブリッシャーが同じテーブルについて率直に意見を交わし、“量より質”、“効率より理解”といった、これからの広告に求められる視点が浮き彫りになりました。
友澤さんが強調された“挑戦を歓迎する姿勢”、新保さんが語った“広告主と一緒に作り上げる動き”、そして山本さんが提案された“面倒がらずにコミュニケーションを重ねる姿勢”は、どれも明日から実践できるアクションです。
オープンインターネットの未来は、決してプラットフォーマーの代替ではなく、広告主とパブリッシャーが共に市場を育てる場としてこそ輝きます。今日の対話が、その第一歩となり、より多くの広告主・パブリッシャーが“共創”に踏み出すきっかけになればと思います。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。




