生成AIが変える企業のクリエイティブ制作と、サイバーエージェント「AIクリエイティブBPO」が目指すもの [インタビュー]
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サイバーエージェントはデジタルインファクトと共同で「大手広告主企業のクリエイティブ制作における生成AIの利活用に関する実態調査」を実施した。
調査結果によると、企業の制作物は近年増加傾向にあり、生成AIの活用も広がりつつある中で、その効果的な活用方法を模索している企業は少なくないようだ。
同社は昨年12月にAIクリエイティブBPO事業部を新設し、生成AIを活用して企業におけるクリエイティブ制作体制の変革を目的とする支援事業を推進している。
今回の調査結果を受けて、企業のクリエイティブ制作における現状と課題を踏まえた事業開始の背景や狙い、今後の展望について、事業部責任者である、同社 インターネット広告事業本部 AIクリエイティブBPO事業部 事業部長 簑田 咲氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
クライアント企業向けにAI活用の制作体制を構築する、AIクリエイティブBPO
Q:自己紹介と、これまでの経歴についてお聞かせください。
2013年に新卒でサイバーエージェントに入社し、インターネット広告事業にてリスティング広告運用の領域で約12年間活動してきました。長年、大量のデータや大量の検索クエリを取り扱われているECやVODなどのサービスを提供するクライアント案件を担当し、組織マネジメントも8 年間経験しました。
昨年12月に、AIクリエイティブBPO事業部を立ち上げ、その事業責任者として生成AIを活用した企業向け制作支援に取り組んでいます。特徴的なのは、単なる制作代行ではなく、クライアント企業の中に“小型のサイバーエージェント”=「ミニサイバー」のようなものを構築し、内製化と競争力強化を同時に実現する点です。
Q.AIクリエイティブBPO事業のミッションと、立ち上げの背景について教えてください。


本事業は、企業で今かかっている紙の印刷物などの莫大な製作費を生成AI活用によってコストカットを実現し、かつ納期を短くする、そして大量に作るということを広告以外の制作物も含めて提供していく事業として立ち上げました。今回の調査結果にも表れておりますが、企業の制作物は動画やバナーをはじめ幅広い分野で増加傾向にあり、今後も拡大が見込まれています。SNSやデジタルメディアの多様化により、短いサイクルで多くのパターンを制作する必要が出てきています。
こうした状況に企業は外注依存で対応することには限界があります。そこで重要になるのが生成AIの活用です。当社は2016年からAIへの投資と研究を重ねてきており、AIを活用したクリエイティブ作成においては、「 極AI予測」を提供してきたため、知見があります。この知見を活かして、クライアント企業向けにクリエイティブAIエージェントを作り提供をする、あるいは生成AIを活用した新しいクリエイティブ制作のワークフローを構築して 提供をする。これにより、クライアントコストを下げることを目指します。
ただ、今のところは全てを生成AIで完結させることはできません。そこで、この業務フローに則ったクリエイティブ制作の担当者として、当社のAI人材で専業体制を構築し 、低コストで新しいワークフロー業務を実現します。このサービスは 、いわば企業との共同事業として取り組むものとなります。当社がこれまで社内で取り組んできたクリエイティブ制作工程におけるコストカットを、いわば「ミニサイバー」としてクライアント企業の中に移植するといったイメージです。
Q.すでに取引・導入事例はありますか?
ベネッセコーポレーション様と協業 し、同社社内に「AIクリエイティブセンター」を立ち上げました。ベネッセ様と当社のメンバーが混成チームを組み、紙媒体からデジタル、動画まで幅広い制作を一体的に行っています。
Q.事業を通して実際に見えてきた、企業のクリエイティブ制作の現状と課題はどのような点でしょうか?


調査結果によると、生成AIはすでに多くの企業で活用が始まっていますが、その多くはアイデア出しやテキスト生成といった初期段階の活用にとどまっています。本格的に運用するためには、ガイドラインや品質管理体制の整備、適切な生成AIモデルの選定、そしてAI活用を受け入れる社内文化の醸成が不可欠です。特に大企業では、部門間の合意形成が課題となるケースが多いです。
コストカットだけではない、競争力を高めるために支援
Q. 今後、生成AIは企業のクリエイティブ制作をどう変えるとお考えですか?またその中でサイバーエージェントはどのようにクライアント支援をしていくのでしょうか?
生成AIは、企業のクリエイティブの作り方と、クリエイティブ制作量を変えていくでしょう。前者についてですが、やはりクリエイティブ制作の内製化がある程度増えていくのではないでしょうか。調査結果によると、今後3年以内に制作の中心をAIが担う場面が増えると予測されています。外注依存から生成AIを組み入れて内製化されていく方向にむかっていくでしょう。
後者については、企業が競争力を高めるチャンスになると思っています。顧客データを活用したパーソナライズドな大量制作も可能になり、配信の精度とスピードが飛躍的に向上します。
生成AIは単なるコスト削減の手段ではなく、企業の競争力を高める制作体制をつくる武器です。高品質なコンテンツを継続的に発信できる体制を構築できれば、市場での優位性は確実に高まります。私たちはその仕組みを企業内部に移植し、実行可能な形で支援していきます。もう一つ、生成AIを活用して制作したクリエイティブは、世に出す前に審査が必要です。この審査も併せて、AIを活用した体制構築の支援を行っていくことも視野に入れています。

Q. クリエイティブBPO 導入後、事業としてはどのように発展させていく構想ですか?
将来的には、用途ごとに特化した「クリエイティブAIエージェント事業」へ進化させたいと考えています。メルマガ制作、Web更新、紙面デザインなど、企業の要件やブランドに合わせて学習したエージェントを提供し、継続的に価値を生み出すモデルにしていきます。企業にとって単なるコストカットではなく、競争力を高めるための支援をしていきたいと考えております。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。




