×

「見られない広告」への投資をどう見直すか――アテンション計測は広告投資の意思決定を変えるのか【Lumen × UNICORNイベントレポート】

デジタル広告における「アテンション(注視)」計測の意義と実践を議論するイベント「アテンションが広告の価値を変える日 〜Lumen × UNICORNが描く、次世代広告の新基準〜」がLumen Research Ltd.、UNICORN株式会社共催のもと、3月9日にUNICORN株式会社の本社で開催された。

アテンション計測で知られるLumen Research Ltd.のCEO・Mike Follett(マイク・フォレット)氏が来日し、グローバルの最新動向を共有。UNICORN株式会社 代表取締役の山田翔氏による日本市場での計測事例の発表に加え、株式会社博報堂、楽天グループ株式会社の実務者を交えたパネルディスカッションも行われた。会場では、「ビューアビリティの先」にある広告評価の新たな基準をどう捉えるべきかが、多面的に議論された。

 

Attention Economy最前線――世界の広告は「どこを見ているのか」
登壇:Lumen Research Ltd CEO Mike Follett(マイク・フォレット)氏

「ビューアブル」であることは、「見られている」ことを意味しない

「人々は広告を無視するのが非常に上手い」――初来日を果たしたLumen Research CEOのマイク・フォレット氏は、こう切り出した。ニューヨーク・タイムズスクエアの広告群を例に挙げながら、数多くの広告が技術的にはビューアブルであっても、実際に生活者の視線を捉えているとは限らない現実を指摘した。

同氏が問題提起したのは、デジタル広告業界が長年依拠してきた「表示された広告には一定の価値がある」という前提である。MRCビューアビリティ基準は、広告が画面上に表示されたかどうかを把握する尺度として広く使われてきた。一方で、それはあくまで“Opportunity to See(見る機会)”を示すものであり、“実際に見られたかどうか”とは異なる。スマートフォン上での高速スクロールや、複数スクリーンをまたぐ同時接触が常態化した現在、このズレは以前より無視しにくくなっている。

2013年設立のLumenは、ウェブカメラを活用したアイトラッキング技術を通じて大規模なデータを収集し、デジタル、テレビ、映画館、屋外広告など、多様なメディアにおけるアテンションの実態を可視化してきた。同社のアプローチは、広告のサイズや表示環境、スキップ可否などの視認性に関わる要素をもとにアテンションを推定する点に特徴がある。フォレット氏は、こうしたアテンション計測が単なる研究領域にとどまらず、すでにグローバルではプランニングやバイイングの判断材料に加え、広告主のクリエイティブ最適化やキャンペーン全体の効果向上にも活用され、実装フェーズに入りつつあると説明した。

 

アテンションは成果とどう結びつくのか

講演の後半では、アテンションと広告成果の関係を示す複数のエビデンスが紹介された。ブランドリフト、CTR、利益との関係を分析した結果、アテンションが高い広告ほど、これらの成果指標とも正の関係を示す傾向が見られたという。ここでの重要な論点は、アテンションが単独の新指標として注目されているのではなく、従来から広告主が重視してきた成果指標を説明する手前の変数として機能しうる点にある。

とりわけブランド広告の文脈では、認知、検討、購入意向といった態度変容が、単に“配信された”ことではなく、“どの程度見られたか”と密接に関わっている可能性が示された。クリック率についても、ビューアビリティだけでは十分に説明できない差を、アテンションが補完する余地がある。フォレット氏は、こうした知見を踏まえ、「興味深いデータ」だったアテンションが「意思決定に使えるデータ」へと変わりつつあると語った。

紹介された事例の一つでは、米国Kiaがオープンウェブ広告において高アテンション在庫を活用し、コンバージョン率の改善を図ったケースが示された。また、ハイネケンやカールスバーグの事例では、ブランド広告やグローバルのメディアプランニングにアテンションデータを組み込む取り組みが進んでいることが共有された。これらは、アテンションが一部の先進的な実験ではなく、広告売買の現場に入り始めていることを示すものといえる。

 

広告主だけでなく、媒体価値の見方も変わる

アテンション指標の広がりは、広告主や代理店の判断を変えるだけではない。パブリッシャーや媒体社にとっても、自社在庫の価値をどう説明するかという問題に直結する。これまでビューアビリティの高さが評価されてきた面でも、実際の注視が伴わなければ、広告価値の再評価を迫られる可能性があるためである。

逆にいえば、ユーザー体験を大きく損なわず、自然に視線を獲得できる面やフォーマットは、従来とは異なる観点から評価される余地がある。フォレット氏の講演は、「どれだけ配信されたか」から「どれだけ見られたか」へ、さらに「その注視がどんな成果につながるのか」へと、広告評価の軸が動き始めていることを改めて印象づける内容だった。

 

アテンションは広告の「何」を変えるのか――UNICORNが示す計測の意義
登壇:UNICORN株式会社 代表取締役 山田 翔氏

日本市場に横たわる「数字の罠」

UNICORN代表の山田翔氏は、日本のデジタル広告市場が抱える構造的な問題を「数字の罠」という言葉で表現した。ビューアビリティ、CTR、CPAといった数値は、広告運用の現場で日常的に参照されている。一方で、それらが良好に見えることと、広告がきちんと見られ、事業成果につながっていることとは必ずしも一致しない。そのギャップを可視化する必要があるというのが、山田氏の基本的な問題意識である。

同氏は、ディスプレイ広告や動画広告に対するアンケート結果を引きながら、広告が表示されても内容まで読まないユーザーが多い現状に言及した。日本のデジタル広告市場が大きく拡大するなかで、仮に相当量の広告が実際には見られていないのであれば、そこには小さくない機会損失が生じていることになる。山田氏は、こうした“表示されているが見られていない広告”の存在を、アドフラウドとは異なるかたちの損失として捉える必要があると指摘した。

 

Lumen連携で見えてきた、ビューアビリティとのズレ

UNICORNはDSP事業者として、Lumenと連携し、プラットフォーム上の一部トラフィックを対象にアテンション傾向を分析している。山田氏が示したのは、ビューアビリティが高い広告面と、実際によく見られている広告面が必ずしも一致しないという点である。

具体例として紹介されたのが、下部固定型の横長広告枠と、記事内のレクタングル広告枠の比較である。ビューアブルレートでは前者が優位に見える一方、実際の視認率やアテンションベースの買い付け効率で見ると、後者が上回るケースがあったという。つまり、従来の指標だけで評価すると優秀に見えた在庫が、アテンションの観点では異なる評価を受ける可能性があるわけだ。

この話は、広告主にとっては投資先の再考を促すものとなる。代理店にとっては、CPMや到達量だけでなく、注視の質まで含めてプランニングを組み立てる必要が出てくる。さらにパブリッシャーにとっても、単に画面内に長くとどまる面を用意するだけでは評価されにくくなり、ユーザー体験と注視の両立が重要なテーマとして浮上する。

 

CTRだけでは見えない、クリエイティブ評価の限界

山田氏はまた、CTRという指標そのものの限界にも踏み込んだ。そもそも見られていない広告が相当数含まれる環境では、インプレッションを分母としたCTRだけでクリエイティブの良し悪しを判断するのは難しい。広告表現の力をより正確に見るには、“見られたうえでクリックされたか”を問う指標が必要になるというのである。

その文脈で提示されたのが、アテンションベースのCTR、すなわちACTRである。これは、広告が実際に視認されたことを前提にクリックの質を評価しようとする考え方であり、単なるクリック率よりも、クリエイティブや掲載面の真価を見極めやすくする。運用型広告の現場では、CTRのわずかな差が大きな意思決定につながることも多い。その意味で、ACTRの発想は、広告表現をよりフェアに評価するための補助線になりうる。

 

新しい指標は、また“ハック”されるのか

今回のセッションで印象的だったのは、山田氏がアテンション計測を手放しで礼賛しなかった点である。同氏は、ビューアビリティという指標が普及した後、そのスコアを高めやすい固定枠やワイプ枠などの、ユーザビリティを阻害するような広告枠が増えた歴史を振り返り、新たな指標が登場しても同様のことは起こりうると警鐘を鳴らした。

たとえば、閉じるボタンが見つけにくいフルスクリーン広告では、ユーザーが離脱しようとして視線を動かすことで、結果的にアテンションスコアが押し上がる可能性もある。数字の上では注視されていても、それがユーザーにとって望ましい広告体験とは限らない。山田氏は、アテンションを測るだけでなく、「その注視はどのように生まれたのか」まで見なければならないと強調した。

新しい指標が登場するたび、業界はその数値を最適化しようとする。その流れ自体は自然である。しかし、最適化の結果がユーザー体験の悪化を招くなら、それは長期的に広告価値を毀損しかねない。山田氏が最後に語った「数字だけを見るのをやめましょう」という言葉は、アテンション時代においてこそ重みを持つ提言だった。

 

パネルディスカッション:何を根拠に広告に投資すべきか
モデレーター:UNICORN株式会社 高橋 香名氏
ゲスト:株式会社博報堂 宮﨑 雅子氏、楽天グループ株式会社 李 侑皇氏

左から李 侑皇氏、宮﨑 雅子氏、高橋 香名氏

 

広告主・代理店・事業会社が感じる「レポート上の数字」への違和感

パネルディスカッションでは、代理店、事業会社、プラットフォームという異なる立場から、アテンション指標の実務的な使いどころが議論された。共通していたのは、従来の管理画面上の数字だけでは、広告投資の妥当性を十分に説明しきれなくなっているという認識である。

博報堂の宮﨑雅子氏は、マルチデバイス、マルチスクリーン環境が当たり前となった現在、広告主の間でも「表示されたこと」と「見られたこと」を切り分けて考える必要性が高まっていると指摘した。かつては「安く、広く、リーチできた」こと自体が一定の説明力を持っていた。しかし足元では、それだけでは本質的な広告効果を捉えにくくなっている。アテンションは、そのギャップを埋める追加的な説明変数として注目されているという。

一方、楽天グループでラクマのユーザー獲得を担う李侑皇氏は、事業会社ならではの視点から、管理画面上の獲得効率と事業全体の増分効果が一致しないケースについて語った。広告停止時にオーガニック流入が増えるような挙動が見られたことから、媒体上では成果が良く見えても、事業全体では新たな需要を生み出していない可能性があったという。分析を進めると、オーバーレイ枠中心の配信では、オーガニックCVを広告によるCVとして計測されていた可能性が示唆された一方、インフィードやインライン中心の媒体では異なる傾向が見られたと共有された。

 

ブランディングの評価軸として、アテンションは使えるのか

宮﨑氏は、Lumenの計測を活用したブランド広告の実証事例についても言及した。注視時間とブランドリフトの間には正の関係が見られ、注視時間が長くなるほど、ブランドへの好意や認知などの指標も高まる傾向が確認されているという。この知見の実務的な意味は大きい。なぜなら、従来のブランディング施策では、事後調査が出るまで効果を評価しづらかったからである。

アテンションを中間指標として見ることで、キャンペーン期間中でも一定のPDCAを回しやすくなる。さらに宮﨑氏は、同一条件・同一予算で複数のクリエイティブフォーマットを比較した事例にも触れた。そこでは、注視時間が長いフォーマットほどブランドリフトとの親和性が高く、一方で注視時間が相対的に短いフォーマットはCPA効率に優れる傾向が見られたという。重要なのは、どちらが優れているかではなく、目的に応じて使い分けるべきだという点である。

この考え方は、広告主と代理店の関係にも変化をもたらす。単に配信量を確保するのではなく、キャンペーンの目的に照らして、どの接触がどの成果に結びつきやすいかを説明することが求められるようになるからだ。アテンションは、その共通言語になりうる。

 

オンオフ統合とインクリメンタリティ、その先の課題

議論の終盤では、アテンション計測をオンライン・オフライン横断で扱うニーズにも話題が及んだ。宮﨑氏は、テレビとデジタルでは1インプレッションの価値や接触の意味が異なるため、単純な統一指標化は容易ではないとしつつも、それを望む広告主が多い現状を語った。もしテレビ、オンライン動画、ソーシャル、オープンウェブなどを横断して、どれだけ注意を獲得し、どれだけ記憶形成に寄与したかを比較できるなら、メディアプランニングは大きく変わる可能性がある。

李氏もまた、流行する手法や指標は次々に現れるが、最終的に重視すべきなのは、自社の事業成長を最も正確に示すデータとツールを見極めることだと語った。広告主にとって重要なのは、新しい言葉を採用することではなく、増分効果に結びつく判断材料を持つことである。アテンションはその有力候補ではあるものの、万能の解ではない。だからこそ、MMMやブランドリフト、媒体別の成果検証などと組み合わせながら、実務に耐える形へと落とし込んでいく必要がある。

 

「伝わること」に立ち返るための指標としてのアテンション

本イベントを通じて浮かび上がったのは、デジタル広告業界が長年重視してきた「ビューアビリティ」「インプレッション」「CTR」といった指標の限界と、それを補完しうるアテンション計測の可能性である。Lumenのグローバル事例は、アテンションがブランド成果やクリック、利益と一定の関係を持ちうることを示した。UNICORNの日本市場における分析は、ビューアビリティが高くても、実際には十分に見られていない広告が存在することを可視化した。

その一方で、山田氏が指摘したように、新しい指標が登場するたびに、それを“ハック”する動きが生まれてきたことも業界は忘れるべきではない。アテンション計測が広告投資の意思決定を真に変えるには、単に数値を追うのではなく、その背後にあるユーザー体験の質まで問い続ける必要がある。加えて、デジタル広告テクノロジー領域のコンサルティング会社であるGlobalive株式会社の梅野氏によれば、グローバルではアテンションとブランドリフト調査(BLS)を組み合わせ、必要接触量の最適化、さらには短期記憶・長期記憶までを設計する活用への関心が高まっているという。

閉会にあたり山田氏は、デジタル広告をより良いものにしたいと考える人々が集まっていること自体に意味があると語った。広告主、代理店、パブリッシャー、アドテクノロジー事業者――それぞれの立場から、「見られていない広告に投資し続ける」という構造をどう見直すか。その問いに対し、アテンションはひとつの有力な座標軸になりつつある。もっとも、それが業界標準として定着するかはまだこれからである。それでも本イベントは、日本市場が“表示されたか”ではなく“本当に見られ、どう効いたか”を問う段階に入り始めたことを示す場だった。

ABOUT 町田貢輝

町田貢輝

ExchangeWireJAPAN 編集担当 日本大学法学部法律学科卒業。編集プロダクション、出版社でエンタメ、健康、IT関連の雑誌と書籍の編集・進行管理に従事。2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。DX領域のメディア運営全般ならびに、調査研究を担当する。