UNICORN、DSPとしてアジア初のアテンション計測導入へ

写真:ATSTokyo2024で登壇する山田 翔氏
国内のデジタル広告市場において、長らく「インプレッション(表示回数)」や「ビューアブル(可視状態)」、「クリック」といった指標が効果測定の中心を占めてきた。しかし、こうした“量”や“可視”のデータだけでは、ユーザーが実際に広告を「意識して見たか」という実態までは把握しきれないという課題が、業界内で以前から指摘されている。
こうした背景のもと、UNICORNが、英国のアテンション計測テクノロジー企業Lumen Research(ルーメン・リサーチ)との連携を発表した。
本連携により、UNICORNはプラットフォーム全体にアテンション(注目)計測を導入し、DSP事業者としてはアジア初となる「プラットフォーム全体のアテンション傾向データ」の提供を開始する。デジタル広告の価値基準において、従来の指標に加え「注目」という質的指標をどう組み込んでいくか、ひとつの試金石となる動きだ。
量から質への転換点――UNICORN×Lumenによるデータ実装

今回のアテンション計測導入の特徴は、限定的なテスト運用ではなく、プラットフォーム全体への適用を図る点にある。
これまで広告主や代理店は、主にインプレッション数やビューアブル率をKPIとして運用を行ってきた。しかし、画面上に広告が表示されていることと、ユーザーがそれを認識していることはイコールではない。「視認可能(Viewable)」であっても「注目(Attention)」されていないケースは少なくない。
UNICORNとLumenの連携は、この乖離を埋めるためのアプローチだ。アイトラッキング(視線追跡)データに基づくLumenの予測モデルをUNICORNのプラットフォームに統合することで、配信データの中から「ユーザーの意識に届いた可能性が高い広告」の傾向を可視化しようとしている。
広告主・媒体・プラットフォーム、それぞれのデータ活用
本取り組みは、広告エコシステムに関わるステークホルダーに対し、主に以下の側面からデータ活用を促すものだ。
【広告主・媒体社】投資判断の材料追加と、枠価値の再評価
広告主・代理店に対しては、従来の指標では見えなかった「アテンション傾向」が提示される。これにより、単なる表示回数だけでなく、どれだけユーザーに見られたかという視点を投資判断に加えることが可能になる。
一方、媒体社に対しては、広告枠の価値をアテンションという指標で再評価する機会となる。「ページ下部だが、実はよく読まれている」といった枠ごとの特性をデータで把握できれば、配置の最適化や収益性向上(イールドマネジメント)のヒントになり得る。
【プラットフォーム】配信ロジックの高度化
プラットフォーム側(UNICORN)としては、配信面やクリエイティブフォーマット、デバイスごとの「注目されやすさ」を分析することで、配信ロジックや運用基盤の強化を図る狙いがある。
背景にある「広告モデルの持続性」への危機感
今回の技術実装の背景には、UNICORNが抱く、現在のオンライン広告モデルに対する危機感がある。
同社は、現状の「とにかく表示させる」ことを重視する傾向が続けば、ユーザー体験を損ない、結果として「広告モデルによる無料インターネット」という構造自体が立ち行かなくなるリスクがあると捉えている。
UNICORNの親会社アドウェイズの創業当初からの理念である「人儲け」や「発見的な情報提供」という方針に照らし合わせても、広告がユーザーにとってノイズではなく、価値ある情報として機能する状態を目指す必要がある。今回の動きは、そうした自社の方向性と、市場の課題感をすり合わせた上での施策と位置付けられる。
ATS Tokyoでの提言と、実行への移行
この動きは、昨年11月に開催された「ATS Tokyo 2024」における、アドウェイズならびにUNICORNの代表取締役社長・山田 翔氏の発言とも符合する。
同セッションにおいて山田氏は、「60%以上のユーザーがページ内の広告を読んでいない」という調査データを引用し、広告主・媒体・プラットフォーム各者がこの現状を認識する必要性を訴えた。その解決策の一つとして「Attention View(注目ビュー)」という概念を挙げ、導入を進める意向を示していた。
今回の発表は、イベントでの提言を実際のサービス提供フェーズへと移行させたものだ。議論だけに留めず、具体的な計測環境を整備した点は大きな進展と言える。
単なる指標導入に留まらないか――今後の課題とロードマップ
ただし、アテンション計測の導入ですべての課題が解決するわけではない。
アテンションはあくまで「注目された」という事実を示す指標であり、その定義や測定手法はベンダーによって異なる。そのため、広告主には「アテンションが高いからといって、必ずしもコンバージョン(成果)に直結するわけではない」という点の理解が求められる。数値の多寡だけでなく、その背景にあるユーザー行動を読み解くリテラシーが必要となるだろう。
UNICORN側もこの点を認識しており、今後は「メディア・デバイス別のアテンション傾向データ化」に加え、「アテンションデータを活用した効果予測モデルの開発」なども視野に入れているという。
業界標準となるか、今後の運用がカギ
本件は、広告計測の潮流が「量から質へ」と広がりつつある現状を反映した取り組みである。
しかし、新しい指標が定着するかどうかは、提供されるデータが実際に広告主の成果向上や、媒体社の収益改善に寄与できるかどうかにかかっている。単にデータが見えるようになったという段階を超え、具体的な運用改善やエコシステムの健全化につながるか。今後の実効性の証明が期待されるところである。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。




