“広告”を社会の装置として再定義する-アドテク時代に失われた意味を問い直す-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
ATS Tokyo 2025 の最終セッション「広告の役割[再考]、アドテクは[広告]の意味を殺していないか?」では、同志社大学大学院ビジネス研究科教授の高広伯彦氏が登壇した。 本セッションは、高広氏の講演と ExchangeWire JAPAN 編集長・野下智之との質疑応答で構成され、広告の歴史的役割、制度との関係、都市形成への関与、社会問題との接点、そしてアドテクが支配する現代における広告の「意味の喪失」が議論された。 効率化が極端に進む広告環境の中で、人間中心の広告文化をどのように取り戻すか-その核心に迫る内容となった。 セッション登壇者 同志社大学大学院ビジネス研究科/教授/高広 伯彦 氏 ExchangeWire JAPAN/編集長/野下 智之 引札が変えた商いの構造-「相手の得」を伝えるという広告の原点 高広氏は冒頭、日本型ビジネスに根付く利他的行動に触れながら、広告の起源を捉え直した。日本では、短期的な利得ではなく、関係性を重視した利他的行動が商習慣の基盤にあった。広告もまた、相手にとっての利益を提示する行為として成立してきたという。 その象徴として紹介されたのが、江戸・日本橋の三井越後屋による「引札」である。そこには「現金安売掛値なし」「配達はいたしません」と記されていた。当時の呉服商は掛け売りが一般的であり、番頭が年末に集金に回る仕組みだった。引札はこの長年の前提を覆すもので、「現金売り」という新たなルールを社会に提案する役割を果たした。単なる店の宣伝ではなく、商いの仕組み自体を変革しうる提案である点を、高広氏は広告の原点として位置づけた。 また、引札が社会に浸透した背景として高広氏は、江戸時代の高い識字率を挙げた。武士階級はほぼ100%、農村部でも一定の読解力があり、文字を介して情報が流通する土台が形成されていた。新聞の普及はこうした基盤をさらに強化し、明治期には紙面の多くが広告で埋め尽くされるようになった。福沢諭吉は新聞創刊に際して「広告とは広く伝わる媒体に載せるべきもの」と述べ、広告を公共的機能を持つ情報装置として語った。 広告はすでにこの時点で、「情報伝達の基盤としての社会的役割」を担い始めていたことがわかる。 制度が広告を進化させ、都市が広告を必要とした-アドバルーンから通天閣まで 広告が社会制度と都市の発展に密接に関わってきた点についても、高広氏は豊富な事例を示した。 制度が広告の形態を進化させたアドバルーン 大正期には「広告営業税」が存在し、広告の掲出や営業行為が地方財源を支えていた。広告に税が課されるという制度は、広告の形態そのものを変化させた。地上の広告が課税対象である一方、空中の掲示には当初適用されなかった。そこで生まれたのが「アドバルーン」である。広告主と事業者は制度の隙間を活かし、空中という新たなメディアを創出した。 さらにアドバルーンは社会的な場面でも活用された。二・二六事件では「勅命下る軍旗に手向かふな」と書かれたアドバルーンが掲げられ、ラジオ放送などと連動するクロスメディア的手法で反乱部隊に投降を促した。広告が社会の安定に関わるコミュニケーション手段として用いられた歴史的な事例である。 都市が広告を必要とした通天閣の再建 都市の形成と広告の関係を語るうえで欠かせないのが、大阪・新世界に建つ通天閣である。初代通天閣とルナパークは、多数の広告掲出により運営収入を補っていた。しかし戦災で塔が失われ、再建にあたり地元商店街は資金不足に直面した。 当初は松下幸之助(パナソニック)をはじめとする関西企業に支援を依頼したものの、各社の経営事情もあり出資が得られなかった。そこに乗り出したのが関東の企業、日立製作所である。日立は Kansai でのプレゼンス向上を狙い、通天閣の広告掲出に協力し、資金不足を補った。こうした経緯から、現在も通天閣には日立の広告が掲示されており、都市の象徴的風景として定着している。 広告は都市の持続性を支え、街の風景を形成する「社会インフラ」として機能してきたことが、この事例からは明らかである。 広告の“暴力性”を社会問題へ向ける-ベネトンが示した公共的役割 高広氏は広告の持つ“暴力性”に言及した。暴力性とは、望むと望まざるに関わらず、人々が広告を“見てしまう”という強制力のことである。氏が紹介したのは、ベネトンのアートディレクターで知られるオリビエーロ・トスカーニの広告キャンペーンだ。 同キャンペーンでは、人種差別や宗教対立、戦争、エイズ差別などの社会課題が生々しく表現された。特に印象的だったのは、ボスニア紛争で亡くなった兵士の血染めの軍服を撮影した写真である。ほかにも、異なる人種が一つの手錠でつながれた写真、宗教の象徴が刻まれた墓標列、エイズ患者を家族が看取る姿などが提示された。 これらは特定の商品を売るための広告ではなく、広告の“強制力”を社会問題の可視化に用いたものである。高広氏は「広告の暴力性を逆手に取り、公共の議論のきっかけを生み出した」と述べ、広告が文化的対話をつくり得るメディアであることを示した。 テクノロジーの過剰適応が「人間」を消す─アドテクが奪った広告の意味 講演後半では、アドテクがもたらす“効率化の影”について議論が移った。高広氏は「テクノロジーそのものが問題なのではなく、過剰依存が広告の意味を弱めている」と指摘する。 アドテク環境では、配信効率・クリック率・CV率といった測定可能な指標が広告価値を支配する。しかし、これらの指標では広告が社会に与える文化的・公共的インパクトは測れない。広告が歴史的に果たしてきた多面的価値は、現代の KPI 主義の中では切り落とされてしまっている。 さらに高広氏は、AI の発展によってマーケティングの主体が「人間」から「システム」へ移動している状況に言及した。ユーザーの行動はデータとなり、アルゴリズムはそのデータから配信を最適化する。人間はマーケティングプロセスにおいて“入力データ”として扱われ、広告は“システムが最適化する対象”になりつつある。広告における“人間の創造性”が後退しつつある兆候である。 「広告が好きな人」が減っている-文化の循環を取り戻すために 質疑応答では、広告を文化として支えてきた「広告が好きな人」の減少が最大の問題として語られた。高広氏は、大学広告研究会の活動が弱まり、広告そのものを楽しむ若者が減っている現状に強い危機感を示した。 その背景にあるのが、かつてのインタラクティブなデジタル表現の喪失である。Flash 全盛期のウェブでは、ユーザーの操作に応じて予期せぬ反応が返ってくる「触れる広告体験」が存在した。しかし、スティーブ・ジョブズによる Flash 排除 と iPhone 化によるスマートフォン環境への移行によって、こうした文化は急速に衰退した。現在のデジタル広告はテレビ的な一方向性が強まり、「いじる面白さ」が消えている。 高広氏は、デジタルだからこそ可能なクリエイティビティを回復させることが、広告の人間性を取り戻す鍵になると語った。広告に触れて「面白い」と感じられる体験が増えるほど、広告をつくる人・愛する人は自然と育つ。広告文化の未来は、こうした“好き”の再生産にかかっている。 広告は歴史的に、商いの仕組みを変え、都市を支え、社会に問いを投げかけてきた多面的な装置だった。アドテクの効率化が進む今こそ、その豊かさを再評価する必要がある。広告を未来へつなげるのは「広告を面白いと感じる人」の存在であり、その感性をどう再生産するかが問われている。
インターネット広告に「規制」は必要か否か。-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
「インターネット広告に『規制』は必要か否か。」と題した本セッションでは、UNICORN株式会社 代表取締役社長 山田 翔氏と、モデレーターを務めたExchangeWire JAPAN 副編集長 柏 海が登壇した。山田氏は、近年顕在化する性的広告問題、なりすまし・詐欺広告、過剰な広告枠、偽情報・誤情報など、オープンインターネット広告を取り巻く課題を、関連省庁の動きや業界構造とともに整理し、「規制」をテーマに本来あるべき広告環境の姿を提示した。 セッション登壇者 UNICORN株式会社/代表取締役社長/山田 翔 氏 ExchangeWire JAPAN/副編集長/柏 海 ユーザーから嫌われる広告環境の顕在化と、規制議論の前提 山田氏は冒頭、昨年のATS Tokyo 2024で自身が提示した「インターネット広告の99%は見られておらず、広告がユーザーに嫌われる存在になっている」という問題提起を振り返りながら、この一年で状況がさらに悪化し、これらが単なる業界課題に留まらず、社会問題の段階に入ったとの認識を示した。 とりわけ重要な変化として山田氏が強調したのは、関連省庁の動きの加速である。こども家庭庁、総務省、経済産業省、警察庁、金融庁など、異なる問題を扱う複数の省庁が、それぞれの所管領域で調査・対策を進めている。インターネット広告を統括する法律が存在しないなか、インターネット広告に関する社会的問題への関心の高まりが、行政のアクションを促している構造が浮き彫りになった。 こうした文脈を踏まえつつ、山田氏は「インターネット広告に『規制』は必要か否か」というテーマに切り込んでいく。 また、「多くの広告事業者にとって“規制”はネガティブな印象が強いのではないか」という仮説を持っていたが、会場内に設置されたUNICORNのブースで来場者に、「インターネット広告に『規制』は必要か否か」を問いかけ、「規制は必要」「規制は不要」の2種類のクッキーを配布したところ、「規制が必要」と書かれたクッキーを手に取る参加者が多数だったというエピソードを紹介し、広告業界内での問題意識は確実に高まっていることを共有した。 山田氏は「最大のリスクは短期的な収益減ではなく、インターネット広告自体がユーザーに拒絶されること」と位置付け、広告基盤への信頼低下こそが、中長期的な最大の脅威であると述べた。 リアル空間との比較で浮かび上がる“無規制状態”と、基準づくりの必要性 「規制」という言葉を議論する際に山田氏が示したのは、リアル空間とインターネット空間の対比である。プレゼンの中では、一日26万人以上が通行する巨大公共空間として、渋谷スクランブル交差点を例に、リアル空間における規制について次のように紹介した。 広告物を設置する場合の基本的な許可基準:東京都屋外広告物条例 ※景観の保護、公衆への危害防止、美観維持などが目的。 良好な景観形成のための届出や事前協議のルール:渋谷区景観計画・景観条例 ※広告物のデザインや設置場所もこれらの計画の影響を受ける。 交通の妨げになる場所への設置:道路交通法に基づく規制 ※道路上や交通の妨げになる場所への設置、または運転者の注意をそらすような広告は規制される。 リアル空間では、広告が公共物として扱われ、設置場所・デザイン・安全性などが厳しくコントロールされている。一方で、月間で数百万人のユーザーが訪れる大規模インターネットメディアでは、リアル空間のような厳しい事前審査や設置基準は存在しない。 結果としてインターネットでは、リアルと同等の巨大な“公共空間”であるにもかかわらず、広告の品質や安全性が事業者単位の判断に委ねられたままになっている。 更に、山田氏は総務省が取りまとめた「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を引用し、デジタル広告は流通経路が複雑で、悪意ある主体が紛れ込みやすいことを取り上げた。また、掲載先が無数に存在し、ユーザーごとに異なる広告が出るため、広告主自身も「どこに広告が出ているか」を把握しにくいという特性がある。この複雑性が、性的広告や詐欺広告などの問題の温床になっていると山田氏は述べた。 こうした背景を踏まえ、山田氏は「規制(ルール)を持つことで、各プレイヤーの便益を公平化し、ユーザーに拒絶されない広告環境に近づく」と述べ、規制を“制約”ではなく“環境設計の基盤”と位置づけた。 山田氏が示した規制の分類は3つである。 国による法規制 国と業界団体の連携による共同規制 業界団体等による自主規制 プレゼンでは、広告品質向上・透明性確保に関わる複数団体の取り組みが一覧化され、現行の自主規制がカバーしきれていない領域の存在も示された。山田氏は、法規制だけでなく、業界自身による自主的な基準づくりこそが、問題解決への第一歩になるとの見解を示し、「どこから手をつけるべきか」を次の論点として提示した。 広告事業者から基準を引き上げるというアプローチと、来年以降の展望 広告主・広告事業者・広告媒体、と複数のプレイヤーにまたがるなか、山田氏は「広告事業者(DSPなど)がまず基準を引き上げるべき」と述べた。その理由としては「広告主と媒体を接続する“ゲートウェイ”の役割を担っている」「クリエイティブ選定や媒体選定に大きな影響力を持つ」という構造的条件にある。 UNICORNでは既に、 性的・過激・詐欺性のある広告を収益性に関係なく排除 ユーザー体験を阻害する広告枠への非配信 クオリティが保たれない媒体への非配信 といった基準を独自に設定したうえで、広告事業の運営を行ってきていると話す。また、山田氏は「基準を上げても事業は成立し、むしろ質の高い広告主と媒体が結びつくことで成長できている」と成果を述べ、業界全体がこれらの基準を共有すれば、悪質な事業者が排除され、結果的に健全な広告取引が循環するとの見方を示した。 その一方で、企業単独の努力ではインターネット広告の流通構造そのものを変えるには限界があるため、業界団体や技術団体と連携して共通基準をつくる必要性を強調した。 まずは広告事業者の基準を引き上げたうえで、次第に大手広告主の予算は認定広告事業者に流れ、最終的には広告媒体も認定広告事業者との取引が中心になる。その結果として、問題のない広告空間が形成され、ユーザー体験を損なわない広告環境が成立するとした。 質疑応答では、ExchangeWireJAPAN編集部から「今年、省庁との意見交換を行った背景」や「規制テーマを選んだ理由」について質問が寄せられた。山田氏は、現状の深刻度の高まりと、業界として放置できない課題であること、そして「日本の広告業界が団結して動くタイミングに差し掛かっている」との認識を語った。 来年以降については、こうした取り組みをさらに加速させ、「ユーザーにとっても出会いのある広告」を実現するための活動を続けると述べた。 最後に山田氏は、「最初に動き出した企業にとっては不利益に見えるが、それは未来のインターネット広告への投資となる」と語り、セッションを締めくくった。
AIが再定義する広告の価値とアテンション-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
2025年11月21日に開催された「ATS Tokyo 2025」では、「AIが切り拓く広告の未来」と題したパネルディスカッションが行われた。登壇したのは、OpenX Japan カントリーマネージャーの目黒圭祐氏、Uber & Uber Eats Director of Marketing, Japan & Korea の Alison Doube氏、WPP Head of Integrated Creative の Soumya Bardhan氏、CNN International Commercial Sales Director, Japan の長屋海咲氏の4名である。モデレーターは ExchangeWire JAPAN 共同編集長の長野雅俊が務めた。 広告主、広告代理店、パブリッシャー、テクノロジーベンダーというデジタル広告サプライチェーンを象徴する4者が一堂に会し、生成AIを中心としたAI活用がクリエイティブやメディアバイイング、組織変革、そして日本市場とグローバルのギャップにどう影響しているのかを、具体的な事例とともに語り合ったセッションである。 セッション登壇者 OpenX/カントリーマネージャー/目黒 圭祐氏 Uber & Uber Eats/Director of Marketing, Japan [...]
【2月7日開催】次世代ジャーナリズム・メディア研究所「デジタル時代に求められるニュース・メディアの透明性」—信頼性あるニュースを支えるエコシステムを考える—
早稲田大学 総合研究機構次世代ジャーナリズム・メディア研究所と慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所は、2026年2月7日(土)13時より、慶應義塾大学三田キャンパス北館ホールにて、シンポジウム「デジタル時代に求められるニュース・メディアの透明性 —信頼性あるニュースを支えるエコシステムを考える—」を開催する。 本シンポジウムでは、デジタル時代のニュース・メディアにおける透明性(Transparency)をキーワードに、信頼できる情報環境と広告・アドテクノロジーの関係性を問い直し、持続可能なニュース・メディアのあり方について議論を行う。 第二部「メディアの透明性とデジタル広告」のパネルディスカッションにはUNICORN株式会社 代表取締役の山田翔氏、TBS報道局編集主幹の萩原豊氏らが登壇予定となる。 ■プログラム(予定) 第一部:調査報告(13:00〜13:50) 開会挨拶:田中幹人(早稲田大学 教授/次世代ジャーナリズム・メディア研究所 所長) 調査報告:日本のニュースメディアにおける透明性の現状報告 登壇者:永井健太郎(招聘研究員/東京通信大学) 第二部:メディアの透明性とデジタル広告(14:00〜15:20) 「デジタル広告と民主主義(仮)」 講演:水谷瑛嗣郎(慶應義塾大学 メディア・コミュニケーション研究所) パネルディスカッション モデレーター:水谷瑛嗣郎 パネリスト:山田翔(UNICORN株式会社 代表取締役)、萩原豊(TBS報道局 編集主幹)ほか広告・報道実務者 閉会挨拶:烏谷昌幸(慶應義塾大学 教授) ※登壇者・プログラムは変更になる可能性あり。 ■開催概要 日時:2026年2月7日(土)13:00〜15:30 会場:慶應義塾大学 三田キャンパス 北館ホール 対象:一般 言語:日本語 参加費:無料 主催:慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所、早稲田大学総合研究機構 次世代ジャーナリズム・メディア研究所 申込締切:2026年2月6日(金) 申込フォーム:https://forms.gle/RsBKHdwY4hLkVTWn9 ■お問い合わせ k.nagai4[at]kurenai.waseda.jp ※お手数ですが、[at]を@におきかえて入力ください。
電通デジタル × Silverpushが読み解く2026年に向けたYouTube広告の進化──“文脈”と“モーメント”がもたらす新たな設計視点[インタビュー]
圧倒的なリーチ力と、動画ならではの表現力を備えたYouTube広告は、2026年に向けてさらなる進化のフェーズに入ろうとしている。標準的な配信手法や自動最適化が担ってきた役割を前提としつつ、近年注目されているのが「どのような文脈(コンテキスト)やモーメントで広告に接触するか」という視点だ。 ここで言うコンテキストとは、単なる動画ジャンルやキーワードではなく、視聴されているコンテンツの内容や視聴意図を含めた“文脈”そのものを指す。本記事では、電通デジタルとSilverpushによる実際の取り組みを通じて、YouTube広告におけるコンテクスチュアルターゲティングの活用可能性を探る。 (Sponsored by Silverpush) YouTube広告に求められる視点の変化──「量」から「文脈」へ ―自己紹介をお願いします。 後藤氏:電通デジタルの後藤百香と申します。新卒で入社以来、外資系企業のデジタルマーケティング戦略を担当してきました。2025年からは、国内外のメディアプラットフォーム各社様との戦略的提携を推進する業務も兼任しています。 中野氏:Silverpushのカントリーマネージャーを務める中野済です。複数の外資系広告ソリューション企業で日本ビジネスの責任者を務めるなど、動画広告を中心にデジタル広告業界には約20年にわたり従事してきました。 山下氏:シニアセールスディレクターの山下祐治と申します。国内及び外資系の広告会社やDSPとSSPで経験を積んできました。 ―YouTube広告の活用状況についてお聞かせください。 後藤氏: 日本国内では、多くの広告主様がYouTube広告を活用しており、標準的なターゲティングや自動最適化を含めた運用はすでに広く定着しています。その一方で近年、「どのような文脈で広告が視聴されているか」「ブランドとしてよりふさわしい環境で接触できているか」といった点にも、徐々に関心が向けられるようになってきました。 電通デジタル Dentsu Digital Global Center, Digital Planner, 後藤 百香 氏 コンテクスチュアルターゲティングは、既存の配信手法を置き換えるものではなく、こうした視点を踏まえ、特定の目的やKPIに応じて粒度細かく活用できる補完的なアプローチだと捉えています。2025年に入ってから、私自身もその可能性を検証する機会が増えてきました。 中野氏:日本以外の市場においても、欧米やアジアを含め、従来の配信手法をベースとしながら視聴されているコンテンツの文脈やモーメントを意識した設計が広がっています。 Silverpushでは、グローバル市場においてこれまで10,000件以上のYouTubeにおけるコンテキスト配信に携わってきました。日本市場においても、目的やKPIに応じた活用が今後さらに広がっていくと見ています。 明確だが幅のあるターゲットをどう設計するか ―活用のきっかけを教えてください。 後藤氏:「中小企業の経営者」という、明確でありながらも幅のあるターゲットを想定したキャンペーンを担当した際に、より精度高くリーチする手法の一つとして有効ではないかと考えたのがきっかけです。本キャンペーンでは、「意思決定権を持つ層に、適切なタイミングで届けられているか」をKPI設計の軸に据えました。 一般論として、ターゲットが明確になるほど、広告プラットフォーム上では一定程度抽象化された形で扱われることが多くなります。YouTubeの標準的なターゲティングや自動最適化は非常に有効ですが、特定の文脈により近づけたい場合には、配信設計の段階で追加の工夫が求められるケースもあります。 ―YouTubeの通常配信の配信でのターゲティングはどのように指定していたのでしょうか。 後藤氏:例えば「中小企業」や「確定申告」といったキーワード設定があります。これにより関連性の高いコンテンツへの配信が期待できます。一方で、YouTube広告の自動最適化はKPI達成のために配信対象を柔軟に広げる特性もあるため、結果として多様なジャンルの動画に広告が表示されるケースも見られました。 また、チャンネル単位で配信先を指定することも可能ですが、目的に合致したチャンネルを網羅的に抽出し、かつ安定した配信量を確保するのは運用負荷の観点から人手では限界があります。そこで今回は、既存手法を前提としながら、別の視点からのアプローチを検討しました。 ―そこでコンテクスチュアルターゲティングを活用したのですね。 後藤氏:まず中小企業経営者を業種、従業員規模、意思決定プロセスなどの観点から複数のペルソナに分解しました。そのうえで、情報接触シーンや意思決定タイミングを想定し、視聴コンテンツの傾向まで落とし込みました。この設計をSilverpush様と連携し、具体的なコンテキストリストに変換しています。 山下氏:ブリーフィング内容をもとに、複数の社内ソリューションを活用し、目的に応じた独自設計のコンテキストリストを抽出しています。これにより、YouTube広告において戦略的なコンテクスチュアルターゲティングが可能になります。 Silverpush シニアセールスディレクター 山下 祐治 氏 配信面とブランドの親和性から「モーメント」を捉える ―今回の取り組みで得られた気づきは何ですか。 後藤氏:主に「配信面の質」と「動画単位でのブランド適合性の把握」という2つの点で新たな気づきがありました。 YouTube広告では、管理画面上で不適切な配信面を除外する機能が用意されており、ブランドセーフティを確保するための基本的な仕組みが整っています。そのうえで今回は、確定申告を解説する動画など、テーマ性の高い文脈を意識した配信を行いました。結果として、ブランド適合性の高いコンテンツ環境において、「まさにその情報に触れているタイミング」で広告に接触してもらえる設計が実現できたと感じています。 また、動画単位で配信状況を可視化できた点も印象的でした。ペルソナごとに配信面、インプレッション、完全視聴率を整理することで反応の違いをより具体的に把握でき、今後の設計にも活かせる示唆が得られたと考えています。 コンテキスト配信を支える運用と調整のあり方 ―コンテキストリストはSilverpushが抽出するとのことですが、広告配信が開始されてからはどのような役割を担ったのでしょうか。 後藤氏:コンテキスト配信の運用および最適化については、当社の運用方針のもと、専門的な領域を中心にSilverpush様にご支援いただきながら進めました。 広告運用の現場においては、速報値レポートの作成や広告予算の増減または動画の秒数の変更といったことにも対応しなければなりません。こうした作業に時間を要する場合も多々あるのですが、Silverpush様には本当に迅速に対応していただきました。 また単なる数値報告に留まらず、「どの変数をどう調整すべきか」まで踏み込んだ密なコミュニケーションがあったことで、品質の高いコンテキスト配信を実現できました。 山下氏:ご予算を増額いただいたことに伴い、広告在庫を増やす必要が生じた際などに電通デジタル様と別途ご相談させていただきました。具体的には、ペルソナ設計に基づくコンテキストの中でも「アウトドア」関連が数値面で良好だったため、成果が見込める領域として「アウトドアスポーツ」まで対象を広げ、関連動画の配信機会を増やす調整を行いました。 ―PDCAを回す中でどのようにキャンペーン全体の施策を最適化されたのでしょうか。 後藤氏:キャンペーンの初期段階では複数の配信手法を併用しながら特性を把握し、その後、文脈との親和性や視聴態度の面で手応えを感じられたコンテクスチュアル配信を中心に設計を見直しました。KPIも検証結果に応じてリーチから完全視聴関連指標へ移行するなど段階的に調整し、目的に即した評価と改善が行えたと考えています。 配信結果をどう読み解くか──QCPMという補助的な評価視点 ―キャンペーンを振り返る中で、どのような視点が得られましたか。 後藤氏:今回のキャンペーンでは、KPI自体はリーチや完全視聴率など、一般的な指標を用いて運用していました。一方で、キャンペーン終了後に結果を振り返る中で、「広告が想定した文脈やターゲット環境にどの程度沿って配信されていたのか」に加えて、コンテキスト配信を行った際の配信単価や配信効率についても、もう一段整理してレビューできないかと考えました。 そこでご紹介いただいたのが、QCPM(Qualified CPM)という考え方です。 中野氏:QCPMは、ブランド適合性を踏まえたCPMの考え方に近い指標です。 弊社では、広告キャンペーンの投下予算に対して、文脈やターゲット、ペルソナとの親和性を満たした配信面でのインプレッションのみを対象に算出したCPMを、QCPMと定義しています。 つまり、規定したコンテキストに沿って、どれだけ効率的に関連性のあるプレースメントへ配信できていたかを振り返るための指標として活用できます。 Silverpush カントリーマネージャー 中野 済 氏 後藤氏:この指標を用いることで、配信効率をコスト面からも整理し、結果をより納得感のある形で振り返ることができました。 また、QCPMは既存のKPIや運用指標を置き換えるものではなく、従来の指標による評価を補完するかたちで活用できる考え方だと捉えています。 文脈とモーメントから考える、YouTube広告の次の設計 ―今回の実績を踏まえた次の展開をどのように思い描いていますか。 後藤氏:YouTube広告におけるコンテクスチュアルターゲティングは、実際に活用した経験のある広告主様がまだ限られている印象があります。だからこそ、まずは小さく試してみることで、その考え方や可能性を実感していただけるのではないかと思います。私自身も、実際に取り組むことで設計の幅が大きく広がりました。一度取り入れてみるだけでも、これまでとは異なる視点で配信設計を考えられるようになるはずです。 今後は、よりボリュームのあるターゲティングにおいても、モーメントごとの配信設計に取り組んでみたいと考えています。検討フェーズや関心度に応じた表現の出し分けを考える際、コンテクスチュアルターゲティングは有効な選択肢の一つになると思います。 中野氏:比較・検討段階にあるユーザーと、より潜在的な関心段階にあるユーザーとでは、接触しているコンテンツの文脈は異なります。例えば、車の購入においては、中古車レビューの動画は購入検討層との接点になりやすく、ライフスタイルや日常シーンを扱った動画は、将来的な検討につながる潜在層との接点になり得ます。 動画レベルで文脈を捉えることで、関心度に応じた配信設計が可能になり、設計の幅を柔軟に広げることができます。 2026年に向けて日本市場でも、「どのような文脈・モーメントで広告に接触しているか」を意識した設計が、YouTube広告戦略の一部として徐々に定着していくと考えています。
「質」を問い直す広告投資-“終焉”か“復活”かを決めるのは誰か-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
「メディアの終焉」か「復活」か〜広告主の投資先はどこに向かうのか〜」と題した本セッションには、パーソルテンプスタッフ株式会社 執行役員CMO 友澤 大輔氏、 小林製薬株式会社 新規事業準備室 兼 広告販促部 戦略スタッフ 大槻 開氏が登壇し、ExchangeWire JAPAN 編集記者 町田 貢輝がモデレーターを務めた。 広告主サイドの現場感を起点に、コスト効率指標偏重がもたらしたメディアエコシステムの歪み、リーチの「質」をどう測るか、そして広告主が求めるパートナーシップのあり方まで、両氏は自身の経験を交えながら議論を展開した。ウォールドガーデンへの投資集中は意図ではなく構造的必然であるとし、そのうえで“次の選択”をどう拓くか-広告主が直面するリアルが語られた。 セッション登壇者 パーソルテンプスタッフ株式会社/執行役員CMO/友澤 大輔 氏 小林製薬株式会社/新規事業準備室 兼 広告販促部 戦略スタッフ/大槻 開 氏 ExchangeWire JAPAN/編集記者/町田 貢輝(モデレーター) リーチの「量」と「質」が乖離する現場-広告主が抱える根本的課題 本セッションの冒頭、両氏は広告投資の現状を語るにあたり、まず「リーチ」概念の揺らぎに触れた。大槻氏は、P&G 在籍時の経験として、同社が長年「REE(Reach Effectiveness Efficiency※1)」を中核に置く独自の合理的メディア運用を徹底してきた点を紹介した。特に「コスト・パー・リーチ」を最適化する文化は強固で、テレビや TVer など確実性の高い手法が選択されやすい構造にあると説明する。 一方、同じ P&G 内でも一部ブランドでは“Not all reaches are equal”の考えを掲げ、「効果」を独自指標として設定していたという。ターゲットの文脈や意図、ストーリーテリングまで含めて価値を定義し直すアプローチであり、「リーチは量だけでは語れない」という視点も存在していた。 しかし、日用品や化粧品メーカーでは、多様な商品群を抱えるため、社内説明の難易度は高く、「ブランドにとって本当に価値のあるリーチとは何か」を噛み砕いて共有することが容易ではないと語る。結果として、効率性の高い手法へ投資が集中するが、それが最適とは限らないという葛藤を抱えている。 友澤氏も同調し、広告主の視点から「CPAやROIを追いすぎた結果、広告品質が毀損し、メディアのエコシステム自体を弱らせた可能性がある」と指摘した。「可視化できるから割り算して安くする」という文化が強まりすぎたことが、リターゲティングの濫用や、メディア面の価値下落につながったという実感を示した。 また、AI生成コンテンツの急増やタッチポイントの細分化によって、従来以上にリーチ最大化と成果最大化を同時に追う難易度が高まっていると述べ、「量」と「質」を両立するメディアプランニングの複雑化を現場の課題として整理した。 ※1 REE(Reach Effectiveness Efficiency) Reach(リーチ):「どれだけ多くの異なる人々に情報が届いたか」を示す指標。 Effectiveness(エフェクティブネス):「設定した目標に対して、どれだけ効果があったか」を測る指標。 Efficiency(エフィシエンシー):「投入したコストやリソースに対して、どれだけ無駄なく成果を上げられたか」を測る指標。 ウォールドガーデン偏重は“意図”ではなく“構造”-広告主を縛る条件とは何か 議論は次第に「なぜウォールドガーデンが選ばれ続けるのか」という核心へ移った。 大槻氏はまず、「ウォールドガーデンへの偏りは“意図”ではなく“組織構造上の現実”」と強調する。新しい媒体や手法を試す際、企業内での説明負荷が大きく、成功事例の有無が判断に大きく影響するという。中間管理職を含む社内関係者の合意形成には「コスト・パー・リーチ」のような明快な指標が求められ、未知のメディアに投資するには説得材料が不足しがちである。 さらに、ウォールドガーデン自体も進化を続けており、AIを活用した運用機能拡張が加速する中、日々アップデートされる仕様へのキャッチアップだけで担当者は手一杯になってしまうと語った。視野が狭くなる構造的リスクを認識しつつも、「実務の観点で最も手堅い選択肢として残り続ける」という現場の実情がある。 友澤氏もこれに呼応し、「限られたリソースで効果を最大化するため結果的にウォールドガーデン中心になる」と述べた。検索・バナー広告・SNSなど、少人数のチームでも扱いやすく、運用最適化が効く手法が優先されるためである。特にP-MAX(パフォーマンス マックス)※2のような統合型プロダクトは、短期的成果を確保する上で不可欠になっている。 一方で、友澤氏は「現在はCPCが高騰し、同じ市場に広告主が集中するほど単価が上昇する構造が加速している」と指摘。新規顧客獲得の限界が露呈しており、「ファーストペンギンとして新しいメディアを開拓しない限り、長期的なリーチ確保は難しくなる」との危機感を共有した。 また、大槻氏はブランド文脈に応じメディアが広がる例として、ヘアケアブランドの社会事化をテーマにしたキャンペーンについて触れた。新聞・ニュース媒体・SNS など複数 [...]
生成AI時代の広告運用最前線-人の役割は本当に不要になるのか?-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
ATS Tokyo 2025 にて「AI広告運用の真実〜本当に人は不要になるのか?〜」と題したセッションに登壇したのは、株式会社電通デジタル CAIO / 執行役員 山本 覚氏。生成AI・AIエージェント・フィジカルAIが広告およびマーケティング業務に与える構造変化を、最新のユースケースとともに紹介した。 セッション登壇者 株式会社電通デジタル/CAIO(Chief AI Officer) 兼 執行役員/山本 覚 氏 ExchangeWire JAPAN 編集部員/角田 知香 生成AIが標準装備化した広告制作 山本氏は冒頭、2022 年の ChatGPT 登場以降、生成 AI のマルチモーダル化が急速に進んだ背景を振り返った。画像生成、動画生成、音声生成など各技術が揃い、2025 年には自律的なタスク処理が可能なAIエージェントが台頭したことで、広告運用プロセス全体に大きな影響がもたらされていると説明した。 広告制作領域では、生成 AI が「クリエイティブ制作・効果予測・改善提案」を一気通貫で担えるようになり、静止画バナーや動画の自動生成は特別な技術ではなくなった。山本氏が紹介した複数のバナー例はいずれも AI のみで生成されたもので、テンプレート化されたプロンプトやブランド特性を踏まえた指示により、多様なクリエイティブを短時間で量産可能な環境が整っている。 しかし AI の生成が高度化するほど、クリエイター側のアートディレクションやプロンプト設計の重要性はむしろ高まるという。山本氏は「AI が当たり前に生成できる“手前”で、どの要素をどう指定するかが差異を生む」と述べ、表現意図を適切に構造化し、指示する役割が重要であると語った。 動画生成についても、背景除去・合成・アニメーション処理などが自動化され、従来のように複数のツールを横断する負担が解消されつつある。特に Sora 2 や Luma AI などの API が公開されたことで、高精度動画がプロンプトのみで生成できるようになり、静止画広告と比較してインプレッションやコンバージョンが大幅に向上した事例が紹介された。生成 [...]
商品がメディアになる日-セブン-イレブン×八代目儀兵衛が示すリテールメディアの力-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
本セッション「商品がメディアになる日。—リテールメディアが変えるブランド体験の新常識」では、株式会社セブン-イレブン・ジャパン 新規事業推進室 総括マネジャー 杉浦 克樹氏、株式会社八代目儀兵衛 取締役CMO 神徳 昭裕氏が登壇し、モデレーターは ExchangeWire JAPAN 副編集長 柏 海 が務めた。 セッションでは、セブン‐イレブンの商品における「ライスイノベーションプロジェクト」の一環として八代目儀兵衛の知見、商品パッケージを含むリアル店舗におけるリテールメディアの構造変化、店頭起点でのブランド体験拡張、さらにセブンカフェを活用した広告検証事例などをもとに、商品・店舗・空間をメディアとして再定義する取り組みが議論された。 セッション登壇者 株式会社セブン-イレブン・ジャパン/新規事業推進室/総括マネジャー/杉浦 克樹氏 株式会社八代目儀兵衛/取締役CMO/神徳 昭裕氏 ExchangeWire JAPAN 副編集長/柏 海(モデレーター) リアル店舗をメディア化するための「課題」と「可能性」 杉浦氏は全国展開されているセブン‐イレブンにおける、リテールメディアの特徴として、2,700万IDのアプリ会員基盤と全国約2万1,800店(※)の店舗網という構造を挙げた。アプリを中心とした1stパーティデータ基盤によって、購買履歴に基づく1to1コミュニケーションが可能になっている一方、課題としてセブン‐イレブン店舗以外における購買前後の行動を捉えきれない点を指摘した。 (※25年11月末時点) アプリではIDベースで購買が追えるものの、店頭サイネージなどの店舗メディアから来店者の行動が個別でどう変化したか、あるいはセブン‐イレブン店舗以外での購買にどのような影響を与えたかを把握することは難しい。 八代目儀兵衛は、通販・飲食・業務卸・中食という多角的展開を基盤に、他社ブランドの米品質向上を支援するソリューション事業も展開していた。そのなか、神徳氏は八代目儀兵衛が抱えていた課題として「お米離れが進む中で、お米の価値をどのように再定義できるか」としたうえで、全国的なブランド認知を高める手段を持ちにくいことが課題であると取り上げた。 「ライスイノベーションプロジェクト」が示した商品メディア化の実例 セブン‐イレブンの商品開発における「ライスイノベーションプロジェクト」の一環として、2022年から八代目儀兵衛の知見を加え取り組んで来た。 本取り組みの背景には、コロナ禍で専門店の台頭や家庭内調理の増加により、コンビニおにぎりの需要が低下したことがあった。また、産地銘柄ごとに品質が揺らぎやすく、安定したおいしさの維持が難しいという構造課題もあった。 八代目儀兵衛は、約70種類の米から最適な品種を選定する「低温精米」、「目利き」、「ブレンド」の取り組みを実施。約1年半の開発を経て、2023年3月21日にセブン‐イレブンで八代目儀兵衛ごはん監修のおにぎりが全国発売となった。 神徳氏は、「事前に想定をしていた以上に、発売後味への評価が大きく広がった」と語り、セブン‐イレブンでは 販売数が前月比10%増といった成果が見られた。1日あたり500万個規模で販売されるおにぎりカテゴリーでの10%増は、全店への波及効果も含めて大きい数値である。また、八代目儀兵衛自身のブランドにも波及し、企業認知率が半年で12%→60%超へ上昇、通販の年間売上も大きく増加した。神徳氏はこれも「想定外の効果」だったと振り返っている。 さらに、商品パッケージをめぐる変化がブランド認知にどのように影響したかが紹介された。海苔なしおにぎりのパッケージが変化する過程で「監修が終了したのではないか」と誤認されるケースも発生したが、後発の「手巻きおにぎり」が定着して以降は認知も安定し、商品そのものがメディアとして引き続き機能するようになった。 セブンカフェでの広告検証が示した「行動変容可視化」の可能性 セッションの後半では、セブン‐イレブンがテスト運用を進める セブンカフェマシン広告の事例が紹介された。 セブン‐イレブンではカップをセットすると挽きたてのコーヒーをすぐ飲むことが出来るカフェマシンを全国に設置し、広く知られている。カフェマシンに取り付けられたディスプレイでは、抽出時(約60秒)の待ち時間に動画を流し、広告メディアとしての機能も果たしている。カフェマシンは多くのお客様にご利用いただいているため、約153万人が視聴するメディアとなる。 このカフェマシンのディスプレイを利用し、セブン‐イレブンでは自社商品の「しっとりフィナンシェ」を広告として配信。その結果、広告配信期間中に、トライアル率:166%、併買率:173%と大幅に上昇するなど、レジ会計後に広告を閲覧してから商品を購入する行動が起きた可能性や、後日に別店舗で購入した可能性など、即時購買に限らない効果が上がったことが示唆された。 さらに、広告配信終了後においては、フィナンシェの販売数が前年同週比で120%前後を維持するなど、「残存効果」も確認されている。杉浦氏は、この事例を通じて「リテールメディアの効果や評価軸は購買直後に限定されず、ブランドへの認知や中長期の行動変容にも広がりうるだろう」と述べた。 最後に両者は、リテールメディアの今後についてそれぞれ見解を述べた。 杉浦氏は、購買データとリーチ効果の両立を深化させるため、小売横断のメディア連携や共通の計測手法の構築が重要であると強調した。すでに小売企業間でもメジャメント(広告効果の指標)整備を進める動きがあることにも触れ、広告主が利用しやすい共通基盤をつくることが次の課題であると語った。 神徳氏は、米価が高騰する中で「今はお米の価値を見直す機会」が訪れているとした。自社単独での大規模投資には課題が残っている一方、セブン‐イレブンのような全国チェーン店とも協働していくことで、八代目儀兵衛の技術・ノウハウをブランドとして認知させる取り組みをさらに磨いていくと述べた。
新世代のシゴト観-統合ソリューションとグローバル協働の現場で見つけた、成長のかたち[インタビュー]
グローバルブランドの日本市場展開を支援しながら、社内外の垣根を越えて新たな広告ソリューションを推進する若手マーケターがいる。 株式会社電通ジャパン・インターナショナルブランズ Manager 兼 Integrated Solutions Office Solution Development Supervisor の須藤梓氏だ。 デジタル専業代理店からキャリアをスタートさせた須藤氏は、現在、グローバルクライアントのアカウントマネジメントと、次世代ソリューションの開発推進担当として、電通グループのメディア・テクノロジー領域におけるケイパビリティを高める一翼を担っている。 変化の速いデジタル広告業界の最前線で、何を学び、どのように成長を重ねてきたのか。自身の経験を通じて見つめるキャリア形成と、業界の未来への視座を聞いた。 キャリアの原点——デジタル専業から統合型エージェンシーへ 学生時代には広告研究会に入っていたという「広告好き」の須藤氏が、広告業界に足を踏み入れたのは新卒時。最初に所属したのはデジタル専業の代理店であった。 運用型広告のプランニングやパフォーマンス改善に約5年間携わり、デジタル領域における基礎スキルを徹底的に磨いた。また、若くしてチームマネジメントを経験する機会も得られたという。 「購買に直結する広告効果を日々検証しながら、デジタル広告の奥深さを学びました。一方で、より認知に響く広告やブランドコミュニケーションにも挑戦し、その相乗効果を生み出せる人財でありたいという思いが強くなったのです」。 そしてより広いマーケティングの視野を求め、2022年にカラ・ジャパン―現在の電通ジャパン・インターナショナルブランズ(DJIB)へ転職。オンオフ統合型のマーケティングに携わる環境で、グローバルクライアントのシニアプランナーとして新たなキャリアをスタートさせた。 「フルファネルでブランドを支援できること、そしてグローバルな視点を持つチームと協働できることに魅力を感じ、勇気を出して参画しました」。 クライアントと向き合う日常——挑戦の中にある“責任”と“喜び” 須藤氏は現在、米国に本社を持つ複数のグローバルブランドを担当し、メディアプランニング設計からキャンペーンの実行、効果測定までを一貫して手掛ける。 「当社では多くのアカウントにおいて、営業とプランナーを分けず、プランナーが一貫してクライアントの最前線に立ちます。責任は大きいですが、その分だけクライアントとの協業範囲も広くやりがいがあります」。 同じアカウントを担当するグローバルチームとの連携も日常的であり、時差を超えたミーティングや資料作成などの連携も欠かせない。業務の多忙さはあるものの、異なるバックグラウンドを持つ同僚と協働することで、日本と海外でのメディアのスタンダードの違いなど、日々新たな発見があるという。 日本のオフィスにおいても、「多国籍なメンバーと働くことも多く、コミュニケーションもオープンでフラットに感じます。刺激的でありながら、とても働きやすい職場です」と語る。 そして、グローバルキャリアの構築には欠かせない英語、とりわけスピーキングは「日々の業務で習得している」とのことだ。無論、クライアント向けの資料作成やメールは英語がベースである。 自身については「意外にタフなんです」と須藤氏。多忙なクライアントにも寄り添ってキャッチアップが出来ることを自負しており、DJIB入社当初から担当している2社のクライアントとの関係もすでに4年に及ぶという。 「クライアントとのコミュニケーションでは、相手の立場を多角的に考えます。クライアントの担当者は、当然対エージェンシーのみではなく、国内外のクライアントの社内チームやステークホルダーにも向き合っていらっしゃいます。 言われたことをそのまま受けとるのではなく、資料1つにしても“この後どのように展開されるか”“誰が意思決定に関わるか”を考えながら、相手が動きやすくなるよう擦り合わせることを意識しています」と、相手との信頼性を構築するための秘訣も教えてくれた。 社内外をつなぐ仕掛け人——“dentsu Japan Digital Day”で広がる知見共有の輪 須藤氏はアカウント業務に加え、DJIB内の「統合ソリューション室」にも所属し、国内外の先進的なソリューションの社内推進や、メディアとのパートナーシップの構築を担っている。 「日本にも素晴らしいソリューションが多いのですが、私たちのチームでは特に、海外で一般化している概念やソリューションを日本市場でも活用できるよう、情報収集やメディア、ベンダーとの協業を進めています。新しい取り組みをローカルに合わせて展開し理解を得る過程は簡単ではありませんが、確かな手応えを感じています」。 「まだ日本にはない新しいソリューションに出会うことに日々ワクワクしている。」と語る須藤氏。だが一方でこれらを日本で普及させるのは、ローカルの特殊事情を考慮する必要などもあり、一筋縄ではいかない。グローバルと日本とでは市場環境や求められるニーズが異なることも、多分にある。 課題解決には多様なステークホルダーとの調整や細やかな確認が欠かせず、タフな仕事だという。直近では、アテンション(Attention)指標のメディア横断実証と普及にも力を注いでいる。 Attention指標について、須藤氏がメディア横断での計測に初めて取り組んだのは2024年のこと。日本独自の媒体では計測タグの受け入れが未対応であることも多く、チームと共に各媒体にヒアリングを進め、完全には媒体横断での計測ができない課題にも直面した。 「こうした状況が改善され、より価値を生む広告運用につながるよう、指標を有効活用できる環境が広がってほしいと思っています。実際、日本でも浸透は進んでいて、2025年にかけて対応媒体が増えている手応えがあります」。 幅広い業務範囲でマルチタスクを次々とこなす須藤氏の活躍を象徴するのは、社内外の知見を結ぶ取り組み「dentsu Japan Digital Day」である。 国内外のメディアパートナーやテクノロジーベンダーと協働し、社員が最新の広告ソリューションやデジタルツールの情報を収集できるように企画された社内向けイベントだそうだ。 「当社の強みは、海外領域も含め蓄積された知見とネットワークです。その情報を社内に発信し、社員一人ひとりが新しいツールや手法を理解・活用できるようにすることが目的です。忙しい業務の中でも、楽しく興味をもってもらえるよう意識して取り組んでいます」 須藤氏はこのプロジェクトの企画・推進リーダーの1人として、メディア各社との調整、登壇者選定、社内広報まで幅広く携わっている。 「初回は試行錯誤の連続でしたが、回を重ねるごとに参加者や社外からの注目も増え、様々な媒体様から『次は自分たちも出展したい』というお声もいただくようになり、半年先まで枠が埋まっているほどです。社内外のつながりが生まれ、想定以上の成果を感じています。」 この取り組みは、DJIBのみならず、電通グループ全体の知見共有を促すと同時に、パートナー企業との新たな協業機会を創出している。 デジタル広告業界への視点——進化を恐れず挑戦を続ける 日系エージェンシーからグローバルエージェンシーに移った経験から、須藤氏は日本市場の課題を肌で感じている。 「グローバルと比べると、日本ではアドテクノロジーやデジタルソリューションの活用度合いにまだ伸びしろがあると感じます。広告主側でも、より質の高い広告に対する関心が今後ますます高まっていくでしょう。」 多様なテクノロジーが登場する中で、何を選び、どう使いこなすかが問われる時代である。 「ツールの進化や手段の多さは素晴らしいことである一方で、わかりづらく混乱を招くこともあり、シンプルなウォールドガーデンメディアの利用に依存してしまう傾向も感じます。Programmaticやアドテクは難しそうという印象で終わってしまうのは勿体ないことですので、広告主様のニーズに1番沿ったものを、これからも根気強くご提案していきたいなと思っています。」 また、業界の急速な進化に対しても、須藤氏は前向きだ。 「様々な媒体様やベンダー様の今後のロードマップをお伺いしたり、開発中の機能を少し見せていただいたりする中で、AIの導入や自動最適化の仕組み、3rd partyツール同士の併用の可能性など、進化のスピードは速く、広告の形はどんどん変わっていきます。新しい仕組みに関心を持ち、早々にチャレンジしていくことができる視点を持つマーケターが、一歩抜けて次のステージを切り開くのではとも感じますので、これからも業界の皆様、広告主様とともに挑戦を重ねていきたいです」 挑戦がキャリアを形づくる——行動から生まれる成長の実感 須藤氏はキャリアの節目ごとに“挑戦すること”を選び取ってきた。今の職場は、オンライン、オフラインと幅広い領域のソリューションの活用ができ、縦割で個々の役割が決まっている組織ではない。 柔軟な組織の中で、幅広い業務に対して、オーナーシップを持って取り組むことにより、1社目で抱いた「次の展望」を、今の環境で実現できている実感があると語る。 「中長期的には、これまで培ってきたグローバルメディアの知見を活かし、日本により広い選択肢を広げていける存在になりたいです。また、海外から日本へ/日本から海外へといった“イン・アウトの両方”を担える存在になることが、密かに描いている大きな目標です」と抱負を語ってくれた。 「20代の頃は“広告はマーケティングの一部に過ぎない”と捉え、将来的には広告主側でマーケティングに挑戦したいと考えていました。だが2社目に転職してみると、エージェンシーという立場でも新たな発見は尽きず、業界の奥深さと面白さを改めて実感しました。」 転職や兼務といった変化を通じ、広告主との協業の幅も増えることで、広告の枠を超えたマーケティングの全体像を体感してきた。 「キャリアに悩んだ時、一度動いてみることで違う視点を得られました。まだ2社目ですが、恐れず挑戦してみることで、成功も失敗も含めたすべての経験が、今後のキャリアを豊かにしてくれると感じています」 国内外のクライアント、パートナー、そして社内の仲間とともに新たな価値を創り出す須藤氏の姿勢からは、次世代を担うマーケター像のあるべき姿が浮かび上がってくる。変化を前向きに捉え、自ら行動することで成長を続けるその姿は、業界の未来に確かな希望を灯している。
DMT、Jellyfish Japanと連携しAmazon Prime Video広告の取り扱いを開始 ー元Amazon出身の専門家が率いるDMT、動画広告支援体制をさらに拡充ー
左が梅野氏、右が廣田氏。二人ともAmazon出身のアドテク専門家。きっと腕は確かだ。 買歴で動画に挟む冬の夜 DMT株式会社(以下、DMT)は、同社の戦略的パートナーであるグローバルデジタルマーケティング企業、Jellyfish Japan株式会社(以下、Jellyfish)が、Amazon Adsの提供する「Prime Video広告」の取り扱いを開始したと発表した。 DMTはJellyfishとの強力な連携を通じて、クライアントに対し、リーチ拡大からブランドリフト、購買促進までを一貫して支援する高品質な動画広告ソリューションを提供していく。 スキップ不可の環境で「確実に届く」広告体験 「Prime Video広告」は、Amazon Prime Videoの映画やドラマ、オリジナル作品といったプレミアムな長尺コンテンツ内で配信される動画広告フォーマットである。 最大の特長は、ユーザーがスキップできない広告枠を含んでいる点にある。動画広告市場において「広告がいかに確実に視聴されるか」は大きな課題であるが、本サービスは高い視聴完了率を維持することで、ブランドメッセージを確実に視聴者へ届けることが可能となっている。 Amazon独自の購買データによる高精度なターゲティング また、Amazonが保有する膨大な購買・閲覧データを活用した高度なターゲティングも大きな強みである。リリース内で引用されたAmazonの独自データによると、Prime Video視聴者は一般平均と比較して「世帯年収が15%高く」「Amazonでの支出額が65%多い」という傾向が示されている。 このように購買意欲が極めて高い層に対し、Amazonのショッピングシグナルに基づいた正確なアプローチができる点は、他の動画プラットフォームにはない独自の優位性といえる。 高度なデータ分析による広告投資の最適化 DMTは、Google Marketing Platform(GMP)の公式パートナーであるJellyfishの専門性を活かし、科学的なアプローチで広告運用を支援する。 具体的には、主要な第三者配信ツール「Campaign Manager 360 (CM360)」を活用し、YouTube広告とPrime Video広告を横断したリーチの重複を正確に計測する。既存の施策に対してPrime Video広告がどれだけ新しい視聴者層(インクリメンタルリーチ)を追加できたかを可視化することで、複数メディアにおける最適な予算配分と、広告投資の最大化を実現するとしている。 Amazonを知り尽くした創業メンバーによる専門性 DMTの創業者である廣田力氏および梅野浩介氏は、いずれもAmazon出身のアドテクノロジー専門家である。両氏はAmazon在籍時に広告事業やデータ関連業務に深く従事しており、その経験を基に2021年にDMTを設立した。 Amazonの広告プロダクトや複雑なデータ構造を熟知していることが同社の根幹の強みであり、今回のPrime Video広告の取り扱い開始により、Amazon広告領域における支援体制はさらに強固なものとなった。 今後の展望 今後、DMTはJellyfishとのパートナーシップを通じて、Amazonを中心としたイーコマースおよび動画広告領域の支援を強化していく方針である。既存のデジタル動画広告やCTV(コネクテッドTV)広告を組み合わせ、データ分析技術を駆使した革新的なマーケティング支援を提供することで、クライアントのビジネス成長に貢献していくとしている。
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