AI時代のコンテンツ価値はどこへ向かうのか―「AI × コンテンツライセンスの最前線」イベントレポート

株式会社BI.Garage、株式会社日本ビジネスプレス、Novoscribe, Inc(TollBit).、Globalive株式会社の4社は1月29日、「AI × コンテンツライセンスの最前線 ― パブリッシャーが切り拓く新しいメディア戦略」と題したイベントを共催した。
AIトラフィックの実態と対策のあり方とは
冒頭の挨拶を行った株式会社日本ビジネスプレスの執行役員営業本部長の長島章夫氏は、本イベントに約150名のパブリッシャー関係者が来場していると報告。「AIベンダーに対してパブリッシャーはどう向き合うべきか」という本イベントの主要テーマに対する関心の高さをうかがわせた。
日本ビジネスプレスの長島章夫氏
AIエージェントによるコンテンツアクセスの実態を解説した基調講演には、AI検索対策ツールのTollBitを提供するNovoscribe, Inc.共同創業者兼CEOのトスヒット・パニグラヒ氏が登壇。通訳はGlobalive株式会社代表取締役社長の梅野浩介氏が務めた。
Novoscribe, Inc.(TollBit)共同創業者兼CEOのパニグラヒ氏
パニグラヒ氏によれば、ユーザーが検索エンジンを通じて各ウェブサイトを訪問するという従来モデルは急速に崩れつつあり、代わってAIがウェブコンテンツを要約した結果のみをユーザーに示すために、コンテンツ提供元となる各ウェブサイトへとユーザーが到達する機会すなわちパブリッシャーにとっての収益機会が激減している。
AIは、基礎的な言語モデルを構築するために必要な学習時だけでなく、応答の最新性と正確性を高めるために行うRAG(検索拡張生成)時にもコンテンツを取得する。後者は継続的かつリアルタイムで実施され、かつ数百から数千単位の事業者によるデータ取得が行われているという。サイト内のどのページを巡回し、または避けるべきかを指示するrobots.txtを無視してコンテンツを読み込むものも多くあり、パブリッシャーは大規模なコンテンツ流出の危機にさらされている。
TollBitを利用する6,500以上のドメインから取得したデータによれば、AIボットによるスクレイピングは2025年に入り急増しており、特にアジア地域の伸び率が高い。ただし、AI経由のリファーラル流入はGoogle検索と比較してCTRが90%以上低い水準にとどまっている。この状況は、コンテンツ自体は利用されているにも関わらず、自社サイト上で閲覧されていないがゆえにパブリッシャーが購読費や広告収益を得られないということを意味する。
通訳を務めたGlobalive代表の梅野氏
一方で、AI企業はスクレイピング企業には対価を支払っている。また学習用途とは異なり、RAGによるアクセスは継続的かつ反復的であることから、AIによるアクセスも収益化は可能であるとパニグラヒ氏は考えた。そこでAIアクセスの可視化、制御、そしてライセンスによる収益化を可能にするTollBitを開発。「TollBit.(各社のサイト名)」というサブドメインを新たに作成し、AIボットが情報取得をしやすいように設計したこのサブドメインへと誘導することで、同サブドメイン上でパブリッシャーが以下を始めとする諸機能を無償で活用できる環境を構築した。
・Analytics: AIボット専用のGoogle Analyticsのような機能を提供する
・Bot Paywall: AIボットやAIエージェントに特化して設計された、コンテンツのライセンス供与と収益化を実現するための仕組み。これは、媒体社がAI事業者へライセンスしたい全てのコンテンツに適用することが可能。
・Marketplace: コンテンツ使用料をCPMベースで設定することができる
AIによるアクセスをブロックするのではなく、適切な管理の下で収益化へとつなげるソリューションとして、画期的な仕組みと言える。
パブリッシャーはAIをどう捉えているのか
基調講演に続いて開催された「AI時代における経営目線でのメディアの生存戦略」と題したセッションには、株式会社メディアジーン代表取締役CEOの今田素子氏と株式会社日本ビジネスプレス代表取締役社長の菅原聡氏が登壇。経営者としての観点からAIとパブリッシャーの関係のあり方を議論した。
今田氏は、当初はAIトラフィックを全面的にブロックしていたものの、現在はTollBitを導入した上で監視及び収益化のあり方を探っており、「現段階ではまだサンドイッチを一つ買えるぐらいの収益だが、先進的な取り組みを始めたときはいつもこのような状況である」と報告。今後のAI企業とパブリッシャーとの関係性においては、かつて大手プラットフォームにパブリッシャーのコンテンツが利用されてしまった時のようなことが起きると考えており、AI企業に期待せずにパブリッシャーが自ら生き残る道を模索するしかないのではないかとの見方を示した。
メディアジーンの今田氏
これにより、オピニオン誌、報道機関、独自の世界観を築いたメディアは生き残り、単に情報のみを扱うメディアは淘汰されてきた、という傾向に今後一層の拍車がかかるのではないかと指摘。この発言を受けて菅原氏は、「読者エンゲージメントをしっかりと持っているメディアのみがAI登場後も読者と収入源を維持し続けることができる」との考えを示した。
日本ビジネスプレスの菅原氏
続いて行われたパネルディスカッションでは、「国内メディアが語る 生成AIへの対応」をテーマに、中国新聞社、東洋経済新報社、サイバーエージェントという立場の異なる3社が登壇した。
サイバーエージェント AmebaLIFE事業本部 / AmebaLIFE Privacy & Revenue室 室長の星博之氏は、AIの台頭を短期的には「コンテンツ埋没の脅威」と捉えつつも、長期的には「信頼できる人間が書いた一次情報」の価値が向上するチャンスであると強調。 「AIには食事を楽しむ、好きな服を着るといった『経験』ができない」と指摘し、ブロガーのリアルな体験談を輝かせるための武器としてAIを活用していく方針を示した。
サイバーエージェントの星氏
また株式会社東洋経済新報社 マーケティング局 デジタルソリューション部 担当部長 兼 経営企画室の髙見一氏は、生成 AI 検索による自然検索流入への影響に加えて、出版社の強みであった編集機能がAIによって脅かされつつあるとの危機意識を表明。一方で生成 AI 検索や生成 AI サービスの出現を「新たな配信チャネル」の創出と捉え、コンテンツのライセンシングや、編集・表現の高度化に活路を見出し得ると考えている。
東洋経済新報社の髙見氏
さらに、株式会社中国新聞社メディア開発局 部長の園部貴之氏は、「記者が書いた記事を、生成AIがイラスト、動画、音声に変換したり、読者の属性やその瞬間の気分、感情などに応じて書き直したりして、読者にもっとも分かりやすい体裁で届けてくれる」未来が間もなく実現するのではないかと予想。今後、第一読者は生成AIとなり、情報コンテンツは「読まれる」から「使われる」ものとなっていく。生成AIが使いやすい体裁で提供され、かつ信頼性がある情報コンテンツがより高い価値を持つことになる。これにいち早く対応できれば、メディアにとってビジネス面も含めて大きなチャンスになると考えていると論じた。
中国新聞社の園部氏
なお、本議論においては、必ずしもすべてのパブリッシャーがトラフィック減少に直面しているわけではなく、AIが取り扱いにくい情報を扱うメディアや、SEOまたはAIO対策の実施のあり方によって、影響は限定的であるとの状況も確認された。
また終盤には、パブリッシャーがAIプラットフォームに対抗していくために一社単独では限界があり、メディア間の協調や共通ルールづくりが不可欠であるとの考えが示された。
イベント終了時には株式会社BI.Garage 特命顧問であり、クオリティメディアコンソーシアム 事務局長を務める長澤秀行氏が挨拶。この日行われた議論を受けて、「AIと対決するのではなく、AIプラットフォームからいかにマネタイズを勝ち取るか」が課題になるとして、パブリッシャーが一致団結する必要性を訴えた。
BI.Garageの長澤氏
その後は会場を移して、懇親会を開催。異なるパブリッシャー同士が、AIの影響や利活用のあり方について活発な意見交換を行っていた。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 共同編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。ExchangeWire主催の大型イベントであるATS Tokyoのモデレーターも務めている。













