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デジタル広告の根源的な課題を乗り越える―Oguryと電通ジャパン・インターナショナルブランズはなぜペルソナ分析で協働するのか[インタビュー]

マーケティング業界では古くからペルソナに基づく分析や施策が行われてきたが、デジタル広告業界では不思議とこの概念はあまり浸透してこなかった。その理由と弊害そして打開策について、日本発の独自ペルソナ分析基盤を共同開発したOgury Japanと電通ジャパン・インターナショナルブランズから話を聞いた。(Sponsored by Ogury)

 

デジタル広告とペルソナの相性

 

―自己紹介をお願いします。

 

星氏:株式会社電通ジャパン・インターナショナルブランズ(DJIB)の星貴也と申します。iProspect、Carat、dentsu X、Dentsu International Japan Officeの4ブランドを統括する当社のChief Strategy Officerとして、主にグローバル企業様向けの広告及びマーケティング関連ソリューションの共同開発等に取り組む部門を管掌しています。

 

松本氏:Ogury Japan株式会社のカントリーマネージャーを務める松本亮と申します。フランスに本社を構えるOguryの日本法人を2022年4月に立ち上げて以来、日本市場での事業は着実に拡大してきました、東京のオフィスは現在、パブリッシャー営業、代理店営業、そしてカスタマーサクセスや事業開発を含めた17名の専門チームを擁し、日本独自の市場環境に合わせたペルソナターゲティング広告というソリューションを提供しています。

 

―両社の提携についてお聞かせください。

 

星氏:Ogury様とは日本支社立ち上げ直後から提携をしておりますが、特徴的なものとして弊社グループが年に複数回にわたり実施する市場調査データと、ペルソナターゲティング広告を展開するOguryの独自調査データを掛け合わせた「dentsu persona hub(プレスリリースはこちら)」の開発及び提供があります。

 

松本氏:Oguryは自社の調査データやコンテクスチュアルデータ等を組み合せることでグローバル規模で精緻なペルソナ分析データを構築しています。加えて日本市場により適合していくためには、電通グループ様のような膨大な消費者データを持つ企業様との連携が重要になると考えました。そこで2年半ほどの開発期間中に様々な実証実験などを行い、最終的に2024年10月にdentsu persona hubが正式に提供開始となりました。

 

Ogury上での広告配信での活用を目的として、追加料金なしでご利用可能であり、既に120社ほどのキャンペーンでお使いいただいています。

 

―いわゆるペルソナマーケティングに基づくデジタル広告配信を行う広告主はどれほどいるのでしょうか。

 

松本氏:例えば自動車会社様、旅行会社様、ラグジュアリーブランド会社様等は特定のペルソナに対してデジタル広告を通じて効率的にリーチしていきたいとの考えを持たれていることが多いです。しかしながら、設定したペルソナをいかに解釈し、そして具体的な施策に落とし込むかという点については各社大きく異なるという印象です。ペルソナマーケティングに特化した企業や業界団体が乏しいことを鑑みても、まだまだ発展の余地が大きく残されている領域であり、Oguryが先導的な役割を果たしていくことができたらと考えています。

 

また従来のターゲティング手法は、ユーザーの属性や行動履歴を踏まえて広告を当てるということが主流でした。しかしながら、プライバシー保護の観点からの問題と、年齢や性別または閲覧履歴といった情報だけでは個々人の価値観を捉えきることはできないという課題意識から、具体的な状況を想定して設定する顧客像を示す「ペルソナ」に基づくデジタルマーケティングの必要性が高まってきていると思います。

 

―ただし、ペルソナマーケティング自体は古くから存在する概念ですよね。

 

松本氏:はい。ペルソナ自体はマーケティング業界では長らくそして広く活用されてきました。広告代理店様のご担当者の中でもマーケティング戦略の上流設計を担ういわゆるストプラ(ストラテジック・プランナー)と呼ばれる方々にとってはなじみがある概念かと思います。しかしながら、デジタル広告配信の実務レベルにおいてはそれほど浸透していませんでした。これには理由があります。

 

ペルソナが、大手広告プラットフォーム上のセグメントと対応しないのです。例えばあるブランド企業様が人気アニメのキャラクターとのコラボ商品を販売するとします。このアニメに興味・関心を持つ人が主な訴求対象となるのですが、広告プラットフォームのダッシュボード上でそのアニメのタイトルやキャラクター名といった固有名詞を入力したところで、たとえどれだけ人気があるアニメだったとしても、配信先は極めて限定されます。

 

一方でdentsu persona hubでは、このようなアニメまたはキャラクターに興味や関心を持つ消費者について十分なサンプル数を持つデータがあり、さらにはそうした人々が普段どのような生活を送っているかについてのインサイトを示すことができるので、ペルソナを設計し、かつそのペルソナを広告配信に生かすことができるのです。

 

星氏:これまでは、対面インタビュー調査の実施などを経てどれだけ精緻なペルソナを構築したとしても、大手広告プラットフォーム上ではそのペルソナと比較すると極めて粒度の粗いデモグラフィックデータから該当する項目やキーワードを選ぶしか術がなかったのです。これでは、少なくともデジタル広告配信という具体的施策段階においては、ペルソナを構築する意味がありません。

 

 

そこでOgury様との提携を通じて、設定したペルソナに基づく広告配信が実施できる環境を整備しました。他のマーケティング施策と同様に、デジタル広告配信においてもペルソナを最大限に活用し、マーケティングの上流から下流まで一気通貫したコミュニケーションサポートができるようになった点は非常に大きいです。

 

ペルソナはCookieを代替するか

 

―従来のターゲティング手法の代表格にCookieターゲティングがあります。ペルソナマーケティングはCookieターゲティングを代替し得ると思いますか。

 

松本氏:今後はCookieとそれ以外の手法を組み合わせる共存モデルが増えていくのではないでしょうか。GoogleがChromeのサードパーティCookie廃止を撤回したものの、iOSでは依然としてサードパーティCookieを取得することができません。そのような環境でCookieターゲティングを行おうとすると、Chrome上の同じユーザーばかりに広告を配信することになります。Cookieと同じく活用されているIDベースのターゲティングとなると、特定の大手広告プラットフォームに依存することになり、やはり出面が一緒になることでリーチ過多となります。

 

さらにどんなものであれ、特定の広告配信手法を偏重すると、競合する広告主との差別化が難しくなるという問題が発生します。同じ広告枠の中で共通仕様に則った広告が配信されると、ユーザーにとっては「柄違いの広告」が出ているといった印象しか受けません。

 

一方で、競合する商品でも、その使い手のペルソナは各商品で異なるはずです。それぞれのペルソナに対して異なるアプローチをとることが結局は効率的です。

 

星氏:Cookieベースのターゲティングは今後もなくならないでしょう。そもそも主にリターゲティング施策で活用されるCookieターゲティングとブランディングに強いペルソナターゲティングでは役回りが違います。

 

―CookieやIDベースのターゲティングを重用してきた広告主がペルソナマーケティングを開始する際にどのような準備が必要となるのでしょうか。

 

松本氏:Oguryでは様々なブランド企業でブランドマネージャーを経験した者やブランドのコンサルティングを行う企業を含めた「ペルソナラボ」というチームを組成しています。このペルソナラボが御社のストプラの方々と協働して支援することができるので、特に身構えることなく、安心してお任せいただけたらと思います。その際に、広告主様が既にお持ちのペルソナに関わる情報をご提供いただけましたら、パートナーとしての立場からペルソナを一緒に構築していくことができます。

 

 

一例を挙げますと、御社が持つ調査データ等を分析してペルソナを再定義した上でキャンペーンを実施すると同時に、別途調査会社と連携してペルソナに合致する消費者への対面インタビューを実施することで新たな知見を得てさらにPDCAを回していくということも実施しています。

 

弊社はこのような形で単なるメディアないしアドネットワーク企業としてではなく、とにかくペルソナに関わることであればありとあらゆるサービスを提供できる企業になることを目指しています。

 

星氏:少なくとも、自社の製品やサービスをどのようなお客様にご購入いただきたいのかというイメージはぼんやりとでも描いていただけると我々も支援がしやすいです。それらのイメージを具体化するためのデータとノウハウには自信があります。

 

―Oguryではアンケート調査に基づく独自調査データやアドネットワークデータに加えて、コンテクスチュアルデータも扱っていると理解しています。他のコンテクスチュアルターゲティングとはいかに差別化していますか。

 

松本氏:一般的なコンテクスチュアルターゲティングは、ユーザーのニーズが顕在化したタイミングに効きます。対照的にペルソナターゲティング広告は、ユーザーの様々な心理状態や潜在的または将来的な興味・関心を踏まえた広告配信を行うだけの深みがあります。

 

星氏:コンテクチャルターゲティングをやや単純化すると、例えばファッションブランドがファッションに興味のある人にアプローチするためにファッション関連記事に広告配信するというモデルです。ペルソナマーケティングであれば、ファッションに興味がある人がほかにどのような興味を持っているかという点も踏まえた広告配信を行うことができます。顕在化されていない興味や関心にも対応できるという意味で、より能動的な広告配信手法です。

 

データの横断的利用も可能に

 

―両社の提携を今後どのように発展させていきたいと思いますか。

 

松本氏:まずOguryとしては、広告のクリックを保証するだけのメディア企業とは一線を画したいと考えています。広告主様の事業課題にもっと踏み込んで、一緒に頭を悩ませながら事業を支援させてもらうのが我々としてのあるべき姿です。

 

そのために電通グループ様との一層の連携強化は必須です。一緒に日本市場で実現できることを増やすために、共にブレインストーミングとPDCAを繰り返しながら、最終的に成果につなげることができたらと思います。

 

星氏:dentsu persona hubという共同ソリューションを通じて、日本市場にて一つでも多くの成功事例を作り、ゆくゆくは海外にも大々的に展開をしていきたいと思います。

 

松本氏:dentsu persona hubの海外展開については、タイ、フランス、オーストラリア、台湾といった市場には既に浸透し始めています。

 

また今年10月ごろより、dentsu persona hubのデータをOguryだけでなく、その他の広告プラットフォームやメディア上にも用いてペルソナターゲティングができる仕組みを実装していく予定です。

 

さらに現時点では東京や大阪といった大都市圏の広告主様が主なお取引先となっていますが、それ以外の地域の企業様にもペルソナをベースにした事業支援が可能であると考えています。これまでデジタル広告が適切に対応できていなかった、例えば地方創生系のプロジェクトなどにも貢献できたらと思います。

 

星氏:Ogury様のようなグローバル企業はともすると本社を構える国で成功した仕組みをそれ以外の国々にも落とし込もうとすることが多いですけれども、dentsu persona hubのように日本市場を起点とした取り組みにも積極的であることが非常に稀有だと思います。今後も共に日本発の取り組みに注力していきたいです。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 共同編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。ExchangeWire主催の大型イベントであるATS Tokyoのモデレーターも務めている。