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合併を通じてパブリッシャー支援を強化―新生Teadsが導く収益多様化戦略とは[インタビュー]

2025年のアドテク市場を揺るがしたOutbrainとTeadsの合併。バイサイドに対しては「フルファネル戦略の強化」というある意味で分かりやすい利点をもたらすことが期待されるが、サプライサイドはこの合併でどんな恩恵を得られるのか。来日した同社本社のサプライサイドチーム責任者に話を聞いた。

 

パブリッシャーの収益多様化を実現

 

―自己紹介をお願いします。

 

新生Teadsのグローバル パブリッシャー担当 エグゼクティブヴァイスプレジデントを務めるステファニー・ヒモフと申します。Outbrainには13年ほど在籍しており、新生Teadsにおいても引き続き従来型のウェブ媒体からコネクテッドテレビ媒体さらにはSSPとの連携やOEM事業を含めたサプライサイド事業を統括しています。

 

―Outbrain出身のサプライサイド統括責任者としては、Teadsとの合併の効果をどのように捉えていますか。

 

ご存じの通り、Outbrainはこれまでパフォーマンス広告領域で強みを発揮してきました。しかしながら、近年ではGoogleのアルゴリズム変更によって広告密度や広告品質に関する基準が変更されたことなどを一因として、とりわけパフォーマンス広告関連の収益は減少傾向にあります。そうした環境下でも広告収益の最大化を目的として新規の広告枠を増やした結果として、ユーザーエクスペリエンスが悪化し、エンゲージメントが下がるという悪循環が一部で引き起こされています。

 

こうした悪循環に陥りつつあったパブリッシャーにとっては、Teadsとの合併を通じてブランド広告需要の取り込みが可能となったことで、パブリッシャーの収益源を多様化及び安定化させるための新たな手段を得たことは非常に大きいです。

 

なお、市場によってはパブリッシャーの50%以上が、旧Teadsが提供する記事中の動画枠とOutbrainが提供する記事下のレコメンド枠を併用していました。こうしたパブリッシャーは既に導入済みの両タグをそのままお使いいただくことができます。

 

生成AIとの付き合い方・戦い方

 

―少なくとも現時点ではTeadsの動画広告と旧Outbrainのレコメンド広告がそれぞれ独立して運営されているということですね。

 

それぞれのプラットフォームは別々に稼働しており、データを含めた技術スタックの統合にはもう少しかかる見通しです。多くのパブリッシャーが提携するパートナー数を絞りたいと考えていることは十分に認識しており、プラットフォームの完全な統合が当社が取り組む次の重要課題となっています。

 

一方で「Immersive Feed(旧称「Moments」)」と呼ばれる、TikTokやInstagramのリールと同様の縦型動画に最適化されたフィードフォーマットは既に両社の広告需要を統合しました。この統合作業のために当初のリリース予定からは若干遅れたものの、既に日本市場では正式にリリースしています。

 

なお、日本市場での検証において、縦型動画コンテンツは、従来のフィード型コンテンツと比べて、平均すると3倍長く視聴されることが確認できました。ユーザーのコンテンツ消費がソーシャルメディア型へと進化する中で、パブリッシャーが自社サイト上でも同等レベルのエンゲージメント体験を提供できることは、今後大きな価値を生むと考えています。

 

―縦型動画広告フォーマットを有効活用するには、パブリッシャー側もオーガニックな縦型動画コンテンツを用意する必要が出てくるのではないでしょうか。

 

そこで当社は外部のコンテンツプロバイダーが制作した縦型動画コンテンツの再利用を可能にするコンテンツシンジケーションの仕組みを整備しています。

 

加えて、生成AIの積極的な活用をご案内しています。動画制作はこれまで高額な制作費や制作負担が課題となっていましたが、過去1年ほどにおける生成AI技術の急速な発展によってテキストや音声の動画への自動変換、静止画のアニメーション化、翻訳の自動化などが容易になったことで気軽に動画制作を行うことができるようになったからです。

 

―パブリッシャーにとって生成AIはサイトへのトラフィックを奪う脅威としても警戒されています。

 

2024年の夏頃にGoogleがリリースした、検索結果を要約する機能となる「AI Overviews」の影響は確かに甚大です。ユーザーは通常の検索結果として表示されるリンク先に到達することなく求める答えを得ることができるので、各サイトへの流入数が確実にそして大きく減少しています。

 

英国の大手メディアが公表したデータによると、その結果として、パブリッシャーが運営するサイト上でのCTRが80%減少しています。壊滅的な状況です。しかもこの変化は一過性ではないのです。パブリッシャーは迅速に対応する必要があります。

 

―どのような対応策が考え得るのでしょうか。

 

いくつかありますが、まずは「編集部の意見や見解を強化する」ことが挙げられます。AIは情報の要約は得意ですが、独自の意見や切り口を持つことができません。調査報道、独自の解釈や論調に支えられた意見の提示、リアルタイムで更新される記事の編集などは不得意です。その典型的な事例として、米国のニュースサイトであるThe Daily Beastは特定の読者層に向けた強烈な論調が支持され、むしろトラフィックが伸びています。このように編集部がある種の人格を持つことが求められています。

 

また「ディストリビューションの主導権の奪還」も極めて重要です。パブリッシャーは過去10年にわたり、Facebook Instant Articles、Google AMP、Google Discoverといった大手プラットフォームの機能に依存しすぎました。しかしこうした経路はプラットフォームの一存で即座に変更または閉鎖されてしまい、実際にパブリッシャーはそうした動きに振り回されてきました。そこでTeadsではPublisher Acquisition Programを提供し、各媒体のオーガニック記事を月間8億PV規模に相当する新生Teadsのネットワーク全体で展開する仕組みを用意しています。ちなみに欧州においては、異なるパブリッシャー同士がトラフィックを相互交換するという施策が極めて一般的に行われています。

 

次は「トップページの過剰な収益化」を止めること。これまで多くのパブリッシャーは1PVあたりの広告収益を極限まで高めようとして、エンゲージメントを損ない、長期的な収益を減少させてしまっていました。代わって当社ではRPM(1,000PVあたり収益)ではなくRPS(1セッションあたり収益)をKPIとすることを推奨しています。記事を2〜3本読んでくれるようなエンゲージメントの高いユーザーは、広告をクリックする確率が約5倍に跳ね上がります。よって「トップページの広告を減らし、記事をきちんと読ませる」という戦略を採用すべきです。

 

最後に「AIを敵ではなく味方にすること」。より具体的には、生成AI検索最適化の担当者を配置したり、ChatGPTに代表されるLLMとライセンス交渉することなどが考えられます。実際に米国ではすでに多くの大手メディアがLLMと記事の使用料等に関するライセンス契約を締結済みです。またドイツ大手メディア「Bild」はChatGPTと提携して、記事ページ上にチャット検索機能を導入する試みを進めています。

 

―欧州では異なるパブリッシャー同士がトラフィックを相互交換するという施策が一般的に行われているとのことですが、競合しないパブリッシャーを選びあって協業しているということですか。

 

いいえ、例えば英国では、The Guardian、The Telegraph、The Sun、Daily Mailといった政治思想的には極めて対照的な全国ニュース媒体同士で相互にトラフィックを送り合うだけでなく、共同で広告在庫を販売するなどしています。

 

日本においても、放送局であればTVerという共同的な取り組みがありますよね。翻って、ウェブ系パブリッシャーとなる競合意識が極端に強くなり、自社完結モデルを志向する傾向が強くなるという印象を抱いています。

 

日本独特の商慣習とは

 

―話は変わりますが、ヒモフ様を始めとして海外のテクノロジー企業には女性の重役が非常に多くいますが、日本のアドテク業界ではまだ少ないです。

 

何を言っているのですか。日本には女性の首相がいますよね。Teadsの本社がある米国にも、私の生まれ故郷であるフランスにも、女性の大統領はまだ誕生していません。女性の社会的進出に関して言えば、日本はこれらの国々よりもむしろ先行しているのではないでしょうか。

 

世界的に見るとジェンダーギャップはまだまだ大きいと思います。私自身も様々な苦労をしましたが、男性が経験する苦労と本質的には変わらないとも思います。結局のところ、リーダーシップに必要なのはスキル、チームワーク、カリスマ性等であって、これらの能力と性別は関係ないからです。

 

ただし、各企業は多様性を促進する仕組みを意図的に作り出す必要があるとは思います。実際にTeads にはWomen at Teadsという社内プログラムを実施しており、女性だけではなく男性も参加した上で、キャリア開発やコーチングを提供しています。その結果として、当社はチーフコマーシャルオフィサー(最高商務責任者)を女性社員が務めており、女性幹部の比率を徐々にそして確実に高めています。

 

―日本の商慣習でその他気になる点はありますか。

 

日本の商慣習は、ドイツにとても似ていると感じています。リスク回避的で、上意下達的であると同時に合意形成に時間をかけることが一般的です。一方で例えば米国はリスク許容度が非常に高く、スピード重視で失敗を恐れない文化を持っています。

 

どちらが良いというわけではないと思いますが、生成AIが引き起こす地殻変動レベルの変化が起きている現在は、慎重さよりもスピードが求められる局面が増えています。日本のパブリッシャーも「失敗を恐れずに行動する」ことが今後増えていくのではないでしょうか。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 共同編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。ExchangeWire主催の大型イベントであるATS Tokyoのモデレーターも務めている。