自由な発想で広がるモビリティ広告の未来

2024年に新たな一歩を踏み出したohpner株式会社 代表取締役 土井健氏と、モビリティサイネージ株式会社 代表取締役 飽浦尚氏。運用型テレビCM市場やタクシー広告市場といった、これまで広告業界の変革を担ってきた二人は、今「モビリティ広告」という新たな領域で注目を集めている。
アドトラックと呼ばれてきたこの市場は、従来「限られた用途」の印象が強かったが、彼らの取り組みにより、その価値と可能性が大きく再定義されつつある。本記事では、二人のこれまでの歩みと現在の挑戦、そしてモビリティ広告が描く未来像を探る。
出会いと新たな挑戦の始まり
土井氏は2024年3月に上場企業であるCARTA HOLDINGS傘下のテレシー代表を退任し、同年11月にohpner社を設立。「グループ企業の代表として果たすべき役割を経て、今は自分の発想で多方面に挑戦できている」と語るように、現在はモビリティ広告をはじめ、ラジオ局への出資や新規事業など幅広い活動を展開している。
一方、飽浦氏は2021年にIRISの取締役COOを退任後、コンサルティング会社を経営しながら広告業界の現場を支え続けてきた。「地に足を着けて事業を進めたい」と考えていたタイミングで土井氏からモビリティ広告ビジネスの可能性を聞き、事業化を決断。2023年3月にモビリティサイネージ社を設立後、現場オペレーションからドライバーの採用・管理まで実務の中枢を担っている。
CARTA HOLDINGSを離れた土井氏と飽浦氏は合流し、一緒にモビリティ広告ビジネスの立ち上げから拡大に向けて奔走する。
土井氏が「僕が売る役割だとしたら、飽浦さんはそれを支える全てを整えてくれている」と評するように、両者の役割は明確に補完し合っている。
“誰もが知る広告”を生み出す力

モビリティ広告の魅力について、土井氏は次のように語る。「例えば、ある有名求人サービスのアドトラックは東京中の誰もが知っている存在です。これはテレビCMに何十億円投じても到達できないレベルの認知度。媒体パワーが証明されているのに、これまで正しく整備されていなかったのです」。
従来のアドトラックは音量や運行ルールの遵守が不十分なケースも多く、ナイトワーク関連の広告が中心だった。二人はここに切り込み、法令を遵守し、広告主が安心して利用できる枠へと再定義。「僕らの役割は、既存の媒体を整備し、上場企業やグローバルIPでも安心して使えるプラットフォームにすることだった」と土井氏は強調する。
“簡単には真似できない”成長の壁
現在、モビリティサイネージ社は10台のアドトラックを保有し、2025年10月時点で翌年2月まで満稿状態が続いている。今後2年で40台体制を目指すが、その道のりは容易ではない。飽浦氏は「ドライバーの採用から車両の改造、車庫の確保まで、複数の要素を同時に解決しなければならない。これをきちんと整備して台数を増やすのは至難の業」と話す。
また、他社の安易な参入に対しても警鐘を鳴らす。「この事業は人命を預かる仕事。ドライバーや車両の管理を徹底しなければ重大事故につながる。覚悟なく参入すべきではない」。現場を知る実務家としての言葉には重みがある。
“次のステージ”へ──台数拡大と未来展望

今後の展望について、土井氏は「東京だけでなく大阪や福岡など地方にも展開し、最終的には自動運転との親和性を活かした新しいモビリティ広告の形を作りたい」と語る。一方、飽浦氏は「40台になっても同じクオリティを維持すること。それが媒体として信頼を得る最大のポイント」と地道な取り組みを重視する。
実際、すでに大手企業の出稿も増えており、プログリット社の長期出稿や、世界的IPであるポケモンの展開も始まっている。土井氏は「僕らが丁寧に整備してきたからこそ、こうしたブランドが安心して出稿してくれている」と自信をのぞかせる。
モビリティ広告が描く未来
広告主のニーズがデジタルに偏りがちな中、街を走るアドトラックが放つ存在感は新鮮で強烈だ。土井氏が自由な発想で切り込み、飽浦氏が地道な実務で支える──この二人のタッグが、モビリティ広告市場を大きく前進させている。今後、40台体制に拡大したとき、この新しい広告メディアはさらに大きな存在感を放つだろう。
土井健氏 最新情報
2025年10月31日(金)発売
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ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。





