日本の広告費、8兆円突破で構造転換が顕在化—電通・森永氏「歴史的転換期」、CARTA高松氏が示す“媒体構造の変質”

電通が発表した「2025年 日本の広告費」によると、日本の総広告費は前年比105.1%の8兆623億円と、4年連続で過去最高を更新した。
日本の総広告費の推移

出典:電通「2025年 日本の広告費」
インターネット広告費は4兆459億円に達し、マスコミ4媒体由来のデジタル広告費を合算したネット広告比率では50.2%と初めて半数を超え、日本の広告市場は明確に新たな局面に入った。
媒体別広告費

出典:電通「2025年 日本の広告費」
株式会社 電通 電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 森永陸一郎氏(以下、森永氏)はこれを「歴史的な転換期」と位置づけ 、インターネット広告の詳細分析を担った株式会社 CARTA HOLDINGS リレーションマネジメント室 室長 高松 幹夫氏(以下、高松氏)は、動画とソーシャルの伸長による「広告の質的な変容」を浮き彫りにした。
「想定より早い」デジタルシフト。森永氏が語る構造変化の本質

株式会社 電通 電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 森永陸一郎氏
インターネット広告が総広告費の約半分を占めるに至った点について、森永氏は「正直ちょっと早かった」と率直な所感を述べた 。コロナ禍以降のデジタル化の加速が寄与しているものの、その進展スピードは業界の想定を上回るものだった。森永氏はこの変化を、単なる媒体間の予算移動とは捉えていない。
「広告市場全体が構造変化を遂げたことが確認された2025年だった」
実際、マスコミ4媒体の広告費が383億円減少する一方で、インターネット広告費は3,942億円増加している。森永氏は、この差分は既存媒体からの単純なシフトではなく、従来「販売促進費」として広告統計の外にあった予算が、デジタル広告へ流入し「広告」として定義し直されている可能性を示唆した。
高松氏が分析する「インターネット広告媒体費」3つの核心

株式会社 CARTA HOLDINGS リレーションマネジメント室 室長 高松 幹夫氏
高松氏は、インターネット広告費の8割強を占める「インターネット広告媒体費(3兆3,093億円)」に焦点を当て、2025年のポイントとして以下の3点を挙げた。
インターネット広告媒体費の広告種別構成比

出典:CARTA HD/電通/電通デジタル/セプテーニ「2025年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」
1.動画広告がついに1兆円を突破
動画広告は前年比121.8%の1兆275億円となり、推定開始以降初めて、1兆円の大台に乗った。
高松氏はその内訳について、動画コンテンツ内で流れる「インストリーム広告(5,246億円)」と、SNSのフィード等で流れる「アウトストリーム広告(5,029億円)」がほぼ50%ずつ、拮抗しながら共に2桁成長している点を強調した 。広告が特定のフォーマットに偏ることなく、生活者のデジタル体験全体に浸透している実態を示している。
2.ソーシャル広告の“質的変容”
ソーシャル広告は1兆3,067億円(前年比118.7%)と、市場全体の伸びを牽引している。 注目すべきは、そのプラットフォーム別構成比の変化だ。高松氏の分析によれば、SNS系が依然最大(42.1%)ではあるものの、最もシェアを伸ばしているのは「動画共有系(39.2%)」である 。若年層を中心に、広告が「情報」ではなく「ショート動画などのコンテンツ体験」として消費される傾向が強まっている。
3.AI検索と「ゼロクリック」への冷静な視点
AI検索の普及により、検索結果だけで満足しサイトを訪問しない「ゼロクリック現象」が議論されている。
しかし高松氏は、「現時点での影響はまだなかったのではないか」と冷静な分析を示す。検索連動型広告は依然として構成比トップを維持しており、AIとの親和性が低い分野では引き続き広告の優位性が保たれている 。ただし、2026年以降はAIのマネタイズ手法が確立されるため、「注視が必要な領域」であると付け加えた。
AIは「市場実装前夜」、一方で制作現場には地殻変動
AIの活用について高松氏は、「各社のマネタイズのやり方にはグラデーションがある」とし、本格的な市場形成は「まだ市場実装する前かなという状態」との認識を示した。
一方で、広告制作領域にはすでにAIの影響が現れ始めている。インターネット広告制作費は4,922億円(前年比104.0%)と伸長しているが、制作物数の増加に対して、単価の低下が懸念されている。森永氏・高松氏共に、生成AIによるクリエイティブ制作の自動化・効率化が、市場のコスト構造を変化させている可能性を指摘した。
2026年予測:成長は「調整局面」へ
2026年のインターネット広告媒体費について、高松氏は前年比108.3%(3兆5,840億円)との予測を提示した。 成長率が鈍化して見える点について高松氏は、これまで120%前後の成長を続けてきた動画広告の予測を114。7%に設定するなど、「不確実要素を考慮し、アグレッシブな読みを控えた」と解説。急成長フェーズから、市場規模に見合った「安定成長フェーズ」への移行を予感させる予測となった。
広告は「媒体」から「統合設計」の時代へ
今回の発表が示したのは、広告市場が単にデジタル化したという事実だけではない。森永氏が定義した「歴史的転換期」とは、デジタルが過半を占めることで、もはや「デジタルかリアルか」という議論が終わり、両者を前提とした「統合的な顧客体験の設計」が不可欠になったことを意味している。
高松氏が示した詳細なデータは、その設計の核が「動画」と「ソーシャル」にあり、そこに「AI」という未知の変数が加わろうとしている現状を鮮明に描き出している。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。




